虎徹さん孕む 番外 -看護師たちの憂鬱編-

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こういうイレギュラーなことするの大好きですw

 

で、こんなのいいから書けとw

「それでは、皆さんよろしくお願いします。」

手術に参加し、かつ執刀担当であるラクウェルと補佐執刀担当であるシュタイナー医師は両手を上げたまま軽く頭を下げた。
「クランケは患者番号2010089、鏑木・T・虎徹、38歳、男性。」
ラクウェル担当となる看護師が、滅菌シートの中に入った書類を読み上げる。
「血液型はRH+B型、尚、心臓に負担があるため麻酔は慎重にお願いします。」
ちらりと麻酔医のオスカー医師を見ると、任せてくれと言わんばかりに頷きが返ってきた。
「術式はカイザー、ただし、子宮の代わりとなった臓器も摘出予定です。」
一瞬、参加者全員に緊張が走るが、沈黙は続けられたままだった。
「あぁ、彼が例の患者さんね。」
シュタイナー医師が軽口でも言うように沈黙を破る。
「子宮全摘に於いて、産婦人科のロラン医師と泌尿器科のサダム医師に指示を仰ぎたいため、参加して頂きました。」
よろしく、と2の医師が声をかける。
「では、術式開始します。」
右手を差し出しメスと一言言えば、看護師が手入れされたメスを手渡してきた。
手早くすればするほど出血は少なくてすむ。
患者の負担を減らすため、の技量がラクウェルはものの見事に高かった。
さく、さく、さくと何のためらいもなく切っていく。
「いいねー、皮下脂肪ないからキレイだわー。」
とシュタイナー医師。
彼は口を開くと残念なタイプだが、ラクウェルが自ら名指しするほど手術の腕はいい。
「もうすぐ見えてくるんですけど...筋肉厚いですね...。」
交通事故などでよく腹を掻っ捌くが、このような捌き方が初めてでラクウェルはかなり慎重に行動していた。
「キレイな、ピンク!!!瞬発力と持久力の両方保持なんて、抱かれてみたくなっちゃう。」
失笑もののセリフだが、参加者は慣れたもので、黙ってろシュタイナーという目を向けた。
「ダメですよ、旦那さんに殺されますよ。」
もう少しだろうとあたりをつけながらメスは奥へと進む。
「あ、そうか。旦那、BBJか...。」
シュタイナー医師がラクウェルの進む先を補助しつつ、ため息をついた。
「あ、俺、ご飯食べるの忘れてたわ!!!」
そして唐突な麻酔医オスカー医師の脈絡のない声。
「あぁ、私も食べてない...。」
それに合わせてラクウェルも思い出したように、そちらの会話に入る。
無駄口ではあるが、手は止まらないので誰も文句は言わない。
「...肉食べたいなぁ...。」
手術中にもかかわらずの発言だったが。
「いいですね、肉。牛肉のフリカッセ食べたい...。」
フリカッセ、そこでフリカッセとくるか!!!
と思うが、誰一人として突っ込まない。
慣れたものだった。
患者の心臓の手術をしながら焼き鳥屋行ってハツ食いたいとかほざく人種なのだ、外科医という連中は。
新人の看護師がいれば、この無駄口はもっとオブラートに包まれるのだが。
今日はいないので思い切り医師たちの食事談義は肉に偏る。
「お、見えてきた!!!」
子宮筋がようやく見えてきて、状態を確かめた後ラクウェルは何のためらいもなくメスを入れる。
仲良く動く双子の頭が見えた。
「まずは、こっちからだな。」
骨盤位にいる子供をゆっくりと取り出す。
「ほい、臍帯結紮。」
シュタイナー医師に手渡したのは女の子だった。
手早く臍帯結紮してしまうと毛布を用意していた看護師に手渡す。
看護師がマッサージすれば、ふぇ、ふぇと泣き声があがった。
「2人目いくぞー。」
子宮の代わりとなった臓器の底辺を押し、2人目を取り出す。
「男の子だなぁ...。」
2人目も臍帯結紮はシュタイナー医師がしてしまう。
同じように手渡せば、マッサージ後にふぇ、ふぇと泣き声が。
「ロラン先生、保育器でいいですか?」
「えぇ、小児科医のマツダ先生に連絡してますから。」
カンガルーケアをしたいようだが、母体の状態が状態のため出来ない。
「周産期センターには私も連絡しておきますよ。」
「お願いします。」
周産期センターの保育器には数の限りがある。
ただでさえ双子なのでそれだけに他の患者を受け入れられなくなる。
「しっかし、おなかすいたな...」
まだ、拘ってたのかといわれそうだが、医師とて人間。
腹が減っては戦はできぬ。
「あ、お子さんたちお父さんに会わせてあげてください。」
はーいと看護師が返事をして周産期センターに向かおうとすれば。
「やだ、先生!!!声お父さんに聞かれてます!!!」
と間の抜けた声。
「え、マジで...まぁ別段妙なこといってないからいいもん。」
とラクウェルは気にしない。
「ちょ...俺殺されるわ。」
とシュタイナー医師。
ここにいる看護師全員はこのろくでもない外科部の医師たちが。
子羊の脳のソテーが食べたいと言わない限りは、笑ってすまされるだろうと軽口をたしなむ必要性を感じていなかった。

