何番煎じだコノヤロウ!!!
という内容ですが、どうしても書きたくなって書いてみました。
珍しくエロがありません。
病気かも知れませんw
マーベリック事件から1年。
ワイルドタイガー1ミニットとして2部リーグに戻り、ヒーローに返り咲いた鏑木・T・虎徹を歓迎する声は上々。
更に。
相棒のバーナビー・ブルックスjr.までもが戻ってきたとあっては、アポロンメディアだけでなくシュテルンビルトのヒーローファン全てが嬉しい悲鳴を上げることとなった。
ワイルドタイガーはマーベリック事件の折、冤罪を着せられ余りにも多くの個人情報が流出したものの。
記憶操作された仲間を非難するどころか、まるで盾のように庇い続けた行動が再度評価され2部リーグでの人気は常にトップ。
しかも、バーナビーと組んでいた経験を活かしてか、経験不足が否めない2部リーグのヒーローたちを引っ張っていく姿は報道される姿は少ないもののそれでもヒーローファンたちを魅了した。
そして。
バーナビーも1年というブランクを経て、自分に確固たる自信がついたのか。
今まで以上に魅せる活躍振りを披露した。
そんな2人をメディアが放っておく手はないと、多少緩くなった個人情報に託けてヒーローたちのオフを特集番組として企画。
そのインタビューの中で、バーナビーの爆弾発言とそれをあっさり受け流すワイルドタイガーが放送されたのがたった今だった。
ヒーローの私生活といっても芸能人に近いものがある所為か、台本通りにインタビュアーはバーナビーにマイクを向ける。
「バーナビーさんはご結婚の予定とかは?」
お決まりの文句だ。
「えぇ、そうですね、したいですね。」
何を当たり前のことだ、と視聴者特に若い女性たちは思うだろう。
出会う機会さえあれば、彼の隣に立ちたい。
なんて夢をみても悪くはないだろう。
「今、お付き合いされている方はいらっしゃるんですか?」
そう、それ。それが聞きたかったの。
恐らくこの質問は男女関係なく聞きたい事項No.1。
女性であれば、自分がピンチに颯爽と助けてくれたバーナビーと恋に落ちることを妄想したり。
男性であれば、今注目してるアイドルや女優がこんないけすかない男と付き合ってなくて良かったと安心したり。
「はい、友人の紹介で、女優のエルレイン・トーレスさんと。」
爽やかな笑顔を振りまいて、堂々と。
エルレイン・トーレスと言えばバーナビーより2つ年上だが、演技力のある女優として有名な美しい女性である。
隠しだてするつもりはありませんと言ったその雰囲気にインタビュアーも飲まれてしまう。
何も返せなくなったインタビュアーを横に口を開いたのは、ワイルドタイガーだった。
「お、結婚決まったら、まずは俺んとこ挨拶来いよ。」
伴侶を病気で亡くしているが、娘が1人いるというのは周知の事実。
「Something Borrow用意しとくぜ。」
今、俺、いいこと言ったといった感覚でワイルドタイガーがその場を茶化す。
インタビュアーは引き攣ってはいるがそれでも笑顔を見せて次の質問に入った。
翌日の新聞やニュースは大荒れだった。
何しろ人気女優と人気ヒーローとの熱愛報道である。
しかも男の側から堂々と。
バーナビーの潔さといったら、世の男性の肩身を狭くする一方で憧れの対象ともなった。
スキャンダルとも呼べない報道であるからして、一連のメディアは騒ぎ立てたくても騒げない状態に立たされることとなった。
それでも、バーナビーと女優の熱愛を騒ぎ立てようとするものなら。
マーベリック事件の際、徹底的にヒーローを貶めたバッシングの盾になった男が返す。
「バニーも至って普通の男ですし、結婚願望いいことじゃないっすか。それに、俺が結婚したのも今のバニーの頃ですよ。」
屈託のない笑顔でワイルドタイガーは言う。
一般女性か、芸能人か。
そんな些細なことは関係ないだろう、とでも言いたげな言葉にシュテルンビルト市民は納得せざるを得ない。
バーナビーの熱愛は、ワイルドタイガーによって守られシュテルンビルト市民に暖かく見守られることとなった。
進学先を決めあぐねている楓は、思い切って父に相談しようと祖母の許可を貰ってシュテルンビルト駅に到着したばかりだった。
時間はまだ、午後の2時を過ぎた頃。
土曜日の午後とあって人通りは楓の想像の上を行く。
コンコースに備え付けられたモニタには、見飽きたと言っていいほどの報道が踊っている。
