お茶を持って戻って来ると、いつの間にやら政宗がやって来ており、 しかもなぜか男2人は物騒なことに武器を用意していた。 どうしていきなりこんな状況になっているんだと呆気にとられている間に、 熱いお茶をぐいぐい飲み干して、政宗と慶次はさっさと前庭に刀を持って降りていた。 「で、なんで私はお茶を片手に観戦することになってんだろう・・・。」 縁側に腰掛け、湯のみに口をつけながらは首をかしげた。 目の前では政宗と慶次がいそいそとたすきをかけて動きやすくしている。 それぞれの傍らには六本の刀と、一本だが大きな刀。 ・・・なぜ刀が六本も必要なんだろうか。 「ruleはなんでもありの真剣勝負だ、前田の!城内だからって手加減は無用だぜ。」 「そっちこそちゃんと六爪で戦えよな!1本で俺に勝てると思うなよ?」 「Okay , okay!」 もはやの存在など眼中になさそうである。 政宗の隻眼はギラリと鋭く、慶次の瞳も熱っぽく輝いている。 そして2人は刀を手にしたが・・・次の瞬間、は自分の目を疑った。 「――あ、あの、ちょっと質問してもいいですか?」 「Ah? なんだよ。」 水を差されて若干不機嫌そうにする政宗を、は信じられないものでも見るような目で見た。 「なんだよ、じゃありませんよ! どうして政宗さんは刀を6本も持ってるんですか!?むしろ何故6本持てる!!」 有り得ないの一言に尽きる。 なにせ片手に刀を3本ずつ、指の間に挟んで持っているのだ。 どういう握力・・・いや、指力とでもいうのか・・・をしているのか。 しかし事も無げに政宗は答えた。 「どうしてもこうしてもこれが俺の戦い方だからだ。」 「なんだ、アンタに六爪のこと言ってなかったのか?」 「・・・・・まあな。」 珍しくはっきりしない返事をする政宗に、慶次は意味ありげに薄く笑んだ。 「ふーん? ・・・ま、そりゃ2人の問題だからな。 それは置いといて、いっちょ暴れてみよっかねえ!」 ガシャンと鞘を放り投げると、慶次はぐっと大刀を構えた。 それに応えるように政宗も6本の刀を構える。 は成す術もなくそれをただ見つめるしかなかった。 あたりがしんと静かになる。 驚くほど目の前の2人の呼吸は静かだ。 それなのに見ているは、その覇気、熱気に、小さく身震いした。 今となってはもう随分前になってしまったが、以前政宗と小十郎の手合わせを見たときは、 こんな感覚にはならなかった。 得体の知れない震えにぎゅっと拳を握り締めた次の瞬間―― ―――初撃。 彼らの動きよりも、静寂を突き破って鳴り響いた金属がぶつかり合う鋭い音を、 何よりもまず最初に知覚した。 交えた刃が4本、各々に込められている力はごく小さな振動となって現れている。 「That takes the cake! 相変わらずの馬鹿力だな!」 「おっ、3本で受け止められちまった。残り3本もすぐに引っ張り出してやるよ!」 「上等!」 先に均衡を崩したのは政宗のほうだった。 絡めとるように三爪を返すも、慶次はそれを受け流したと思えばすぐさま刀を振り下ろす。 ギィンッという音と共に青い火花が散って、2人は飛び退いて間合いを取った。 そこから間髪置かずに瞬速の打ち合い。 上段、中段、下段。 ぶつかり合う金属音。 いつまでも続くかのように思えた打ち合いの最中、一瞬の隙を見つけた慶次が瞳を輝かせた。 「――てやあっ!!」 「っ!!」 踏み込んだ足を軸にもう一方の足を回して思い切り政宗の腹に蹴りをくらわせた。 瞬間的に避けようとするもそれはあと一歩で叶わず、 政宗は受身を取りつつも白い煙を上げて雪の上に吹っ飛んだ。 悔しさなのか痛みなのか、細い眉をしかめる政宗に、慶次はさらに刀を振るう。 血の気が引いた。 「っ・・・さむねさ――!!」 叫ぼうとしたのに喉がひりついていて、擦れた声は金属音にかき消される。 さっきまで水気を含んでいたのに、喉がからからに渇いていた。 手に持っていた湯飲みは雪の上に落下し、そこから零れたお茶が表面を少し溶かしている。 けれどそんなことに気がつくこともなく、はただ青くなって息を呑んでいた。 違う。 以前あの人が刀を振るうのを見たときとは、何かが違う。 