ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
前半部分...気にいらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
でも、設定からやりなおす気力はありませんでした...orz
いつか...。
いつかやり直してやるッ!!!
バーナビーが戻ってきた。
再び彼の隣に立てるのだと思うと虎徹は復帰してよかったと思う。
そして、バーナビーの隣に立ち続けるために。
この世でたった一人の相棒で居続けるために。
虎徹は、心の声を沈める。
虎徹さんの隣に復帰することを決意した。
世界を巡って、僕の帰る場所は彼の隣なのだと思い知った。
そして、虎徹さんの隣に立ち続けるために。
背中を守るたった一人の相棒で居続けるために。
バーナビーは、心の声を殺す。
TVの電源を入れれば、季節はずれの大きなハリケーンの情報で一杯だった。
ズィンケンと名前のつけられたハリケーンは、小さいながらもかなりの勢力を誇りシュテルンビルトへと迫っている。
だが、予報ではシュテルンビルトに上陸前には勢力は大半を失うと言っている。窓の外は停滞する低気圧で雨だが穏やかなもの。
それでも、ハリケーンに備えて虎徹とバーナビーは会社での待機を命じられていた。
「...不吉な名前ですね。」
TVから流れる音声を耳にして、バーナビーはPCのモニタを睨みつつぼそりと零す。
「んぁ?そうなの?」
待機命令に仕事を放棄したのか、虎徹はバーナビーの独り言を律儀に聞いていた。
「sinken、ドイツ語で沈没するという意味ですよ。」
独り言の理由は学生時代に齧った知識だと教える。
「へぇ...。そりゃ、不吉だな、おい...。」
付けられた名前の意味を知って、虎徹は再度TVに向きなおす。
海上120km先と予報は告げている。
予報を信じて、あと3時間程で解放されることを祈る。
だが。その祈りを打ち破って、PDAのCALLが鳴る。
「Ca fait longtemps ヒーロー。」
2部には関わる機会のない視聴率の女帝の顔に、虎徹とバーナビーは顔を見合わせる。
「アニエスさん、お久しぶりです。」
バーナビーが女史へと言葉を向ける。
「救助の指令よ、TIGER&BARNABY。シュテルンビルト湾100kmの沖で、大型旅客船Irene(アイリーン)とハリケーンで操作不能になったタンカーが接触事故。」
その声に、一瞬で虎徹とバーナビーの顔が引き締まる。
「旅客船Ireneが沈没の危機よ。旅客船Ireneの中に取り残された一般人が数多く残されてるの。今すぐ救助に向かって頂戴!!!」
有無を言わせない声が、久しぶりに響く。
「悪天候でしかも救助が出来るのはスカイハイとブルーローズの2人しかいないのよ。タイガー、アンタなら経験があるんだし、バーナビーのサポートしながらやれるでしょう。」
不機嫌な声だが、信頼できることを知っているからこその指令だった。
「了解!!!」
二人してその指令に応える。二人にとって2部も1部もない。
助けを求める人がいる。その為に、ヒーローとして再び立ったのだ。
「いきますよ、虎徹さん。」
「おう。」
短く応えた虎徹の返事を聞いてすぐに、バーナビーは斎藤さんにトランスポーターの起動と海上移動用の高速艇の用意を依頼する。
大掛かりな事件はこれが久し振りとなる。気を引き締めて掛かろうと、虎徹とバーナビーは静かに唇を引き結んだ。
用意された高速艇はウェーブピアサー型、最高時速60ノットを誇り最終的に揚力を得た船体は翼を使って翼走状態へと突入する。
天候には左右されるが、多少のことでは動じないようにも開発されており、一部の軍でも投入されている高速艇である。
船内で状況を確認した二人は、まずは突入先の確認をする。
船体の傾斜はすでに30度まで進んでおり、沈没はほぼ確定。
人々は傾斜の上に集められ、今はスカイハイとブルーローズが救助している。