バーナビー・ブルックスjr.と清純派アイドルとして有名な女性歌手。
何人目の彼女かと楓も数える気にならない。
それでも、バーナビーの人気が下がらないのは偏に彼女たちとバーナビーの別れ際だろう。
両者とも決して相手を貶めない。
むしろ、いい経験をしたとして、良い友人関係を築いてすらいる。
それに関して、
「俺にはバニーと違って運がありますから。だから運命の相手にも1発で出会えた。」
母のことを語っているのだろう。
キラキラした笑顔で、ワイルドタイガーである父は語った。
いろんな女性と巡り会わなきゃ運命の相手なんて見つかるはずはない、と。
運命の相手というなら、どんなことがあっても巡り会うものじゃないのか、と父に言いたい。
言いたいが、父が恐らく相棒を守るために言っているのだと楓はそう思うようにしている。
でなければ。
そうでなければ、いろんな意味で不器用な父が不憫でならない。
待ち合わせとして父が指定した場所に辿り着けば。
休日仕様の父が楓に手を振っていた。
「かえでー!!!」
間の抜けた声だが、とても頼りになる父だということは楓はよく知っている。
未だに楓を子供扱いするが、それでこそ父なのだと思う。
「おう、よく来たな。」
「うん、お父さん、久しぶり。」
何気ない親子の会話が嬉しくて、楓は満面の笑みになった。
「母さんにそっくりになってきたなぁ。」
その笑顔に父が嬉しそうに言う。
「そうかなぁ?」
清楚な美しい女性であった母を思えば嬉しいに越したことはないが。
祖母が教えてくれた"女の子は父親に似ると幸せになれる" という言い伝えを思うと父に似ていたいと思う。
だが、それを言うと父は調子に乗るので言わないけれど。
父の運転する車の中でもラジオがバーナビーの熱愛報道を伝えて楓は堪らずに持ってきたCDを突っ込んだ。
軽快なポップスだが、歌詞は少しだけ物悲しい。
君を守るよ、遠くへいても
君の心が僕になくても
楓はまだ恋という経験をしたことがない。
友人に勧められて聞いた曲で、メロディラインが気に入って買ってはみたものの。
君が好きだよ、 間違いなくね
君を愛することは僕の奇跡
恋というものは歌詞のようにこんなに苦しいものなのだろうか。
女性と浮名を流すバーナビーが、こんな思いをしているのかと、楓は思う。
その楓に、父が申し訳なさそうな声で、今家に来客があることを告げた。
「ごめんよ、かえでぇ。ちょっと、追い返せそうになくてさぁ...。」
慣れた手付きで運転する父の腕はとても恰好いいのだけれども。
口を開けばコレだから、相棒のような浮名が流れないのかと楓は納得したい。
「お父さん、その言い方はやめてって言ってるでしょ!!!」
スパンと切ってはみるものの。
嬉しそうにしているから手に負えない。
「お客さんって、誰?」
「うん、着けば分かるよ。」
困ったように笑う父の表情が、とても柔らかい。
今までみたことのない笑顔が少しだけ楓を不安にさせた。
楓の持ってきた重いキャリーを父が転がし、最近転居したばかりのアパートに迎えられた。
楓がいつ父を訪ねてきてもいいように、独立した部屋のある間取りを選んだのは父の細やかな配慮だった。
マーベリック事件の所為で実はアパートが借りにくくなったことは楓も知っている。
前のテラスハウスだって追い出されるようにして契約が打ち切りになった。
なんとか貸してくれるところを探し出し、これだけの条件を選んでくれた父に楓は密かに感謝する。
「ただいま~。」
客がいるからと父は無用心に鍵を掛けないで出掛けてきたらしかった。
あり得ない、と思いつつ楓がお邪魔しますと父に続くと。
信じられないものを見た気がする。
「おかえりなさい。こんにちは、楓ちゃん。」
あってはならないというか、どうしてここにいるのか。
楓はまるで自分の時間が止まった気さえした。
「は、はい、こんにちは、バーナビーさん。」
そう、娘と離れて暮らす男やもめのアパートに、未だ王子様と持て囃される男バーナビー・ブルックスjr.がいる。
父が顔の前でごめんと手を合わせている。
確かに追い返せないかつ、鍵を掛けなくても大丈夫な客人ではあるが。
先ほどのメディアでの熱愛報道はどうしたのだ、と言いたいのを楓はなんとか飲み込んだ。
学校から貰った資料を広げて、父と話し合うものの楓はなんとなく居心地が悪い。
父は気にすることなく資料を読んではいるが、時折入る横槍に集中出来ないでいるようだ。
