弁慶は、大きな岩の上に腰をおろして、のんびりと海を眺めはじめた。
こんな風に何をすることなく海を眺める機会などそうはなかったが、実際ひとりでこうしていると、何故か妙に物悲しい気持ちになった。
不思議だった。
彼の家族は違うのかもしれないが、弁慶にとってはこの海も、鎌倉の海も同じに見えた。
この海で遊んだことはない、船を浮かべたりしたこともない。
水軍の動かし方について学んだのも鎌倉へ入ってからだった。
それでも、この身に流れる血が波の音を覚えているというのだろうか?
そこまで考えて、弁慶は首を振る。
感傷的になっても仕方がない。
きっと一人でこんな、理解を超えた旅を辿っているから考えが妙な方向へ向かうのだろう。
かわりに、ここで育ったという二人の八葉を思い出すことにした。
ヒノエと敦盛、彼らが熊野で仲睦まじく過ごしていた姿は、弁慶も何度か目にしていた。
彼らの仲は今なお変わった風に見えなくて、それにいつも弁慶は顔をほころばせてしまうのだ。


とはいえ、二人の遊び方は少し……どころではなく派手だった。

A ヒノエはやりすぎてよく船を転覆させたと、兄から聞いたものですね
B 敦盛くんはいつも巻き込まれたというのだから……僕が彼の兄だったら、もっと早く敦盛くんを京へ連れ帰っていたかもしれない