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[友鷹]愛しき温もり

 パチンと火鉢が最後の一声をあげた。
「おや。そろそろ炭の世話をしてやらないと、本格的に冷え込みそうだよ」
「そのようですね」
 寒がりの恋人は、モソモソと私の夜着に潜り込んで幸せな溜息をつく。
「いいのかい?」
「困りますね。‥‥ですから寒さが苦手な私は、日が昇るまで自宅に帰ることができません。友雅殿が炭を切らしたからですよ?」
 またそんな、私にばかり優しいワガママを言う。寒さが増すごとに人恋しくなる、この心を知って。
「おやおや、それは申し訳ない」
「ええ。こんなに冷える部屋では召し物を整えることすら難しいですから」
「それでは仕方がないね」
 白々しい会話をクスクスと笑いながら、体温を分け合う。

 冬は嫌いだった。
 寒さが深まる事に心は虚しさを増して‥‥寒空の下、毎日違う家に通っては、偽りの温もりを‥‥否、あれは温もりですらなかった。ただ気を紛らわすためだけに、夜を使い捨てていただけだ。
「友雅殿、もっと傍に寄せては頂けませんか。どうやら本格的に冷え込んできたようです」
「ふふ、強がりを言うからだよ」
 僅かに震える身を抱き寄せて包みこむ私の方が本当は、鷹通の愛に包まれているのだ。
 ・・・・あたたかい。
 胸の奥から痺れるような熱さが溢れて止まらない。

 今、はじめて、冬を嬉しく思う。