「虎徹さん、これなんですけど。」
ダークレッドのシンプルなエプロンを着けたバーナビーはこの上なく様になってはいるが。
料理をはじめたての初心者感が否めない。
元々入手しにくい野菜がないからとオロオロし、父がじゃあ別の野菜で代用すればと返すと、まるで今までの不安を打ち消すかのように満面の笑みを見せてみたり。
スケールを持ち出しては、適当でいいような調味料を量りはじめるも納得がいかず、父に味見をさせあれとこれを少しだけ入れてみろと言われてそのようにしてみればいい具合の味付けに喜んでみたり。
「ねぇ、お父さん。なに、アレ。」
楓は我慢の限界を通り越して父に尋ねてしまっていた。
「聞くな楓。あれでも傷心中なんだ。」
父が盛大な溜息をつく。
「傷心中って...。」
つまりは振られたということにならない。
バーナビーの熱愛報道はいつも破局で終わる。
しかも、バーナビーが悪いわけではない。
相手を大切にし、尊重し、敬意をもってお付き合いする。
王子様と呼ばれる所以でもある。
だが。
麗しの王子様とお付き合いした彼女たちはこぞってこう言うのだ。
「貴方は私の王子様だったけど、運命の人ではなかったの。」
言いたいことは楓には解る。
恋を経験したことのない楓にだってなんとなくだが解る。
今日報道されていた熱愛の記事も明日には破局になるのだろう。
「振られると、ここに来るんだよ。」
困ったような神妙な面持ちで、父は料理に打ち込む相棒を見ている。
「料理の1つも出来ないと、とは言ったけどなぁ。」
料理に勤しむ理由はそれか、と楓は父を見てその相棒を見る。
バーナビーが真剣な表情で料理に打ち込んではいるものの。
見てられなくなった父が、バーナビーからフライパンを取り上げ見事なフランベを実演して見せる。
『お父さん、確かに料理の腕はあるけど。』
2人して狭いキッチンに立つ姿は、ギリギリ許せるのだが。
バーナビーの表情が楓の中では何故かギリギリアウト。
理由は解らないが、それはないと思ってしまった。
少し早めの夕食として振舞われたバーナビー手製のペスカトーレとポテトサラダは思い切り父の味付けだった。
翌日の日曜日はちょっとした大きな祭典が開催された。
進学先の相談も確かに重要だが、楓にとっても実は密かに楽しみにしていた予定の1つである。
父はこういったイベントには職業上顔を出さなければならないこともあって、楓も祭典への参加が許されている。
条件は父や、父の元同僚や知り合いの傍であること。
午後からは、父もフリーとなるので、それからゆっくり祭典を楽しむことを約束してくれた。
元バーナビーの恋人であるが、人気の女性シンガーのライブがあるとのことで楓はそれが見たいと念を押している。
父も、娘が喜ぶ姿を見たいのか最前列を取るとか、肩車してやるとか息巻いている。
父が着替えている間、楓は久しぶりにカリーナと直接話しができた。
「楓ちゃん、久し振り。」
「お久し振りです、カリーナさん。」
今はヒーローとしていないので、ちゃんと名前で呼ぶ。
事件以来アドレスを交換した2人は何かと連絡を取り合っている。
他愛ない話しに始まり、最近の動向を伺えば父は相変わらずであるようだ。
そこでふとバーナビーの話題が上る。
歌手としても活躍するカリーナが懇意にしているのがバーナビーの最近の彼女であったらしく、いい加減にして欲しいと零せば。
昨日、ずっとバーナビーが家に居て居心地が悪かったと楓が素直に言うと。
「...そうなの...。ホント、いい加減にしたほうがいいわ、あの2人。」
普段からは想像もつかない低い声で、カリーナはバーナビーと父に文句を言おうといった雰囲気になる。
そこへ、スーツに身を包んだ2人が登場し、カリーナに思い切り冷たい目を向けられていた。
「な、なんだよ、ローズ。」
剣呑な視線を向けられ、父は居心地が悪いのか取り繕うにもどうしたらいいかと楓に視線を寄越してくる。
「アンタたち、今からミーティングでしょ。楓ちゃんは私と一緒にいるからさっさと、行ってきなさいよ。」
そう言われて、父はカリーナに頼むと言い、楓に言うこと聞けよと残してミーティングに向かう。
バーナビーも、また後でと残してその場をあとにした。
「ちょっと回らない?」
聞けばカリーナの出番は夕方からで、今は思い切り祭典を楽しむのだと言う。
楓はその言葉に甘えて、同行を快くお願いした。