だが、未だに船体の底辺などに生体反応が見られ、取り残されている人々が多くいるようだった。
船の設計者から送られてきた資料にも目を通し、隔壁の位置を確認する。
それをメカニックとしてついてきた斎藤さんが、一番効率のいい方法で隔壁を閉鎖するデータにしてくれたのでありがたく受け取る。
「............の............は............し...............も.........。」
[挑むのは海中だ、スーツは一応は耐用仕様にはしているがそんなにもたない。]
相変わらずのウィスパーヴォイスだが、もう慣れてしまっているから聞き取るのも苦労はしない。
「.........う...............も...............れ..................よ............タ.........。」
[海中じゃ、データも弱いからくれぐれも無茶はしてくれるなよ、特にタイガー。]
そう言われて、虎徹は唇を突き出す。
「分かってますよ。」
それに、虎徹の能力は1分しかもたない。
無理をするなと言われても、もう無理は出来ないのだ。
「データ、揃いましたね。」
船内のマップなどのデータをスーツに搭載されているサブのHDDへと入れ、すぐに呼び出せるように設定した。
独自のプライベート回線の他に、もし二人が離れた場合にも使えるようにともう一つの回線を斎藤さんが設定してくれた。
「...............バ..................い.....................こ.....................。」
[バーナビー。背中のバーニアは海中じゃ1回こっきりだと思ってくれ。]
空中に関しては、空を飛べるスカイハイ、射出する氷の上を滑るブルーローズ、そして背中のバーニアの助力で己の脚力を利用するバーナビーの3人のみ。
だが、船内に入り込むとなるとブルーローズには少し荷が重い。
しかも、的確に壊すところは壊していくしかないので一番の活躍は純粋なパワーで挑むTIGER&BARNABYに限られる。
船内は沈没により浸水している箇所が大多数だろう。水中であることをものともせずに進みつつ人々を救助するのに、虎徹とバーナビーが選ばれない理由がなかった。
悪天候の視界の中に、傾斜した旅客船が見える。
二人して船外へと出ると、操縦士がギリギリまで船体を旅客船へと近付けた。
「虎徹さん。」
バーナビーが虎徹の体を姫抱きにする。
「俺、お姫様抱っこされてばかりだよなぁ。」
まだ、軽口は叩ける余裕がある。
「仕方ないでしょう。能力の温存のためです。」
1分しかもたない能力を効率よく使うため、虎徹の発動は船内とされた。
突入口までは、バーナビーの力を使って行く。
バーナビーが船体を蹴り上げ、真っ直ぐに突入口へと向かう。
中へと入れば、もう真っ直ぐには歩けない状態だった。
生存者確認のための生体反応マーカーを起動させる。
「あんまり、壊さないで下さいね。」
浸水を防ぐためにも、虎徹の破壊神ぶりには形を潜めて貰わねばならない。
「わぁってるって!!!」
釘を刺されて、虎徹は機嫌悪く言う。
「お、生体マーカー反応してるぞ。」
救助用にと開発された生体反応マーカーは、一定の範囲にまで近付かないと反応しないという欠点があった。
故に、好き勝手に破壊しつつ救助というのは難しく、こうして1つ1つを確かめて進むしかない。
慎重に進んで1つ目のマーカーが示す部屋に辿り着く。
傾斜上部の部屋で、バーナビーはじわりと扉を開けた。
ごおん、と大きな音が鳴り響く。
「バニー!!!傾斜が進む!!!」
ぎぎぎぎ、と嫌な音がすればじわりと傾斜角度が進んだ。
開いた扉に引っかかるようにしていた要救助者が落ちてきたのを虎徹が抱きとめた。
「おぉっと。」
彼はどうやら傾斜時に頭をぶつけ脳震盪を起こしていたらしい。
程近くで救助をしていたスカイハイの回線を拾い上げ呼ぶ。