 


研究施設の職員御用達と呼ばれるカフェバー"ブラッド"。
元外科医師という異色の経歴をもつマスターが経営しているため、店名もストレートに酷い。
しかし、出されるメニューは美味しく、特に看護師たちに人気が高い店であった。
「今日もラクウェル先生凄かったわ...。」
うっとりと話すのは、ラクウェルを担当した看護師マーサ。
「ええ、凄かったですよねぇ...。あんなに迷いなくぶった切るの素敵だわぁ...。」
本日のオペを思い出しシュタイナーを担当していた看護師エーディンも溜息を零した。
「いいなぁ、先輩...今日のオペ私も参加したかったです...。」
そう言うのは施設内では新人扱いの看護師フェリス。
「だめに決まってるじゃない、今日のクランケ特別なんだから。」
「そうよー、2010089さんは特別なの。」
マーサとエーディンに畳み掛けられるようにフェリスはだめだと言われてむっとした顔を向ける。
「2010089さんって、アレですよね?BBJが運んできた...。」
受付担当のリリィが大地震の日に目撃した光景を思い出す。
「そうそう。」
「でも運んできたってだけで、なんでBBJが今日居たの?」
院内の購買部で売り子をしているジャスミンが聞く。
「あぁ、そりゃ2010089さんの旦那だからよ...。」
マーサがさらりと応える。
「え、え、じゃ2010089さんって奥さんってこと?」
これは、ものすごいネタだと言わんばかりにジャスミンが食いつく。
「結婚は...出来ないみたいだけどねー。」
エーディンは多少の笑いを込めて言った。
「スポンサーから、結婚なんてマイナスだからっていうアイドルみたいな感覚の?」
ジャスミンはBBJのファンであることを公言しているが、研究施設が研究施設なので多少のことでは動じないつもりだった。
「んー、じゃなくて、2010089さんが男性なのよ...。」
衝撃的な告白だった。
だがジャスミンは動じない。
「ということは、ゲイなのかぁ...BBJだからいっか...。」
「なによそれ。」
フェリスが冷静にツッコミを入れた。
「で、2010089さんは心臓に持病持ち?ラクウェル先生名指しだからどんだけお金つんだのよ。」
とかくゴシップはジャスミンは大好きらしい。
「心臓じゃないわよ、今日のオペ。」
くいっとカクテルを飲み干したエーディンはジャスミンの予想を正す。
「今日のオペはカイザーよ。ラクウェル先生が最も得意とする、ね。」
「はぁぁぁぁぁ!!!カイザー!?」
ジャスミンはつい声を大きくしてしまう。
「珍しくないでしょ、歩く実物いるんだし。」
それはラクウェルのことを指した。
「じゃ、2例目ってことですか?あ母子共に生きてるから初の例か...。」
暢気にフェリスが返す。
施設内では新人扱いされているが、別の病院で5年看護師をしているため実はベテランとも言っていい。
「ひゃー、だからラクウェル先生だったのか...。」
通常は研究施設よりもまず付属病院にかかる。
「セリス先生立場ないよね、これだと。」
ジャスミンが名前を出したのは付属病院の循環器科のセリス医師。
ラクウェルより少し年は上だが、彼も確かに心臓外科の医師である。
