「えっ・・・こ、これも脱ぐんですか? いや、確かに着物着るときってつけないって言うよなあ・・・。 でもでも・・・ってわあ!?やだ!何脱がしにかかって・・・ぎゃー!」 障子越しに聞こえる、いかがわしいような色気のないような微妙な声を聞きながら、 政宗は庭先に出て空を見上げていた。 その空は濁った色をしていて、今日もまた雪を降らせそうだ。 「やめっ!分かった!分かりました!自分で脱ぐから〜〜〜!」 「着替えくらい静かに出来ないのかね、アイツは・・・。」 ため息をつきながら、政宗は視線を下に落とした。 いくら言ってもブーツで庭先に出ては埋もれるにキレた政宗は、 ある手段に出ることを決めたのだ。 要は動きづらく、且つあのブーツとやらを履けないようにしてやれば良いのだ。 彼女の話を聞けば、未来では着物を普段着る人間は少ないらしく、 にいたっては最後に着たのは小さな子供の頃らしい。 着慣れない着物でも着せてやれば、少しは大人しくなるだろうという寸法である。 「政宗様、お召し換えが終わりました。」 「おう。」 背後から聞こえた声に振り向くと、女中は小さく礼をして、 何か御用がございましたらまたお呼びくださいとだけ言ってすぐに去っていった。 それとほぼ同時に、障子に映る影がゆらりと動いた。 政宗が部屋に入らずとも、は自分から外に出ようとしているらしい。 「・・・ったく、じっとしてられねえのかコイツは・・・。」 「ま、政宗さん。」 いつもよりややゆっくり、というよりは恐る恐る障子が動いた。 それからまず恥ずかしそうに頬を染めたの顔が覗いて、 遅れて目に鮮やかな紅色の小袖姿が現れた。 思った以上にきちんと着こなしているに、政宗は少し驚くと同時に、不思議な満足感を得ていた。 「「馬子にも衣装だな。」」 発した言葉が何故かと重なって、政宗は思わず小さく噴き出した。 「くっくっ・・・!よく俺の言いたいことが分かったな!」 「こういうときの定番の台詞ですから?」 は唇を尖らせると、今度はためらいなく部屋から出てきて、ぴしゃんと障子を閉めた。 自分で色々言っておきながらもやはり褒めて欲しかったのだろう。 じゃじゃ馬にも可愛いところがある。 「お前にはなんとなく花模様の小袖が似合うと思ってた。」 小さく笑ってそう言ってやると、の頬がまた少し赤くなった。 「はあ・・・どうも。」 何をするでもなくただ政宗に見つめられて、は所在なさげに廊下に立っている。 本当は紅梅色のものを用意させようかと思っていたが、 はっきりした色のほうがなんとなく彼女に似合うような気がした。 そしてその政宗の見立ては当たっていたのだった。 「ちゃんと大人に見えるぞ。」 「それじゃあまるで今まで私が子どもっぽかったみたいじゃないですか! これでも一応19ですからほとんど大人ですよ!? そりゃ政宗さんに比べたら子どもかもしれないけど・・・!」 「何言ってんだ、俺も19だぞ。」 「―――。」 の動きがピシッと固まった。 どういう意味だその動きは、老けているとでも言いたいのかコラ。 普段人に失礼だなんだと言っておきながら、お前のほうが余程失礼だろ。 「お・・・お・・・同い年?・・・なんかショック・・・!」 「どういう意味でショックなのか細かーく丁寧ーに説明してみやがれ。」 「だって政宗さんってすごく大人っぽくて貫禄があって! 城主さんだしちゃんと自分の考え持ってるからー! え、なんかショックっていうか悔しくなってきたし!」 きーっ!と言って、は庭先の政宗に果敢に挑みかかるが、 リーチが全く足りずに政宗の肩にさえかすりもしない。 しかも着物のせいで動きづらいらしく、政宗の思惑はうまくいっていた。 「バーカ。」 そう言っていつものようにぱしっと額を叩いてやると、は一層悔しそうに政宗を睨みつけた。 けれど唐突に踵を返すと、部屋に大股でユーターンをはじめる。 かと思えばすぐに部屋から出てきて、足元に何か置くと縁側に座り込んだ。 どうやら草履を持って来たらしい。 着物だろうとなんだろうと外に出るつもりだ。 「もうちょっとしとやかに歩けよ。」 「私は未来人だからいいんですー!」 「変な理屈だな・・・。」 しかしそれでこそだとも、政宗は思っていた。 着物を着せられたからといって素直に大人しくしているような女ではない。 そういうところを政宗は気に入っているのだ。 たっと庭先に降り立つと、は遠慮なく袖を捲り上げて気合いを入れている。 「よーし、今日こそはあれを作るぞー!」 「What?」 「It's secret.」 「俺様に隠し事とはいい度胸してるなあ、。」 「!」 ふいにの頬がかっと赤くなった。 寒さや熱や怒りで赤らんだ顔をみたことはあるが、ここまで頬を蒸気させるのは初めて見た。 不思議に思って、黙っての次の発言を待っていると、細い指がそっと政宗の袖を掴んできた。 そして心底嬉しそうには微笑む。 「初めて名前で呼んでくれた!」 えへへっと声を出して笑うと、はくるりと政宗に背を向けて座り込んだ。 なんでもなかったかのようにいそいそと雪玉を作り始めたものの、 後ろからでも未だ彼女の耳が赤いのが見て取れて。 それを目にすると、いつの間にか彼女の頭に手が伸びて、ぐしゃぐしゃっと撫でていた。 「・・・バーカ。」 何の気なしに発した言葉なのに、予想外にそれは優しい色を含んでいて、 政宗は自分で自分に驚いたのだった。 |
10話目にしてはじめて名前呼ばれるようなサイトですいません。(土下座)
冒頭でヒロインはブラジャー剥ぎ取られました。パンツは死守。破廉恥!
なので部屋から出てくるとき恥ずかしそうにしてたのはこれも1つの理由だったり。
はい、それを本文に書かないとダメです、ね・・・。
あと紅色は「くれない」色です。