すぐにやってきたスカイハイに、彼を預けてまだ先へと潜ることを告げた。
たまに反応する生体マーカーを見つつ、じわり、じわりと中へ進む。
人々の救助が最優先だが。
虎徹は幾許かの嫌な予感に、もし船内に取り残され閉じ込められた場合の予感に。
何が何でも相棒だけは、バーナビーだけは助けようと考えていた。
その矢先だった。
再び傾斜が進み、船体が揺れる。
その衝撃に傾斜を想定していなかった強度の脆い部分が崩れ落ちる。
「うぉっ!!!」
虎徹は慌ててワイヤーフックを射出するが。
バーナビーの体を掴み損ねた。
「バニーッ!!!」
「虎徹さんっ!!!」
船体の傾斜がいよいよ進んだ所為か、電燈が一斉に消える。
バーナビーの体がまるで奈落へと落ちていくようだった。
しばらくして、何かが落ちる音が聞こえた。
「バニー!!!大丈夫か、バニー!!!」
不安を含んだ声で、虎徹はバーナビーを呼ぶ。
「...大丈夫です。無事に着地しました、ノイズが酷いですけど。」
回線に雑音が混じる。
遠い位置ではない。
なのに、酷く遠い。
バーナビーの体を掴み損ね、暗闇へと落ちていく姿を見て肝が冷えた。
失うかもしれない、そう思ったら体が震える。
「虎徹さん、生体反応マーカーが2つ確認できてるんですが...。」
ぶら下がった虎徹の近くに反応が1つあった。
残りの1つは、バーナビーのほうが近い。
「あぁ、この辺りだと、壊していい部分だな。」
知らずのうちに船体の底辺近くまで来ていたらしい。
斎藤さんが即席で作った閉じる隔壁と破壊可能箇所を記したマップを呼び出す。
「隔壁を閉じながら、二手に分かれてマーカーの救助者を助けましょう。」
今の状態なら、それが一番いいだろう。
「了解。無茶すんなよ。」
体を揺らし、横合いの壁を体当たりでぶち破る。
確認した通り、その場所は客室の1つだった。
「貴方じゃないんですから、分かっていますよ。」
大丈夫だという穏やかな声に、虎徹は僅かに安堵する。
恐らくこの2つのマーカーが最後の救助者だろう。
進めば酷くなるノイズに、もう一つの回線を開くがこちらも変わりない。
声だけでも独りにしないようにと、虎徹はバーナビーを呼び続ける。
だが、それも次第に途切れが激しくなり、虎徹が救助者を見つけた頃にはノイズだけが聞こえていた。
着地をした場所はすでに浸水が始まっていた。
だからといって残された救助者を見捨てる気はない。
それに、安心もしている。
虎徹が浸水のない場所に引っかかってくれてよかった。
嫌な予感というものが、ずっとあった。
もし、船内に取り残され閉じ込められでもしたら。
助けるのは虎徹のほうだ。
まだ幼い彼の娘から父親を失わせてはならない。
それに。
この世で最も大切な人には、生きていて欲しい。
決して海中用とはいえないスーツでは、自由な動きはできない。
それでもまだ、諦めるつもりはない。
自分は往生際の悪い男だという自負がある。
水を掻き分け進めば、程なくして救助者を発見する。
「大丈夫ですか?」
誤算だったのは、寄り添うようにしていた親子だったというところだろう。
ヒーローの登場に、意識を失った母親に寄り添っていた娘が安心したように泣きはじめる。
先に上で救助者を見つけた虎徹が、下にもいるとスカイハイに依頼するに違いない。
「すぐに、船内から救出しますから。」
近付いてくる声があった。
やはり、というべきかスカイハイが虎徹が示した場所を頼りにバーナビー目掛けて飛んできた。
「スカイハイ!!!こっちです!!!救助者が2人います!!!」
バーナビーは手を振り、場所を示す。
「バーナビー君!!!」
狭い場所だが、能力を利用して潜り込んできた。
意識のない母親を肩で抱え上げ、泣きじゃくる娘を片手で抱え上げる。
「...バーナビー君、すまない。私では2人が限界だ。」
背中のバックパックも4人を抱え上げる力はない。
「大丈夫ですよ、危なくなったらその辺りを壊していきますから。」
