「なんつーか、お前が全く使えねえことだけはよく分かった。」
「も、申し訳ございません・・・。」
いつものように目の前で偉そうに胡坐をかいている政宗に向かって、は平謝りするしかなかった。
政宗は呆れ顔で、ため息をついて頭を押さえた。
「豊臣んとこの山内一豊とかいうのが嫁が用意した金で馬買ったとか、
 やたら内輪の事情知ってるかと思えば、応仁の乱のことなんぞ俺のほうが余程詳しいしな。
 関ヶ原だの賤ヶ岳だの戦のある場所だけ言われたって、
 どいつとどいつがいつどういう風に戦ったのか分からなきゃ意味ねえし。」
「だってその部分だけ『功名が辻』で見たんですもん・・・。」
「What?」
「なんでもないです・・・。」
未来から来た―すなわち歴史を知っているから城に置いて貰えているはずが、
の歴史の知識はあまりにも少なかった。
大学入試の頃は事細かに覚えていたのだが、それ以降綺麗さっぱり忘れてしまったのだ。
風邪も完治しているし、城に置いて貰える理由がいよいよなくなった気がする。
申し訳なさそうに俯いているに、政宗はぽつりと呟いた。
「・・・まあ、聞いたところでどうするつもりもなかったんだがな。」
「え?」
政宗の意外な発言にはぱっと顔を上げた。
障子がカタカタと小さく揺れている。
今日は風が強く、外は少し吹雪いていた。
「お前から得た情報を元に動いたって、んなのfairじゃねえからな。
 それに豊臣が天下をとるってお前は言ってたが、そうはさせるつもりはねえ。
 お前の知ってる歴史なんて関係ない。
 天下をとるのは、この奥州筆頭伊達政宗だ。」
「・・・・・。」
は正座をやめると足を崩した。
まだ長時間正座をするのには慣れない。
それから床に手を着いて、少し政宗に身体を近づける。
――政宗さんはどうして天下をとりたいんですか?」
素朴な疑問だった。
戦国といえば下克上、天下とり・・・でもその理由は何なのか。
純粋に不思議そうにしているを一瞥すると、政宗は小さく揺れる障子へと目線を移した。
「お前だってこの世の中が荒れてるのくらいは分かってるんだろう。」
「それくらいは。」
「それじゃ、世が荒れて一番被害を被るのは誰だか分かるか?」
「・・・普通の町の人とか、お百姓さんとか?」
「That's right. 武家でも公家でもなく平民だ。
 俺やお前が米を食えるのも、こうして吹雪を避けて生活出来るのも、皆そういうやつらのおかげだろ。
 それなら、やつらが安心して暮らせるようにするのが俺の役目だ。
 とっととこのバカ騒ぎを終わらせねえと、苦しむ奴は増える一方になる。」
そう言うと政宗はへと視線を戻した。
その眼光があまりにも強く鋭くて、は息を呑んだ。
まだと同じくらい若そうなのに見据えているもののスケールが違いすぎて、
劣等感を感じるというレベルにまで達せず、ただ感心してしまう。
「なんていうか・・・政宗さんは偉いですね。」
「偉いとかそういうんじゃねえよ。
 それに好きに暴れられるのはいい。」
「何それ!」
思わずは声を出して笑った。
自分など手も届かないような大人な顔を見せた直後に、
ただのチンピラのような台詞を吐いて、そのギャップが可笑しい。
「何笑ってんだこのバカ。」
「わわっ!」
いつかと同じようにぱしっと額を叩かれてはたじろぐ。
この男は叩き癖でもあるのだろうか。
はむっとしながらも、憮然としている政宗を見つめた。
目の前にいるこの男が、この広い土地を治め、天下までとろうとしている。
その肩にかかるものはどれほど重いのか。
「・・・政宗さん。」
「Ah?」
なんだ?と続ける政宗の頭上に、はいつの間にか手を伸ばして、彼の頭を撫でていた。
「いい子いい子。」
―――っ!?」
ばっとから身体を離した政宗は慌てた様子で、不思議なものでも見るような視線を送ってくる。
初めて見る表情だった。
政宗が一層子どもっぽく見えて、はまた笑う。
「お前何しやがる!?」
「何って、若いのに頑張ってる政宗さんにいい子いい子を。」
「そりゃ若いを通り越してガキにすることだろうが!」
「でもこの時代って成人・・・元服するのが早いですよね。
 こうやって頭撫でて貰える時間って短かったんじゃないですか?」
「・・・・・。」
の問いに政宗は答えず、どこか無表情に静止している。
それを肯定ととっては少し切なくなる。
生まれる時代が異なるだけでこうも環境が違うなんて。
「・・・政宗さんなら天下とれますよ、絶対。
 歴史なんてねじ曲げちゃえ!」
「お前に言われなくたってそうするつもりだ。」
「うん、そうですね。」
不機嫌そうな政宗へはただ優しく微笑む。

――頑張れ、政宗さん。」

そう言うの笑顔があまりにも穏やかで、それを見た政宗は小さく息をつく。
邪気がない人間というのはこういう人間のことを言うのだろう。
変な奴だと言いかけたが、今日のところはそれを飲み込んでおく。
代わりに小さく、けれどはっきりと返事をした。

「おう。」







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この時点でヒロインは政宗と自分が同い年なのを知りません。
あと7話の一件でヒロインに歴史の知識を期待するのを実は微妙に諦めていた政宗様。(酷いな
過去をねじまげると現在にもその影響がーとか難しいことは考えちゃダメです。
そして頑張る政宗様をいーこいーこしたいのは私だ。