うおおおおおん!!!
メインPCの不調が未だに続く状態です。
誕生日に間に合わせられませんでした、すみません。
さて、今回はいろいろ詰め込んでみました!!!
一番楽しかったのは、酔っ払うと幼児退行の気がある虎徹さんを書けたことです!!!
あひゃ!!!
今日の出動が終わり、人心地ついた頃にいつものように誘いがあった。
「おう、飲み行こうぜ。」
誘い方はいつものようだが、アントニオは今日という日は何があっても虎徹を誘ってくれるようになった。
「あぁ、そうだな。」
ほんの数年前までは、そんな誘いは必要なかったのに。
「あら、二人で飲み会~?アタシも混ぜなさいよ。」
しなを作って言い寄ってくる相変わらずのネイサンだが、彼女も理由をすでに知っている。
「3人で飲むか。」
窮屈なヒーロースーツから解放されたからか、虎徹は大きく伸びをする。
「いつものとこでいいか、虎徹?」
スマートフォンを取り出したアントニオはいつものように場所を聞く。
「ん、あぁ、そうだな。」
席のキープはアントニオに任せる。
「あら、ハンサムはぁ~?」
ネイサンが虎徹の相棒がいないことに気付いて、虎徹に問うが。
「先に帰っちまったよ。」
虎徹もネイサンが何を期待しているのか知っているので呆れたように返す。
「呼んだらきてくれるかしら。」
いつの間にか番号を交換したのか、ネイサンもスマートフォンを取り出す。
「やめてくれよ。...それに、来るわきゃ、ねぇんだ。」
最後の言葉は、少し寂しさが混じる。
今日という日だからこそ、というのもある。
だが、未だ彼の信頼は勝ち取っていない。
「ほれ、行くぞ。」
虎徹は足早にいつもの店へと歩き出した。
キラキラしていた、という記憶はある。
ただいま、と帰ればおかえりなさいと声があった。
嬉しそうな笑顔を向けて彼女はたくさんの大好物を並べて待っていてくれた。
子供のようだといわれるが、テーブルのど真ん中を占めたケーキは心が躍った。
彼女も、彼女が抱く娘も。
ケーキを家族3人で頬張るときの嬉しそうな顔。
それだけで。
たった、それだけで。
この世に生まれてきてよかったと、神に感謝した。
だが、おかえりなさいと言った彼女は。
もうこの世にいない。
虎徹と楓を置いて一人、空へ還っていった。
そのときから神への感謝は無くなり、代わりに神への恨みが残った。
差し出されたスピリッツを煽る。
喉を強かに焼き付ける感覚が胃へと下り、一瞬のうちに熱が虎徹を支配する。
伊達に酒屋の息子はやっていない。
アントニオもネイサンも飲むほうだが、虎徹のようにアルコール度数の高い酒を何度も煽るようなマネはしない。
「飲みすぎじゃ、ないか?」
先ほどから虎徹はスピリッツばかり煽っている。
虎徹が顔色1つも変えずに飲むのは知っている。
だが、そろそろ限界もあるのだろう。
虎徹の頬が珍しく紅く染まっていた。
「大した量じゃねぇよ。」
見ればつまみの類の量は減っていない。
「酒を主食にするんじゃあるまいし、だめよ。」
ネイサンが新しい杯を取り上げ煽る。
「やだ、こんな日にスピリッツなんて。」
酒を取り上げられて虎徹は不機嫌そうにネイサンを見た。
「楽しく飲むものよ、お酒は。」
ネイサンはふんと鼻で虎徹を笑うものの。
虎徹の心情を慮ると決して冗談にはできない。
「虎徹、ちったぁ別のも飲めよ。」
アントニオが差し出してきたのはロックのモルト・ウィスキー。
スピリッツと比べると軽いからいいのだろう。
「今日は奢ってやるからさ。」
ウィスキーに口をつけ、虎徹はありがとうと笑ってみせる。
だが。
アントニオもネイサンも気付いてしまった。
寂しそうなその虎徹の笑顔に。
彼女がいなくなる前は、その年で一番の笑顔を見せていたのに。
「虎徹。」
たった一言。
それだけで虎徹を輝くような笑顔にできたはずなのに。
「誕生日、おめでとう。」
「おめでとう。」
アントニオとネイサンの声が重なる。
「ん、ありがとう。」
祝われる年齢ではないかもしれない。
かちんとグラスを交わすささやかな乾杯。
虎徹の心情を知る大人2人はどうしても癒せないものがあるのを知っている。
コップのウィスキーを飲み干し、ことりとテーブルに置く。
「ありがとな、2人とも。」
うつむき加減で穏やかな顔をした虎徹の顔は、珍しく色付いている。
ネイサンはその表情に心の中で口笛を吹いた。
男の色気そのものを引き出した表情。
伊達に過去を重ねなければ出せない表情だった。