そう言って、スカイハイに飛べと背中を叩く。
「ワイルド君は上だ。君を待ってる。」
虎徹は上手く壊しつつ、船外へと出たらしい。
「そう簡単に死ぬつもりはないですよ。」
飛び上がるスカイハイに向けて、否、船外の虎徹へとメッセージを届けて欲しいと願って。
バーナビーは言った。
母娘を助けた際に、能力は使い切っている。
この場所は浸水が酷いが、大きめの空間であるからまだ空気はある。
足がかりを見つけて、閉められる隔壁は1つでも閉めよう。
暗い視界の中、バーナビーは手探りで動き始めた。
船内から飛び出してきたスカイハイを見つけて虎徹は慌てて駆け寄る。
だが、バーナビーの姿が見えずざっと血の気がひくのを感じた。
「救助者はこれで最後だろう。すまない、彼を抱えるのは無理だった。」
母娘を何とか抱えてきた所為か、スカイハイの声に疲れが混じる。
「おう、お疲れさん。」
声が震えていたが、言い訳をするつもりはなかった。
バーナビーが心配だ、と虎徹の声音が語っている。
信頼し背中を預けるほどの仲だ。
心配は当たり前だ、とスカイハイは問わない。
船体はもう90度に近く傾斜している。
ハリケーンの打ちつける雨が風に煽られて横殴りのままだった。
「そう簡単に死ぬつもりはない、そう言っていたよ。」
スカイハイはバーナビーの言葉を告げる。
だが、離れてしまい声も届かなくなった今。
バーナビーがいつ能力を使ったのか分からない。
虎徹はただの勘だが、能力を使い果たしてそんなに時間が経っていないのではないか、と思った。
「スカイハイ!!!」
虎徹は決心したように、スカイハイに呼びかける。
「このままじゃあ船がひっくり返るのも時間の問題だ。」
ますますバーナビーの位置が分からなくなるだろう。
「俺は、バーナビーを探しに行く。」
失いたくない、そう思った。
「わかった。」
短く応えたスカイハイは虎徹を止めなかった。
1分の能力でどこまでやれるだろう。
再度、突入口へとワイヤーを使って降りる。
バニーがいるはずの場所へと虎徹は向かう。
ごおん、と再び音がした。
今度こそは本格的に船が転覆していくだろう。
船体の天地が逆転する。
船底には浸水した箇所がいくつもあるから、沈むのは更に早い。
虎徹がいる場所が浸水を始めるだろうから、出来る限り素早く移動する。
「バニー...バニー、聞こえるか...。」
ノイズしか帰ってこない回線に何度も語りかける。
必死で進めば、足元が揺れた。
本格的に倒れ込むのだと知って、慌ててワイヤーをひっかける。
じりじりとワイヤーを巻き上げて上れば、船体は完全に逆になった。
元は一角の廊下の天井に足がつく。
どぽりと広がる海水の足が早い。
このままではバーナビーの命に危険が出てくる。
しかも、船底の海水が落ちてくる可能性がある。
隔壁は全て閉じきっていない。
「バニー、頼む、返事してくれ!!!」
虎徹は叫びつつ、その場を走る。
ただ、生きていて欲しいと願った。
世界を巡って帰ってきたバーナビーは。
変わらずに虎徹の隣にいた。
想いは告げられなくていい。
ただ、一緒に生きることができればいい。
「...つ......ん...」
酷いノイズに声が混じった。
「バニー!!!」
かなり近い位置にまで、来たらしい。
「バニー、返事しろ、バニー!!!」
ざぁざぁとしか言わない回線に途切れる声が混じる。
虎徹を追いかけてくる水から逃げつつ、ひたすらに走る。
声が聞こえる場所になれば近いという証拠だ。
「こて...さ......く......る......」
まだ、生きている。
バーナビーは生きている。
バーナビーを助けたい、その一心で虎徹は探す。
「バニー、バニー!!!」
途切れていた声が、次第にはっきりと聞こえるようになる。
「虎徹さん...てつさん...」
ほとんどのノイズが消えた。
この付近にいるはずだ。
手当たり次第に扉を開き、姿を探す。
だが、船底だった部分に浸水していた海水が、階段室を通して合流してきた。
浸水が一気に進む。
