――2度あることは3度あるとはよく言ったもので。 豪快に上がる水飛沫を経験するのは3回目だ。 視界を塗りつぶす今はもう慣れた金色を打ち消すべく、ぎゅっと目を瞑る。 そして瞼を上げた先に見えるのは、一番愛しい人。 「・・・よし、城の浴場だ。」 顔にかかる濡れた髪を鬱陶しそうに払いながら、政宗は呟いた。 言われて辺りを見回すと、確かに見慣れた城の浴場だった。 はじめてこちらに来たときこそパニックでよく分かっていなかったものの、 さすがお城の浴場ということで、テレビの時代劇で見たものよりずっと広い。 政宗はおもむろに立ち上がると、まだ湯に肩まで浸かっているに手を差し伸べた。 指の先からぽたぽたと水滴が落ちている。 「掴まれ、行くぞ。」 「・・・水も滴るいい男ってかー。」 「水が滴ってなくても俺はいい男だ。」 「全くそのとおりでございます。」 苦笑しながら、大きな手をぎゅっと握り締めて、は思い切って立ち上がった。 繋いだ手の強さがひどく頼もしかった。 取り敢えずは、は着替えを済ませて政宗の部屋で待機、 政宗は一人で小十郎などの忠臣を集めて、これまでのことを話し合った。 政宗不在の数日間のことは、政宗が考えていた通り、 小十郎をはじめとする側近たちがうまくやっていてくれたようだ。 また、が未来から来たという話を完璧に信じきれていなかった者も、 さすがに今回ばかりは信用せざるを得ない状況であった。 そしてそんな状況でを連れて帰って来た政宗が、 を妻にすることを告げても、最早誰も驚かなかったのだった。 「――つーことで、、お前は正室だ。」 「せ、正室!?」 当然のように政宗の部屋(しかも布団が布いてある)に2人きりなのも衝撃なのに、 政宗の言葉にはさらに動揺した。 そんな彼女の反応に政宗は少し眉をしかめる。 「そんなに驚くようなことでもねえだろうが。 俺はお前以外に嫁をとるつもりはない。だからお前が正室だ。」 「わ、私みたいな身分も何もないのが正室でいいんですかね・・・。」 「お前を正室にすることには誰にも文句を言わせねえよ。 まあ文句が出るとしたら・・・。」 政宗のセリフの続きは、さすがのにも分かる。 文句が出るとしたら、それは・・・。 「・・・お世継ぎができないときですよね。」 プロポーズをされたときに彼に言われたことだ。 しかしこればかりは作ろうと思ってすぐ作れるわけでもなく。 やや不安そうにするに、政宗はふっと笑った。 「だがそんなのは授かりもんだからな、焦っても仕方ないし焦る必要もない。 ――それより今はお前を早く抱きてえ。」 「っ・・・。」 瞬間的にぶわっと真っ赤になったに、政宗は笑みを深くした。 細い身体を問答無用でぐっと抱き寄せて容易く布団の上に押し倒す。 押し倒されたはというと、目を白黒させながら、 自分の上にかかる政宗の影に心拍数を上げるばかりで。 『そうなる』心積もりではいたが、改めて言われると妙に恥ずかしい。 「は、破廉恥だー・・・!」 「お前、今晩これ以上その言葉言ったら、初めてだろうがなんだろうが、 明日起きれなくしてやるからな・・・。」 「ええ!?」 「・・・お預け食らってた時間が長いんだ。 多少手加減してやれなくてもそこは許せよな。」 慣れた手つきで耳の後ろをすっと撫で上げられて、の肩がぴくんと震える。 纏う薄布ごしにお互いの体温が溶けている。 「りょ、了解です・・・んっ!」 の返答を聞くなり、その赤い唇を政宗は塞いだ。 いきなり深すぎる口吻けにの身体に緊張が走ったが、それも束の間だった。 唇を甘く噛んだり、歯列をなぞったり、強く舌を吸い上げたり。 ひとつひとつのことに敏感に薄い身体が反応する。 それと同時に堅くなっていた彼女の身体から徐々に力が抜けていき、政宗はほくそ笑む。 「・・・っは、・・・・・はあ・・・。」 じっくりと味わってからやっと唇を離すと、はとろんとした表情で政宗を見上げた。 荒い呼吸のために上下する胸の上にのしかかって、 政宗はぎゅっと細く柔い肢体を抱きしめる。 いつかのように肩口に顔を埋められ、に政宗の表情は見えない。 けれど耳元で呟かれた一言には泣きそうになった。 「やっと・・・手に入れた・・・。」 どれだけ待たせたか。 それを思っては心の底から申し訳なくなる。 言葉にはしなくとも政宗は多分最初からずっと自分を必要としてくれていた。 けれど彼の側にいることを、自分はなかなか選べなくて。 自分も彼を必要としていることになかなか気付けなくて。 「・・・大好き。」 待たせた分たくさんの気持ちをこめて、恥ずかしがらずに口にする言葉。 家族を、友達を、今まで生きてきた世界に背を向けてでも、 一緒に居たいと思える人に出会えたこの幸せを、奇跡のようにさえ思える。 「俺もだ。」 結局目尻を涙がつたって、なんだか可笑しくては笑った。 政宗もそんなの目に唇を寄せて涙を受け、静かに微笑んだ。 室内を照らす灯りはほんのりと優しい。 城の外、青黒い夜空を照らすのは金色の月。 その月は満ちてはおらず少しいびつな形をしてはいたが、 夢のように美しく地を輝かせている。 その晩、政宗もも、その輝きに気付くことはなかった――。 |
今まで本当にお疲れ様でした、政宗様。
あと2話ー!