重ねる嘘

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D.さくさくのマイナー魂に火をつけちまったな!!!

学生時代からの親友とは賑やかに飲むのが通例だが。
最近はお前の愚痴が多いと敬遠されて、虎徹は独り寂しく飲むことのほうが多くなった。
「...だっ...アントンめ...。」
会社側から無理矢理に組まされた相棒というのも説明したし、その相棒が少々扱い辛いことも説明した。
なのに親友の一言は「年上なんだから」。
じゃあ、お前が組んでみろよ、と愚痴れば半ば喧嘩状態へ。
親友と口喧嘩したのも一体何年ぶりだろう。
様々な種を撒いてくれる相棒に虎徹は半ばうんざりもしていた。
年上なのだから、とそのアドバイス通りにいろいろしてもみたがどれも空回り。
少しでもいいから距離を縮めたいと願っても、向こうのあの頑なな態度はないだろう。
それでも、それでも必死で虎徹は相棒を構おうとしている。
少しでいいから振り向いてくれればいいのに。
そう願う己の感情が何なのかも判らなくはない。
度の過ぎた親愛でないことも分かっているし、それをコントロールする術も身に着けてはいるつもりだ。
親しいと呼べる仲の者にさえ教えていない店で、むっつりと酒を飲む。
どうせあの牛のことだ。
虎徹がどんなに努力してると言っても、努力が足りないだのなんだの言うに違いない。
「...俺ばっかりが努力しても、どうするってンだよ...。」
虎徹が1歩近付けば10歩は下がるような相棒に辟易して。
本日最大のため息をついた。
底のほうに残った酒を飲み干そうと手を伸ばす。
と、右腕のPDAが盛大にCALLの音をさせた。
今日はもう親友の顔も相棒の顔も見なくてすむと思っていたのに。
心の中で悪態をついてその呼び出しに答える。
冷ややかな女帝の声が、虎徹へ出動要請を命令している。
虎徹は、半ば投げやりにその要請に応えた。

深夜にまで及んだ出動の後は、シャワーを浴びてからやっと人心地つく。
さっぱりとした感触に未だ水滴が流れるのが気持ちいい。
隣に相棒の気配があるが、虎徹は無視を決め込むことにした。
己の役割は会社命令にあったように相棒であるバーナビー・ブルックスJr.の引き立て役。
それさえこなせれば何の文句もでないから、本来の力を発揮する人命救助に徹した。
ポイントだってついたから、そこそこの活躍だったと己を静かに褒める。
時計をみれば、さっさと帰って眠ったほうがいい時間だ。
さっさと着替えつつ、この場を早々と離れたかった。
とそこへ、相棒の声がかかる。
「随分と遊んでいるようですね。」
何のことだ、と思うがその言葉通りに考えれば夜に飲んで歩くことを指しているのだろうと見当をつけた。
「いや、まぁ...な...。」
毎日の出動の後のささやかな己への褒美。
仕事を終えて飲む一杯のビールはどれほど美味いものなのか、その青年はまだ知らないだろう。
「ま、最近は誰も相手にしてくれないけどな。」
虎徹の愚痴が多いと、親友にまで振られた。
「へぇ、じゃ、僕が相手になりましょうか?」
多少の侮蔑を込めた声が、凍るようだった。
飲みの誘いには程遠い声。
何かがおかしいと虎徹は違和感だけを感じる。
「相手って...。」
飲みの誘いではないことは薄々は感づいたが。
真実、何のことなのかと虎徹は無視を決め込むはずだった隣の存在へと視線を向けた。
「相手って、夜の相手のことですよ。」
ぞっとするような、そんな表情だった。
見てはいけないようなものを見たという気分だ。
珍しく目線があったが、濃厚な色気と共に誘惑に彩られていた。
「遊んでいるんでしょう?」
そういう意味の「遊んでいる」ということにようやっと気付いて、虎徹は絶句する。
飲み歩くという遊びは確かにしてきたが、それ以上の遊びはしたことがない。
「一体、何人の男と寝たんです?」
女であれ、まして男となどは以ての外だ。
一夜限りの遊びなど虎徹には思いつきもしない。
「僕としては、ありがたいですけどね。」
今、バーナビーはありがたいと言ったか。
虎徹に向いたバーナビーの表情は、肉食獣を思わせる獰猛な男の顔。
「処女は、面倒でしょう?でも、貴方が遊んでるなら、僕も相手にしてもらえるのかな。」
ここまで恐ろしい笑顔というものを見たことがない。
美しい青年の顔の、凍てつくような満面の笑み。
そして、残酷なその言葉。
だが、裏を返せば。
処女でなければ、この青年は。
決して優しさを向けようとしない虎徹ですらも。
その腕に抱くというのだろうか。
その考えは止せ、と心の警鐘ががなりたてる。
どう考えても、その決意は危険すぎる。
だが。
コントロールできるはずだと思ったその想いが。
虎徹に、その嘘を吐かせてしまった。
「そりゃあ、男の独り寝は寂しいさ...。」
巧く言えただろうか。
指先からふつふつと体温が消えていく気がした。
声は震えてないだろうか。
頼むから、巧く言えておいてくれ。
願うように、微かに震える指先を握りこむ。
「でしょうね。」
どこか見下したような声は、虎徹の嘘が悟られていないという証拠だった。
「だったら。これから、時間はありますか、おじさん?」
淫らに誘う声が、虎徹を震え上がらせる。
これから、虎徹をその腕に抱くというのか。
嘘を吐いたものの、だからといって「はいそうですか」と素直に体を差し出す気はない。
「...安く、売るつもりはねぇ...。」
精一杯の虚勢を張って。
「悪いが、俺はすぐに寝るなんてマネ、しねぇんだよ。」
その場凌ぎの嘘を重ねていく。
もう、その嘘に縛られて、雁字搦めになっていることに気付かずに。
ただ1つの願いのために、虎徹は必死で体の震えを押し留めた。