のろのろと水位を上げる海水の中に膝まで浸かっている。
体が重い。
それでも、バーナビーの姿を見つけて彼を救い出すまでは泣き言などは言ってられない。
「バニー、何処だ?」
ざばざばと水を掻き分け、進めばもうノイズはなかった。
「虎徹さん?多分、近くですよ。」
どうして来たのかという責めるような色も混じっていた。
「今、扉叩いてる。」
微かにドンドンと音がした。
「もうすぐです。僕からだと、真っ暗で分からないんですよ。」
海水に浸った所為で、スーツの所々が破損して使い物にならなくなっていた。
「ここ、だな。」
辛うじて機能がまだ全て使える虎徹のライトが開いた扉から差し込む。
「バニー!!!」
扉の向こう側にいたバーナビーを見つけて、虎徹は駆け寄った。
「虎徹さん!!!」
闇雲に動くことはせず、その場で座り込んでいたバーナビーは立ち上がる。
軽い衝撃と共に虎徹の体がスーツ越しにバーナビーの体を抱き寄せる。
「...よかった...。」
震える声が、そう言った。
躊躇いも何もなかった。
抱きついてきた虎徹の体を、スーツ越しにバーナビーも抱き締める。
どんな状況であっても、彼は来てくれた。
「...虎徹、さん...」
どうして来たのか。
それは言えなかった。
彼の性格を考えれば、来ないほうがおかしいだろう。
「バニー、能力発動まであと何分だ?」
再度の発動までのカウトダウンは15分と15秒弱。
「15分程度です。」
その言葉に、虎徹は少し笑った。
「俺もだよ、バニー。二人合わせて6分もある。」
何が何でもバーナビーだけは助けよう。
それだけを思った。
先に虎徹が発動して、壁をぶち破っていこう。
虎徹が作った道をバーナビーが往けばいい。
その先はない。
だが、今のバーナビーなら。
虎徹がいなくても道を作って往ける。
本当は、もっと一緒にいたい。
だが、生身ではこの水を耐えられないし、スーツも沈むばかりだ。
頼むから、この抱擁を解かないでくれ。
虎徹は願いつつ、生身のバーナビーではないことを惜しむ。
1度だけでいい。
1度だけでいいから、バーナビーのその腕に。
体を預けて、寄り添ってみたかった。
バディで在り続ける為に沈ませた心の声は純粋な愛の言葉。
誓いに背くことなく、ただ抱擁のままに心の中でその言葉を呟いた。
虎徹が何を考えているのか手に取るように解ってしまった。
彼は己の命を犠牲にしてまで、バーナビーを救うことだけしか考えていない。
バーナビーが、虎徹が比較的安全な場所に引っ掛かったことを安堵し生きていて欲しいと願ったように。
彼もまた、バーナビーに生きていて欲しいと願っている。
抱きしめたスーツ越しの体に、一層の力を込める。
生きていて欲しいと願うのは互いの秘められた想い。
死の覚悟をしていないと言えば嘘になる。
その中で、殺したはずの純粋な愛の言葉が頼りとなる。
「虎徹さん。」
抱擁を通り越す程に、バーナビーは虎徹の体を腕に閉じ込める。
「一緒に、生きましょう。」
その言葉に、ぴくりと虎徹の体が反応した。
「...バニー...。」
心の根底で、互いにそう願ったのだ。
この世でたった二人。
同じ能力者として出会った。
どちらも失いたくない、だから、一緒に生きる。
その願いを込めて抱き寄せれば。
「...うん...。」
たったそれだけの短い返答だったけども。
互いの願いが交わっていたことを知った上での、応えだ。
「一緒に、生きよう。」
諦めてなるものか、と虎徹の瞳に輝きが戻る。
例えどんな苦境であろうとも。
互いの存在を希望に変えていける。
水はすでに腰の位置まできていた。
発動まであと5分。
水の浮力に脚を取られつつ、ただ抱き合ったままで発動時間を待つ。
スーツの中の体温に思いを馳せる。
じわりと浸水が進んでいく。
4分の間に脚が届かなくなるまで海水が入り込む。
カウントダウンが1分をきる。
お互いの体は寄せ合ったままで、搭載された補助酸素の回路を開く。
