「・・・でね、その子、結局授業が終わっても起きなかったんです。
 強く揺すったらやっと起きたんですけど、なんでもなさそうな顔してて。」
「お前こそ居眠りしてねえのか?」
「しっ、しません・・・とは、えー・・・言い切れないような・・・。」
すっかり習慣となってしまった夕方の買い物に出た2人は、
スーパーの袋を手に提げて、他愛もない話をしながら帰路をたどっていた。
夕方といっても、今日はの大学が早く終わる日だったので、
まだ空の端がオレンジになるかならないか程度の時刻だった。
そんな時間なので、通りがかった公園でもまだ子どもが遊んでいる。
政宗のランニングコースの途中にある公園だ。
「まだ子どもが遊んでますね。うわ、泥だらけだ。」
そう言っては微笑ましい気持ちで、遊びまわっている子どもを眺めた。
「お前もあんなになって遊んでたのか?」
「動くのは好きだったんですけど、どんくさいんでよく転んで泥だらけになってました。
 ・・・あの、政宗さんの小さい頃はどうだったか、訊いていいですか?」
おずおずと問いかけてくるに、政宗はふっと笑った。
考えるまでもなく、昔のことにに気を遣ってくれているのだ。
それでも自分のことを知りたいと言ってくれる彼女の気持ちは嬉しい。
「まあ、馬で野山を走り回ったり、書を読んだり、剣の稽古したり。
 あとは成実っていう従兄弟と色々悪さしてたな。」
「悪さって、どんな?」
「・・・・・・・・Secret.」
「何ですかその間は!気になる!」
「・・・・・。」
「教えてくださいよー!?」
は不満げに声を上げているが、政宗はそれを無視して、
遊んでいる子どもに再び目をやった。
砂場には半分くらい崩れた山と汚れたバケツやスコップが散らばっている。
その砂場にはもう興味がなくなってしまったらしく、
子どもたちは皆ブランコへ集まっていて、「かわって」「まだダメ」などと言い合っている。
「・・・政宗さんって、実は子ども好きでしょう?」
「What?」
唐突なの言葉に政宗は眉をひそめて振り向いた。
対してはどこか嬉しそうに笑って続けた。
「うーん、好きっていうか、まあ嫌いではないですよね?
 子どもを見る目がすっごく穏やかでしたよ。」
「・・・・・・そうかよ。」
「そうです。」
ふふっと笑って、は政宗の空いたほうの手をとって握る。
ゆっくりとした足取りで公園を通り過ぎ、住宅街に入った。
古びた瓦屋根の家や真新しい家が混在している。
空はオレンジ色の割合を少し増していた。
――・・・例えばだな。」
「はい?」
今度は政宗が唐突に言葉を発したので、がきょとんとする番だった。
何についての例なのか分からず政宗の次の言葉を待つ。
と、いきなり政宗が立ち止まった。
「成実と近くの村までこっそり出かけていったら、こういう風に柿がなってるわけだ。」
「あ、すごい、いっぱいなってる。」
政宗の指差した先には、知らない家の庭に堂々と立つ柿の木があった。
どっさりと実った実は形からして渋柿ではなさそうだ。
夕日を浴びて1つ1つが光っている。
「それをこっそり拝借して食べたりしたわけだ。――こんな風に。」
「・・・・・え?」
政宗は塀から飛び出しかけた枝・・・夕日色の実に手を伸ばした。
瞬間的に政宗の行動を想像したはさっと青くなった。
「ちょっ、だ、ダメですよ政宗さん!それ泥棒!ダメ!」
「1個くらい構やしねえよ。」
「構うに決まってます!やめて政宗さん〜〜〜!!!」
往来で大声で叫びながらは政宗の腕に必死でしがみついた。
それでもなお政宗は柿をつかもうとするので、本気で涙が出そうになってくる。
そんなを確かめて、政宗はこらえきれずに笑いを洩らした。
「くっくっくっ・・・jokeだ!」
「ほ、ホントに!?」
「するわけねえだろ、ただお前がどれくらい慌てるかと思って。」
「最っ悪ー・・・!」
ため息をついてのろのろと政宗から身を離すを見て、政宗は未だ笑っている。
「それから厨に忍び込んでつまみ食いしたりもした。」
「食べることばっかじゃないですか!政宗さん私のこと言えませんよ!?」
「まあな。だがそういうのがきっかけで料理に興味が出たんだよ。」
「単なる食いしん坊・・・。」
「うるせ。」
ぱしっと額を叩かれては後ろによろける。
すぐ人のことを叩くんだからとむっとしながらも踏ん張って、
はふと柿の木をもう一度見た。
枝もたわわに実った橙色の綺麗な果実。
そしてその向こう、柿の木を所有している家の縁側に、
いつの間にかその家の住人らしき老婦人が立ってこちらを見ていた。
あれだけ大声で騒いでいたのだから、何事かと家の人が出てくるのは当然のことで。
思い切り目が合った。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
真っ青な顔をして固まってしまったに気付いた政宗が、彼女の視線を辿る。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
ものすごく気まずい空気が流れた。


「・・・逃げるぞ。」


ぼそっとそう呟くと同時に、政宗はの手を掴んで走り出した。
「ひえ!?ま、政宗さん!?」
「Run flat out.」
急なことには目を白黒させて、転びそうになりながら必死で足を動かす。
青くなればいいのか赤くなればいいのか。
こんな年になって柿泥棒未遂で逃げることになるとは。
「あ、有り得ない・・・!!」
いつもなら歩いて通るはずの道を全速力で駆け抜ける。
揺れる2つの影がアスファルトに長く伸びている。
なんでこんなことにと恨みがましい気持ちで見た政宗の顔は、どこか楽しそうだった。
この人はこういう一面も持っているのかと少し嬉しく思いつつも、
いい加減体力ゲージが赤く点滅しそうでやばい。
「しっ・・・死ぬ・・・もう、いいんじゃ、ないですかっ・・・!」
「お前体力ねえな。」
「政宗さん基準で考えないでください!!」
の叫びは夕暮れの通りにこだました。





・・・しかもこの話には後日談があったりする。
ばったり会いませんようにと願いながら、例の家の前をは通り過ぎようとした。
当然というか、その際目が行くのはやはり柿の木である。
そこでが目にしたのは、塀の上のあの日にはなかったビニール袋だった。
危ういバランスながらもどっしりと塀の上に置かれたビニール袋の中身は、大量の柿。

そして袋には、『眼帯のお兄さんとその彼女さん、どうぞ』と書いた紙が貼ってあった。

「・・・・・。」
は自分の頬がかあっと熱くなるのが分かった。
なんというか、恥ずかしすぎる。
結局その柿は有り難く貰って帰り、政宗と2人で美味しくいただいたのだった。
翌日お礼を言いに行ったときの恥ずかしさを、多分は忘れない。







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・・・というアホな話。キーワードは『子ども』でした。
政宗様の英語が相当怪しいんですがそれは私のせいですすいませんorz

政宗様が料理好きなのはこういう理由だといいなーと思います。
幼少の政宗様はやんちゃだったらいい。(今もか?)