 

数日の間は何もなかったようにお互いが振舞っていたが。
偶々今日は、経理の女史が休みとあってオフィスに二人きりとなった。
朝からずっと、虎徹は緊張している。
恐らくだが、確実にバーナビーからのアクションがあるはずだ。
虎徹は、そのアクションに終始怯えていた。
恐怖が勝ってロクに隣の相棒が見れない。
「ねぇ、おじさん。」
唐突の呼びかけにびくりと体を竦ませる。
「この前の話、考えてくれました?」
まるで、休憩に誘うようなごく自然な風体で。
「安く売るつもりはねぇって、言ったろ...。」
結局どこかで覚悟を決めねばならなかったのだ。
「いいじゃないですか、どうせ長い付き合いになるんですし。」
青年のどこか歪んだ真面目な声が、虎徹の心に噛み付く。
「体の相性を確かめるところからでも。」
心臓を鷲掴みにされたように、一瞬で体温が消え失せる。
この場所で、性行為を仄めかす青年に視線を向けた。
穏やかではあるが、凄絶な微笑みに息を飲み込む。
誘っているのだと、はっきりと分かる微笑みだった。
「...ここじゃ...まずい、だろ。」
震える声を必死で隠して、出来るだけの低い声で諭す。
「誰もいませんよ。」
得意げな顔をして、バーナビーは小首を傾げる。
「隣に、ロイズさんがいるぜ...。」
執務室の上司は最後の砦だ。
組み敷かれている姿なぞ見せたくはない。
「僕、溜まっているんですよ。顔出しだとこんなとき不便ですね。」
さらりと。
挨拶でもするかのように、赤裸々に語ってみせる。
「だから、何だってンだ。」
虎徹はわざとらしく視線を正面に戻す。
仕事は手に付かないだろうが、仕事をするフリぐらいならできるだろう。
「じゃ、抜くぐらいならいいでしょう?」
抜くぐらいなら。
その言葉が意味するのは、恐らく扱けということだろう。
腹を括るしかなかった。
この、最低な嘘を吐いたときから。
「...わかったよ...。」
虎徹は観念する。
たった1つの願いの為に、どうしてここまでしなければならない状況に陥ったのだろう。
極力静かに立ち上がり、バーナビーの背後を移動する。
でなければ、震えていることを悟られてしまいそうだ。
バーナビーは動く気配はない。
恐らくだが、跪けと無言で訴えているのだろう。
虎徹にはその選択肢以外がない。
経験がないのだからもっといい方法というのを思いつけなかった。
「仕事、続けたいので、机の下でお願いしますね。」
ギリ、と拳を握る。
屈辱に塗れて、虎徹は四つ這いで机の下に潜り込む。
バーナビーが虎徹に協力する気は更々ないようだ。
指先が震えていないことをひたすらに祈る。
ベルトに手をかけ、もどかしく外す。
手先が不器用という言い訳が通じるだろうか。
カーゴの前を、思い切りよく開く。
事後は何事もなかったように振舞うためにも、決して汚してはならない。
怯えを隠すためにも、大胆な行動を心掛けるしかない。
まさか同性のイチモツに触れることになるとは思ってもおらず、覚悟が挫けそうになるが。
吐いてしまった嘘を今更嘘だと言うには憚られた。
ローライズの下着をずらして、まだ力のないペニスを取り出す。
その大きさにぞっとした。
だが、竦んでいられない。
吐いた嘘のように、遊んでいる鏑木・T・虎徹でなければならない。
そろり、と合わせた両手でバーナビーのペニスを包む。
やわやわと軽く刺激を与えれば、ゆっくりと欲望が兆しをみせた。
自分でする場合は、どうしていただろうか。
触れるペニスは自分のものと違って、どう扱っていいのか分からずにいる。
仕方なしに、己への手淫と同じようにするしかない。
手のひらの中で、容赦なくバーナビーのペニスは膨らんでいく。
次第に虎徹の片手には余るようになり、両手を使わないと覆うことが出来なくなる。
根元から亀頭の先へ、そして再び根元へ。
僅かな包皮の余りを利用して、己の気持ちよさを思い出すように扱いていく。
時折、カリの付近に指を這わせ窪みを刺激する。
じわじわとその巨大さを見せ付けるペニスに、虎徹は一心に手淫を施していく。
この拷問のような時間が早く終わって欲しい。
だが、この手淫が初めてで拙いせいか、バーナビーが更に興奮する様子はなかった。
「しゃぶって、くれないんですか?」
その一言に、虎徹は自分が吐いた嘘がどれ程覚悟が必要なものなのか思い知らされることになった。
