おかしい。
さっきまでは確かに京にいた。
紅葉は見ごろ、空は青く、鮮やかな秋の京の街に、確かに弁慶はいた。
その美しさに心を綻ばせながら、確かに弁慶は街を歩いていた。
頼んでいた薬の材料を受け取り、手の者から平家の動向を聞き、望美たちと探している怪奇について二三の噂を耳にした後、
きっと夕餉前で腹を空かせているであろう神子たちに栗や柿など、籠一杯の秋の味覚を手土産に、たしかに梶原邸の門をくぐろうとした……ところだったはずだ。
なのに。
気がつくと弁慶は真っ暗な空間にいた。
「ここは?」
言葉を紡ぐ。けれど、それはするりと、まるで水が流れるように闇に消えていってしまう。
感覚もうつろだ、どちらが右で、どちらが左なのかも分からなくなる。
弁慶は見たことがないけれど、それはさながら深淵、本当の闇。
どうしていつの間にこんなところへ迷い込んでしまったのだろう?
呪詛の類だろうか?
けれどそれにしたらあたりの気配が全くなくて、他に誰もいなくて大掛かりだ。
もしくは夢の世界にでも落ち込んでしまったのだろうか?
「誰かいませんか?」
無駄だろうと思いながらも声を出すけれど、やはりすぐに消えてしまうし、返事もない。
弁慶はぎゅっと衣のすそを手繰り寄せて……それでさっき買ったばかりのものが一切無いことにも驚いた。
いつも持ち歩いている薬の類はあるが、薙刀もなくて、なんだか心細いように思える。
けれど、ここにいても仕方ないだろう、まずはどうなっているのか探らねばならない。
方向は分からぬもとりあえず前へ歩きだした。
そのうち、唐突に目の前に文字が浮かんだ。
目の前は尚も闇、左右どころか、上も下もだんだんと虚ろになってきた。
それでも、どういうことか弁慶にはその文字がはっきりと見えた。
『これはエイプリルフール特別企画のちょっとしたミニゲームです』
『5クリック前後で終わる程度でなってます』
『トリックとかミステリー要素はないです、流し読み推奨です』
「くりっく…? えいぷりるふーる?」
意味の分からぬ言葉が並ぶ。何もかもの意味が分からない。
呆然とするしかない弁慶に、なおもその文字は語りかける。
「白龍の力をちょっと借りたので、時空を超えてきてください」
とんでもないことをいきなりい出すそれに、弁慶は今度こそ絶句した。
白龍の力で……時空を超える? 望美たちがそうしてやって来たというように?
全く理解はできなかった。
ただ、げーむというのは確か、遊びだったか勝負だったか、という意味だった記憶がうっすらとあるから、つまり、弁慶は試されているのかもしれない、
もしくは、望美のただの悪戯か?
弁慶はどうしようか迷った末、
A 「では、遊んでみましょうか」と、闇を進むことにした (企画ページへ)
B 「うーん、だけど時間がないので、また今度にしますね」と、誰に向けるでなく微笑んだ (いつものサイトへ)