くらくらする頭で必死に考えた。 現代に戻れる戻れない云々の前に、まず身の安全を確保しなければならない。 何といっても時は戦国時代、下克上の世の中。 自分のような怪しい女には容赦なく刀が向けられるご時世。 入試終了後に日本史の知識を脳からほとんど消去したことを、は今心から後悔していた。 伊達政宗という名前こそ知って入るものの、どんな人間なのかまでは知らない。 昔「伊達」を「いたち」と読み間違えるCMがあったことぐらいは覚えているが。 英語を使うなんて情報は勿論聞いたこともない。 「あ、の・・・今度こそ正確に、私がどこから来たか述べられそうなんですけど・・・。」 「言ってみろよ。」 「信じてもらえるかどうか・・・。」 チラチラとの視線が政宗と小十郎の間を行ったり来たりする。 どこのどいつがこんな話を信じるというのか。 それでも彼らに嘘をついたところでなんのメリットもない。 むしろ嘘なんてつけば、バレたときに刀の錆になる危険性さえある。 「あ・・・I came from the future.」 「・・・・・。」 「・・・?」 案の定というか、政宗は呆れたような表情を浮かべた。 小十郎はというと、どうも異国語が通じないらしく、ただ黙って政宗の様子を見ている。 それに気付いた政宗が小十郎に言う。 「こいつな、未来から来たんだってよ。」 「・・・もう1度風呂に頭を浸けてきたほうが良いのでは?」 「俺もそう思う。」 「いやいやいやいや!」 どこまで言えば信じてもらえるのかさっぱり見当がつかないが、 このままではの人生が19年で終わる可能性が出てくる。 やはりくらくらする頭で必死にどうすれば良いか考える。 とりあえず出来る限りのことはしよう。 「えーと、今戦国時代だから・・・400年ちょっと先の未来の人間なんです、私。 伊達政宗さんのことは、学校で勉強して知ってます。 伊達政宗さんだけじゃなくて、えーと、織田信長でしょ、豊臣秀吉でしょ、 それからえーと・・・武田信玄とか、徳川家康とか、上杉謙信とか!」 政宗は思った以上に真剣に話を聞いているようで、鋭い視線がに注がれる。 それに追い立てられるようには喋り続ける。 「小田原の北条氏も覚えてる! えーと大河ドラマ・・・毛利元就とか明智光秀とか・・・あ、あ、浅井長・・なが・・・?」 「浅井長政?」 「そう!そうです!この時代よりもっと先のことも知ってます!」 「――何?」 政宗と小十郎が同時に顔を上げた。 2人に挟まれた位置に座っているは、両側から来る真剣な視線にビクッとする。 「それじゃあ、お前は誰が天下統一するかも知っているのか?」 「勿論知っ・・・て・・・・・。」 の頬が引き攣った。 知っているが、まず間違いなく伊達政宗ではない。 しかし正直に言えば機嫌を損ねるのではないか。 その先に待っているのは、あの刀ではないのか。 「言え。」 「あ・・・でも・・・・・!」 独眼がこちらを睨んでいる。 正直、ただ怖い。 けれど、さっきも感じたがこの男に嘘をついてもきっと見抜かれる。 「お、織田信長が・・・天下統一を目前にして、本能寺で倒れて・・・。 豊臣秀吉が天下統一を果たすけど・・・徳川家康が豊臣政権を倒して、 それから長いこと江戸幕府っていうのが、続き・・・ます・・・。」 最後のあたりは囁くような声になっていた。 そして言い切るなり、は強く目を瞑った。 勝手に手が震えている。 この震えは寒さのせいか、恐怖のせいか。 「それが真実だとして、何故お前は正直に話した? 天下を取ったのは伊達政宗だといえば、俺の機嫌がとれると思わなかったのか?」 目を瞑ったままだが、あの低い声がさっきより側で聞こえる。 身体が大きくぶるっと震えた。 「嘘を言っても・・・きっと、伊達政宗さんには、嘘って分かってしまうと・・・思ったから、です。」 「――Ha!よく分かってるじゃねえか、お前。」 その声と共に、ふいに頭の上にぽんと手が置かれた。 温かい手がそのまま頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてくるので、は驚いて目を見開く。 見上げた先には、落ち着いた笑みを浮かべた独眼の男がいた。 「ビビらせて悪かったな。 こっちもお前っていう人間がどんなやつか見極めない限り、生かすも殺すもできないんだよ。」 殺すという言葉にの瞳に恐怖が過ぎったが、それを政宗は敏感に感じ取り、 さっきよりは少し優しくその頭を撫でた。 「俺はお前の話をほんの少しだが信じる。 身のこなしや体つき、あと肝の据わり方からも、密偵じゃないと確信した。 それでも『バカ』ではないみたいだからな、お前が少し気に入ったぜ。 刀見て本気で脅えてる丸腰の女に乱暴したりしねえよ。」 「え・・・。」 どっと身体の力が抜けていくのが分かって、はぺたんと床に手を着いた。 相変わらず頭はくらくらする。 この眩暈はもしかして・・・。 「おい小十郎、客用の庵を用意しろ。とりあえずそこにこいつを住まわせる。」 「しかし政宗様!」 「熱出してふらふらしてる女見てどうとも思わねえのか? それにもしこいつの言ったことが本当なら、簡単には手放せねえぞ。 分かるよなあ、小十郎?」 「・・・本当に歴史を知っているのであれば、他国に渡すわけにはいきませんな。」 「That's right! 分かってるんならとっとと部屋の用意をしろ。」 「承知しました。」 2人の声が、薄い膜越しに聞こえるようだった。 頭が朦朧としている。 それでも自分の身の安全がとりあえずは確保されたことが分かった。 本格的に眩暈がしたが、はそっと手を伸ばして、目の前の男の着物の裾を掴んだ。 「あ・・・の・・・・・。」 「何だ?」 屈みこんで顔を覗いてきた隻眼の男に向かって、は精一杯の笑顔を浮かべた。 「ありがとう・・・ございます・・・・・。」 ――それだけ言うと、の意識は一端途絶えた。 だからは知らない。 そのときの政宗がどんな表情をしていたかを。 |
個人的に、政宗がヒロインを城に置くと決める理由は、本文中にも書いていますが、
もし本当に未来のことを知っているのであれば他国にうかつに渡せないからだと思ってます。
夢小説なのに味気ない理由ですんません・・・。
せめてものフォローに政宗様に「お前が少し気に入ったぜ。」とか言わせてみたんですが、
ここでそれ言ってたら意味ないッスね(バカがここにいます