弁慶はこっそりと景時の後をつけてみることにした。
こうして改めて観察すると、景時は本当に優秀だ。このたった少しの間にも、たくさんの兵たちが彼をしたって話しかけている。
弁慶も兵たちに囲まれることはあったが、自分の場合は軍に関わることか、怪我に関係する事だけだ。
景時がかわしている言葉は、戦に関わることは勿論、雑談や、ささやかな相談にまで及んでいて、どれだけ彼が頼られているのかを目の当たりにしてしまうのだ。

そういえば以前、あれは夏だったか、『どうして景時ばかり人気なんですかね』、と兄に少しぼやいた時には『お前に相談事なんかしたら怖いだろう』と笑われたものだ。
兄に言われれば返す言葉もないが、源氏の軍ではそんな風をしているつもりはなかったのに。
僕もまだまだだな、と彼の後を追いながら弁慶は苦笑いだ。


A そういえば景時のことをあまり知らないな、と、ふと思った
B それより、景時と九郎がいて、自分がいないのはなぜだろう、と不意に思った