【遠く及ばぬ・・・】
君の想いを疑うわけではないが、私が君を想う狂気に比べたら、君からの愛の深さなど、遠く及ばない。
京がどんなに大切な想いを抱えているとして、君以外の命など……この命も含め、君以外の生など、どうなろうと構わない。私にとっては、君が生きて…息をしている事こそが全て。
この身は君に酔うためにあり、この腕は君を抱くためにあり、鼓動は…君と分け合うためにある。
情の熱というものを知らなかった、あの頃。
空虚なばかりの時間は、君に逢うためにあったのだと、今は信じている。
鷹通。
私の命を受けてくれはしないだろうか。
厚く綿の入った夜着を引き寄せて、君の体温へと身を寄せる。
ガタガタと春の嵐に揺れる戸に外の様子を告げられて、こんな日に何より確かめたい存在がこの腕に在る現に…狂喜する。
「友雅…殿?」
ボンヤリと目蓋を上げた鷹通に笑いかけて、柔らかく抱きしめた。
「すまないね…起こしてしまったかい?」
「いえ…。それにしても凄い風ですね。…よかった、貴方が此処にいてくださって」
寝惚けているのか、ずいぶんと可愛らしい言葉を聞いた気がして、その顔を覗き込む。
「あ、いえ。一人では恐ろしいなどと言うつもりはないのです。ただ…こんな夜は、貴方が無事でいるかと不安になるものですから」
想いは、同じ。
己の想いを知ればこそ、君の心を疑えるはずもない。
「ありがとう。私も、そう思っていたところだよ」
ほどけた髪を何度も梳きながら、耳に頬に項に…触れて、撫でて、近づいて。ゆっくりと唇を重ね合わせた。
「友…雅ど…の」
不安げな声を肯定するように先を求めて、すっかり呆れかえった溜息を貰う。
「幾度求めれば気が済むのですか」
「幾度でも」
耳朶を滑る舌に、鷹通の理性が揺れる。
「……ア…ッ、そん、な……やあっ」
「嫌なのかい?」
大きく背中を撫でて腰を抱くと、弱々しく首を振る。
「情けないのです……こんなにも貴方を受けて、それでも尚、まだ足りぬとばかりに反応してしまう身体が。貪欲にその熱を求めてしまう自分自身が」
またそんな、愛しいことを言う。
「ならば理性を捨てて」
「ああっ」
「隠すことなく晒して、啼いていればいい」
「んはあっ………あ、んぅ…っ」
欲に溺れた君が情けないというのならば、溺れさせた私は鬼か畜生か。
「うあ、う……ん、あ、あ、あっ」
上り詰める腰に身勝手な熱を打ち込んで翻弄して、啼かせて。
「ハッ……ハ……フ……ァッ」
人としての姿を奪って。
「や、やあっ、もう…もう…っ、ンアアアアアッ」
また、君を泣かせて。
「友雅殿………」
それでも尚、求めることを止められない。
「鷹通、鷹通……鷹通…」
愛する手を弛めることができない。
口の端からスッと落ちた雫が、妙に艶めかしくて……焦る。
理性を持たない君は、イケナイ誘惑のようだ。
悩んで苦しんで紡ぎだす答え毎、君を愛しているはずなのに。本能のまま…愛欲のまま手を伸べる君をこそ愛しているのかと、錯覚してしまう。
抱き人形が欲しいわけではない。
否、君ならば、抱き人形でも構わない。
そんなことを口にすれば、耳まで赤くして怒るのだろうね…。
「んああああっ」
息を整える間をやらず、深く抉るように挿し貫く。
終わってあげられそうにない。
愛しくて。
苦しくて。
「足りない……鷹通、足りないのだよ。何度でも何度でも、気が触れるまで君が欲しい」
「壊れて、しまいます」
「壊したい」
細い腰を抱いて、深く沈みこむ。
「壊したい……鷹通、私はもう、壊れてしまっている」
朝はいらない。時も人も何もいらない。
君だけが欲しい。
「…………………壊して、ください…」
貴方の想いは存じ上げております。私を愛してくださっていることも。ですが私が貴方を想う重さに比べたら、それは遠く及ばず。
さもすれば指の隙間から滑り落ちる砂のように、生きる事への執着心を手放す貴方を守るためなれば、京も…国も…この世界の全てを、貴方を抱く世界の全てを守り抜きたいのです。
そのために必要とあらば、如何ほどにも強くなりましょう。
私はけして貴方を手放さない。
貴方が泣こうと叫ぼうと…死んでしまいたいと、その身を裂こうと。この手を離すという道を選ぶことは、するまいと決めたのです。貴方が私と在ることで、どこまで深い地獄へと堕ちようとも……私はどこまでも貴方と共に参りますから。
友雅殿。
貴方の命を、私にください。