「アンタ、飲みすぎよ、やっぱり。」
今まで普段では絶対に見せない表情だった。
そう、今まで。
だが、時折虎徹がこの表情を見せるようになった時期は彼の登場と重なる。
そう、バーナビー・ブルックスjr.と。
その表情の意味はネイサンは気付かないようにはしている。
アントニオは完全に別格としても他の同僚たちも気付いてはないだろう。
ただ、カリーナ・ライルはその男の色気に当てられたというかわいそうな部分はあるが。
高校生の小娘が、本気になった男の色気を僅かに見たのだ。
惚れてしまうのは仕方のないことだろう。
「そろそろ、お開きにするか。」
アントニオも残った酒をぐいと飲み干す。
「だな...。」
店内も客はまばらなほどの時間に差し掛かっていたらしい。
静かに飲んでいたその3人に近付く者があった。
「ここで、飲んでいたんですか?」
冷たい言葉が投げかけられ、3人がその人物を見た。
無表情に3人を見返していたのはバーナビーだった。
「あら、ハンサムったらきて...」
くれたのかと思うが、虎徹の状態を見て考えを改める。
今にも文句が出そうな顔をして、帽子を目深に被りなおしている。
恐らく、今日が誕生日だということは言っていないのだろう。
「帰りますよ、おじさん。」
バーナビーは虎徹の腕を掴む。
「もう、帰るとろだって...。」
虎徹は振り解こうとするものの、やはり酔っているらしい。
ふらふらとした動きが、珍しい酩酊を物語っている。
「お二人とも、明日も仕事でしょう?」
虎徹の抵抗をものともせず、バーナビーは引き摺るように連れ出そうとする。
「明日も仕事あるんですから、こんな時間まで飲まないでください。」
ぎらりと睨まれて、ネイサンもアントニオも言葉が出ない。
「お、おう、これで、お開きだったからよ...。」
「...会計はアタシたち持ちだから...。」
2人して引きつ釣った顔で、虎徹を引き摺っていくバーナビーに手を振る。
「余計なこと、しちゃったかしら...。」
ネイサンはぽつりと零すと、アントニオが何のことかと言葉にせず聞いてくる。
「...おバカさんには、関係ないことよ。」
ウィンクをして、アントニオに答えをはぐらかした。
酔っているという自覚はあるが、前後不覚というほどでもない。
一人で歩ける自信はまだある。
「ちょぃ、バニー、離せって。」
虎徹はバーナビーの手を振り解こうとはするが、怒りを帯びた顔を見て抵抗を止めた。
大人しくバーナビーに引き摺られ、車に乗せられる。
数えるほどしか乗ったことの無い助手席。
「車は?」
乗り込んだバーナビーは酒が入っているので乗りはしないがどこに置いたのを聞く。
「会社に...置いてる。」
虎徹は飲みに行くのを解っていたが、朝は遅刻しそうだったので車で来ていた。
明日は少し早めに起きて、公共機関で出社するつもりだった。
飲酒運転など、ヒーローが出来るはずもなくそのつもりで言ったのだが。
バーナビーは車を自分の自宅とは別方向、虎徹の自宅があるブロンズステージへと走らせる。
「近くの、公園で...降ろしてくれればいいよ...。」
彼女が死んでから、誕生日は3人で静かに飲むのが常になった。
キラキラしていた過去を懐かしむわけではなく、ただ、幸せだった過去に囚われないように。
最後の最後で。
今年の誕生日はツイてない、虎徹はそう思う。
今日1日だけは。
今日という日だけは、バーナビーの顔を。
見たくて、見たくなくて。
それでもバーナビーは虎徹の前に現れた。
何も知らないで、今日がどんな日かも知らないで。
恨みごとは神だけにしようとした誓いを破りそうになる。
バーナビーに言っても始まらないのは解っている。
だから虎徹は押し黙った。
車内は終始無言だった。
やがて、近くの公園に差し掛かる。
「...ここで、降ろしてくれればいいよ。」
だが、バーナビーは車を停める気配はない。
「雨、降ってますよ。」
窓を覗けば、いつのまにか雨が降り出していた。
この時期は雨が降ると底冷えがするほどに寒い。
酒はまだ残っているようで、寒さを感じていなかった。
「うん、でも、歩きたいから、いいさ。」
重苦しい雰囲気のこの中にいたくない。
「風邪を引くつもりですか?」
単調な反論だけを返してくるバーナビーに虎徹はいい加減にイライラとしてくる。
「帰ったら、風呂に入る。それでいいだろう?」
つい声を荒げるが、冷たい視線が返されるだけだった。
はっきり言ったほうがいいのだろうか?
