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・PSP版迷宮は未プレイ
・去年にも似たようなタイトルで話を書いてますが、そっちを読まなくても読めます
・タイトルに反して酔っ払い度は低いです、推理物でもないです
・恋愛を意図して書いてるのは九弁と将←望←譲 のみのつもり


  1

「はーいそれじゃあ オ レ の 神子姫さまたちに乾杯」
 ヒノエが真ん中を陣取って手にしていたグラスを掲げると、
「なにがオレの、だよ。先輩はお前の事なんか気にかけてもいないじゃないか」
「ヒノエ殿、そろそろ諦めたらどうかしら?」
「どこが? むしろこれくらいの方が燃えるね」
 なんて声が飛び交いながらも、神子+八葉+龍神=11名は、めいめいにヒノエ同様かんぱーいと、あるものは明るく、あるものは戸惑いながらグラスをかちっとあわせる。その後、皆で一斉にぐいっと中の液体に口をつけた後、九郎が小さく首をかしげる。
「……なんだか、こんなこと前にもあったような気がするんだが」
「ん、そうなの?」
「九郎、気にすることはない」
「そうですよ、別の時空ですよ、時空!」
「??? 良く分からんが、先生と望美が言うなら、気にすることはないな」
 結局九郎も周りの皆と同じように笑って飲み始めた。

 
 12月31日。時空の彼方の京が今どうなっているかは分からないが、望美たちの世界では大晦日にあたる日。知り合ってまだ一年足らず……なはずの八葉たちだけれど、今年も一年ご苦労様でした、の会をしたいと望美と将臣が言い出したので、クリスマスに引き続き年越しパーティーが行われることになった。
 勿論新年を迎える際には蕎麦だけれど、それは最後のメインイベント、まだ紅白歌合戦も始まらない時間の今は、和食を中心に洋中なんでもありの豪華な料理が居間の机にずらりと並んでいる。
「譲くん、お疲れさま!」
「ありがとうございます、先輩」
 メインで作ったのはもちろん譲だ。彼を朔や景時、弁慶九郎が少しずつ手伝って完成した。特に譲の苦労たるや途方もなく、クリスマス直後から仕込みをはじめたりしていた、との噂で、八葉も神子も誰もが彼に感謝していたけれど、
「譲、嬉しそうだね。私も嬉しいよ」
「……ま、オレの神子姫以外の言葉はどうせ要らないんだろうから、オレたちの礼はいいよな」
「だな」
と、後頭部に手をまわしデレデレに照れている彼には皆触れることなく、折角の料理と酒を楽しむことにした。

 毎日11人も集まっているのだから日頃から有川家は賑やかだったけれど、年越しで、酒が入ればますますだ。いつも以上の喧騒の中、あっさりとグラスを空けてしまった九郎が次の缶に手を伸ばす。
「あ、九郎、それ僕にも」
「弁慶、お前ももう飲んだのか?」
「ええ、こうして皆と酒を飲み交わすのは久しぶりですからね、楽しくて、つい」
 と、ほんの少しはにかみながら弁慶が差し出したグラスに、九郎は持ってた酒を注ぐ、けど、途中でなんとなく、嫌な予感がした。
「……やっぱりこんなことがあった気がする」
「そうですか? はい九郎、君にも」
 でも結局分からないままなので、流されるように弁慶に酒をついで貰ってしまった。
「今年も一年、お疲れさまでした」
「お疲れ」
 この世界の酒はおいしい。九郎も弁慶も、ぐい、と一気に飲み干してしまった。
「次は何にしようか」
 種類もあって楽しい。だけど、九郎がきょろきょろと物色しているところで景時が慌てふためいて割入ってきた。
「待って、待ってよ!」
「どうした景時」
「いや〜、言いにくいんだけど、弁慶って、お酒あんまり飲めない方じゃなかったっけ?」
「そうでしたか? 普段、軍師として酒は控えていて本当に久しぶりなので、僕もよく覚えてなくて」
「うん、弱いよ、弱いんだよ、ね、九郎?」
「でも俺はこいつがつぶれたのを見た記憶はないぞ」
「……あれ、九郎いなかったんだっけ?」
 だけど景時ははっきりと覚えていた。いつだったか、源氏の御家人たちで飲んだ時に弁慶は結構、いやかなり、相当酷く酔って散々だったのを、はっきり覚えている。何故なら景時が文字通り全力で止める羽目になったからだ。そういえば、九郎はいなかった気がする。そもそも九郎がいたんだったら、さすがに九郎がどうにかしたのではないかと思う……確証はないけど。
「とにかく、うん……あんまり飲まない方がいいと思うよ」
 さっきの九郎じゃないけど、なんかすごく最近にもそんなことがあったような気がしている景時は、必死で止めた。なのにそれを踏みにじるかのように、どん、と、彼らのすぐ横に一升瓶が置かれる。
「よっ、酒が進んでなさそうじゃねえか九郎」
 将臣だった。
「どうした?」
「いや、向こうで何回かお前たちと飲んだけどさ、弁慶はあんまり飲んでなかったな、って思ってな。だから今日くらい付き合ってもらおうか」
 その顔はにやりと悪だくみな顔。これは……どうみても、どちらかがつぶれるまで飲む気だと見た。京でもそんな事が何度かあった。ただその時は……弁慶は加わってなかったので九郎と景時と三人だったけど、三人して弱い方ではなかったので、結局決着がつく前に朝がきてしまい朔に怒られて譲に迷惑をかけただけという終幕だったけど……、
弁慶に目をつけるとはさすが将臣だな、と、景時は変なところで感心した。
 とはいえ。
「弁慶、受けるだろ?」
「いや、やめとこうよ、今日はほら忘年会だし、年越し蕎麦だっけ?も食べるんでしょ? だから」
 景時は止めた。けど止めたけど無駄だった。遅かった。どうしようもなく遅すぎた。弁慶の目は既にぎらり、と将臣を見上げていたからだ。いうなれば、臨戦態勢。
「……勝負、と言われると負けるわけにはいきませんね」
「弁慶、だけどお前」
「九郎、お前は今日はひっこんでてもらおうか」
「そうですよ九郎、今日は僕に任せてください」
 意気揚々と、呑みかけだったビールを飲み干して酒を催促する弁慶。その姿は普段なら頼もしいことこの上ない。だけど。
「いいじゃねえか」
 将臣がにたりと笑う。ああ、やっぱりこの勝負弁慶は負ける。
 だって将臣は見切ってる。弁慶は既に酔っていると。勝負を受けているのがその証拠なんだ。
 景時の背を嫌な汗がつたう。嫌な予感しかしなかった。
「どうなっても、知らないからね〜」
 とはいえもう聞く二人じゃないし、九郎までいるし。諦めの溜息だけ残して、景時はその場を去った。

