虎徹さん孕む-06-

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お父さん追いつく!!!!

もう、怒涛すぎて何がなにやら...。

 

さて、最後に近付いて参りましたが、あまりに長くなったため分割しました。

エロシーンを。

何件かホテルを回ったが、何処も一杯という回答で虎徹のようにエスペランサに足止めをされた人々がかなりいるらしい。
虎徹の足取りは既に重い。
無理をしない範囲で運動は続けていたつもりだが、アノー医師が言っていたように虎徹の体には様々な負担が強いられていたようだ。
泊まれるところがないなら、最終手段は研究所しかない。
かなりの道程にはなるが、交通も多少は復旧しているようでなんとかなるだろうと、虎徹はバス停を探し始めた。
 
虎徹がいた。
虎徹が有給休暇を取って直ぐに会社とバーナビーに連絡がきたのが3ヶ月ほど前。 
能力減退に伴い精密検査をしたところ心臓に大きな影響が認められ今のままでは危険と判断し緊急入院の措置を致しました、と。
病院の名前はシュテルンビルト内にある、大学の付属病院。
面会を求めたが、面会謝絶を言い渡され、虎徹の姿を見れないことになってしまっていた。
何度かしつこく病院に面会を申し込むと今度は転院したとの返答。
転院先の病院に問い合わせたが、ここでも面会謝絶とされた。
どうも様子がおかしいことに気付いたのは虎徹が転院してから。
存在する病院ではあるが、それ程大きくはない病院であることに引っかかった。
心臓への負担という症例に絞って、世界で有数の心臓外科医を抱える病院にバーナビーは連絡をとった。
曲がりなりにも虎徹はヒーローだ。
ワイルドタイガーという、名前を知らない者がいないほどに。
バーナビーは虎徹を探した。
時には、心臓外科医に会いに行ったこともある。
だが、虎徹の居場所は掴めない。
それならと、虎徹から連絡をしてくれるように。
再度1部リーグへと戻った。
ヒーローインタヴューの度にメッセージを残した。
「ワイルドタイガー、見ていてくれてますか?僕は、貴方の帰りをいつまでも待っています。」
必死だった。
ポイントも虎徹に帰って来て欲しいというメッセージを伝えたい、それだけだった。
復帰当時、ある医学生からエスペランサ研究所の名前を聞き出す。
最高峰ではないが、かなりの施設と症例を扱うため、そこにも訪ねてみてはどうかと。
そして、今回の救援要請に乗り気ではなかった市長とアニエスを説得して、ここまでやって来た。
同僚には申し訳ないと思っている。
それでも。
バーナビーの想いを正しく理解しているファイヤーエンブレムと。
虎徹の古くからの友人であるロックバイソンに。
行方不明となったワイルドタイガーの足取りが掴めるかもしれない、と告げれば最大限に協力してくれるとの申し出があった。
肝心のシュテルンビルトを完全に空けるわけにはいかず、スカイハイと折紙・サイクロンには残ってもらっているが。
そして。
足取りを掴むはずのこの街で、まさか虎徹自身を見つけるとは思わなかった。
少しだけ、痩せた姿はなんら変わりがないように思う。
それでも。
ずっと自分を見ていたであろう虎徹は。
泣いていた。
 
ようやっとエスペランサ研究所行きのバスがくるバス停の場所を突き止め、途中で買ったミネラルウォーターを飲みつつ足を進めていた。
そこかしこで巻き起こった事故が、交通の麻痺の原因らしい。
警察官が、なんとかバスの運行を再開させようと事故処理に追われている。
2ブロック進んだ先の角を曲がればバス停はすぐそこ。
夕方近くのせいか、心なしか風が強くなっていく。
虎徹の後ろで錆びた嫌な音がした。
頭上に影が横切る。
いい散歩日和と思った空は穏やかだったはずだ。
ふと空を見上げる。
横切った影の正体が、また元の位置に戻ろうと引き返す。
ビルの屋上に設置された古い巨大な看板だった。
だが、その重さを支えるのはたった一箇所のボルトだった。
悪いクセだと思う。
考えるより先に体が動くのは。
看板の落下先には複数の人々。
中には小さな子供を連れた母親もいる。
動いている車がなかったのは幸いだった。
事故処理をしていた警察官が、大きな声を張り上げて逃げろと言っている。
「間に合えぇぇぇぇぇぇ!!!」
虎徹は叫んだ。
落下する物体の間にギリギリで体を滑り込ませる。
両肩に衝撃が走る。
支えられた証明でもある衝撃だが、安心はできない。
安全に下ろさなくてはならないのだ。
経験上それが一番難しいと知っている。
ぐ、と腰を落とし体を安定させようとした瞬間。
能力が消えていくのを感じた。
まだ1分も経っていない。
落下物の重さが、生身になろうとする体に直にかかる。
『すまん...かぁちゃん...2人共、護ってやれそうに、ない...。』
虎徹はお腹に宿った2人の子供たちにひたすらに謝った。
 