街をあげての祭典らしく、人出の多さは半端ない。
その中で、異様とも言える人だかりが出来上がっていた。
「何なのかしら?」
「行ってみます?」
2人して祭典の熱気にあてられたのように、その人だかりに紛れ込んだ。
人ごみを掻き分けてみれば。
そこには、美しい淡いブルーのドレスに身を包んだ女性たちがにこやかに手を振っていた。
デザインはそれぞれ違うものの、生地は同じらしく見ている者に爽やかさと華やかさを与えている。
「わぁ!!!キレイ!!!」
楓は素直に彼女たちのドレスを褒め、顔を輝かせた。
「サムシングブルーね!!!あんなキレイなブルーは見たことないわ!!!」
結婚に対して理想や期待を抱ける年齢の二人は、その美しさにはしゃいでしまった。
サムシングブルー。
何か青いもの、は花嫁の純潔を象徴するのだが、最近では忠実と信頼の意味あいで使われる。
結婚式に身に付ければ幸せを呼ぶ色とも言われ、実はドレスの中でも人気の色である。
カリーナは最近でこそ母から聞いたブルーにまつわる話を楓に教えてくれた。
"女の子が青を身に付けているときは最強の幸運が傍にあるのよ"
なんて母が言っていたが、是非ともその幸運に肖りたいが。
まだカリーナには楓の母親になる覚悟がなかったりする。
「あら、カリーナじゃない。」
こちらを向いたブルーのドレスの一団の中からカリーナに手を振る者がいる。
「シーナ!!!シーナじゃない!!!」
年齢は少し離れるが芸能活動において先輩として懇意にしている歌手の姿を見つけてカリーナは驚いた顔を隠せない。
よくよく見れば、ブルーのドレスの一団はある共通項をカリーナは見つけてしまう。
「な、なんで、そんな格好してるのよ...。」
嫌な予感しかしない。
それも、ものすごく。
「うん、ちょっとね。」
カリーナは楓の存在を思い出し、連れがいるからとその場を離れようとするが。
「もしかして、ワイルドタイガーのお嬢さん!?」
カリーナの隣にいる少女を見て、シーナと呼ばれた女性は耳打ちする。
どう考えても、同年代で遊ぶほうが楽しいカリーナの年代が、少しだけ幼い楓と一緒にいるという事実は多少でも違和感を与えるのだろう。
「シーナ、それ、本当?」
耳打ちしたはずなのに、鋭く聞き逃さなかった映画女優が寄ってくる。
あれよあれよという間にカリーナと楓の周りはブルーのドレスの一団で囲まれてしまった。
そして、今頃になって楓もブルーのドレスの一団の共通項目に気付く。
王子様に別れを告げた女性。
つまり、元バーナビーとお付き合いしていた女性たちだった。
「初めまして、あなたが楓?」
「とっても可愛い!!!」
「Mr.ワイルドタイガーにそっくりなのね。」
口々に姦しいおしゃべりが飛び出し、TVの中でしか見たことのない美しい女性たちを前にして楓は声も出ない。
「こんにちは、楓。」
貫禄のある美貌で売る人気女優エリナ・ロアルがワイルドタイガーの娘であると知って楓ににこやかに挨拶をしてくれた。
「こ、こんにちは...。」
何といって言いかわからない楓は助け舟をもらおうとカリーナを見るが。
ブルーのドレスの一団の中でもベテランに入る女優を前にしてか、彼女も緊張の面持ちでいる。
「実は、私たちある目的でここに集まったの。」
静かに語るその声は、とても柔らかく、そして情熱的だった。
「楓。貴方はお父様のことは大好き?」
そう問われれば、当たり前よと小さく答えた。
「じゃあ、お父様が幸せになることは嬉しいことかしら?」
父の幸せというものを楓は何度か考えたことがある。
子供じみた考えだが、自分が大人になって幸せになればいいというものだったが。
「もちろんです。」
自分のためでなく、誰かの幸せを願うような男なのだ、父は。
「私たちはね、貴方のお父様に幸せを運びたいの。」
悪戯っぽく笑う彼女は、とても美しかった。
「貴方にも手伝って頂けないかしら?」
ブルーのドレスの一団が口々に楓にお願いする。
もちろん、確りとした理由を教えて貰った上で。
その理由を聞いて、楓は自分の思考が正しいことだと確認した。
父と2人でキッチンに立っていたバーナビーの表情がギリギリアウトだと思った理由。
だから、楓は快く彼女たちのお願いを聞き入れた。
父のいるトランスポーターに戻れば丁度出番が終わったところで、楓は慌ててヘッドパーツを取っただけのスーツ姿の父の手を引いてブルーのドレスの一団の元へと戻った。
