とても天気が良かったので、今日は朝から布団を干した。
の部屋の自慢と言えば日当たりがとても良いことで、
昼間はベランダからさんさんと太陽の光が差し込んでくる。
だからガラス戸を背もたれにして、いつの間にかは眠っていた。
図書館で借りてきて貰った本を読んでいた政宗はそれにふと気付き、
風邪引くぞと声をかけようとしたが、すぐに思い直してやめた。
今は布団を干しているので毛布をかけて寝るのは無理であるし、
これだけ日が差して暖かいのだから、風邪など引かないだろう。
何より、眠っているの顔が本当に幸せそうで。
「・・・・・間抜け面。」
口ではそう呟きながらも、眠るの安心しきった顔は可愛いと思った。
肩や首にゆるく絡んだ髪が光を透かして輝いていて、
ずっと日に当たっているので頬は紅潮している。
小さく開いた唇からすうすうと子どものような寝息がして、知らず笑ってしまった。
なんだかその無邪気さがひどく羨ましくなって、
政宗は本を閉じるとそっとの隣へ移動すると、
彼女と同じようにガラス戸を背もたれにして座った。
途端に背中がほっこりと暖かい。
この時代の生活はあまりにも平和で穏やかだ。
刀を振るう必要もなく、政略に頭を捻らすこともない。
ただ大切な人と食事をしたり散歩をしたり一緒に眠ったりする。
――やはりこの時代は自分のいるべき場所ではない、そう思う。
戦場で敵と対峙したときのあの昂りや、自分の策がうまく動いたときの満足感、
それを思えば自然と高揚してくる精神。
そういう自分のあるべき場所はやはりあの戦国乱世なのだ。
平和な世を求めるのも本当だが、自分は真性戦いを好む人間であることを、
政宗はとうに自覚している。

それでも。

「・・・・・あれ、政宗さん・・・?」
やや掠れた声がすぐ横からして、政宗ははっと我に返った。
そこまで深い眠りではなかったらしく、ははっきりと目を開いてこちらを見ている。
「いつから隣にきてたんですか?
 ていうか私いつの間に寝ちゃってたんだろ・・・。」
「両方ついさっきだ。
 お前が間抜け面して寝始めたから間近でそれを観察してやろうとだな。」
「え、え、え、もしかして私よだれたらして寝てたとか!?」
「よく分かったな。」
「えええええ!?」
大慌てで口元を拭うの頭をいつものように軽く叩いて、政宗は意地悪く笑みを浮かべた。
「It's a lie.」
「も〜〜〜〜!!」
くやしそうに睨みつけてくるに、政宗はくっと喉で笑う。
笑いながら彼女の頭をぐいと抱き寄せてその髪に顔を埋めた。
暖かくて明るい陽の匂いがする。
「ま、政宗さん?」
急な触れ合いにはもぞもぞと動こうとしているが、政宗は気にせずそのままでいた。
そうすればすぐに彼女は抵抗をやめておとなしくなるのを知っている。
そして事実今回もすぐにそうなった。
それどころか少し躊躇った後に、自分に体重を預けてきさえした。
「・・・あったかいですね。」
「そうだな。」
溶け合うぬくもりと、匂いと、気持ちが、心地良い。
ひどく平和で穏やかな時間。
ここは自分のあるべき場所ではない。
・・・それでも。
こんなひと時を心の底からいとおしく、幸せに思う自分もいる。
それと同時に胸を突くこの切なさ。
本来ならこんな時間はもっとずっと幼い頃に過ごしているはずなのだ。
自分はそれを病のために逃してしまった。
そう、逃して、そして別にそれを取り戻そうとも思っていなかった。
それなのに今こうして思いがけない形でそれを得た。
このことに一体何の意味があるのだろうか。
「そういえば、戦国にいたころ2人でお昼寝したことありましたね。」
「雪合戦やってお前が惨敗したときだよな。
 そのまま庵に転がって寝て。」
政宗はから少し離れて、そっと右目の眼帯を押さえた。
「・・・そしてお前が、俺に欠けてるものを分け与えてくれた。」
暖かく柔らかな手が政宗の骨ばった手に重ねられた。
は真っ直ぐに政宗の目を見て、小さく、けれどはっきりと呟いた。
「眼帯の下、見せてくれますか・・・?」
政宗はそう動揺することもなく、黙って眼帯の結び目に手をかけた。
するりとあっけなく外された眼帯の下の右目は、
傷跡とその周りの引き攣れのために開かれることはなかった。
細い指に傷跡をなぞられて、政宗はなんとなく左目も閉じた。
「痛んだりはしないんですか?」
「ああ、全くない。だいたいそれを訊くなら触る前にしろよな、お前。」
「す、すみません!・・・なんだか、すごく愛しくて・・・つい。」
「愛しい?この傷が?」
折角声を小さくして言ったのに、政宗が普通のボリュームで繰り返すので、
はほんのりと頬を染めて俯いた。
「だ・・・だって、政宗さんの身体ならどこだって愛しいんだ・・・もん。
 自分でもこんな気持ちになるなんて不思議なんです。」
自分で言っておきながら自分で照れて、は一層顔を赤くしたが、
今度は俯かずにこつんと政宗と額をあわせた。
至近距離で目が合って、なんとなく可笑しくてお互いふっと笑いあう。
「・・・別に、母親を恨んじゃないんだよ。
 自分と違うものを恐れるのは人間の性だと思うし、
 この時代と違って子どもの世話を全て親がするわけじゃねえ。
 そういう習慣の中での親子関係だからな。」
「政宗さんは優しいですね。」
「優しいわけじゃない。」
「ううん、優しい。」
「言ってろ。」
そう口にしつつも、言葉を遮るように、政宗はの唇を塞いだ。
この時代では抱くどころか口吻けさえするつもりはなかった。
けれど想いが溢れてどうしようもなくて、エゴイスティックかもしれないけれど、
零れ落ちてしまうくらいなら彼女に受け止めて欲しかった。

お互いの粘膜の熱さに酔った後、そのまま寄り添って、
今度は2人して陽だまりの中で眠った。
ぽかぽかと暖かい陽気を背に受けて、同じ太陽の匂いをまとって。
静かに寝息を立ててくっついて寝る2人。
それはひどく幸せな光景だったに違いない。







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まだ政宗様が傷をヒロインに見せてないことに気付いたので。(最悪)

うちの政宗様には気性の荒さがあまり感じられないと思うのですが、
それはヒロインの前+戦の出来ない冬だからです。
基本的に政宗様は血の気の多い戦い好きな人だと私は思ってます。
なんだろ、光秀的な戦好きではなく、剣を交えて己の力を出し切ることに純粋に喜びを見出しているというか。
自分を磨いて力をつけて世の中をのし上がっていく、そういう単純さが彼は好きなんじゃないかと。
つまりはまあ力比べが好き、と。(笑)