虎徹の姿を見つけて、バーナビーは仕事を放棄してまで追い掛けた。
途中、ブルーローズとドラゴンキッドにすれ違う。
2人に後を頼むと残して、バーナビーは必死で駆けた。
あの懐かしい姿を、もう二度と失いたくなかった。
自分は虎徹に何もしてあげていない。
決して大っぴらにしない愛情。
それをずっと、虎徹はバーナビーに与え続けてくれた。
間違った記憶しかなかったバーナビーの中身は何もない。
その中身を、彼は愛情で一杯にしてくれた。
それを、今までずっと気付かなかった。
だから。
虎徹を失うのは、自分を失うことと同義。
「間に合えぇぇぇぇぇぇ!!!」
虎徹の叫ぶ声がする。
バーナビーは声のする方へ駆け出す。
落下する看板を支える虎徹の姿が見えた。
落下物を安全に下ろそうとする虎徹の体が不安定に揺れる。
間違いなく、能力が切れようとしている。
「虎徹さんッ!!!」
トップスピードを更新する勢いでバーナビーの体が奔る。
風さえ追い越すほどのスピードで、重さに耐えられず崩れる虎徹の体を攫う。
虎徹の身長より低い位置から落下した看板はそのまま歩道へとめり込み不自然にビル側へ傾き動きを止めた。
僅かな時間であったがそれを見届けバーナビーは空中へと舞う。
救い出した虎徹をみて色を失う。
虚ろな目が閉じられ、完全に意識を失ってしまった。
「虎徹さんッ、虎徹さん!!!」
バーナビーの呼びかけも虚しく、虎徹は応えない。
何処かに怪我を負った可能性も考え、移動しながら虎徹が着ている衣服を捲り上げる。
バーナビーはその虎徹の肉体の変化に絶句する。
全ての理由がこれなら、自分はなんということをしてしまったのか。
懺悔しながら、バーナビーは向かう先を間違えていなくて良かったと思う。
スーツ越しに抱き締める虎徹に反応はない。
ただ、無事であることを。
信じてもいない神に祈った。
 
幸いにも重傷者がおらず、手術に引っ張り出されるようなことはないだろうとラクウェル・アノーは安心していた矢先の出来事だった。 
ぐったりとして抱きかかえられている、護ると誓った患者である鏑木・T・虎徹の姿を見ていつもの表情を変える。
ラクウェルを知っている看護師たちに緊張が奔る。
普段はおっとりした愛嬌のある医師だが、緊張の場合のみ眼鏡の奥の素顔が見れる。
男と見紛うほどの中性的な面差しは、素顔を知らない看護師たちを虜にすることでも有名だった。 
「ストレッチャーもってこいッ!!!処置室開けろぉッ!!!」
元々はER務めで、外科手術の腕もそこで上げたようなものだ。
バイタルの状態によっては、今取り出すしかないだろう。
「心臓外科の誰か引っ張って来いッ!!!場合によっては緊急のオペ!!!」
看護師の一人がストレッチャーをもってきて、ラクウェルの後ろへつく。
「バイタル確認する、心臓に問題あるから心電図もってきて!!!」
ストレッチャーに降ろせと、虎徹を運んできた男に指示する。
「鏑木さーん、声聞こえますかー?」
閉じた瞼を開けペンライトで状態を確認。
後に、首筋で脈を見ながら胸に耳をあて鼓動を確認。
「先生!!!オペですが...。」
緊急は無理と伝えにきた看護師を遮って。
「今のところオペはなしだ。脈と鼓動はしっかりしてる。」
だが、予断は許されないのか、安心した顔をしない。
「迂闊にオペはしない方がいいだろう。ただ、バイタルと心電図は研究所のレイノルド師長に依頼して。」 
看護師にあれこれと指示し、処置室に入る。
ついて来いとでも言うように、鏑木・T・虎徹を運んできた男を招き入れる。
「レントゲンが使えないから、質問に答えろ。能力を使ったな?」 
能力を使うなとあれだけ念は推したが彼の性格のことだ。
この状況でなにかがあって使わないほうが彼らしくない。
「はい。」
淡々とした質問に短く答えが返る。
「怪我人や死者は出た?」
「いいえ。」
その答えに幾許か安堵が見えた。
「なら、いい。重いものを肩で支えた痕があるけど、間違いない?」
「はい。」
それじゃあ、とラクウェルは能力を使う。
「両肩、ヒビいってるな。」
子宮の様子も見たいが時間が切れる。
前にいた部屋に戻して、それからだった。
 