信頼も何もないお前とは今日だけは居たくない、と。
「...着きましたよ。」
虎徹の車が置かれるはずの駐車場に車をきっちり停め、さっさと出て行けと言わんばかりの視線を虎徹に遣す。
虎徹のほうも、不貞腐れたまま車から降りる。
大した雨ではないので走ればそこまで濡れないだろう。
「その...ありがとな...。」
酔っていることは自覚している。
送ってもらったのだから礼は言うべきだと、虎徹は降り際にバーナビーに声をかける。
不機嫌そうな表情そのままで、バーナビーは虎徹を見ていなかった。
ただ、正面のフロントガラスを見ていた。
だから、嫌だったんだ、と虎徹は心の中で悪態をつく。
ぱしゃりと水溜りに脚をついて、水を重く蹴りながら部屋の玄関まで走る。
もう、酔いは冷めていた。
と。
玄関の軒下にシンプルな包みが1つ。
「なんだ、コレ...」
持ち上げてみればずっしりとした重みで、日常生活で有り触れたように虎徹の傍によくあるもの。
鍵を取り出し、玄関を開ける。
包みを抱えたままでもたもたとしていれば。
吐息と、熱と、その存在が虎徹の手に重なるようにして玄関のライトのスイッチを押していた。
「え、あ...。」
見慣れた金髪と鮮やかなエメラルドの双眸があった。
だが、未だにその丹精な顔には怒りが浮かんでいる。
「なん、だよ...」
虎徹が何を言っても頑として口を開かない。
その口が、近付く。
今にも虎徹の唇を奪ってしまいそうなほどの近くへ。
それに応えるかのようにいる自分に気付いて、虎徹は無理矢理振り払った。
「...だぁっ!!!」
間違いでも済まされない話だ。
男同士のキスなんて。
と、男同士のキスを想定していた自分に虎徹は青褪める。
「...風呂...風呂入って、寝りゃいいんだろ...。」
本当はバーナビーを振り解くのが精一杯。
バーナビーの意図を測るまでもなく、虎徹はその男を部屋から追い出そうとするが。
反対に左腕を取られ、外せない指輪に口付けされる。
「あ...」
何をしているのだろう、この男は。
虎徹はただ、バーナビーの真意を探すばかり。
「俺なんかより、あの2人のほうが知っているからですか?」
何のことだというように虎徹はバーナビーを見た。
ばたりと玄関のドアが閉じられる。
虎徹が抱えて持って入った包みをバーナビーは取り上げ、中身を晒す。
重々しい概観は見慣れた虎徹の大好きな銘柄の日本酒と1枚のメッセージカードが落ちる。
HAPPY BIRTHDAY
TO KOTETSU
差出人なんて見なくても解る。
何度と見た相棒の文字。
「...もしかして...ずっと、待って...?」
ぱきんと音をさせてバーナビーが封を開ける。
大吟醸とあってふわりと漂う酒の香りは心地いいが。
コップにすら傾けることなく、ぐびりと瓶ごと中身をバーナビーは飲んでいく。
「やめろって、そんな飲み方!!!」
スピリッツを散々煽いでいた虎徹が言える義理ではないが、慌てて奪う。
「貴方ほどじゃないですが、強いつもりですよ。」
飲んだのはコップ1杯程度。
飲める人間なら、別段に問題はないだろう。
「だからといって、そんな飲み方はするなよ...。」
投げ捨てたフタは見つからない。
何か別のもので代用するかと、虎徹は奥へと向かう。
と。
虎徹の背後からふわりと、バーナビーの熱が擦り寄ってきた。
そして、酷く強い力で抱き寄せられる。
「何、考えてっ...」
抗議しようとバーナビーを振り向けば。
熱い吐息と一緒に虎徹の唇をバーナビーが奪った。
だが、それも一瞬のうちで、虎徹は慌ててバーナビーを押し退ける。
ただ、押し退けるのがやっとだった。
男同士のキスなんて、どうかしている。
そう、どうかしているのだ。
「...酔うにしちゃ...。」
「えぇ、酔っているんですよ。」
冗談にしようとした虎徹を制して、バーナビーは冗談にする気配がない。
「酔った勢いで、いいじゃないですか。」
尚も食い下がる言葉に、虎徹はどうしたのかとバーナビーを見れば。
暗い炎が燈ったような表情でバーナビーは笑っていた。
「酔った勢いって言っても...。」
虎徹は尚も諭そうとするが、バーナビーは有無を言わさずに唇を重ねてきた。
応えるということはしない。
