・どっかのED(固定はしてない)の後、九弁が現代鎌倉で暮らしているの前提
[ 8/22 04:40 ] まずい、そろそろ限界かもしれない。 九郎の意識はかなり朦朧としていた。すがるように外を見続けた。 すると、次第に、微かに、本当に微かに、ではあるものの、鳥のさえずりが聞こえ始めたような気がした。 幻聴かもしれない。店内は音楽が流れ続けているし、少ない客が話をする声だって、こんな時間だというのにも関わらずそれなりだ。 それでも九郎の耳には確かに聞こえた。聞こえたんだ。 そして目の前でうっすらと、空の闇色が薄れてゆく。本当に微かだ、どこかで、大きな照明がつけられたせいかもしれない、そうかもしれないが、ずっと見つめていると、本当にゆっくりと、色彩がぼんやりと滲んでゆく。雲が浮かんでくる。 「……やった…………」 九郎は呟いた。その顔は歓喜に満ちていた。 「やった、やったぞ弁慶!!」 そして拳をあげる。視線を感じたが九郎は気にしなかった。 「俺たちの勝利だ!」 弁慶の返事はなかった。それでも高揚しきった九郎は、二度、三度、と一人歓声を……一応抑え目にながら上げずにはいられない。 「耐え抜いたんだ…………」 最後に立ち上がり、ひときわ高く拳を掲げた。大きな窓ガラスには、実に満足げな、やりとげた男の姿が映っていた。そうしている間にもその向こうで夜が消えてゆく。 ああ、よかった、と、心の底から安堵して、九郎はどかりと、腰を降ろすと、ぱったりと、まるで電池でも切れたかのように、机の上に突っ伏して、動かなくなった。 |
[ 8/21 22:05 ] 九郎と弁慶は来た道を辿る。 行きはあんなにも人で溢れかえっていたというのに、既に閑散としていた、とはいえ、賑やかさは十分に残っている。二人も含め、誰もが皆どこか浮かれている。不思議な雰囲気の街だった。 「ここに住んでいる人は、元々は多くないのかもしれないな」 「そうかもしれないですね。温泉が有名、と将臣くんたちも言っていましたから、向こうで言う湯治場のようなものなのかも」 弁慶がそう指摘して、九郎はますますなるほどな、と納得して、二人は行きとは打って変わった街並みを、それなりに楽しみながら、駅へと向かって行った。 けれど、 こっちの世界へやってきてまだ一年足らずの二人は、知る由もない。鎌倉のような大きな街とは違い、都心から離れたどこか浮世離れした観光地の駅、しかも、隣県の端である鎌倉まで向かう電車、といったら、 そんなに遅くまで動いていないという事を。 「……」 「……あれ?」 30分以上かけて二人が駅についた時、なにか、得体のしれない不安のようなものを覚えた。 人はいた、けれど、思っていたよりもずっと少なかったのだ。 並んで時刻表を見上げると、 「……もしかして」 「どうした?」 「いえ、鎌倉まで行ける電車は、もうないみたいです」 軽くショックを受けながら、弁慶は事実を述べた。 九郎もはた、と思いだす。 「!! だから、将臣はあまりのんびりしないでとっとと帰ってこい、と言ったのか!」 「こういう事だったんですね……。ああ、僕としたことが迂闊でした」 ふう、と困った風に弁慶は息を吐き、看板から離れる。が、九郎はどこ吹く風だ。 「まあ、仕方ないだろう」 「九郎、なにか案があるんですか?」 弁慶が問うと、九郎は当たり前のように頷いた。 「ここは伊豆だろう? だったら、歩いていけばどうにかなるんじゃないか?」 「……ああ、確かに」 言葉に弁慶の顔も明るく晴れる。 「そうですね、忘れていました。ふふっ、昔、伊豆から鎌倉など、僕たちは普通に歩いていたんでした」 「多分、海沿いを歩いていけば平気だろう。それでいいか?」 「ええ、構いませんよ……それもまた、楽しそうですね。君とゆっくり歩くのも」 九郎としたら、本当は早く帰って家でゆっくり話でもしたかったのだが、でも、これはこれで、楽しそうだ、と、思った。 「では、とりあえず海に向かいましょう」 「ああ」 |
[ 8/21 23:30 ] 「……」 「………………」 駅を出てから小一時間。二人はどことも分からぬ場所で途方に暮れていた。 「迷った」 「迷いました」 時空を超えやってきた神子たちの世界をなめていた、と言わざるを得なかった。 鎌倉の街には、九郎や弁慶が知っている仏閣もあったし、若宮大路もそのままだった、案外変わらないものだな、と、望美たちも向こうでよく言っていた。 今ここへ来た時も、富士や箱根の山々など、電車の車窓から見た景色は既視感を覚えるものが多かった。だから平気だと、高をくくっていたというのに。 実際、とんでもなかった。海沿いをひたすら歩けばどうにでもなると思っていたが、頼みの道は、あの後すぐ、漁港につきささって途切れてしまった。それでも地形が同じだからどうにでもなると思っていたが、甘かった。むしろ、半端に知る景色+記憶と違う道、という組み合わせが、二人を過剰に混乱させる。 そしていよいよ、二人は途方に暮れてしまった。 「困りました。おそらくあの青い看板が、東京、と差す方へ行けばいいんでしょうけど、なんというか、酔ってきました。外の見えない牛車にでも押し込められた気分です」 「……正直、思ったより手間取りそうだな。まだたった一時間で弱音を吐くのは情けないが」 弁慶は先が見越せないことが不満だった。九郎は状況が好転しそうにないことに焦れて苛立っていた。互いに不服そうな顔を見合わせてしまう。けれど、そうしていても仕方ないだろう。 「……九郎、また少し歩きましょうか」 弁慶は九郎を促した。が、九郎は眉間にしわを寄せたままポケットを探る。何を、と弁慶が問いかける間もなく、携帯電話を取り出して、履歴を辿って電話をかけた。 「九郎?」 相手は直ぐに出た。 「将臣か? 俺だ。ところで今俺」 『お前なあ今何時だと思ってるんだ!!』 怒鳴り声は通話している九郎だけではなく、弁慶にまでしっかりと届いた。 |