得体の知れない震えが止まらない。 振り下ろされる大刀を瞳に映して、政宗はにいっと口角を上げた。 「――甘ェ!」 必要最小限の動きで慶次の一太刀を避けると、政宗は一爪でためらいなく慶次の首元を突く。 それを慶次もまた最小限の動きで避けたが、政宗のそれとは違って余裕がなかった。 竜の爪は慶次の結わえた髪を穿ち、その茶髪を幾筋も雪面に散らす。 「ひっでえ!俺の髪が!」 「すぐに油断すんのはアンタの悪い癖だぜ?」 そうした会話を交わしながらも打ち合いは再開されている。 けれど今度は政宗の刀が青白い電気を帯びていた。 次の瞬間、バチッという音がして慶次の刀がはじかれた。 得物を手放しはしなかったものの、それに一瞬気を取られた慶次。 それを見逃すはずもなく政宗は六爪を一気に繰り出した。 「Sayやっ!!」 しかし無理な体勢からであろうと慶次も刀を振るう。 「させるか!」 お互いめがけて繰り出された渾身の一撃。 政宗の刀は青い稲妻を放ち大きな音を立て光り、 慶次の大刀は振りとともに突風を巻き起こして辺りの雪を舞い上がらせた。 「チッ!」 「痛っー・・・」 政宗の左腕、慶次の左わき腹にそれぞれ切り傷が作られ、白い雪に僅かだが血を滴らせた。 お互い重傷ではないのでたいしたダメージは受けていないが、 相手の刀をくらってしまったことにくやしそうな表情を浮かべる。 とはいえこんな傷くらいでためらうような2人でもない。 さらに打ち合いを開始するべく刀を構え―― 「―――。」 ――いきなり政宗は動きを止めた。 それにすぐさま反応して慶次も腕を止める。 「どうした独眼り・・・」 「!!」 慶次の言葉を遮って叫ぶと同時に、政宗は刀をその場に投げ捨てて縁側の妻に駆け寄った。 さっきまでのほほんとお茶を啜っていたはずのは、 小刻みに震え、その場に小さくなってうずくまっていた。 政宗が彼女の冷えた身体を抱き寄せてその顔を覗き込むと、真っ青に血の気が引いていた。 「おい、どうした!?」 「っ・・・・・気持ち・・・悪い・・・・・。」 「吐くなら吐いていいぞ!それとも横になるか? ――おい、慶次!誰か呼んでこい!」 「ああ!」 呆然と2人を見ていた慶次も、はっと我に返ると走り出した。 震えの止まらないを抱き上げると、政宗は庵の障子を足で蹴り開け、 火鉢のそばに彼女を降ろした。 そのまま布団を敷くため離れようとする政宗の着物の端を、はきゅっと掴んだ。 「政宗さ・・・・・!」 「なんだ?」 立ち上がるのをやめて向き直った政宗に、は力いっぱい抱きついた。 その体温を感じた途端にぽろぽろと涙が溢れ、頬を濡らす。 「政宗さん、腕から、血・・・が・・・!」 「こんなのたいしたことねえし、それよりお前の身体だろ! どこが気持ち悪ぃんだ?何か心当たりはないのか?」 着物の肩口がの涙で濡れていることに気がついて、政宗は一層語気を荒げる。 「こ、怖くて・・・政宗さんと慶ちゃんが戦ってるの見てたら、怖くて・・・! それで、血が出るの見たら、もっと、怖くなって、気持ち悪くなって・・・!」 「・・・・・。」 少し身体を離すと、震えながら涙を流すの額に、政宗はそっと自分の額を寄せた。 至近距離で目を合わせ、冷たくなった手を握ってやる。 そして優しく落ち着いた口調で語りかけた。 「大丈夫だ、。俺はここにいる。俺も慶次もちゃんと元気だ。」 「・・・・・は、い・・・・・。」 小さく頷いた彼女に薄く微笑んで、政宗はを強く抱きしめ返した。 幼い子どもをあやすように背中をぽんぽんと軽く叩く。 すると徐々にの震えがおさまりはじめた。 「大丈夫だ。力抜け。」 「ん・・・。」 「Good.」 堅くしていた身体をゆるめたの頬に、唇を寄せる。 唇が彼女の涙で濡れたが、気にせず何度もキスを落とした。 少しずつ赤みを取り戻した彼女の頬。 「俺は、ここにいる。」 再び力強く与えられた言葉に、今度はは深く頷いた。 ――そうして慶次が医者を連れて戻ってくると、の震えは完全におさまっていた。 |
台本集見てからずっと思ってたんですが、政宗様の「Sayやっ!」って掛け声、変だよね。
「言えやっ!」って訳されるの・・・か・・・?