虎徹の拙い手淫程度では、バーナビーの目的は達成されない。
手に余るその巨大なペニスを口に咥えろと言う。
ここで嫌だと言えば、恐らく嘘を吐いていたことが露呈するだろう。
下唇を噛み締め、震えを殺す。
そして、意を決してその剛直を口にした。
「...は...む...」
完全に収まることはないその大きさだが、亀頭と僅かなその先までは舌での愛撫が辛うじて出来る。
片手で陰茎を摩りながら、咥えた部分に舌を絡める。
張り出した部分をなぞり、奥へと誘うように吸い込む。
舌先で窪んだ部分を嘗め回し、たっぷりと唾液を絡める。
擦るような動きで裏筋を舐めれば、ぴくりとペニスが反応した。
じわりと口の中に雄の味が広がっていく。
先走りの体液が零れたらしい。
むわりとしたその味に、虎徹の脳髄が酷く甘く揺れた。
結局、その大きさに根を上げて口を離すが。
思いついたように唇で全体を食んでいく。
「...ん...んぅ...」
鈴口から根元へと向かい、今度は裏筋のほうへ。
裏筋を唇で食み、少しの筋に優しく歯を立てる。
どうやらバーナビーも虎徹と同じく、裏筋への愛撫が好きらしい。
バーナビーがその愛撫に感じている、と夢中になっているところへ。
がちゃり、とドアの音がした。
虎徹の体から血の気が下がる。
あのドアの隙間から、上司のロイズが出てくるに違いない。
バーナビーのペニスを口に咥えたまま、虎徹は動きを止めるが。
「そのまま、続けて。」
心なしか喜んでいるバーナビーの声が、恐ろしい命令を告げる。
震える歯を立てないようにするのが精一杯だ。
この机の下という位置なら、覗き込まれない限りは虎徹がこの場所でバーナビーのペニスを咥えているとは誰も思うまい。
色を失い、青褪めた唇で虎徹はバーナビーのペニスを咥える。
前後に動かすが、決して音をさせてはならず細心の注意を払う。
「バーナビー君、虎徹君は?」
虎徹に用があるのだろう。
ロイズが近付いてくる気配があった。
覗き込まれるのではないか。
その恐怖が一層虎徹を支配する。
少しでも早く。
虎徹は動きを多少は激しくするが、バーナビーが登り詰める様子はない。
強くすればいいというものでもなく、虎徹は祈りながらペニスをしゃぶった。
「さぁ、休憩じゃないですか?」
しれっと応えては、いつもの営業用の笑みを零していた。
「用なら、僕が伝えておきますよ。」
その明るい声音は、誰しもを魅了する。
「そう、じゃ、メール確認して、と伝えておいて。」
その用件を伝えたのち、ロイズの足の方向が変わった。
虎徹は脱力しつつ、ほろりと零れた涙を隠す。
「わかりました。」
そう応えたバーナビーには、零れた涙は見えていないだろう。
気を取り直してもう一度。
今度はちろちろと舌先で舐めまわす。
ぴくりぴくりと反応が返り、やっとイキそうなのだと知って亀頭部分をもう一度口にした。
裏筋を舌で触れつつ奥へと吸い込めば。
びくんと盛大に跳ねると。
勢い付いた熱い精液が虎徹の口の中へと放たれた。
先走りの体液とは比べ物にならないほどの雄の匂いが充満していく。
汚すことが出来ないから、全てを口の中で受け止めるしかない。
びゅる、と放たれる度にその苦い精液を嚥下していく。
「...んく...く...」
尿道に残った精液の残滓をも吸い尽くすように、喉の奥へと押し込める。
もう出ないだろうと判断して、漸く虎徹は口を離した。
とりあえずは大した汚れがないことに安堵する。
「巧いものですね。」
焼け付いた笑みで、バーナビーが見下ろしていた。
顔色も、汗一つすらかかず、ただ笑っている。
巧い、などと褒められても虎徹にとっては侮蔑にしか聞こえない。
だが、気付けば己が微かに下半身に異変をきたしていた。
口の中に満ちた雄の匂いが、虎徹に欲情を齎していた。
トイレの個室に駆け込んで、自慰でもすれば収まるだろう。
のろのろと這い出し、立ち上がればオフィスの外へと向かうものの。
「何処へ行くんです?」
相棒のその一言に、虎徹は立ち止まった。
「...いや...ちょっと...。」
トイレの個室へと言えず、言葉を濁す。
「さっきの僕の言い訳、聞いてたでしょう?」
バーナビーは休憩と言っていた。
「そう何度も行くのはおかしいでしょう、おじさん。」
口の中に残る匂いすら拭えないのか。
ずっしりと響く下半身の熱を持て余したまま。
虎徹は大人しく割り当てられた席へと戻った。

