手のひらにぽんと置かれた2つのそれに、の顔がぱっと笑顔になった。 「わ、ありがとうございます!今日のおやつは蜜柑ですかー!」 「小十郎が用意した一級品だから美味いと思うぜ。」 「やった!」 早速皮をむき始めたの隣に政宗は腰掛けて、その手元をじっと眺める。 蜜柑の皮むきがそんなに珍しいのかと思いつつも、はすぐにむき終えた。 その途端―― 「Thanks.」 「うえ!?」 ――皮をむいた蜜柑を横から伸びてきた手に奪い取られた。 「ちょっとちょっと!それ政宗さんのためにむいたんじゃないんですけど!」 「むくの面倒だろ。」 「このおぼっちゃんがー!!」 わあわあと騒いでいる間に、政宗はひょいと蜜柑を口にする。 の手元に残ったのは、よれよれの皮とまだ皮のついたままの蜜柑で。 こっちのむいていないほうの蜜柑を投げつけてやろうか、この野郎。 「美味いなこれ。」 「そりゃそうでしょうねえ!?」 つっけんどんにそう言いながら、はきっと政宗を睨みつけた。 けれどその視線はすぐに鋭さを失う。 蜜柑を口にする政宗の顔が思いの外嬉しそうで、無防備で、 それを目にすると、投げつけてやろうかと蜜柑を握っていた手から勝手に力が抜けた。 「・・・・・そんなに美味しいんですか?」 「お前もむいて食えばいいだろ。――ほら、先に一口。」 そう言うなり政宗はの口元に蜜柑を一房差し出した。 びっくりする前に唇にそれを押し付けられて、は反射的に口を開く。 「むぐっ!」 口の中に入ってきた果実は、咀嚼すれば甘い果汁を溢れさせる。 確かに甘酸っぱくて美味しい。 ただそれよりも、一瞬唇に触れた政宗の指の感触に、の頬が熱くなる。 「美味いだろ?」 「〜〜〜〜〜!」 なんであんたが得意げな顔をしてるんだと言いたかったが、 どうしてか口に出せず、蜜柑と一緒に飲み込む。 よく分からないが妙に悔しい。 「そ、そうやって傍若無人な態度だと恋人出来ませんよー!?」 「出来ないんじゃなくて作らねえの。 なんならお前が俺の正室にでもなるか?」 にやにやと笑いながら政宗が言った言葉に、はぽかんとした。 最後の十中八九冗談であろうお誘いよりもある意味驚きの一言。 いや、口にしないだけでだってそうなのかもしれないとは思っていた。 「――政宗さん、奥さんいないんですか?」 「なんだよ今更。」 「いや、そりゃ確かに今更なんですけど!」 こう毎日会っていればなんとなく政宗に女の気配がしないことは感じていた。 (それにしては女の扱いに慣れていることには気付かないふりをしておく。) 正室でも側室でもないとほぼ毎朝毎晩一緒に食事をとったりするのも不思議だったのだ。 今こうして確認して妙にホッとしたと同時に、驚きがこみ上げる。 「でも政宗さんって伊達家の当主さんで19歳でしょう!? この時代って普通ならもう奥さんいるんじゃ・・・?」 本気でびっくりしているを見てから、政宗は僅かに目を伏せた。 そのいつもとは違う雰囲気が、の胸を少しざわつかせる。 なんだか今日は彼の見たことのない表情ばかり目にしている。 「・・・室を迎えれば、子をつくんなきゃなんねえだろう。」 「え?あれ?なんですか、政宗さんってもしかして男の人が好きないいい痛い痛い!!」 最後まで言い切る前に頬をすごい力で引っ張られた。 「んなわけあるか!普通に女を抱く!」 「っ!」 あまりにはっきりと言われて、の顔がかっと赤くなる。 なんでこんな話になってるんだ・・・って自分が話をふったのか。 「とにかく、室はいねえよ。」 この話はここまでだとばかりに、政宗はきっぱりと言い切った。 詳しくは教えて貰えそうにない。 「お前こそどうなんだよ、元の世界で男の1人でもいんのか? Ha!いやいやいるわけないよな悪いこと訊いちまったな。」 「何勝手に訊いて勝手に結論出してるんですか。」 「いないだろ?」 「・・・・・。」 意地悪く笑ってそう尋ねられると、素直にいませんと言うのもなんだか癪だ。 かといってこの男に嘘をついたところできっとすぐに見抜かれてしまう。 結局、黙り込んで蜜柑の皮をむくしかにはできないのだった。 「むいたら一口よこせよな。」 「さっき一個まるまる食べたでしょう!?」 「一口分お前にやっただろ。」 「みみっち・・・!」 そう言いつつ、はむき終えた蜜柑を一房取って差し出す。 それを受け取らず、政宗は当然のように口を開けた。 「ん。」 「な、何が『ん。』ですかー!一文字で要求したよこの人!」 もうやけくそだとばかりには政宗の口に蜜柑を放り込んだ。 それを素直にもぐもぐと食べる政宗は少し可愛い。 そう思いながらも自分の口に蜜柑を入れて噛み締める。 「・・・美味しい。」 「だな。」 口の中に広がる爽やかな味を感じながら、はふと考えた。 そういえばさっき、政宗に室がいないということを確認して自分はホッとしていた。 そう、ホッとする・・・安心したのだ。 ではなぜ安心したのか? 「・・・んんん?」 「何だよ。」 「いや、自問自答を。」 不思議そうに問いかけてくる政宗を見ながら、は頭を抱えた。 ――なんで私は、ホッとしたんだ? |
愛姫の存在は無視です!(爽やかに)
いいじゃないか、夢小説なんだし自分だけ愛されたくないですか!?
そして未だに政宗様の英語を書くとき自分で笑ってしまう私はダメ夢書きです。