なぜ娘が慌てているのか、何か起こったのかと父は言うが。
楓は一刻も早くこの壮大な仕掛けに参加したくてたまらない。
「お呼びたてして申し訳ありません。」
和やかな笑顔を見せるのは、フリーのアナウンサーをしている女性。
彼女もまたブルーのドレスの一団の一員である。
「あ、先日はどうも。」
何度か彼女にインタビューを受けたことがあるので、父は律儀に頭を下げる。
「お久しぶりです、ワイルドタイガー。」
番組で一緒になったことがあるらしく、爽やかな印象を齎す女性はバラエティによく出演するアイドルだ。
「お久しぶり、です。」
ヒーローという職業は実はメディアに出演の回数は多い。
ワイルドタイガーである父も例外ではなく、様々な番組に出演していた。
何度か同じ番組で出演をした女性たちが、父の周りを囲み、周囲に笑顔を振りまく。
父はといえば、一体何が始まるのだといった表情だが、彼女たちに合わせて手を振っていた。
そこに、カリーナが呼び出した皆の王子様もといバーナビー・ブルックスjr.もスーツ姿のままで登場する。
ブルーのドレスの一団とタイガー&バーナビーの姿に人々の視線は否応なく集まった。
妙齢の美しく着飾った女性たちと市民に絶対の安心を約束するヒーローであるタイガー&バーナビーの2人。
絵にならないワケがない。
いつの間にかアポロンメディア以下のカメラも集まっていて、祭典一番の盛り上がりを見せる。
さりげなくマイクを受け取ったのは、バーナビーの最初の彼女であったエルレイン・トーレス。
そして、彼女は堂々と挨拶する。
「祭典に集まり頂きました、シュテルンビルト市民の皆さん、こんにちは!!!」
挨拶の言葉が響くと、一体何のイベントかと周囲が静まり返る。
「今日は、私たちの大切な友人にあることをお知らせすることと。」
彼女はそこで一旦言葉を切り、周囲を見渡す。
「Mr.ワイルドタイガーに幸せをお届けしたいとここに集いました!!!」
一体何のことだ、と父が表情を引き攣らせる。
「バーナビー、私たちの王子様。」
バーナビーが好きだといっていたオペラ歌手の女性が唄うように、バーナビーに呼びかける。
「貴方に、友人一同としてとっても素敵な方を紹介したいの。」
おっとりとした優しい笑顔を見せるのは、マルチな活躍をするコメンテーター。
その言葉を皮切りに、ブルーのドレスの一団はワイルドタイガーをバーナビー・ブルックスjr.の目の前に突き出す。
「いい加減、あんたたち結婚してしまえ!!!」
ものの見事に彼女たちの声がハモる。
一言一句間違えることなく、その声は祭典の会場を揺るがした。
そして会場は静寂に包まれる。
ワイルドタイガーを突き出したブルーのドレスの一団と、突き出されたワイルドタイガーと、バーナビー・ブルックスjr.。
それを見守るシュテルンビルト市民。
その沈黙を破ったのは。
なんとかその場を取り繕おうとした、情けない父の声だった。
「な............!!!お.........お............!!!」
『なに言ってるんすか!!!俺たち男同士ですよ!!!』
そう言いたかったのだろう。
だが、言葉になっていない声がその場に響いただけで取り繕うことすらできていない。
そして。
その場にいた全員。
否、カメラを通して見ていたシュテルンビルト市民全員が、見ているほうが恥ずかしくなってしまうぐらいに真っ赤になったワイルドタイガーを見てしまった。
シュテルンビルト市民は心のどこかで解っていたのだと思う。
無意識のうちにバーナビーをメディアから庇うワイルドタイガーの健気さを。
でなければ、散々に浮名を流し続けるバーナビーをとっくに見限っているだろう。
そして、破局を繰り返すバーナビーに対しても。
付き合った女性たちはこぞって言う。
運命の人ではなかった、と。
だって、彼はすでに運命の人と出会ってしまっていたのだ。
運命の人はずっとバーナビーの傍で彼を守り続けていたのだ。
だから、彼女たちが間に割って入っても王子様は王子様以外になれなかった。
バーナビーと付き合いを続けていく上で、彼女たちは何度「先輩が」「タイガーさんが」という言葉を聴かされただろう。
うんざりするぐらいに聴いた。
それはもう、振ってしまいたくなるぐらいに。
そして、決定的なのはワイルドタイガーと一緒にいるバーナビーの笑顔の眩しいこと!!!