慌ただしい流れではあったが、虎徹の診察をしている医師の腕は確かだった。
虎徹の肉体に訪れていた変化を思えば、最低限のことしか出来ない。
その最低限の中で出来るだけのことをしてくれた。
今は規則正しい機械音と呼吸音が響く病室で、眠る虎徹の側に付いているぐらいしか出来ない。 
医師が、バーナビーがこの病室にいていいと許可をくれた。
最後に、エコー検査機を持ち出してきたが、バーナビーが驚かなかったことになんとも言えないような顔をしていた。
だが、直ぐに虎徹の体に集中し、心臓と同等に心配されていたもう一つの症状を診る。
「良かった、無事だ...。」
長い溜息が吐かれ、医師が発していたピリピリとしていた空気が一気に柔らかいものへと変わる。
ナースコールを片手に看護師長を呼び出し、最終的な指示をして医師は部屋を退出していった。
看護師長は丁寧に挨拶をしてくれると、病室の説明と注意事項だけを知らせてくれた。
バイタルと呼吸器は目覚めれば取れるだろうとの説明もくれ、バーナビーがいることが当たり前のように振舞ってくれる。
必要事項をすますと、点滴が終わる頃にまたと残して静かに退室していった。
バーナビーは呼び寄せられるように虎徹の傍に張り付く。
「虎徹さん...。」
反応はなくても、強く虎徹の手を握った。
暖かい体温がそこにあった。
何度も、何度も。
居なくなった日からこの温もりを思い出した。
そうでなければ、空っぽの自分は何もできはしない。
「虎徹、さん...。」
虎徹という存在だけが頼りだった。
バーナビー・ブルックスjr.という存在を認め、あるがままに受け入れてくれた。
なのに、自分のプライドの所為で酷く傷付けた。
強がりたかっただけだ。
子供のように。
なのに、気付けば。
彼を強かに打ちのめしていた。
それでも、受け入れてくれたのだ。
この、鏑木・T・虎徹という人物は。
穏やかな目覚めを、バーナビーはただ傍で祈り続けた。
 
 
 
ふっと頬に触れる風が気持ちよくて虎徹は目を覚ます。
病室の白いカーテンが揺れている。
暖かくて長閑な風は、とても心地がいい。
何でここにいるのかという疑問もそうだが。
もう無理だと思った瞬間の、自分を攫うあの力強い感触を虎徹は忘れていなかった。
『ああ、そうだ。バニーに助けられて...。』
ゆっくりと反対方向に首を動かすと。
己の手を握り、優しく微笑む青年がいた。
金色の髪が透き通るような光をキラキラと散らせている。
そして印象的なエメラルドの瞳が、虎徹を見ていた。
「...ありがとな、バニー。」
いつになったら虎徹は気付くのだろうか。
虎徹だけが許された愛称を呼べることに。
礼と愛称を呼んだ虎徹に、バーナビーは震える声で語りかける。
「何が、ありがとうですか...。探してたんですよ...。」
必死で探した。
恥も外聞もかなぐり捨てるぐらいに。
「どうして俺から離れたんです?」
バーナビーの声が泣きそうだった。
どうして離れたか。
そんなの決まっている。
腹に子供が宿った。
しかも、出来るはずはない男の体に。
そんな状況で虎徹は言えるわけがない。
 
