かちゃんと箸を置くと、しっかり手を合わせては深々と政宗に頭を下げた。
「ごちそうさまでした!
 今日も大変美味しゅうございました・・・!」
「そりゃ結構。でも今日はお前も大分手伝っただろ。
 野菜を切る手つきはまあ様になってきたよな。」
「やった!褒められた!」
調子に乗るなとまた頭を叩かれる前に、はさっと食器を重ねて流しへと運んだ。
いつもならそのまますぐに洗いものを始めるのだが、今日は食器を置いて冷蔵庫を開く。
「政宗さーん、今日はデザートがあるんですよー。」
「Dessert?柿か?」
「政宗さんそんなに柿が好きなんですか・・・?
 今日はね、スイーツとかドルチェとか言われるものを買ってきたんですよ!」
嬉々としてテーブルに戻ってきたは、手に白い小ぶりの箱を提げていた。
現代で生活を始めてからかなり時間が経つのだから、
食べたことこそないが、政宗もその白い箱にどんなものが入っているか想像はつく。
「じゃーん、ケーキとプリンー!」
「すげ・・・綺麗だな。」
「そう、ここのスイーツは綺麗で美味しいんです・・・!」
広げられた箱の中にはケーキとプリンが2つずつ。
特にケーキのほうは果物やらクリームやらが綺麗に飾られていて、
食べるのが少しもったいないくらいだ。
しかしこんなに食べるつもりなのか・・・と言いかけたが、
の嬉しそうな顔を目にして、政宗はやめた。
この調子ならぺろっと平らげてしまいそうだ。
「皿とスプーン持ってくる。」
「え、あ、すいません、ありがとうございます!」
「いや。それより今まで甘味を買ってきても全部和菓子だっただろ。
 どうしてまた急に洋菓子を買ってこようと思ったんだ?」
「いや・・・そろそろ私も我慢の限界といいますか・・・。
 どうしても生クリームが食べたくなりまして。」
はそう言って苦笑すると、立ち上がって政宗の手から皿を受け取って、
テーブルに並べ始めた。
基本的に調理をするのは政宗だが、食べるものに関して、はひどく気を遣っていた。
なにしろ現代と戦国時代では同じ日本といえども、食生活はかなり違う。
牛肉豚肉の類いは絶対に買わないし、脂っこいものも極力避けている。
とにもかくにも戦国時代になかった食材を大量に使った料理はしない。
その延長で甘味も羊羹や饅頭や大福やが続いていたのだ。
「それとね、やっぱり美味しいものは政宗さんと共有したいから!」
皿にケーキを取り分けながら、はなんでもなさそうにさらっとそう言った。
その一言がどれだけ優しくてあたたかか、発した本人は気がつかない。
自然と口元がゆるく笑みを浮かべるのを自覚しながら、政宗は再び腰かけた。
もケーキとプリンを皿に置いて腰掛けると、さっきと同じように手を合わせた。
「Please eat up!」
「Thanks.」
お互いまずはケーキを口にする。
途端には至極幸せそうな顔になって、うっとりと頬をおさえた。
「お、美味しい・・・っ!どうですか、政宗さん!?」
「甘い。」
「当たり前だ。」
感想はそれだけかとしかめっ面をするに、政宗は苦笑する。
初めて口にする甘さなのだが、なんというか、とにかく甘い。
これを際限なく食べると太るのも当然だろうななどと、的外れなことを考えてしまう。
また、自ら料理をする政宗としては、凝った飾り付けに興味があった。
料理は味だけでなくやはり見た目も大事だ。
「こういう生地にクリームと果物を合わせるっていう発想がすげえ。
 しかもちゃんと合ってて美味いし。」
「うん、美味しいんなら良いんです。」
政宗の倍以上のペースであっという間にケーキを完食したは、
いつの間にか早くもプリンにうつっていた。
前々から分かっていたことだが、余程甘味が好きらしい。
そういう風に満足げに甘味を食べるを見るだけで、
政宗はなんとなくお腹がいっぱいになったような気がする。
「・・・政宗さんって、わがまま言いませんよね。」
スローペースでケーキを口にしているところで、
がふいに呟いた言葉に政宗は顔を上げた。
視線の先のは、スプーンを弄びながらこちらを見て苦笑している。
「そりゃ、そもそもわがままなんざ言う必要がないくらいの、
 十分な生活をさせてもらってるからな。」
「でも、それこそ食べ物とか!これが食べたいって言ってくれればいいのに。
 私なんか戦国時代にいたときにお茶菓子要求しましたよね。
 今考えるとわがまま、っていうか遠慮がなかったですね・・・。」
「Ha!今更気付いてんのかよ!」
可笑しげに笑う政宗に、は少し頬を赤らめながらもぐっと詰め寄った。
「政宗さん、遠慮なんていらないんですからね?
 私にできることなら、今度は政宗さんがわがまま言ってくれていいですから!」
ほらほらと急かすように言う
わがままを言えと要求してくる人間などそうそういないだろう。
それでも、らしいと思えば納得できるのだから不思議だ。
「・・・それじゃ、わがままっつーか、1つ要求するぞ。」
「どーんとどうぞ!」
政宗はスプーンを空になった皿の上に置いた。
プリンは手付かずのまま残っている。
そうして政宗は、それこそ茶菓子でも要求するような気安さではっきりと言い切った。



「お前を戦国時代に連れて帰りたい。」








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ラストに向けての話が動き始めました、終わりが見えてきたぞー・・・!
ところで皆さんケーキはスプーンで食べますか、フォークで食べますか。
私は絶対フォークなんですが、家族は皆スプーンなんですよね・・・まあどっちでもいいけど。