「これは1回家に本を置きに帰って、それから晩ご飯の買出しですね・・・。」
「だな。さすがに俺でもこれ持ってスーパーうろつくのは気が進まねえ。」
夕暮れ時の住宅街を、夕焼けのオレンジ色が明るく照らしていた。
この季節は日が落ちるのが随分と早い。
政宗との影がコンクリートの地面に長く影を伸ばしている。
そのうち政宗のほうの影は、手に大きな袋を提げている。
「それにしてもたくさん借りましたね。
 私の貸し出し可能分まで借りちゃって・・・読みきれるんですか?」
半ば信じられないものでも見るような目で見上げてくるに、
政宗は平然とした顔で答える。
「nonsense questionだな。読みきれるから借りてんだ。」
「そりゃそうですねー・・・。」
現代に来てからの政宗は、が大学に行っている間によく本を読んでいる。
今まではが大学の図書館で適当に見繕って借りてきていたのだが、
だんだん何を選べばいいか分からなくなってきた。
そこで休日を使って出かけたのが市立の図書館だ。
本当は電車に乗って蔵書数の断然多い県立図書館に行くつもりだったのだが、
そちらは利用者登録に身分証明書が必要であることに気がついて、急遽私立のほうにした。
とはいえの住む街の市立図書館もそれなりの蔵書数で、
政宗は驚いた後にかなり興奮した様子で色々なジャンルの書架をあたりはじめた。
結局、1人につき貸し出し数が5冊のところを、の貸し出し分も含めて、
政宗は8冊借りて帰ることにしたのであった。
(残り2冊はが料理本を借りた。)
「こんなに借りるんなら最初から大きな袋を持っていくべきでしたね。
 図書館で袋を貸してもらえなかったらどうなってたことか・・・。」
「図書館とやらがあんなもんだなんて想像してなかったんだよ。
 すげえよな、無料であんな膨大な数の書物を貸し出すなんて。」
隻眼がいきいきと輝いているのが見て取れて、は気付かれないように小さく笑む。
いくらこちらの生活に慣れてきたとはいえ、新しいものを目にするたび、
政宗は興味を持ち、楽しそうに嬉しそうにする。
現代の知識を戦国時代に持ち帰られ過ぎるのもよくないのかもしれないが、
それでも彼がこちらでの出来事に刺激を受けて、
戦国に戻ったとき色々と役に立てばいいと思ってしまう。
「政宗さん、本が好きなんですね。」
「城の中の書物はもう読みきっちまったからな。
 新しいものが読めるのが楽しいんだ。」
「・・・・・あの、政宗さんって19歳ですよね?」
「唐突になんだよ。お前と同い年だっつってんだろ。」
「ですよねー・・・。」
城内の書物がそんなに少ないとは思えない。
それを19歳で読みきったと言うのだから、政宗はどれだけ読書に時間を費やしてきたのか。
本を読むのが早いようだが、かといって速読技術の持ち主なわけでもないようだ。
やはりこの若さで城主となるような人は少し『違う』のかもしれない。
「それにしても・・・政宗かー!」
「お前その話、えらく引きずってんな・・・。」
「だって、政宗さんが私の苗字って・・・うーわー!!」
「だからうーわーの続きはなんなんだよ。」
くすくすと笑いながら、の脳内には図書館での先ほどの出来事が繰り返されている。
身分証明書が要らないとはいえ、市立図書館でも簡単な利用者登録は必要だった。
現代にも同姓同名の人間はきっといるだろうが、それにしてもあの『伊達政宗』、
滅多にある名前ではないだろう。
しかし、まさかあの伊達政宗本人だとは誰も思うはずはないにしても、
妙な顔をされたり、職員に「一緒なんですねー」なんて声をかけられる可能性は大いにある。
そこで、本当に念には念を入れて、氏名を『政宗』としたのだ。
これまで市立図書館を利用したことがないも同時に利用者登録をしたのだが、
2人の住所も苗字も同じであればさらに違和感はないだろう。
「キョウダイだと思われましたかね。」
「似てねえキョウダイだな・・・。」
「確かに。こんな乱暴な兄も弟も持った覚えは無いです。
 って言った側から人の頬をつねるのはやめてください痛い痛い!
「どこが乱暴だ。」
「こういうところがだー!!」
つねられた頬を涙目で押さえながらは大声で叫ぶが、
政宗はあっけらかんと笑うだけで、それがまた腹が立つ。
むくれた表情で政宗から顔をそむけて歩く。
「・・・・・キョウダイじゃなけりゃ、夫婦、か。」
「っ!?」
政宗の急な言葉に、の心拍数が一気に跳ね上がる。
かあっと頬が熱くなっていくのが分かったが、それをおさえられるはずもなく。
「ふ、夫婦ですか?」
「お前料理の本借りてたしな、お料理勉強中の若奥様ってか?」
「ななななんでそんな恥ずかしいことサラッと言えちゃうんですか!?」
完璧に頭に血が昇ってしまって、うっかり噛みそうになった。
そんなを面白そうに見ている政宗は、夕日を浴びて、オレンジ色。
茶色がかった髪も明るく輝いている。
「なんだよ、俺と夫婦なのは恥ずかしいことなのか?」
「違っ・・・ああもう分かってるくせにっ!」
「Ah〜?ちゃんと言ってもらわなきゃ分かんねえなあ?」
「そうだよ・・・この人こういう人だったよ・・・!」
吹く風は冷たいのに、頬がぽかぽかと火照ってその冷たさが気持ちいいくらいだ。
マフラーの下にじんわり汗をかいている。
これ以上からかわれてたまるか。
「もうっ!さっさと帰ってスーパーに行きますよ!」
そう言いながら、は思い切って政宗のあいたほうの手をぎゅっと握った。
恥ずかしさで手が微妙に汗ばんでいるのなんてもう気にしない。
大きくて無骨な手をぐいぐい引っ張って早足に帰路を辿る。
少し前を歩いているので彼の顔は見えない。
「・・・晩飯何にすっかな。」
「政宗さんなら何作っても美味しいですよっ。」
「当たり前だ。」
自信たっぷりな声音の一言と共にぎゅっと手を握り返された。
それが嬉しくて恥ずかしくてどうしようもなくて――彼の顔が見たくなって。
ちらりと盗み見た政宗の顔は、あんまりにも優しい笑顔で。
「・・・・・。」
これ以上ないくらい赤くなった頬は、夕日のせいだ。
でなければ冷たい冬の風のせい。

・・・そういうことにしておいてください、政宗さん。







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「お前料理の本借りてたしな、お料理勉強中の若奥様ってか?」
テレビの見すぎです、筆頭。
いらん知識に刺激を受けてなければいいんですがね。(ハイハイ

バサラジオのドラマの政宗様読書好き発覚が嬉しいオドロキだったのと、
ヒロインの苗字がさっぱり出てこないのが気になってたらこんな話ができました。