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「元戦友の絆」


 結局その後は、否、その後も思ったよりもすんなりと、戦いは終わった。
 もちろん神子と九郎の活躍の末だった。
 景時はといえば、そんな彼らの隣で、いつ頼朝が彼らを殺すように命を下すかと緊張していたものだけど、彼の覚悟とは裏腹に、結局、そういった物騒な命が出ることはなかった。
 壇ノ浦で平家を、清盛を倒し、望美たちが元の世界に帰ったあともそうだった。景時たちは結局還内府を逃がしてしまったので、それを理由にまたひと波乱起こるのではないか、そう思っていたのに、それもまた九郎が……、
そう、九郎が、残党は追わぬと、復讐の連鎖はここで止めると進言し、本当に、すべての戦は終わってしまった。
 頼朝という人をよくよく知っている景時からすれば、それでもまだ予断ならない、と思わざるを得なかったものの、頼朝が言うには、珍しく……本当に珍しく、
「お前の報告では、九郎は随分と無能で運だけで勝利してきたような口ぶりだったが、さて、あれはそういう目ではなかったようだがな」と、九郎の事を、まるで弟のように語った、たったそれきりで、終わり。
 そして一年ほどたった今となっては院との睨みあいもに決着がつき、源氏の天下が訪れるのも時間の問題となっていた。
 
 世の中が変わってゆく。それでも九郎は変わらずに、あのまっすぐなままで、兄への尊敬の念もそのままに、御家人として生きてゆく。その傍らで弁慶が、目的を果たしたと麗らかに笑って、
景時も、多分偶然だったけど、守るべきものを守った。
 
 



 ある日、若宮大路で、九郎と、あと馬を連れた弁慶の姿を見た。
 弁慶は馬に乗り、遠ざかっていった。
 九郎はまっすぐに姿勢をのばしてそれを見ていた。
「九郎、弁慶でかけたの?」
「そのようだ」
「どこまで?」
「さあ、知らない」
 九郎は困った風に肩をすくめて言った。
「いいの?」
「ああ。帰って来ればそれでいいさ」
「そう」
 見送る顔は今日の青空と一緒で晴れやかで、景時の心もつられて澄み渡るようだった。
「オレはどこに行ったか、実は知ってるけどね」
「そうなのか!?」
 途端、九郎は驚いて、そのまま、まるで餌を見た魚かなにかのように景時に食らいつく。
「あれ、知りたいの? 無事に帰ってきてくれればそれでいいんじゃなかったの〜?」
「うっっ確かにそうだが、……だがなんでお前が知っている!?」
「それはね、軍資金、出したしね」
「……なるほど」
九郎はひとしきり悔しそうにしたあと、
「まあいい。仕方ない。それがお前の役目だからな」
と、言ったはいいけどまだ悔しそうにしていて、それが可笑しくて笑った。
 と同時に少しくすぐったい。まさか九郎に妬かれるなんて。しかも、こんな他愛ないことで。
 再び九郎は弁慶の方を見た。長い髪をたなびかせ、白の羽織をはためかせなる彼へと振り向く事なく、駒影は少しずつ遠ざかってゆく。
「振り返って欲しい?」
 聞いてみる。すると、九郎はこちらを仰ぎ見た。
「いいや。そんな暇あるなら、早く帰って来いと思う」
 綺麗な姿勢で、いたく真面目に言う彼に、景時は今度こそ声をあげて笑った。







連作という形になってますが、元々最初の一話だけは、今から一年以上前に書き終えていて、
本当は全く別の源氏組の話(平泉ルート系)を繋げようとしていたんですが、
全くまとまらずに放棄していたところ、ある日ふと今回の話を思いついてしまったので、
ここぞとばかりに、また別の書きたかった事を詰め込んで色々書いてしまいました。
結果、とてもまどろっこしく長い話になってしまったんですが、
そんな中最後までおつきあいくださってありがとうございました!
ちなみにですが、ED後に関しては、そこにこだわるような内容でもないし……
……というか、正直まったく考えてなかったので、無難な形をとっちゃいました。
将臣EDみたいな感じで受け取っていただければいいなと思ってます。
(30/09/2010)


サソ