弁慶はふらふらと森をさまよう。
こういう時にこの衣は便利だ、簡単に闇に紛れることができる。
まるで一陣の風にでもなった心持で、弁慶があちこちをこっそり歩いていると、その過程でここの九郎に関する様々な噂を耳にすることができた。
それによると、意外な事にどうやら九郎は剣を振るっているのではなく、考え事をしているとのことだった。
九郎殿はわれらの為に策を練ってくれているのだとか、
きっと昔を思い出しているのだとか、
鎌倉にいい人がいるんじゃないか? なんて話まで出ていた。
九郎は皆に慕われている。兵たちが彼の名前を出す度に、弁慶はつい微笑んでしまった。

ところで、たぶんここは過去の、どこかの戦場なのだろう。
ひとつ気になることがあった。
自分の話が出てこないのだ。
九郎の事だってそうだ、そこに弁慶がいてもよさそうなものなのに、一体過去の自分はどこにいるのだろう?
弁慶は目を伏せ、九郎がいるという陣の脇の森の見る。


過去の自分がいないなら、

A その代わりに今の僕がこっそり九郎を見に行ってみようかな
B いや、確かなことは分からないし、あまり過保護にするのもよくないですよね