足場を確保するために、スーツの重さを利用して底まで潜る。
スーツの隙間から、じわりと海水が滲む。
だが、それぐらいなら問題はないだろう。
カウントダウンが切れる。
合図も何も必要ない。
信頼と想いがありさえすれば、それでいい。
同時に能力を発動させ、底を蹴り上げる。
真っ直ぐに、真っ直ぐに。
二人が1つの光になって、船外を目指す。
能力を信じて、船内の底をぶち破っていく。
二人の力を合わせれば、それは不可能なことではない。
幾つもの壁と隔壁をぶち壊し、そして。
圧力と抵抗の塊にぶつかれば。
沈んだ海の中だと知れる。
二人分の力は海中の圧力が大半を殺いだ。
みしり、とスーツが水圧に悲鳴を上げる。
水中というのは、能力の発動をしていても何とも無力だ。
もう、虎徹の能力は残っていない。
海上は遥か上にあり、脚力を自慢するバーナビーですらどんなに蹴り上げても二人分のスーツの重さに引き摺られる。
蹴り上げるものさえあれば、もっと簡単に海上へと出れるだろう。
虎徹が、バーナビーの考えを察したのかバーナビーに寄り添う腕がじわりと力を緩める。
補助酸素の残りを考えると、虎徹を踏み台にしてバーナビー一人が助かるという道がある。
だが、ここで虎徹を離すつもりはない。
替わりに抱く腕に力を込める。
大丈夫、それを伝えるためにバーナビーは虎徹の体を離さなかった。
そういえば。
まだ、バーニアが残っていた。
なんだ、希望なんて結構近くに潜んでいるのか。
捨てるつもりで最大出力の設定をする。
補助酸素もバーナビーの能力もあと僅か。
水を掻き、蹴り大きく伸びる。
バーニアがエンジン機構を破損するまでに火を噴き、水上へと押し上げる。
再び勢いのついた浮上にバーナビーと虎徹は水を掻く。
そして、バーナビーの能力が切れるが勢いはまだ止まっていない。
もし、バーナビー一人だけの脱出では船底の破壊に時間のロスを喰らい間に合うことはなかっただろう。
虎徹が来てくれなかったら、彼を残して海中に沈んでいただろう。
照らす明かりが見える。
水面はもうすぐそこだった。
水上へと戻ってきた二人は、生体マーカーを監視し続けていた斎藤さんのおかげで高速艇すぐさま引き上げられた。
まずは海水の塩分を落とすために真水の洗礼を受けた。
海中での影響を調べたいからと、スーツは全て斎藤さんに持っていかれた。
アンダースーツだけになった二人は無言で、用意された個室へと向かう。
それぞれの個室はあるのだが、性急に二人して同じ個室へと入った。
後ろ手に閉じたドアに虎徹が鍵を掛ければ。
どちらからともなく、その体を抱き寄せて唇を重ねる。
まるで、互いを喰らい尽くすような口付けだった。
「...ん...」
とろりとした熱が唇から交わされる。
受け入れるように開いたバーナビーの口内に舌を差し込む。
ぬるぬるとその中を嘗め回し、たっぷりと唾液を受け渡す。
受け渡された唾液を飲み込んで、更に深く奥までと今度はバーナビーが虎徹の口内を犯す。
酷く熱くて、虎徹はその熱に縋る。
生きている、という実感があった。
「...ふぅ...ふ...ん...」
虎徹の口内を犯すその舌に、躊躇いもなく己の舌を絡める。
たっぷりと唾液を絡めたその交わりは、深く深くなっていく。
舌先でちろちろと触れあい、そうかと思えば大胆に絡める。
じわりと濡れる口内が、解けていく。
大胆に入り込んでくるのを吸い上げ、その熱を喰らい尽くす。
引き込まれるように吸い込まれて、虎徹は腰を揺らめかした。
疼くような痛みが全身に広がっていく。
気付けば下肢にも熱が篭っていた。
密着させたバーナビーに擦り付ける。
荒い呼吸を残して、唇が離れる。
個室に予め用意されているアンダースーツ着脱用のジェルを探る。
バーナビーが見つけ、中身を虎徹の背中に垂らす。
思い切り背の繋ぎ目に手を入れる。
「...んぁ...あ...」
とろりとた感触と共に、手のひらの感触が虎徹の背中を這い回る。
「...ふ...あ...あぁ...」