バニーの子だから産みたい、などと。
 
だから、離れる決意をした。
「うん、なんだ、子供が...いるんだ。」
虎徹の小さな告白だったが、もうバーナビーは知っている。
怪我がないかと確かめようとして、衣服を捲ったときに。
虎徹のお腹はすでに膨らんでいて隠しようがないほどに。
どう考えても、その子供の父親は自分のはずだ。
虎徹がバーナビー以外の男を許すなど考えたこともないし、そんなことが出来る男でないことも知っている。
「その子たちは、俺の子供たちでしょう?」
その言葉に虎徹は震える。
「...違う...俺の子だ...俺だけの...。」
虎徹は小さな声でバーナビーを否定する。
納得なんて出来るワケがないだろう。
何しろ虎徹はバーナビーの【性欲の捌け口】だったのだから。
男ならいくら好き勝手しようが孕むことはない。
だからこそ、隣にいても不自然にならない虎徹が選ばれただけなのだ。
「貴方と俺の子供でしょう?どうしてそんな大切なこと言ってくれないんです!!!」
「そんな関係じゃねぇだろ、俺達!!!」
バーナビーが声を荒げたところで、虎徹も返す。
「そんな、関係じゃ...ねぇだろ...。」
悲痛な思いで虎徹は言った。
はたり、と涙が零れる。
泣いてばかりいるのはこの男の所為だ。
そんな関係じゃないと言われて、バーナビーはやっと我に返った。
最後に虎徹を抱いた夜、どうして己を止められなかったのか。
その理由は簡単だった。
例え抵抗でも、応えることをした虎徹がどうしても愛しかったからだ。
最初の夜に『都合がいい』と騙すようにして体を奪った。
本当は何より心が欲しかったのに、隠し切ることの巧いこの男は。
バーナビーに心を奪う機会さえ与えてくれなかった。
だが、後々気付いたのだ。
すでに心はバーナビーのものだったことに。
それでも、虎徹は隠してみせた。
どんなに抱いても、反応しないことで隠そうとしていた。
そして、ある日から虎徹がバーナビーを避けるようになった。
それは、己にとって虎徹に必要ないと言われているようなものだった。
なのに違った。
そうじゃなかった。
あの陵辱の夜から1ヶ月間バーナビーは何度も謝った。
だが、虎徹にバーナビーの謝罪は届かなかった。
それは、虎徹の心が変わらずバーナビーの元にあったのに信じることをしなかったバーナビーへの罰。
「ごめんなさい、虎徹さん...。」
今度こそ聞こえているだろうか。
「貴方に、酷いことをしてすみません、虎徹さん。」
虎徹の手をしっかりと握る。
「貴方に、甘えていたんです。」
心を知っていたから、愛情で一杯にしてくれるから。
「貴方を愛しているのに、貴方の応えが欲しかったから...。」
虎徹の涙に濡れる頬に甘く口付ける。
「...愛して...?」
虎徹は言われたことを素直に受け取る性質だ。
『都合がいい』という言葉を馬鹿正直にそのまま受け取ったのだろう。
「...俺は...ただの...捌け口だって...」
しゃくり上げながら虎徹は言う。
「そんなふうに本当に思っているなら、ここまで貴方を探しません。」
新たな涙を口付けで掬い取る。
「それに。貴方と俺の子供がいるとわかったとき、ここまで狂喜乱舞してませんよ。」
バーナビーの手が虎徹の膨らんだ腹を擦る。
「喜んでる、のか?」
恋人とすら呼べない関係だと思い込んでいたから、子供の存在はバーナビーにとって邪魔とばかり思っていた。
「えぇ、喜んでます。医師が子供は無事だとおっしゃられたとき、眼鏡握り潰してしまうぐらいには。」
形を変え、レンズも粉々になったであろう眼鏡の残骸を見せながら。
本当は、両手でガッツポーズして叫びたかったんですよ、と付け加える。
スペア持ってきてて良かった、と言うがバーナビーらしくないのは確かだ。
「虎徹さん。」
未だにぐずぐずと泣いている虎徹の顎を掬い上げ。
「キスをしても?」
律儀にそう訊いて来る。
「...だめだ、ここ病院...。」
虎徹がそう否定しても、バーナビーは止める気配はない。
「応えて下さい、虎徹さん。」
そう懇願すると。
虎徹は泣き腫らした目の周りを更に紅く染めて、バーナビーのキスを受け入れ、応えた。

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