 

その日は出動がなかったのが幸いした。
未だ燻る熱は、虎徹の下半身をずっと苛んでいた。
まだ、バーナビーの雄の匂いが纏わりついているようで興奮が冷めることがない。
かといってトイレの個室で自慰をすることも出来ず、虎徹は早く時間が過ぎることを祈った。
「で、今夜こそは僕を相手にしませんか?」
いやらしい聞き方だった。
相手をさせろ、ではなく相手にしろ。
もう、後戻りなど出来なかった。
「...いいぜ...遊んで、やるよ。」
気付けばバーナビーの愛車に押し込められ、バーナビーの自宅へと連れられてしまった。
嘘を吐いたときから、虎徹は1つ以外のことは望んでいない。
バーナビーに己の体を差し出す気分で、その腕に連れられた。
数える程度の訪問のバーナビーの自宅は何もなく、それがかえって現実味を引き離してくれるからいい。
奥の寝室へと連れられても、虎徹は何処か他人事のように自分に降りかかる現実を見ていた。
投げて遣されたのは、見慣れぬローションのボトルだった。
遊んでいるのだから、用意ぐらいは自分で出来るだろうという意味だろう。
不自然に体は震えていなかった。
これから、バーナビーに抱かれるというのに恐怖は凪いでいる。
あぁ、恐怖を通り越したのか、と気付く。
静かに衣服を脱ぎ落とす。
躊躇いはなかった。
惜しげもなく全裸を晒し、ライダースを脱いだバーナビーの体に触れる。
カーゴからTシャツの裾を引きずり出し、捲り上げては脱がす。
ベルトを緩め、カーゴのボタンを外し、チャックを下ろす。
靴は脱いでくれていたらしい。
下着ごと引き摺り下ろし、軽く興奮状態にあるペニスを握る。
どの辺りがバーナビーが感じる部分か、大体の位置を把握してはいる。
虚ろな表情で虎徹は、そのペニスを手のひらで弄ぶ。
「な、ベッド行こうぜ。」
ベッドの中へと引き摺り込まれたのはどちらか。
尊大に寝転がったバーナビーの体に虎徹は跨る。
少しだけ、ほんの少しだけ、表情が揺れる。
それを気付かれたくなくて顔をバーナビーの首筋に埋めた。
小さなキスのような愛撫をしながら、バーナビーの肌の上を彷徨う。
男でも感じる部分といえば、乳首ぐらいしか思い浮かばない。
鍛えた筋肉の影を追いつつ、自然な流れで乳首に辿り着く。
舌先でねっとりと舐め上げる。
白い肌に浮いた乳首の色はくすんではいるが柔らかな色。
ちゅう、と吸ってその反応を見る。
乳首ではあまり感じないのか、虎徹は記憶を頼りにペニスに集中する。
根元からカリへと手を滑らせ、裏筋を弄っては根元へと手を収める。
手淫だけでは手に負えないと分かっているから、乳首から陰茎へと唇を移動させる。
柔らかな陰嚢を思い切って口の中へと吸い込む。
じわりと口の中で転がせば、ひくりと揺れるのが分かった。
確かな硬度が虎徹の手のひらにある。
バーナビーが気持ちよさげに反応した、唇で食む愛撫を施す。
舌先で根元から輪郭をなぞり、裏筋を吸い上げる。
虎徹はバーナビーに虚ろな視線を向けた。
欲情の熱が、バーナビーの顔に浮かんでいた。
遊んでいる男の愛撫に興奮しているには、何処か違和感がある。
だが、虎徹にとってはもうどうでもよかった。
一頻りバーナビーのペニスへの愛撫をすれば。
緩く勃ち上がった虎徹のペニスを合わせるようにバーナビーの体に跨る。
