弁慶を慕ってくれた人たちにそれぞれ笑顔を返ながら、なんとか弁慶はそこを抜けだして、結局、最初に京に飛んできた場所まで戻ってきた。
彼らを振り切るのに必死で、すっかり弁慶の息はあがってしまった。
それはきっと幸せなことなのだろう。
深く深呼吸する。
冬の空気が体内を冷やすのが、今は心地よかった。
不思議な気持ちだった。
さっき会った人たちの中には、今はもう亡くなってしまったひともいた。
怨霊でもなく、そういった人に会うという事は……過去へやってくるというのは、怖い事なのだと、今更ながらに弁慶は知った。
過去に来れば……この先を知っているということは、全てを変えることができるということだ。
もしかしたら、さっき会った、もう今はいない人を救えるかもしれない。
もしかしたら、自分の過去さえも曲げることだってできる……
それだけじゃない。もっとささやかな願いをかなえることだってできるのだ。
そう、たとえば……、
A たとえば、鞍馬へ行ってまだ小さい九郎を膝に乗せて頭を撫でてあげたりとか
B たとえば、熊野へ行ってまだ小さいヒノエをからかって…って、それは実際に昔やりましたね