感じてしまい、虎徹は思わずバーナビーにしがみ付いた。
吐く息に熱を乗せて、少しでも熱を冷まそうとやっきになる。
密着していたアンダースーツを引き離し、左右に割るように引き摺り下ろす。
そうすれば、虎徹がバーナビーの手からジェルを奪い同じように背中へと垂らした。
塗り広げては繋ぎ目を広げていく。
するりと体を滑らせて上半身をアンダースーツから露出させる。
現れた肌に虎徹の喉が鳴る。
白く浮き出た首筋に噛み付くように口付ける。
強く強くと吸い付けば、白い肌に痕が残った。
その痕をぺろりと舐める。
所有権を主張するかのような行為だった。
その行動うに煽られたのか。
バーナビーの手が虎徹の体をなぞる。
柔らかく触れる指先は、虎徹の胸を掠めていく。
「...ひぁ...あ...あぁ...」
見つけ出されたのは、ぷくりと膨らんだ乳首だった。
燃え盛る熱に反応していたのか、触ってくれといわんばかりに硬くなっている。
「んぁっ...あっ...あん...」
柔らかく摘めば、虎徹が甘い喘ぎを零す。
後ろへと撓る背が、バーナビーの眼前に虎徹の首筋を晒させる。
その首筋へと、バーナビーが吸い付きお返しとばかりに痕をつけようとする。
「...あふ...ふ...ん...」
親指の腹で、両方の乳首を弄れば。
がくがくと虎徹は体勢を保っていられないと、その場へと崩れ落ちそうになった。
「...な...バニー...」
バーナビーの体に抱きつき、辛うじて体勢を保つが。
もう、沈み込んでしまいたかった。
そう狭くない部屋だが、ベッドがとてつもなく遠い。
二人してずるずると縺れるようにベッドへと移動する。
纏わりついたアンダースーツを何とか脱ぎ捨て、虎徹はベッドへと沈む。
その虎徹の体をバーナビーの体が覆う。
虎徹もバーナビーも素手に下半身の熱は、はち切れんばかりに育っていた。
はっ、はっ、と短い呼吸に欲情がたっぷりと乗っていた。
そろそろと虎徹がバーナビーのペニスに手を伸ばす。
どくりと脈打つその質量に触れる。
手のひらで包み込み、ゆっくりと上下に扱く。
「...ふ...」
バーナビーもその感触を味わうように腰を突き出す。
虎徹の勃起したペニスの近くで、バーナビーのペニスが揺れている。
ぞくぞくと戦慄が駆け巡る。
その大きなペニスが己の中に入るのかと思うと、内側が酷く疼く。
腰を揺らして、その疼きをバーナビーに伝える。
そろり、とバーナビーが指を虎徹の尻の割れ目に差し込んでくる。
「...あ...ん...んぁっ、あっ...」
僅かに水気を帯びた部分は未だ硬く閉ざされてはいる。
バーナビーが思いついたように手にしたのは、アンダースーツ着脱用のジェルだった。
二人のためだけに開発されたジェルである。
肌に優しくと作られたものであるからして、代用ができるだろうと踏んだのだろう。
残りを虎徹の股間に垂らし、塗り広げる。
大胆に尻を広げ、受け入れるはずの場所に指を躊躇いなく突き立てる。
「...は...あぅ...くあ...」
幾ら受け入れると決意したとしても、その場所は本来ならば受け入れる場所ではない。
虎徹の苦し紛れの声が、負担を物語っていた。
だが、欲しいと願う感覚は恐ろしいもので。
バーナビーの長い指を容易く受け入れるようになるまで、そこまでの時間は必要としなかった。
ぐちゅりと音をさせて、後肛はバーナビーの指を飲み込んでいく。
慣れたと判断したバーナビーは指を増やし、更に内側を解すように突き入れる。
「いぁ...あっ...あぁッ...バニッ...」
腫れたような部分が指を掠める。
恐らくそこは前立腺だろう。
押し上げるように触れれば、虎徹はのたうつように乱れた。
「やッ...バニっ...そこ、そこはッ!!!」
体全身がガタガタと震えている。
「バニィっ...頼む、からっ...お願い...だからっ...」
バーナビーに懇願する虎徹の瞳には涙が浮かんでいた。
「ここッ...入れて、くれッ...」
どんなに淫らな願いなのかわかって、虎徹は尻の割れ目を自ら広げてみせる。
