風邪をひいて寝込んでいるときから、は思っていた。 政宗は毎日毎日自分のところへやって来るが、暇なんだろうか。 いや、ときどき小十郎がやって来て政宗を引っ張っていくから、全く暇なわけではないのだろう。 そもそもは、この敷地内で政宗がどういうポジションにいるかさえ分かっていなかった。 「で、これが未来の日本のお金です。こっちが硬貨で、こっちが紙幣。」 は畳の上に財布の中身を全て出すと、向かいに座っている政宗へと語りかけた。 出された硬貨や紙幣を政宗は興味深そうに見ている。 「それぞれどれくらいの価値があるんだ?」 「か、価値?でもこの時代と単位も物価も違うし・・・。」 「そうだな・・・これで米一俵が買えるか?」 そもそも一俵が何キロなんだという疑問にぶち当たるのだが、 尋ねたところでこの時代にキロという単位があるはずもなく。 「それは分かりませんけど・・・そうだなあ・・・。 私の場合はこれだけあれば半月は確実に食べていけます。」 丁度お金をおろした日だったので財布の中身は一万円と数千円。 「これで半月・・・な。」 目の前の『未来のお金』を、政宗はしげしげと眺める。 その姿をはなんとなく微笑ましく思うのだった。 ・・・戦国時代に来てからそろそろ1週間が過ぎた。 政宗は約束どおり毎日少しずつの持ち物を持ってきては説明させ、 それが終わると順番にの手元に返してくれる。 ときどき小十郎も一緒にの話を聞いていくが、 説明をするたびに不思議そうに興味深そうにする大男2人はちょっと可愛い。 「それじゃ、これも返す。」 「ありがとうございます!」 「・・・・・。」 にこっと嬉しそうに笑って財布にお金を仕舞うを、政宗はまじまじと見ていた。 その視線は、の見せる未来の品物を見るときのそれと少し似ている。 それにふと気がついて、は顔を上げた。 「何ですか?」 「いや、変な奴だなと思って。」 「うわー失礼なこと言うなあこの人・・・!」 「この俺に対してそういう発言をするお前のほうが余程失礼だぞ。」 「そう!それなんですよ!」 はバンと畳に手をついて、政宗を正面からじっと見据えた。 「政宗さんっていったい何者ですか!?」 「だから伊達政宗だっつーんだろうが。」 そうじゃなくて!ともどかしそうに手をぱたぱたと動かすに、政宗は目尻を下げる。 出会ってまだ半月も経たないというのに、彼のそういう細かな表情の変化に、 はときどき気がつくことが出来るようになっていた。 「いや、何家に仕えてるとか地位がどうとかって話ですよ!」 すると政宗の顔がふと真面目な表情を浮かべた。 その急激な変化には少し焦る。 「・・・Are you sure you want to say that?」(本気で言ってるのか?) 「I'm serious! マジですよ!」 がそう言った途端、政宗は呆れたようにため息をついた。 片手で自分の髪をぐしゃっとかきまぜながら、に目線をやる。 「お前未来から来たってのやっぱり嘘か?」 「こっ、この期に及んで疑いますか!」 「まだ一から十まで信じきったわけじゃねえ。 ・・・ちょっと待ってろよ。」 政宗はすっと立ち上がると部屋から出たが、たまたま通りがかった女中らしき人に、 何か小さく声をかけてからすぐに戻ってきた。 そして再びどすっとの前に腰掛けると、いきなりの顎をくっと掴んだ。 上を向かされて、政宗の独眼を間近で見ることになった。 途端にの頬が朱に染まる。 それににっと笑ってから、政宗ははっきりと言った。 「最初に言っただろう、俺は奥州筆頭伊達政宗だと。 そして俺は誰にも頭を下げねえ。」 「おうしゅうひっとう・・・ひっ、とう・・・。」 「この米沢城は、伊達政宗のもんだ。 だがこの城に俺は留まらねえぞ、天下をとるからな。 お前の知ってる歴史なんざ知ったこっちゃねえ。」 「――――。」 自分、歴史の知識がなさすぎだ。 つまり目の前の男は何家に仕えているとかそういうレベルではなく、 織田信長や武田信玄や、そういう有名人と同じレベルにある人間だということで。 『でも学校じゃ伊達政宗なんてほとんど勉強してないし!』と内心言い訳しつつも、 自分の無知さ加減が恥ずかしくて、ただ口をぱくぱくとさせる。 その間に女中がやってきて、政宗と少しの会話を交わすと、大きな巻物のようなものを置いていった。 の顎を持っていた手を離すと、政宗はその巻物を床に広げた。 目の前に現れたのはの知っているものとは少し違ったが、確かに日本地図だ。 そしてそれを見て更には度肝を抜かれた。 「あ・・・あの・・・奥州筆頭ってことは・・・・。」 「ここ一帯が俺の治める土地だ。」 風邪はもう完璧に治っているのに、はくらりとした。 東北地方の東側に大きく広がるエリアに書かれた『奥州』という文字。 そうか、奥州ってこんなに広かったのか。 そして城主の前でゲロ吐いたり城主にご飯を運ばせたりしてたよ自分。 ――今更だが、なんだかどえらいところに来てしまったようだ。 |
ヒロインは今までずっと政宗のことを山内一豊レベルのすごい人だと思ってました。
ていうかバサラやるまで私がそう思ってました。(すいません
こう、有名ですごい人なのは分かってるんだけど、天下取りに自ら名をあげてるんじゃなく、
一豊が織田や豊臣に仕えてたのと同じ感じ?と。
この微妙な感じを分かっていただけるかなあ・・・。(^ ^;)
まあ史実だと政宗も豊臣に下っているようですが。
あと食費の話ですが、私は自宅生なので独り暮らしをしてる友人に聞きました。
彼女の一月の食費は1万5千円だそうです。
そして米1俵=60キロ、現代は米10キロ3千円程度のようです。