ずりずりとゆっくり前後に腰を揺らしながら、遣されたローションを手にする。
ボトルから手に中身を取ると暖めるように手の中で混ぜ合わせは、ペニスへと垂らす。
ローションのぬめりを得て、擦りあわされる場所からはぐちゅぐちゅと淫靡な音がしている。
滑りがよくなり、虎徹の尻の割れ目にバーナビーのペニスが導かれる。
ぬる、ぬると一歩でも間違えれば後肛に潜り込むのではないかという勢いだった。
頭の片隅で、解されることもなく挿入されるのだろうという危惧があった。
残りのローションも手にすれば、尻の割れ目へと垂らす。
これだけの量を使えば、解さずとも挿入に耐えれるだろう。
覚悟して入れようとほんの少しだけ躊躇すれば。
バーナビーが上体を起こし、虎徹の体を替わりにベッドへと沈ませる。
「...え...あ...。」
バーナビーを見上げる体勢となって、虎徹は目線を泳がせる。
「...馬鹿ですね。」
ぼそりとバーナビーの零した声を虎徹は聞き逃した。
もう一度と、聞こうとするが、バーナビーはそのまま口を閉ざす。
「...あ...あぁッ...」
たっぷりとローションを垂らした尻の奥にバーナビーの指が入り込む。
長い指は後肛を捉えていた。
ぬちり、といやらしい音さえさせて指が内側へと潜り込む。
ローションのぬめりを塗りつけるような動きだった。
指が挿入されている違和感に、恐怖がじわりと浮かぶ。
今更に寄り戻した恐怖が、虎徹の体を震わせる。
かちかちと歯列が噛み合わない。
この音をバーナビーに聞かせてはならない。
今、ここにいるのは。
何人もの男を咥え込んだ鏑木・T・虎徹のはずだ。
大きく息を吸い込み、歯を食い縛る。
「...ッ...ふく...ぅ...」
ぐり、と2本に増やされた指が、その狭い後肛に差し込まれる。
「そういえば、遊んでいる、んでしたね。」
それはまるで。
虎徹が嘘を吐いて遊んでいるふりをしていることを、知っているかのような。
硬直してしまった虎徹の表情に、一瞬だけ辛そうな表情を向けたが。
すぐに、冷たい欲情だけを忍ばせる。
「...ひ...ぁ...ばに...」
久しぶりに相棒の名を呼んだような気がする。
だが、その呼びかけに応答はない。
ぐい、と腰を高く持ち上げられ腹を折られる。
視界に、己の股間と後肛に宛がわれるバーナビーのペニスが見えた。
見せ付けるつもりなのだ、と理解して虎徹は目を閉じた。
ぬちゅ、と閉じた場所に潜り込もうと先端が迫る。
虎徹は意識して息を吐いた。
ここで挿入出来なければお笑い草だ。
勢いをつけて、バーナビーが虎徹の中へと容赦なく沈む。
圧倒的な質量に、呼吸が引き攣る。
誰も助けてはくれない。
痛みや、圧迫感、呼吸の苦しさ、全ての苦痛が混じった感覚に責められる。
呼吸だけでも、と虎徹は声を出すことを試みる。
「...ぐ...うぁ...いあッ...」
嫌だ、と言い掛けて慌てて声を殺した。
遊んでいる男が、嫌だなどと言うはずはないだろう。
どうしようもない程の苦痛に、虎徹のペニスは萎えたままだった。
快楽も追いかけられないで、何が遊んでいる、だ。
奮い立たせるべく、己のペニスに触れる。
怯えて萎えていたなどという失態は許されない。
バーナビーはずるりと引いては、強かに突き入ってくる動きを繰り返す。
合わせて、虎徹は必死で己を追い上げた。
じわりと涙が滲んでいる。