「でも、貴方...初めて、でしょう?」
潤滑剤なしでは受け入れられず、指で確かめた内側は狭いままだった。
容易に初めてであることは知れる。
「...ん...平気...だから...」
バーナビーにだけ晒された入り口が、物欲しそうにひくりとしていた。
待てない、そんな妖艶な顔をして虎徹は誘う。
どちらにしろ、もう余裕がないのはお互い様だ。
バーナビーは膨らんだ亀頭の先を虎徹の後肛に摺り合わせた。
未知の感覚に、虎徹は戦慄を覚える。
ぬる、とその先端が触れる度に虎徹の尻が揺れる。
「入れます、よ...」
ぐっと腰を突き出し、じわりと先端を沈める。
僅かな抵抗だけがあったが、張り出したカリの部分すら貪欲に飲み込まれていった。
恋に作り変えられた体が、負担のはずのその質量を受け入れることを可能にしていた。
「くは...あ...あぁ...あぅ...」
ずるずると入り込み、前立腺と共に胎内を強かに擦られる感覚に耐えられなかったらしい。
「ふぅ...うぅ...あぁあぁぁッ...」
少量の精液を零して、虎徹は絶頂を迎える。
胎内のうねりにバーナビーも引き摺られそうになるが、耐える。
それにコンドームなしの挿入なので、虎徹の体の負担を考えると中に出すのは躊躇われた。
余裕はないが、虎徹の体を気遣うことはしたい。
「虎徹...さんっ...」
一旦引き抜き、再度突き入れる。
かなり激しい動きだが、虎徹は苦痛を忘れて感じてみせた。
「いぃっ...ひ...んぐ...」
バーナビーの腰と、虎徹の尻がぶつかる肉の音が響く。
互いの肉を擦らせて、望むままに追い上げていく。
張り詰めた感覚が今にも弾けさせたい。
バーナビーが上限を感じて、動きを早くする。
荒い呼気で、限界を虎徹に知らせた。
「あん...あっ...あぁッ...」
虎徹は鼻に掛かる甘い喘ぎを零していた。
バーナビーはペニスを引き抜いたところで射精しようとするが。
虎徹の長い脚がバーナビーの腰に絡む。
「...虎徹さんッ...何を...」
全てを引き抜こうとしても、虎徹の脚の絡みが邪魔をして出来ない。
「...ひはっ...中っ...中に、出してッ...」
ぐずぐずと融けてしまった胎内が、中で吐精しろと締め付けてくる。
「...だめ、です...貴方に...負担が...」
だからといって突き上げを止めることは出来なかった。
気持ちよさに、愛おしさ、独占欲にとない交ぜになった絶頂が止めることをさせない。
「いい、からっ...オマエのがっ...欲しひっ...」
そう言われてしまうとバーナビーは気遣いを打ち消した。
「どうなっても...知りませんから...」
一際大きく腰を打ちつけ熱の解放を切望する。
ふつり、と何かが切れた瞬間、バーナビーは濃い精液を虎徹の胎内へと発射していた。
「ふぁっ...あぁぁぁっ...しぇーえきぃ...」
箍が外れたように、虎徹はバーナビーの射精を受けて昇り詰めた。
胎内で暴れるように注がれる精液を、一滴残らず飲み干していく。
弓のように撓り、ふるふると震える虎徹の体はとても綺麗だ。
絶頂の余韻に力を失った虎徹の脚が解かれた。
繋がりを解き、ゆっくりとバーナビーは虎徹の体に己の体を重ねた。
密着した傍からかすかな鼓動の音が交わっていく。
もう、生きる意味は変わっていた。
「...バニー。」
彼らしい声で、愛称が呼ばれる。
「虎徹、さん。」
ただ、その呼びかけに応えればいい。
幾つもの言葉を並べても、傍らの生存に勝るものはない。
疲れの色が濃い微笑みがバーナビーに向けられる。
その微笑みにまた同じだけの微笑みを返せばいい。
命を預け、また預かった。
ただ、暖かな体を寄り添わせ存在を確かめあう。
どうか、この命がずっと傍らに在り続けるように。
"一緒に、生きよう"
それは二人のただ1つの願いとなった。
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