持たざる者

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こ...公式ェ...orz

 

吐きださずにはいられませんでした。

上司に呼び出されて向かった先は、CEO兼オーナーの執務室。
マーベリック事件の後、やや時間は空いたが、オーナーに迎えたのは辣腕実業家であるマーク・シュナイダー。
虎徹も彼の名は雑誌などで見かけたことがある。
その人を前にすれば、理知的で鋭利な刃を思わせた。
彼の鋭い眼光は知らないうちに、身を竦ませる。
扉を開けば、そこには見知らぬ顔とバーナビー、そしてオーナーのマーク。
これをと差し出されて読んだ資料には、会社が新しく雇用した新ヒーローとバーナビーは一部昇格。
そして、虎徹は二部に据え置きのまま、内勤を主にという文字。
受け入れざるを得ない。
虎徹はただ、文句も言えずその資料の中身を承諾する。
いいたいことは山程ある。
バーナビーとずっとやってきたのは俺だ、とか。
能力の減退は1分で落ち着いてる、とか。
それでも。
バーナビーを一部へと昇格させる為と思うと言葉は出なかった。
虎徹と同じようにバーナビーも何か言いたげだった。
自惚れてもいいなら、俺じゃないと組むのは嫌だ、と言いたいんだと思いたい。
でも。
俺には、お前にしてやれることがあるなら全てやってやりたい。
暗い過去ばかりだったお前に、明るい世界をもっと見せてやりたいんだ。
「わかりました。」
一言だけ告げて、虎徹は部屋を出て行く。
身を引きさえすれば、バーナビーは荷物である虎徹から離れて。
尊大に執務室のソファに座る、見知らぬ青年と一部の光の中へと戻れるじゃあないか。

辛い現実は会社の中だけでいい。
呼び出されないことをいいことに、ブロンズステージの馴染みのバーに入る。
ここの酒は安酒ばかりで柄の悪い連中も多いが、暗い雰囲気が居心地がいい。
ケンカが始まっても誰も止めないような、しみったれた場所だ。
カウンターを陣取り、目配せでウィスキーを頼む。
隣は虎徹より背の高い、鮮やかなピンク色。
「会社のオーナー様が来るようなとこじゃねぇだろ。」
差し出されたコップを傾けて、琥珀色の液体で喉を焼く。
「やぁね、そんなはすっぱな言い方。」
仕草も着ている服も上物だから、この場には違和感しかない。
「アンタらしくないから、おやめなさい。」
姉のように、優しく諭す彼女はやはり美しい。
「...ふん。」
決して視線を合わせようとはしない。
誰が合わせるものか、と頑なに拒む。
隣の気配はそれでも柔らかい。
「しかたのない子。」
それだけを残して、彼女はヒールを鳴らして消える。
どうせ、バーナビーの一部昇格をギリギリまで知らなかったのは虎徹だけ。
トップマグのヒーロー事業部がなくなり、七大企業がヒーローを独占することを知らなかったときのように。
「みぃんな、俺を置いていくんだ。」
誰もいない先に、虎徹は語る。
グラスを磨くマスターでさえ耳を傾けることはない。
「態度はちょいと問題だが。」
執務室で僅かに目を合わせただけの青年。
「若くて経験もあって。」
虎徹にはないものを持った、そんなヒーローだった。
「俺みたいに、減退もしてねぇんだ。」
虚空に向かって笑ってみせる。
ずっと、ずっと、虎徹より相応しい。
彼ら二人は最強のコンビになる。
この街を、守っていってくれる。
「俺は...お払い箱だなぁ...。」
残り少ない能力で、一体何を守ると誓った?
愛娘との約束も忘れそうになって、自嘲する。
「ごちそうさま。」
なけなしの酒の代金を置いて、虎徹はトボトボと歩きだす。
押し開けた扉の先は、寂しい夜の色。
明かりがどんなに光を掲げても、真なる闇は照らせない。

誰もいない寂しい部屋。
帰るなり、バスルームへと向かった。
今日だけは少し贅沢しよう。
バスタブに湯を張って、ゆっくりと浸かる。
疲労の抜けた体をそのままベッドへと上げた。
ふやけた肌の触れるシーツの気持ちよさに、まどろみが襲う。
ゆっくりと目を閉じて。
そして。
最後に、と左手の薬指に口付ける。
明日からまた、隣に誰もいなくなる。
必死で足掻いたあの頃に、逆戻りするよ。
君が居なくなって、そして。
「ばにーも...いなくなるんだ...。」
置き去りにされるばかりだよ。
どうしよう。
どうしようもなく、寂しい。
君を失ったときみたいに、胸の裡は苦しくて。
でも、吐き出せなくて。
声を上げて泣いたら、少しは軽くなるかなぁ?
いるはずのない死者に呼びかける。
バーナビーが、隣に、いないんだ。
信頼していたはずの存在を、会社命令があっという間に奪い去った。
「しかたないんだ...ばにーには...ひかりのなかがにあうから...。」
キラキラと輝いて、明るい世界でいろんな優しさを知るといい。
「おれは...いいんだ...。」
もうたくさんの光を浴びた。
その光をもっとバーナビーへ。
ああ、そうだ。
虎徹よりも、もっと輝いているべきなのだ。
光の中にいる彼は誰よりも眩しくて。
愛おしい。
眠さに閉じる瞼の端に涙が伝う。
苦しい胸の裡が、張り裂ける。
バーナビーは虎徹が唯一と背を預けた者。
だからこそ、それ以上に。
心の中にその存在を根差し、ゆっくりと育んだ。
だが、もう、その想いを言葉にする機会は訪れない。
虎徹自身が消した。
触れることも、笑いあうことも。
ケンカして言い合うことも、ない。
再会の頃を眠りの直前に思い出す。
落ちる体は重力に逆らわず、床を目指した。
衝撃を覚悟して、目を閉じた。
そして、俺を抱きとめた腕は。
もう、俺のものじゃ、ない。

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