元ネタは台風バトン。
風邪で発熱してる友雅。お外は台風。そんな時に傍に駆けつけてくれるイノリ‥‥は、とーっても想像しやすかったです(笑)イノリは台風なんか怖くねーだろ(笑)
「友雅ーっ、大丈夫かよ、風邪引いたって聞いたぜ?」
イノリ‥‥‥?
「何をしているんだい、外は凄い暴風雨で‥‥」
「ばぁか、だから来たんだろ。こんな日に一人だなんて、いくらお前でもムチャクチャだぜ」
あっさりと言い切って笑ったイノリは、手早く脱いだ雨具を玄関先に干して、バタバタと上がり込んできた。
「髪が濡れているじゃないか」
「あー悪ぃ、タオル借りるぜー」
いや‥‥そういうことではなくて。
世話を焼く暇もなく、勝手知ったるとでも言いたげに家中を歩いて、いつの間にか私の傍らに座っていた。手にした盆に看病に必要なものが‥‥私が布団の中でボンヤリと欲しがっていたものが、あらかた乗っている。
「そんな不思議そうに見んなよ。これでも京にいた頃は、毎日姉ちゃんの看病してたんだぜ?」
息を吐くように笑った顔は、妙に大人びていて。
「そうか‥‥ああ、そうだったね」
「なんだよ、また姉ちゃんに嫉妬とかいうのか?」
「いや、頼りになるものだな‥‥とね」
高熱で言葉を発するのも辛い。
からかう気にもなれず素直に褒めると、イノリはその髪の色に負けないほど一気に赤くなって脇を向きながら「そ、そそ、そうでもねーよっ」と小さく呟く。
ふふ、可愛いものだ。
ぼんやりと和んでいたところへ、ガタガタガタッと大きな物音が。
「ヒッ」
不意を付かれて抱きついてきたイノリが可愛くて、だけどこの後、我に返って恥ずかしさに怒り出すのだろうと思うと可笑しくて。
「イノリ‥‥少し不安なのでね、このまま抱いていてくれないかい?」
甘えるふりをして、身を預ける。
「お、おうっ、オレがついてるから大丈夫だぞ。お前は風邪のことだけ考えて、しっかり休めよな!」
肩が笑わないようにと堪えるのも困難だよ。
幼く未熟なイノリは、それでも私が弱く出る時は、どんなに大きな男にでもなってみせると必死になる。
惜しいねぇ。
これに本物の力がついてくれば、君はどこまでも魅力的な男になるだろうに。
「心配すんな。オレ、絶対にお前のことだけは、守るから」
‥‥‥否。自分の中の恐怖と戦うように、私を包みこむように囁くイノリは、もう十二分に魅力的なのだろう。
小さな身体で私の頭を抱え込むように抱きしめていたイノリの膝で、短い夢を見た。目を開けた時に内容は飛んでしまったが、それは心地よく‥‥独りでは決して得ることのない深く温かい夢だった。
「お、もう熱が引いたな? じゃ、オレは帰るぜ」
あっさりと言い切ったイノリを、やんわりと引き止める。
「せめて雨が止むまで、ここにいてはどうだい」
「こんなの、たいしたことねーよ。オレは平気だぜ?」
「私は‥‥平気では、ないのだが」
この子を引き止めるのは、上から押さえつけるような強さではなくて。
「そりゃ‥‥役に立てるんなら、居てやっても、いいけどよ‥‥」
少し狡猾な、弱さ。
「それはよかった。少し寒くてね」
「そりゃマズイじゃん。布団、出すか?」
今にも駆け出しそうなイノリの手首をそっと掴んで、強く引き寄せる。
「一緒に眠ってくれないかと」
「は?・・・・・・なっ、何言ってんだーっ」
「具合が悪いと、心細いものなのだよ」
「こっ、子供じゃあるめーし!!」
「それは関係ないだろう?‥‥それとも、大人だからという理由で、虚勢を張らねばならないのかい」
「や、それは‥‥えと‥‥、‥‥‥わかった。一晩だけ、だぞ」
「ああ」
「へ、変なことすんなよ?」
「変なこととは?」
「なんでもねーよ、早く寝ろってのっっ」
笑いを吐き出しながらも、その腕に甘えるように丸くなる。
「ったくもー‥‥」
ブツブツと呟く呆れ声を子守歌に。
「‥‥‥ん?‥‥‥もう、眠っちまったのか?」
ボンヤリと呼吸を繰り返していると、少し困った様子のイノリが、そっと髪を撫でてくる。
「イノリ‥‥‥好きだよ」
寝言を装って零した言葉に、腕の中の体温が一気に上がって。
「て、テメェ、このやろっ。起きてんだろーっ!!」
さすがの私も、笑いを堪えることが出来なかった。