いつもと同じ、深く雪の積もったの庵の前庭にて。
目の前でなんともいえない存在感を放っているそれを見て、政宗の頬は引き攣った。
対してはどこまでも自慢気な顔をしていた。
「どうです、私のこの自信作!そっくり!」
「Knock off the bullshit. 叩くぞ。」(冗談はよせ。)
「なっ!別に冗談じゃないし、いつも勝手に私のこと叩くじゃないで・・・痛ー!
ぱしっと額を叩かれて、は涙目になって政宗を睨みつけた。
が、それ以上の迫力をもって見返されて、うっとたじろぐ。
「こんなに上手に出来たのにー・・・!」
・・・2人の足元にはの作った小さな雪だるまが2体並んでいた。
とはいえ、ただの雪だるまではない。
木の葉や小枝、小石をうまく利用して、雪だるまにはきちんと顔がついている。
――政宗と小十郎そっくりな顔が。
「ったく・・・毎日毎日庭で何かやってると思えば、んなもん作ってたのかよ。
 だいたいこんな雪人形2体作るのに何日かかってんだ?」
呆れ顔でそう言う政宗に、は不満そうに答える。
「キレイな雪玉作るのって難しいんですよ?
 そもそも政宗さんと小十郎さんに喜んで欲しくて作ったのに・・・。」
「こっちはすげえ複雑な気分だぜ。」
枯葉で出来た眼帯をつけた妙に凶悪な面構えの雪だるまと、
頬のところに小枝の傷がある仏頂面の雪だるま。
いっそ腹立たしいほどに似ていて、なぜか微妙にイラッとくる。
――OK、お前にもこの気持ちを味合わせてやろう。」
「はい?」
きょとんとしたを見てにやりと笑ってから、政宗は唐突に座り込んだ。
かと思えば足元の雪をものすごく適当にがばっと掴みとって、
やはりものすごく適当に丸めて、力を込めて政宗だるまと小十郎だるまの横に置いた。
今度はそれを見たの頬が引き攣る番だった。
「も・・・もしかして・・・。」
政宗はさっきと同じように、もう1つ荒っぽく雪玉を作ると、先に作った方の雪玉にどんと重ねた。
横の2対の雪だるまと比べて、激しくいびつな形をしただるまが完成する。
それに植木から適当にむしり取った葉や枝で顔をつけて・・・。
「出来た。だるま。」
「ちょ、何ですかこれ!全然似てないし!ってか形悪っ!ボコボコ!」
「いいや、似てる。すっげえ似てる。この情けないツラがそっくり。」
そうはっきり言われると、も口ごもってしまう。
困ったように下がった眉、それなのにきゅっと上がって微笑んでいる口元、丸い瞳と鼻。
そういえばここに来てからこういう笑い方を何度かしたことがあるような。
何かそう考えると似てるような気がしてきたよ・・・どうした私の目。
「ぐうっ・・・!」
「どうだ、俺の気持ちが分かったか。」
「きーっ!!政宗さんがいじめるって小十郎さんに言いつけてやるー!!」
「小十郎はお前の保護者じゃねえ!」
「あははそうですねー政宗さんの保護者でいだだだだすみませんごめんなさい!
雪だるまそっくりの凶悪な顔で、の頬をぎりぎりと引っ張る政宗。
およそ19歳同士には見えないやりとりであった。
「・・・何やってるんですか、あなたたちは。」
背後からため息交じりに声をかけられて2人が振り向くと、
タイミングが良いというか悪いというか、手に盆を持った小十郎が立っていた。
それを見るなりはぱっと政宗の手を逃れて小十郎へと駆け寄る。
「小十郎さん!政宗さんがまた私に暴力を・・・!」
、今日は羊羹持ってきたぞ。部屋に上がれ。」
「羊羹!?やった!小十郎さんありがとう!」
・・・小十郎はの扱い方を心得ていた。
さっさと草履を脱いで部屋に上がるを尻目に、小十郎は舌打ちをしている主人に声をかける。
「まったく・・・今日はどうしたんですか?」
「お前もそこの雪だるま見りゃ俺の気持ちが分かるぞ。」
「は? ・・・・・。」
政宗の足元に並ぶ3体の雪だるまを見て、小十郎は黙り込んだ。
何か似すぎていて若干腹が立ってくる。
「私は普段からこんな顔をしてるんでしょうか。」
「・・・な?複雑だろ?」
「とりあえずの雪だるまはそっくりなのを認めます。」
「俺の力作だからな。」
主従の間に流れるなんともいえない空気を突き破るように、部屋からが声を上げた。
「お茶にしましょうよー!」
「能天気にも程があるぞ、アイツ・・・。」
「まあ確かにお茶が冷めてしまいますからね、政宗様も部屋にお上がりください。」
「やれやれ・・・。」
政宗を先に部屋に入れてから、小十郎も後を追う。
けれどふと思い立って、もう1度3体の雪だるまのほうを振り返った。
奥州筆頭ともあろう人間が雪遊びをしていたという事実。
といると政宗は途端に『筆頭』から『ただの政宗』に変わる。
ただ、それは必ずしも悪いことではない。
小十郎はそう思った。


――ちなみにこの後、の庵付きの女中が雪だるまを見て小さく噴き出したとか。
その雪だるまの話が密かに一部の女中の間で笑い話になったとか。
そんなことを知る術は、3人にはないのであった。







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まさだるまとこじゅだるまを実際に作ったのは私の友人だったりします。
この話とは微妙に違って、彼女が作ったこじゅだるまはものすご凶悪な顔をしてました。
隣に並んでるまさだるまがいっそ穏やかな顔に見えるほどでした。
Nよ、ネタ感謝!