ゆるして、ゆるして、ゆるして。
馬鹿な願いを心にした俺を許してくれ、バニー。
ただ、お前に、口付けたいと願った俺を、許してくれ。

ぱたりと涙が零れる。
「...ん...ふぅ...んん...」
嫌だと言いそうになる声を押さえつける。
どんなに手を伸ばしても、掴み返してこない手に。
虎徹はもう差し伸べる理由を探せそうになかった。
だから、縋ったのだ。
一縷の望みを賭けて。
体の関係だけでもいいから、繋がりが欲しいと。
覚悟と犠牲は払ったが、自分の体など安いものだ。
虎徹の体に縋り、夢中で腰を打ち付けてくるバーナビーの頬に手を伸ばす。
触れた先はとても暖かく、虎徹はゆったりと微笑んだ。
気持ち良さすら追いかけられない体だが。
バーナビーに気持ち良さを与えられるならそれでいい。
ようやっと勃起した己のペニスになんとか集中して少しでいいから痛みを凌ぐ。
と、じわりと響く感覚を掠められ腰が跳ねた。
「...ひぃッ...あ...あひ...」
それが痛みなのか、苦痛なのか分からない。
ただ、脳裏に埋め尽くす膨大な白が爆ぜる。
ぐり、とバーナビーの先端がその場所を抉れば。
虎徹は体を仰け反らせて、射精を迎える。
それが前立腺を刺激されての絶頂と自覚のないまま。
静かに、意識を手放した。

 

仰け反らせた虎徹の体のラインが、がくりと揺れる。
直後に痙攣するように体を震わせて射精したかと思うと。
虚ろな瞳が閉じられるように、虎徹の体が沈んだ。
その様を見ながら、バーナビーは虎徹の尻に腰を打ち付けていた。
ぬる、ぬる、と突き入れば体全身を襲う快感が走る。
「...は...虎徹さん...く...」
バーナビーの荒い呼吸と、肉を密着させる音が部屋に充満していた。
絶頂へと向けて、腰の動きの激しさを増す。
「...くッ...」
競りあがる射精感に逆らわず、虎徹の中でバーナビーは果てた。
ぞくぞくと駆け上がる感覚と共に、精液が放たれる。
虎徹の胎内に己の匂いと遺伝子を残したと思うと、脳髄がくらくらとした。
肉の繋がりを解いたが、濃い精液が虎徹とバーナビーを細い糸で未だに繋いでいた。
「虎徹、さん...。」
くたりと沈む反応のない体を手繰り寄せる。
腕に抱く人が。
遊びも知らない処女であることは百も承知だ。
なのに、なけなしのプライドが彼を煽って、馬鹿な嘘を吐かせた。
酷い抱き方をしたものだ。
「好きでもない男に抱かれて、可哀想な人。」
永遠に、彼の心は手に入らないだろう。
そう思えば。
バーナビーの顔が辛さに歪む。
意識を失ったままの無防備な。
薄く開いた唇を奪う。
体だけ。
一縷の望みを賭けて。
心は奪えなくても、体だけは奪った。
「貴方が、好きです。」
意識のない彼になら、何度だって言える。
「僕が欲しいのは...。」
差し出される手は、親愛の情のみ。
欲しい情が愛情であればあるほど、バーナビーはその手を振り払う。
もう二度と、欲する愛情が得られなくても。

互いに欲するものが同じだと気付くまで、これは秘密の重ねる嘘の物語。

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