彼女たちには決して向けられることのないその笑顔は、バーナビーの想いを彼女たちに知らしめるのだ。
バーナビー・ブルックスjr.の運命の人はワイルドタイガーその人であることを!!!
彼女たちにそう言われて、閃くものがあったのだろうか。
普段では決して見せないような、そんな顔でバーナビーはワイルドタイガーを見ていた。
ブルーのドレスの一団の中にはプロポーズした女性もいる。
でも彼女は貴方は運命の人でないと、そう言った。
バーナビーはやっと気付いたのだ。
運命の人とは、バーナビーがなるものじゃない。
バーナビーが運命を感じてこその運命の人だということに。
「タイガーさん...僕は、やっとわかったんです...」
女性なら魅了されること間違いなしな、甘い声だった。
ふっと、笑った笑顔はワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹がよく見る"バニーの笑顔"。
(そんな顔、一度としてしてくれなかったわよ?)
(あら、そんな顔も出来るんじゃない)
(そう、それよ、それが恋するオトコの笑顔)
(真髄、見ちゃった)
ブルーのドレスの一団の女性たちは間近でみた本当の笑顔を見て胸を撫で下ろす。
もうこれで、バーナビー・ブルックスjr.は落ち着くだろう。
浮名を流すこともなければ、誰かいい人紹介してくれという無理難題もなくなる。
ただし、ワイルドタイガーが手綱を握っていればという条件つきだが。
「ワイルドタイガー。僕は貴方が...」
堂々とバーナビーの方から熱愛宣言したぐらいだ。
この公開処刑のような状況でもへとも思ってないらしい。
「いうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そこで、ワイルドタイガーの絶叫が木霊する。
それはもう、顔だけでなく体まで真っ赤にしてるんじゃないかという勢いで。
そして彼は思い出したように装備されたワイヤーを射出し、祭典の空へと逃げようとする。
「お父さん!!!逃げちゃだめ!!!」
楓は叫ぶがもう遅い。
だが、その次の瞬間にはバーナビーが空に舞い上がっていた。
遥か上空で、虎と兎の追いかけっこが始まる。
そのやりとりを見ていたシュテルンビルト市民全員が。
一丸となってバーナビーを応援したのは間違いない。
兎角、お互いの気持ち以前に己の気持ちに鈍感だった2人のヒーローは。
王子様の幸せを願う女性たちによりシュテルンビルト市民の寛容なる声援を受けて。
同性ではあるもののカップルとして受け入れられることになった。
翌日の新聞で、結局捕らえられたワイルドタイガーと捕らえきったバーナビー・ブルックスjr.の際どい写真が紙面を賑わせたが。
その2人に対し、数名の女優たちは。
「そんな甲斐性のない王子様は見限って、私のところへいらしてMr.ワイルドタイガー。貴方のように甲斐性があって一途で度胸のあるキュートな男性なら大歓迎。」
という不穏な言葉を寄越している。
バーナビーと付き合った折に触れた事実が。
実は彼女たちからの株を上げたことをワイルドタイガーは知らない。
例えどんなことがあってもワイルドタイガーの左手の薬指が光らなかったことはない。
それは、愛された経験のある女性なら誰しもが理想とする象徴だった。
王子様との結婚が理想でないと知ったとき、女性ならわかるだろう。
死した後でも熱烈に愛し続けてくれる人がいること。
それは女冥利につきる、最高の愛され方。
愛した女性に対しそこまで一途になれる理想の男性を、この世から一人奪った代償は計り知れないと。
今度のバーナビーの敵は女性に切り替わったのだった。
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