勝浦の街は他に類を見ないくらいにぎやかだ。
特によその国から船が帰ってきたときは物と人で溢れかえって祭りかと思った程だ。
この世界よりももっとにぎやかなところから飛んできたという望美や譲も、夏の勝浦でそれに出くわした時には、とめどなく賑わう街に大喜びだったし、人ごみにあまり縁がない敦盛や九郎はそれらに負けてぐったりとしていたものだった。
今は至って普通の市でしかないようだけど、それだけだって十分だ。
さて、白龍は何を喜ぶだろう。
あの龍神は甘いものが好きだから、舶来の菓子でも探してみようか。
そんなことを考えながらふらふらとしていると、店先から声が聞こえた。
「珍しい書が入ったよー!」
書、という言葉に弁慶は考えるより先に振り返っていた。
「見せてください」
「ああ」
それは古めかしく、赤い表紙の本だった。
中をぱらぱらとめくる。ぱっと見たところ、日記か物語かなにかに見えた。
中に綴られていたのは、子供の物語。
その子供は、昔、大好きで慕っていた大人がいたという。
けれどその大人は、子供の大事なものを傷つけたという……
ぱたりと本を閉じて、弁慶はにっこりとほほ笑んでそれを返した。
「気に入らなかったか?」
「ええ」


その内容は、とても他人ごととは思えなかった。

A 僕に父親を傷つけられたヒノエの姿が目に浮かんでしまって、とは言えなかった
B いや、他にも心当たりはある……僕も酷いな