「完成ー!」
「でけえ・・・。」
大喜びで両手を上げて騒ぐに対して、政宗は半ば呆れ気味に呟いた。
そんな2人の目の前で、特大の雪だるまが強烈な存在感を放っている。
「ミニ雪だるまに雪うさぎときて、ついに本格的な雪だるまが完成・・・!
 長年の夢が今ここに・・・!」
「長年って、そんなに雪だるまが作りたかったのかよ。」
「いや、その場のノリで言いました。」
「お前な・・・。」
あははと笑って、は躊躇うことなく雪だるまに抱きついた。
しっかりと作られた雪だるまはそれくらいではびくともしない。
着物を雪だらけにしながらは言った。
「伊達の雪だるま、百人乗ってもだーいじょーぶー!」
「意味分かんね。」
「分かったら怖いですよー。」
そう言うと、は雪だるまに抱きついたままふと空を見上げた。
濁った色の空だ。
今日もきっと雪が降る。
が住んでいる土地はではほとんど雪が降らなかったので、
寒いのは歓迎が出来ないが、これだけの雪を見られるのは嬉しかった。
けれどこの雪ももうそろそろ見納めだ。
そんな風に感慨にふけっていると、
政宗が雪に埋もれた庭木の側で何かやっていることに気がつく。
「政宗さん?」
振り向いた政宗はひどく優しい顔をしていて、は胸が高鳴ると同時に、
どうしようもないくらいに苦しくなる。
「Don't move.」
「え?」
言われるがままに、は雪だるまに抱きついたままぴたっと動きを止める。
そのに歩み寄ると、政宗は手に持ったものを差し出した。
「・・・椿?」
真っ白な雪を背景に赤い花弁が鮮やかだ。
政宗の手の温度で解けた雪が、水滴になってその花弁に乗っている。
「なんとなくお前に似てる気がする。」
そう言って政宗は赤い花をの髪にさした。
肌に触れられたわけでもないのにの頬が熟れたように赤くなる。
それを見て政宗は可笑しそうに笑った。
「そっくりだな、真っ赤だ。」
雪だるまからを引き離すと、着物が雪にまみれているのも気にせず、
政宗は自分の胸に華奢な身体を抱き寄せた。

――苦しくて、息が出来ない。

の手が政宗の羽織をぎゅっと掴む。
顔を隠すように俯いて政宗の胸に額を当てると、椿が雪の上に音も立てずに落ちた。
「どうした?」
「意地悪・・・!」
「具体的に言えよ。」
羽織を掴んだ手が小さく震えている。
爪が白くなるほど力が入っていた。
「政宗さん・・・私、もうすぐいなくなっちゃうんですよ?」
「知ってる。」
「確かな言葉を、私に何もくれないんですか・・・?」
――言えば何か変わるか?」
思いのほかその声が鋭くて、はそっと顔を上げた。
すると怖いくらい真剣な眼差しとぶつかった。
「何を言おうがお前は帰るだろ?」
「・・・・・・。」
「それにはっきり言葉にしちまったら、元の世界に帰ったとき、お前泣くだろうが。」
「・・・っ言葉にされてもされなくても、泣く気満々です!」
「何の宣言だそりゃ。」
政宗は苦笑しながら、の乱れた髪を丁寧に整える。
それがまたの胸を苦しくさせるのを、この男は知っているのか。
「それなら突き放してくれればいいのに。」
「だよな。だけどいざお前を見るとそれも出来なくなるんだよ。
 俺もお前のことを言えないくらいバカだよな。」
「もうやだー・・・!」
たまらなくなって、その広い背中に思い切り腕を回して抱きついた。
というよりはしがみついているようだった。
言葉にするのは簡単なのに、その簡単なことができない。
なんて不自由なんだ。
「・・・笑えよ、
 ここにいる間だけでも俺の側では笑ってろって言ったろ。」
「政宗さんはホントに無茶言いますよね。」
「無茶じゃねえだろ。笑え。」
「もうっ!」
はぐっと顎を上げると、顔中をくしゃくしゃにして笑った。
力の限り、精一杯に、息苦しさを押し込めて。
絶対に不細工な顔だとは思ったが、がむしゃらに笑った。
「So cute.」
「嘘ばっかり!」


――いつの間にか降り出した雪が、2人の肩に白く積もっていた。







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本当は山茶花にしたかったんですが、日本の野生種は西日本のみらしく。
それなら同じツバキ科で見た目も似ている椿にしておこうかなー、という感じで決定しました。