その後もしばらく曰く『戦利品』の披露は続いた。
衣服や靴も驚くほどサイズがぴったりで、は自慢げに笑ったのだった。
ひととおりのやりとりを終え、は最後に小さな袋をテーブルの上に置いた。
「この時代にいる間、ずっと政宗さんに家の中にいろっていうのは酷ですよね。
 だから明日私と一緒に外出しましょう。」
「ああ、有り難い。ずっと引き篭もってちゃ体がなまるからな。
 せめてrunningでもさせてほしいと思ってたんだよ。」
「じゃあ明日はランニングコースも決めましょうね。
 合鍵とか政宗さん用のお財布も用意しました。
 いろいろな物を見ながら、ちょっとずつこの時代のこと、覚えていきましょうね。
 ・・・で、今日は政宗さんにもう1つプレゼントがあります!」
はにこにこしながらさっき置いたテーブルの上の小袋を手に取った。
そのまま袋を開けるのかと思いきや、はすっくと立ち上がった。
「What?」
「10分ちょっと待ってくださいね。
 私も久しぶりだから楽しみだなあ・・・!」
楽しそうにそう言いながら、はぱたぱたと部屋を出て行った。
不思議そうな政宗の所にはすぐに戻ってきたが、その手にさっきの袋はなく。
彼女のプレゼントを知って政宗が驚くのは、の言うとおり10分少々後のことだった。





昨日と同じように、は気持ちを落ち着かせるべく深呼吸をした。
それから電気のスイッチを切ると、少し躊躇ったものの、
今日は自分からベッド――政宗の隣にもぐりこむ。
「・・・同じ匂いがするな。」
「そうですね、私たち2人とも、桜の匂い。」
そう言ってくすりと笑っていると、骨ばった手がぐっと腰を引き寄せてきた。
甘く優しい香りと、彼の体温に身を任せる。
の言うプレゼントとは入浴剤のことだった。
生活に必要なもの以外に何か政宗が喜んでくれそうなものを買いたくて、
ふと目に付いたのがそれだったのだ。
当然と言うか、戦国時代に今のような入浴剤があったわけがなく、
案の定政宗は驚いた顔をした後、の気持ちを悟ったのか嬉しそうに笑ってくれた。
「季節はずれだが、いいもんだな。」
「季節はずれだからこそいいんですよ。」
思い切ってぐっと彼の胸に顔を寄せると、規則正しい心臓の音がした。
暗闇の中でも確かに彼の存在を感じる。
瞳を閉じてじっとしていると、同時に自分の鼓動も感じられた。
ときどき2つの音が重なると無性に嬉しくなった。
「奥州にも桜は咲くんですか?」
「咲くぜ。城内にも結構な本数があるし、気付かなかっただろうが、
 お前の使ってた庵の前庭にも何本か植わってるぞ。」
「そうだったんですか!雪に埋もれてて全然気付きませんでした。」
「まあそりゃそうだろうな。」
「普通気付きませんよ。」
これといって中身のないやりとりを続ける。
けれどそこに横たわる静かな緊張感にお互い気がついていた。
は『見たい』とは言わないし、政宗も『見せたい』とは言わない。
3週間程度過ぎれば今度こそ別れがやってくる。
が奥州の桜を見ることができるとすれば、
それは彼女があまりにも重い決断を下したときだけで。
まだその話題を出すには時期が早い。
それを2人とも十分に分かっていた。
「・・・しかし、これ桜の匂いか?」
「イメージじゃないですかね、実際こんなに匂いしませんものね。
 でもいい香りでしょう?」
「そうだな、なんとなく落ち着く。」
「気に入ってくれたならまた違う種類の買っ・・・ふあ・・・。」
あくびのせいで最後まで言い切れず、政宗はそれにくっと喉で笑った。
ぽんとの頭を撫でて耳元でささやく。
「もう寝るぞ。」
「そうですね。えっと・・・Good night.」
「Good night.」
彼の声は鼓膜だけでなく胸の奥底まで震わせてくる。
そう思いながら、は静かに瞼を閉じて自分以外の体温に身を委ねた。



――その晩、夢を見た。
夢にしてはあまりにもリアルで、あまりにも幸せだった。
政宗と一緒に奥州で満開の桜を眺める夢。
あたたかい風に薄い色の花弁がちらちらと舞っていた。
髪についたその花弁を政宗が取ってくれて、
も政宗の肩についている花弁を取ってあげて、お互い笑い合った。
有り得ないはずの未来。


夢の内容も、目が覚めたとき泣いていたことも、政宗には秘密にしておいた。







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まあきっと政宗様は気付いてても黙ってるけどね!
そしてアニメイトのBASARA入浴剤が欲しくてたまらない。