季節が刻々と移り変わる中、少しずつ、けれど確実にお腹の子どもは成長していく。

――梅雨が明けて夏。
お腹の膨らみがはっきり分かるようになり、胎動も感じられるようになった。
腰痛に少し悩まされたが、つわりの苦しみに比べれば軽いものだった。
『あの』政宗がの腰をさすって心配そうな顔をしているところを、
喜多が目撃したとかしていないとか。
政宗二度目の出陣もあったが、春に比べての様子は落ち着いていた。

――奥州の木々も色づく秋。
ぱっと見て妊婦と分かるほどお腹が大きくなったのはいつからか。
お腹の子どもに話しかけては幸せな気持ちになる日々。
秋のはじめには庵の改修が終わり、はそちらへ部屋を移した。
夏に続けて何度か出陣があったが、必ず政宗はこまめに文を出した。

――そして、雪に閉ざされる冬。
政宗が城に腰を落ち着けてからの体調がかなり安定したことに、
本人や政宗は勿論、周囲の者たちも苦笑するしかなかった。
出産予定は寒さも極まってくる年末。
常にあたたかく炭の焚かれた庵の部屋に人が絶えることはない。



その日も外はとめどなく雪が降っており、午前中でも相当冷えこんだ。
けれど室内はゆるりとあたたかく、政宗ももゆっくりと過ごしていた。
「・・・男の子と女の子、どっちでしょうね。
 男の子の方がたくさんの人が喜ぶんでしょうけど、私は元気な子ならどっちでもいいな。」
ここのところずっと話している話題だ。
お腹のふくらみを撫でながらが微笑んでそう言うと、
傍らに座っている政宗もお茶をすすりながら小さく笑んだ。
「そうだな。あとはお前も元気な産後を迎えろよ?」
「ふふ、ありがとうございます。
 でも大丈夫で―――う、ん・・・?」
いきなり眉をひそめたに政宗がはっとして向き直る。
「どうした?」
「や、なんか、こう、これ陣痛か・・・な?
 うーんでも・・・痛たたたた! き、きたかも・・・?」
――おい!誰か来い!喜多はいねえか!?」
政宗が声を上げればすぐに障子に影が映る。
が、やってきた侍女はと政宗の様子を見ると状況を察して、すぐに部屋を後にした。
経験したことのない類の痛みには頬を引きつらせながらもふはっと笑う。
「そんなに慌てなくても、陣痛がきてすぐに生まれるわけじゃないですよ。
 破水もまだしてないんですからね。」
「いや、分かってるんだけどな・・・。」
「そもそも、私初産ですから、赤ちゃん出てくるまでに多分相当時間かかりますよ?
 夜になるんじゃないのかな・・・痛たた。」
「・・・・・Really? 拷問かよ・・・。」
「ご、拷問て・・・別に常に死ぬほど痛いわけじゃないですよ・・・。
 まあの家の女の人はわりとお産が軽めの人が多いって、母に聞いたことはあります。」
大きく息を吸い込んでゆっくりと長く吐き出す。
そうしてにっこりと笑うと、は政宗の手を強く握った。
「絶対無事に産むから、心配しないで。」
きっと笑い返してくれると思ってはそう言った。
けれど政宗はむっとした表情を浮かべたどころか、痛みに耐える妻の頭を叩いた。
「バーカ。」
「痛っ!妊婦になんてことするんですか!!」
「なんで痛がってる嫁さん心配しちゃいけねえんだよ。」
「え、いや・・・。」
予想外の政宗の返答に戸惑っていると、やっと手を握り返された。
そのあたたかさと強さがの胸をほっこりとさせる。
これからこの人との子どもを産むんだ。
「・・・ありがとう。」
ああ、なんて、なんて幸せなんだろうか。
誰かと一緒に生きていけることは、決して当たり前のことではない。
だから、それは、まるで。


―――奇跡。





しんしんと雪の降る静かな夜半、庵から新しい命の声がした。
いっぱいの祝福を受けて、今、その命は時を刻み始める。








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なんで自分に子どもできたわけでもないのにこんなに妊娠について調べてんだ!!
・・・ってなぐらい、調べました。そしたらなにこの妊娠ダイアリー。(笑)
ヒロインが「きたかも!」って言った後に政宗様が喜多さんを呼んだとき、「洒落か?」と自分で突っ込んだ。
次で最終話です。