「・・・ちょっと、あんたまた昼ご飯抜く気!?」 「え、今日も?どっか調子悪いの?」 大学の学食の片隅に友人たちの声は大きく響いた。 が、独特のざわつきの中ではそれを特に気にとめる人はおらず。 日替わり定食を前に不審げな顔をする友人2人に、はただ苦く笑うしかなかった。 ちなみにの前には、食事トレーの代わりに図書館で借りた本が置いてある。 「や、なんか1日2食に慣れちゃってさ。」 「いつ慣れる期間があったっていうのよ・・・。 しかもまた漢文なんか借りてるし・・・いつから漢文好きに?」 「あー・・・別に漢文は私が読むわけじゃなくて・・・。」 「最近付き合い悪いし。」 「や、ホントにごめん・・・!」 それはここ最近ずっと繰り返しているやりとりであった。 戦国時代に二食だったせいで昼食を取らなくなり、 政宗のために頻繁に図書館で漢籍か和食の作り方の本を借りて、 帰りはスーパーに寄ってから一目散にマンションに帰る。 友達には申し訳がないけれど、付き合いが悪いと言われようが、 今のには政宗のことしか考えられない。 一ヶ月弱、彼が現代で心地よく過ごすには自分の力が不可欠なのだ。 そう、彼が戦国時代で、に良くしてくれたように。 「・・・もしかして、彼氏できた?」 「うえっ!?」 ビクッと過剰に反応して、手に持っていた携帯をテーブルの上に落とした。 ストラップが軽い音を立てる。 そんなのリアクションに何も感じないはずはなく、 友人たちはそういうことかという表情を浮かべて小さく息をついた。 「そうかー・・・にも彼氏がねえ・・・。」 「時間的にまだ付き合い初めだよね。 1番楽しいときだから、まあ付き合いの悪さはしばらく多めに見てやろう。」 「ちょ、ちょっと待って!勝手に話進めないでよ!」 どんどん顔が熱くなっていくのを感じる。 けれど、友人の言うことは半分正しくて半分間違っている。 なぜなら政宗はの『彼氏』ではないからだ。 未だにはっきりとお互いの気持ちを口にしたことはないし、 別にそれが恋人を決めるラインとは言わないが、現代に戻る直前のあの時以降、 軽いスキンシップこそあれど、唇でのキスは全くしていない。 つまりは戦国時代にいた頃としていることは何ら変わりがないのである。 それでも、お互いの気持ちは確実に重みを増しているし、 ふいに流れる哀しい緊張感を感じないほど鈍くもなくなってしまった。 しかし今はそのことについては深く考えないようにしている。 まだ決断するまでには随分時間が残されているし、 今はただ・・・彼がすぐ側にいて、その空気を感じていられることが嬉しいから。 「・・・・・彼氏はいないけど、すごく好きな人ならいる。」 ぽつりと呟いた言葉が自分で思った以上に優しい響きを帯びていて、 は驚くと同時になんだか嬉しい気持ちになる。 そう、私はあの人が好きだ。 「・・・今度、いろいろ教えてよね、その人のこと。」 根掘り葉掘り訊いてこようとしない友人に感謝しつつも、 は何も答えずに薄く微笑んだ。 「心配してくれて、2人ともありがとね。」 ガチャンと鍵を回して扉を開けると、部屋の中は既に電気がついている。 リビングに続くすりガラスにゆらりと人影が映る。 それだけでもう嬉しくなってしまって、はすぐに家に入って、鍵を閉め、靴を脱ぐ。 「ただいまー!」 「遅かったな、何かあったか?」 リビングから出てきた政宗を目にした途端、は自然と笑顔になる。 我慢できずに早足に政宗に近づくと、手に持っていたスーパーの袋を取り上げられた。 その袋の重みに政宗は眉をしかめた。 「お前また1人で買い物行きやがって・・・。 帰ってから俺と一緒に行けば荷物持ってやるって言ってるだろうが。」 「帰り道にスーパーがあるんだからついでですよ。 それより!政宗さんに言われたとおりの選び方でかぼちゃ選んできました!」 その場でガサガサと袋からかぼちゃを取り出すと、は自慢げに口を開いた。 「ほら、小ぶりだけど重みのあるの! ちゃんと2人で食べきれるぶんだけのカットされたやつですし!」 最初に夕食を作ったときから分かりきっていたことだが、 悲しいかな、政宗のほうが料理に詳しい。 初めて一緒にスーパーに行ったときは切々と良い野菜の選び方を説かれさえした。 もっとも政宗も小十郎に教えられてそういうことを学んだそうだが。 「おつかい成功させたガキみたいだな。」 の必死な様子に政宗はくっと笑って、その手からかぼちゃを受け取る。 そして重さを確かめるために軽く上下させたり、切り口の色を確認したりした後、 ぱしっといつものように彼女の頭を軽く叩いた。 「Perfect.」 「やった!・・・って、じゃあなんで叩くんですか!」 「ノリだ。」 「え、何この理不尽さ。」 わあわあ騒ぎながらも、打ち解けた雰囲気が嬉しくて自然と笑顔になる。 ただそこに好きな人がいて、こうして話ができる喜び。 まだ先のことは考えずに、もう少しだけ、ただこの幸せをかみ締めていたい。 「じゃあお互い今日のことを報告しながら、晩ご飯作りといきましょうか!」 「今日は授業中居眠りしなかったのか?」 「・・・・・えー、と。」 「――お仕置きだな。」 「痛っ!政宗さんがまたぶったよ、小十郎さーん!」 「小十郎はここにはいねえだろうが・・・。」 ――お願い、もう少しだけ。 もう少しだけ、ただこの幸せの中に浸らせていて――。 |
おいしいかぼちゃの選び方は母からききました。
きゅうりもきいたよ。(笑)