「・・・・・・。」
目覚まし時計がなったわけでもないのにふっと目が覚めて、
はぼんやりと瞼を上げた。
部屋の中がまだ薄暗いのは当然のことで、
室内の闇の濃度に目が慣れるまでにしばらく時間がかかった。
時計を見ればまだ起きる時間まで少しある。
布団の中は心地よくあたたかいのでわざわざ早く起きて何かしようとは思えない。
もぞ、と少し身体の向きを変えると、間近に政宗の寝顔があった。
彼の寝顔を見られるのはなかなか貴重だ。
今まで見たことがないわけではないのだが、
たいていはのほうが起きるのが遅いのだ。
だからこんな風に、珍しく先に目が覚めたときは、なんだか得をしたような気分になる。
眠っていても美しい、整った顔立ちの人。
顔にかかった長い前髪をそっと払って、はふっと微笑む。
こういうなんでもない瞬間が、今のと政宗には本当に貴重で、大切で、愛しくて。
ほんの少し愁いを帯びた幸福を胸に、は政宗に身体を寄せた。
と、政宗の身体がゆっくりと動いた。
「・・・・・・?」
「あ、ごめんなさい、起こしちゃいましたね。」
寝起きのせいで昼間より低い彼の声。
なんだか照れくさくて、は困ったように笑う。
「お前のほうが先に起きてるのは珍しいな。」
「まだ目覚まし鳴ってませんから布団から出なくていいですよ。」
そう言って、は政宗の胸にこつんと額をつけた。
その瞬間僅かに政宗の身体が硬くなったことには気がつかない。
「・・・・・・寝起きでくっつくな。」
「え?」
ふいに身体を起こした政宗に、はきょとんとする。
隣にあったはずのぬくもりが急に消えたせいで、身体が小さく震えた。
いきなりの拒否の言葉にの心臓が跳ね上がる。
「あ、あの、どうかしたんですか?私何かしました?」
不安が喉元までせりあがってきて、も慌てて身体を起こした。
そんなの様子に、政宗はしまったという風な表情を浮かべた。
「・・・悪ィ。お前は何もしてねえから気にすんな。」
「で、でも政宗さんいつもと違う・・・!」
――ぐっと詰め寄られて、細い指で腕に触れられて、彼女の匂いがして。
なんとか『我慢』をしようとしていたのだが、抗いがたい欲に負けて、
政宗はほぼ無意識にの身体をベッドに押し戻して覆いかぶさっていた。
「え?あ、あの、政宗さん?」
「・・・キスだけ許してくれ。」
目を白黒させているの唇に、自分のそれを押しつけた。
途端に強く引き結ばれた柔らかな彼女の口唇を舌でなぞり、下唇を甘く噛む。
するとはあっという切なげな吐息と共に唇がゆるんで、その隙に舌をねじ込んだ。
逃げる舌を追いかけて、絡めて、吸って。
この前もそうだったが、最初はためらっても、結局彼女は応えてくれる。
だからこそ歯止めがきかなくなりそうで恐ろしい。
もうそろそろやめなくてはと思っているのに、止まらない。
鎖骨から胸元をつうとなぞると、
細い身体に震えが走ると同時に鼻にかかった甘ったるい声が発せられる。
やばい。
これは今やめないと非常にまずい。
名残惜しさをなんとか振り払って唇を離すと、暗闇の中で銀糸が光った。
最後にもう一度彼女の唇を舌でなぞって、その首もとにぐっと顔を埋めた。
の呼吸が荒いが、実は自分の呼吸も荒い。
「・・・ホンットに悪ィ。
 この前1回キスしちまったせいか箍が外れやすくなってやがる・・・。
 特に寝起きの構えてないときにくっつかれるとマジでやばいんだよ・・・。」
「ご・・・ごめんなさい・・・?」
「謝る必要ねえよ・・・あー、クソッ・・・。」
「あの・・・その・・・政宗さん、私、いいですよ・・・?
 その、この時代には、えーっと、こう、なんていうか・・・。」
「分かってる、それ以上言うな。
 そういうことじゃねえって、お前も俺の考えてることくらい分かってんだろ?」
「・・・・・はい。」
政宗だってこの時代には避妊具なるものがあるのをもう知っている。
だが、『結論』の出ていない曖昧なままの今の状態では彼女は抱けない。
万が一孕ませてしまっては大変だし、
そのラインを超えないことは政宗の中ではけじめでもあるのだ。
「政宗さん、大事にしてくれてありがとう。」
「別に礼を言われるようなことじゃない。当たり前だ。」
「当たり前って言い切ってくれることが、すごく嬉しいです。」
「・・・そうかよ。」
柄にもなくなんだか照れて、それのおかげで少し気持ちが落ち着いた。
政宗は身体を起こしてから離れると、彼女の額をぱんと叩いた。
痛っ!何でこのタイミングで!?」
「いや、いつもの雰囲気に戻そうと思ってだな。」
「だからって叩くことないじゃないですか!」
そうこう言っているうちにやっと目覚まし時計が鳴った。
そのけたたましい音を聞き、政宗はベッドから出てカーテンを開けた。
まだ薄暗いままだが、カーテンを開けると部屋の中は断然見やすくなった。
政宗は気を取り直してのほうを振り向く。
―――。」
「政宗さん?」
視線の先のは、パジャマのボタンが上2つあいていた。
どうもさっき鎖骨から胸元にかけてを触れたときにボタンを外してしまっていたようだ。
肌蹴てはいないのだがいつもより随分露出が大きく、
それがかえってなんともいえない雰囲気を醸し出していて。
「・・・シャワー借りるぞ。」
「はあ、どうぞ。」
一度も振り向かずにバスルームへ直行する政宗を、
はただ呆然と見詰めることしかできないのだった。
・・・政宗の我慢はまだ続く。

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ホントはこの話書くつもりなかったんですけどねえ・・・。(^ ^;)
『temptation』の続きと思って読んでいただければありがたいです。