「なんというか・・・舌が肥えちゃったんですよねえ・・・。」 急須を傾けてトポポと湯呑みに緑茶を注ぎながら、はしみじみと呟いた。 漂ってくる緑茶の香りは快い。 政宗もそれを感じているらしく、湯呑みを渡されるとすぐに口をつけた。 「なんだよ唐突に。」 「だって、今までの私ならこんな高いお茶っ葉買いませんもん。 そもそも今まで急須さえなかったし・・・。」 自分の分のお茶も入れ終わると、も早速口に含んだ。 口内に広がる甘く爽やかな味にほうと息をつく。 今飲んでいるお茶はスーパーの袋売りの安物ではない。 重さで値段が決まっている、お高いお店で購入したものである。 ・・・さすがに急須は近所の雑貨屋で買った安物だが。 「政宗さんのお城で飲んでたお茶があんまりにも美味しくて、 普通にコンビにで売ってるペットボトルのお茶じゃなんか物足りなくて・・・。」 「お前茶の良し悪しが分かるようになったのか。」 意外そうにする政宗には苦笑する。 「いや、そこまでではないですよ。 あれのほうが美味しかったなーとか、そういうの感じるくらいです。」 そこで改めて思うのが、奥州で政宗もしくは小十郎が、 いつも選りすぐった品をに出してくれていたのだなあということだ。 これはお茶に限らず、食事にしろお菓子にしろ同じだった。 言うまでもなく野菜の生産者は小十郎だったが。 「でもね、最近ピカイチ美味しいと思うのは政宗さんの作ってくれるお料理です。 買い食いじゃなんだか味気ないんですよ。」 「言うほど凝った料理を作った意識はねえぞ?」 「いや、凝ってる凝ってないの問題じゃないと思うんです。 なんだろうなあ・・・前は外食してもなんとも感じなかったのに・・・。 やったら政宗さんのご飯美味しいんですよ。」 分かりそうで分からない、政宗の料理が美味しい理由。 喉元まで出掛かっているのに出てこずもどかしい。 「これまで妙なものばっか食ってきたのか?」 ずずっとお茶をすすりながら、政宗は微妙な顔で尋ねる。 「いや、別にそんなわけじゃないですよ。 だってうちの母の料理はすっごく美味しかったし・・・って、あ!」 いきなりテーブルの上に湯呑みを置くと、は頬を高潮させて政宗の腕をぐいと掴んだ。 「分かった!分かりました政宗さん!」 「What?」 の勢いに多少圧されながらも、湯呑みを取り落とすことなく政宗は尋ねる。 するとは満面の笑みできっぱりと言い切った。 「愛情!」 「・・・・・Pardon?」 ちゃんと聞こえてはいたのだが、政宗は思わず聞き返していた。 目の前でにこにこしている女は今すごいことを軽く言ってのけたのではないか。 「愛情がこもってるから、政宗さんの料理も母の料理も美味しいんだ! 手料理ならではのあたたかみというか・・・うん、愛情愛情!」 うふふと笑って再びお茶をすするに、政宗は最早脱力していた。 「・・・俺が作る料理にも、お前への愛情がこもっている、と?」 「え、憎しみこめられてたんですか私!?」 「いや、そんなことはないけどな・・・。」 「良かったー!」 平気で愛情などと言い切れる真っ直ぐさというか素直さというか。 そういうところが彼女の良いところなのだが、 こうもさらっとクサいことを言い切られるとどうにも反応しづらい。 「なんつーか、お前は知恵や話術やそういうもの以外で、 今まで世の中生き抜いてきた感じだな・・・。」 「・・・それは貶されているんでしょうか?」 「褒めてるんだ。多分。」 「多分って何ですか。」 テーブルに湯飲みを置いて詰め寄ってくるの頭を叩きながら、政宗は考えていた。 ――愛情、ねえ・・・。 明日からは料理をするたびに今のことを思い出してしまいそうだ。 そうして彼女の言うとおり、『愛情』とやらをこめて料理をするのだろう。 想像するとなんだか少しむず痒いけれど、それもまあ悪くはない気がするのだった。 |
以前日記に書いたことがあるんですが、
他サイト様のトリップ夢ヒロインさんが知恵や勇気や度胸で戦国を生き抜いているのに比べ、
うちのヒロインはバカ正直さのみで切り抜けてきた感がある。
ところでいつの間にか政宗様が料理を作っている件。
ていうかすいません、これ微妙に自分で納得いってない部分があるので、
後日こっそり修正するかもしれません・・・。