「あんな、ボンボンと比べたらラクウェル先生に失礼よ。」
マーサがばさりと切り捨てた。
「大病院の2代目で箔つけるのに無理やり入ってきた男でしょう?」
「そうそう、ER上がりのラクウェル先生と比べたら下手糞ったらありゃしないわよ。」
辛辣に切り捨てられているがまさにその通りだった。
「出自がしっかりしててもあそこまでヘタだとねぇ...。」
手術における技能で最も解りやすいのはメス捌きと言える。
ラクウェルは切った回数が半端なく多く、筋肉のラインに沿って迷いなく手早く切っていく。
つまりそれだけ出血量が少なく、患者の負担は減りまた輸血のストックもそこまで減らすことがない。
反対にセリス医師は切った回数は平均以下のため迷いつつ切る。
そのおかげで、その他の医師が使う輸血量を遥かに大きく上回ることのほうが多い。
「でもそのセリス先生、ラクウェル先生にアプローチしてるんでしょ、実家の院長命令で。」
「そりゃそうよ、実家も循環器科がメインの病院じゃない。で時期院長があそこまで下手糞だとねぇ...。」
循環器の看護師を長くやっているマーサとエーディンは深い溜息をついた。
「うわ、そこまでヤバイんですか?」
フェリスは付属病院勤務がなかった為そのあたりは疎い。
「いつ殺してもおかしくないというか?でラクウェル先生捕まえればいいってことになった、と。」
「逃げて、ラクウェル先生全力で逃げて。」
ラクウェル・アノー医師はかなり看護師に人気のある医師である。
普段のおっとりとした柔らかい物腰と看護師を煩わせない程度に自分でやってしまう行動力がある。
「ま、ラクウェル先生は研究の虫だし、アプローチされてるのに気付いてないみたいだから大丈夫でしょ。」
だが、セリス医師が強行突破しようものなら看護師たちがラクウェル医師を守ろうと思うのだった。
「で、話は戻るんだけど、2010089さん...マジで妊娠してたの?」
「そうよー。双子だった。」
ジャスミンはBBJのファンという経歴はどこ言ったという常態で聞いてくる。
「でも、BBJ最低よね...。2010089さん、一人で施設に来たわよ...。」
リリィが胡乱な目を寄越す。
「そうそう。2010089さんダミー使って居場所隠してたんでしょ、BBJにも。」
「書類整理しててさ、父親欄最初は偽名だったもん...あとでBBJになったけど。」
マーサもエーディンも直接関わらなかったが、例の2010089さんが一人で入院していたことぐらい知っている。
「妊娠してるパートナーに雲隠れされるとか...どんだけよ。」
一番頼りたかった時期に居なかった男というレッテルを貼りつける。
「でも、探してはいたみたいよね?」
「でも相手が悪かったんでしょ?」
ジャスミンが食い下がるのはダミーを用意したのがラクウェルだったからだ。
「ラクウェル先生徹底的すぎ。内容が内容だからっていってもあそこまでやるとさすがに引くわ。」
「そう?クランケの希望聞いただけでしょ?」
何があったのかだいたい察しはつく。
姦しいおしゃべりはBBJは妊娠させた相手に逃げられる最低な男として落ちついた。

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