色々と考え込んでいるとなかなか眠れず、目覚めもまた唐突だった。
しかも庵から移った城内の部屋というのが政宗の部屋の隣で。
とはいえ、彼が隣の部屋にいることも勿論だが、室内の装飾やら調度品やらが、
庵と比べ物にならないくらいゴージャスになっていることのほうが、
目下の心臓を高鳴らせて安眠を妨害するのであった。
転びでもして何か壊したら殺されるんじゃなかろうか。
「ふあ・・・。」
眠たいのに妙に目が冴えてしまっていて眠れない。
障子越しに差し込む薄い光からもう朝なのは分かるが、聞こえてくる音からして、
本格的に城内の人々が動き始めた様子はないので、まだ早い時間なのだろう。
そういえばは政宗の起床時間を知らないのだが、
やはり隣の部屋に来たからには同じ時間に起きるべきなのだろうか。
「・・・むしろ私が起こしてあげればいいんじゃ?」
布団の中でごろんと転がりながら、はにっと笑った。
寝起きの政宗・・・正直見てみたい。
先日の昼寝はあの男のことだから本当に寝ていたか分からない。
だが今日は、爆睡中の政宗とか、寝相の悪い政宗とか、寝癖のついた政宗とか、
その辺がもしかして見れるのでは・・・?
「ふっふっふっ・・・!」
想像すると笑いが止まらなくなって、は口元を手で押さえた。
思い立ったらすぐ実行だ。
いつも何時起床なのかは知らないが、もう明け方なのだから起こしても構うまい。
夜這いならぬ朝這いだ。



そっと廊下に出ると、姿勢を低くして政宗の部屋の前に移動する。
気配などに読めるわけはないが、とりあえず中から音はしない。
慎重に障子に手をかけてごくゆっくりと開けていく。
中が覗けるくらいの隙間が開いたところで、は室内を覗き込んだ。

――Good morning.」

なぜか布団の上にあぐらをかいている政宗と目が合った。
「〜〜〜!?」
あまりの驚きに、はぴしゃんと障子を閉めた。
「あれっ?あれっ?なんか普通に起きてたよ?
 これって話の展開上、狸寝入りしてる相手に腕を引かれてドッキリか、
 本気で寝てるところに突入して寝顔にうふふの2パターンのどっちかが定番じゃ?」
「挨拶もなしとは礼儀がなってねえなあ、?」
床に座り込んでぶつぶつ言っていると、内側から障子が開いて政宗が顔を出した。
意地悪く笑いながらを見下ろしている。
「ぎゃー!乙女の期待を裏切る空気読めない男が出たー!」
「乙女が朝っぱらから大声で騒ぐかよ、せめてきゃーと叫べ。」
朝から一発の額を叩くと、それにひるんだ彼女を政宗はひょいとかつぎあげた。
そのまま部屋の中に入って後ろ手で障子を締める。
「部屋に連れ込んでどうするつもりですか!?」
「廊下で騒がれたらうるせえからだ!
 ――ああ、それとも何かして欲しいのか?」
「えええ!?」
凶悪な笑みを浮かべながら、政宗はをぼすんと布団の上に降ろす。
初めて会ったときに比べればマシだったが、その降ろし方はまだ乱暴だ。
それはともかく、とりあえず逃走を開始すべく、は布団に手をついた。
けれど立ち上がるより先にまた政宗の腕が腰にまわってきて、
引き寄せられた拍子にころんと後ろにひっくり返る。
「うわっ!?」
結局昨日と同じように後から抱きしめられて、
政宗の胸を背もたれに布団の上に座り込むことになる。
「・・・は、破廉恥っ。」
「破廉恥で結構。」
そう言うなり、政宗はの顎を捉えてぐいと自分のほうを向かせた。
いきなりのことにきょとんとしているの瞳を覗きこんで、政宗は小さく息をついた。
「目が赤い。眠れなかったのか?」
「・・・・・。」
なんとなく恥ずかしいような気まずいような気持ちになって、
は政宗の手を振り払って顔を前に戻す。
なんだか自分でもよく分からないが、意味もなく泣きそうだ。
「・・・帰れるかもしれない日までもうあと少しだな、って。
 いろいろ考え込んでたら、なんか、眠れなかったんです。」
「嬉しいんじゃないのか?」
「嬉しい・・・ですけど・・・・・。」
現代に帰りたいという気持ちは未だ強くある。
けれど、自分を抱きしめるこの男の側にいたいという気持ちに、
は気付かないふりが出来なくなっていた。
無事に帰れたとき、1人部屋で切なさに涙する自分を容易に想像できるのだ。
でもだからといってこの時代に残るわけにはいかない。
これ以上迷惑はかけられないし、には大学があるし、
何より家族や友達は突然連絡がとれなくなったを心配しているに違いない。
それに・・・。
「政宗さんは意地悪だし。」
「Ah?」
後ろで不機嫌そうな声がするも、はそれを無視して前を凝視する。
政宗は何も言葉にしてくれない。
こうして強く抱きしめたり、びっくりするぐらい穏やかな目で見つめたり、
本当にこの手が剣を握っているのか疑うほど優しく触れたりしてくるのに。
言葉は何一つにくれない。
ただ、何か言葉を貰えた場合に自分の気持ちがどう変化するのかは、
最早にはさっぱり想像がつかないのであった。
「・・・このドS政宗。」
「調子のんなよお前。」
「わぎゃー!」
抱きしめられたままごろんと布団の上に横になった。
そのまま大きな手で目元を覆われて、の顔が急激に赤くなる。
「え!?ちょっ、何するんですか!?」
――寝ろ。側についててやるから。」
「へ・・・?」
相変わらず目隠しはされたままだが、腰にまわされていた腕の力は緩んだ。
安心できる暗闇と、心地良い人の体温に身体の力がどっと抜ける。
政宗の一挙一動でこんなにも変化する自分が不思議でたまらない。
「あ・・・すごい、ホントに寝れそう・・・。」
「じゃあ寝ろ。寝不足だと不細工になるぞ。」
「放っといてください・・・。」
自分おやすみ3秒じゃんと脳内自己突っ込みを入れつつ、
抗いがたい眠気を感じての意識はだんだんと薄れていく。
確かに感じているものといえば、政宗が与えてくれるこの安堵感だけで。
「あり・・・が・・・と・・・・・。」
そう呟いたのを最後に、はすうっと眠りについた。
それを見届けて政宗は優しく微笑んだ。
頬にかかった髪をそっと払ってやると、彼女の輪郭をゆっくりと指でなぞる。
「・・・。」
眠っている相手を呼んだところで返事など返ってくるはずがない。
それでもなぜか、政宗は呼ばずにはいれれなかった。


・・・この後、政宗を起こしに来た小十郎がその状況に驚き、
目を覚ましたがまた破廉恥だと騒ぎ、それを政宗が叩き。
そうして結局いつもと同じ1日が始まったことは、言うまでもない。







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私は基本的にお約束な展開が大好きな人間なのですが、
今回は政宗様に起きていてもらいました。(笑)

もうぼちぼち前半が終了にさしかかっておりますー。