 もちろんその予感はあっさりと的中することになる。




  2

 寒い。震える体を抱きしめて、弁慶は意識をとりもどした。
 ぱちり、と目をあけるとそこはまず闇の中だった。聞きなれた仲間たちの声が聞こえるような気がする、けれど遠い、すごく遠い。
「ここは……?」
 一体何があったのだ? 呟いたら、寒さと同時に、殴られたような痛みが頭を襲った。凄く痛い、それに心なしか首が痛い。寝違えたというか、頭に衝撃を受けたというか、そんな痛み。ついでにものすごく気持ちが悪い。
 けれど寝転んでいても状況は好転しないだろう。口元を手で覆いつつ、ゆっくりと起き上がった。すると、闇の中から、
「おはよ〜弁慶」
 と、本当に唐突に声がした。かろうじて驚かなかったのは、その声があまりにも間の抜けたものだったからと、過敏になるほど頭が動いてなかったからだ。
「景時?」
「うん、オレオレ〜」
 声音もだけれど、へらへら〜と言う口調はまさに彼のものだった。が、いつも以上に気力に欠けている、のは多分、この状況となにか関係あるのだろう。
「一体、なにがどうしたんですか?」
「やっぱりそれ聞くよね〜、でもどこから説明すればいいのか……ううっ、寒っ」
 ははは、と心底困った風に景時は言う。表情は見えないがなんとなく想像ついた。
「えっと、弁慶はどこまで覚えてる?」
「どこまでもなにも」
 問い返されて、弁慶は記憶を辿った。
 たしか、今日は晦、今年の締めに酒宴を開こう、という望美たちの発案で、忘年会、を開いて、
料理がおいしくて、酒もおいしくて、九郎と乾杯をして、将臣がやってきて、
「……飲み比べをした?」
「そこまで?」
「……ええ、そうですね。将臣くんがついでくれた日本酒をぐいっと飲んだところまでしか」
「だよねえ……」
 はあ、と一際大きく溜息をついた景時。見えぬ展開に、視界に、弁慶は眉間にしわを寄せる。一層頭が痛くなった。と、その時、別の誰かのうめき声が、ちょうど景時がいる、と思われる(暗くてよく見えない)あたりの近くから聞こえてきた。
「…………さっむ」
「ヒノエ?」
「うん、ヒノエくん。おはよー」
 それに呼ばれたのか、また別の人物の声もする。
「いってえ……なんだこれ、つうか、あれ?」
「将臣くんも起きたのかな?」
 そこで景時が立ちあがった気配がし、カチ、とスイッチを押す音がしたと思ったら、電気がついた。眩しくて景時含めて4人で目を覆う。次第に慣れたあたりであたりを見まわすと、そこは有川家の、居間からは廊下を挟んで反対にある、奥の畳張りの部屋だった。八葉たちはほとんど踏み入れたことがない。将臣たちもほとんど入らない、と言っていたが。
「なんでこんなところに」
「それ以前に寒いよ。それになんでこの面子なわけ?」
「それは、まあ」
「追い出された、ですか?」
「うん、ご名答〜」
「……」
 この状況に、その一言。それだけで今まで眠っていた三人も即座に状況を把握した。
 つまり、たぶん、飲み会の席でろくでもないことをやって、追い出されたのだ。
「マジで? そんな間抜けなことこのオレがやったっての?」
「しかも、こんなところに追い出されるなんて……僕たちは一体何をしたんでしょう」
「おいおい、人んちに対してこんなとこってなあ……ま、家の中なだけマシなんじゃねえの?」
 それでもありえない、と納得できない顔の三人だ。特に将臣は立ち上がり、部屋と廊下を隔てる襖に手をかけた。
「……無理だと思うよ」
 景時は止めた。それでも振り返ることなく将臣は部屋を出、居間の方へと歩いていった。

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サソ