季節が一つ変わる。
あれほどに長引いた夏の尻尾を捕まえることも出来ぬほど、すっかり冷え込んだ夜風に身を震わせながら、暖かい君を想って足を進めた。
君が居ない毎日は、季節の風情すら忘れさせるのだと気付く。
「クダラナイ用事で、随分と扱き使われてしまったねぇ」
あくびを噛み殺しながら裏戸を抜けると、懐かしさすら感じる庭に秋の花が揺れている。
内裏で起きた些細な騒ぎは、鷹通の耳にも届いているだろうか。
些細な‥‥いや、この私を一月も翻弄した騒ぎを、些細なものと評したくはないのだが。
人の噂を封じるように振る舞いながら、いっそこれが公になれば君を不安がらせることもないのだと、少し悪いことを考えていたのは、この胸の内にある話。
相手が帝ともなれば、手を抜くわけにもいかず。
君への文が君以外の誰かに開かれる事を思えば、詳細を綴るわけにもいかず。
不安だっただろうか。
私を案じていてくれただろうか。
それとも‥‥一月も姿を見せぬ恋人のことなど、もう忘れてしまったか‥‥。
鷹通の心を思えば、私などという男は忘れられた方がよい。
だがどこまでも自分本位な心は、僅かでも君がもどかしい想いで待っていてくれることを祈ってしまう。
苦笑いしながら君の寝所へと降りる。
御簾の向こう。
秋の風に震えながら、あらぬ姿で忍び泣く人を‥‥見た。
‥‥‥‥鷹通?
名を呼びたい。
声が出ない。
本当に君なのかと、露わになった大腿を見つめる。
「たかみち‥‥?」
緊張のせいか掠れきった声で、君を呼ぶ。
ピクリとも動かない身体は、どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。
「風邪を、‥‥引くよ」
畳まれたままの夜着をそっとかけた時、何かに怯えるように飛び起きて、大きな瞳が私を捕らえた。
「ともまさどの‥‥?」
言葉を忘れた子供のような辿々しさで私を呼んで、そっと手をかざす。
「ああ、私だよ」
意地悪を言う気にもならない。
何の連絡もよこさずに君の前から消えた私を責める言葉もなく、ただ一途に私を求める君が、愛しくてたまらない。
こんなことになるまで、ただの一度も弱音をよこさずに堪えていた、不器用な君が‥‥。
愛しいと、伝えてもよいだろうか。
事情も苦情も後回しで、とにかく君を抱きたい。夜風に冷えた身体に私の熱を分けたい。
頬を捕らえた指に誘われるように、君が笑った。
愛しい人‥‥君だけに愛を誓うよ。