だが、バーナビーは積極的に虎徹の口内を犯していく。
応えないとわかっているのに、熱は絡み付いてくる。
虎徹は振り解くことをためらってしまった。
こうなることを望んでいたのは、自分であったことに。
だが、バーナビーは知らないはずだ。
表情にも出したことはない、と思う。
亡くなった妻以外を抱かないと誓い、温もりを忘れた。
もう二度と思い出さないように、蓋をした。
なのに、思い出させたのは虎徹の唇を奪っている男。
抱かれたいなどと思うなどどうかしていると、 一時の気の迷いにするはずだったのだ。
それを。
この男は一時の気の迷いにさせなかった。
このキスに応えれば、虎徹の想いが全てこの男に伝わるだろう。
それが、虎徹には怖い。
普通でない感覚を知られるのが。
「...いい加減...素直になったらどうです?」
虎徹が考えていたことを見透かしたのか。
バーナビーが虎徹にありえないことを言う。
「...何の...ことだよ...。」
多分、自分の顔は青褪めていると虎徹の自覚はあった。
「それとも、他の男のところへ行って気を引く魂胆ですか?」
何のことだ、と虎徹は言い返そうとするも。
「あの2人なら心配ない、とは思ってましたが。」
腹に衝撃をまともに受けて、虎徹は崩れるようにその場へ崩れこむ。
脚力を自慢する彼のまともな蹴りを受ければ、虎徹ですら耐え切れはしなかった。
「げふっ...ごほっ...何、しやがる...」
恨めしそうにバーナビーを見上げると、見下した視線が酷く痛い。
「何って、おしおき、ですよ。」
さりげなく不穏な発言を顔色一つ変えずバーナビーは言って退けた。
虎徹にはそんなことをされるようなことはしていないと確認する。
だが、バーナビーは容赦なく、虎徹のベルトに手をかける。
「お、い...何...を...」
力任せにバーナビーを引き剥がそうとするが、思うように力が入らない。
肩を抑え付けられ、不自然に尻を突き出す格好で床に沈む。
「...バニ...何、する...」
蹴られた場所に痛みが走る。
虎徹の体の頑丈さを知ってての攻撃だった。
バーナビーの冷たい手がズボンにかかり、下着ごと下へとずり下ろされる。
底冷えの冷気が肌に触れ、自分がどんな格好でいるのか知りたくなくて、虎徹は目を閉じた。
顕わになった虎徹の尻にバーナビーの手が這い、そして奥へと指を伸ばす。
入り口を見つけられ、ぐっと僅かな指が沈む。
「...ひ...あ...」
掠れた悲鳴が喉から零れる。
今まで指すらも受け入れたことのないそこに、バーナビーの指が遠慮なく沈んでいく。
「あ...ぅ...」
気持ちよさのかけらも無い。
ただ、腹の底から競りあがる気持ち悪さだけが残った。
ふと、バーナビーが動く気配がある。
解放されることを期待するが、液体が流れている感覚が尻におぞましく垂れていく。
割れ目からバーナビーの指へ。
そして、バーナビーの指から多少なりともその液体が入ってくる。
鼻に香るのはバーナビーが持ってきてくれた日本酒。
だらだらと流れていく、液体の感触と内側に染みていく例えようのない感覚。
どうにもならないほどに酒精が体の奥に広がっていく。
「あ...ぁ...」
もう、体勢を保っていられない。
今まで何度か正体を失くすまで飲んだことがあるが、それに似ていた。
「...バ、ニ...」
縋ろうしても、バーナビーの位置が掴めない。
世界がまるで回っているような感覚。
ここに、虎徹はいないのだと思わせる感覚。
バーナビーに抱えられているとしても、もう虎徹の思考がついていかない。
「おじさん...貴方が悪いんですよ、折角ずっと待ってたのに。」
虎徹の耳元でバーナビーの声が囁く。
あぁ、やっぱり、待っていてくれたのか。
そう思うと、虎徹は申し訳なさと抱えた秘密のせいで涙腺が緩む。
「ごめん...ごめ...ん...」
食らいつくようなキスが降ってくる。
応えてはならないとしたはずなのに、虎徹はそのキスを貪るように応える。
ただ温もりが欲しかったわけではない。
バーナビーの温もりだけが欲しかった。
それが、定まらない思考の中にある。
「ん...ん...ンッ...」
淫猥な音がする。
互いの舌を絡め、唾液を交わし合う。
ただそれだけの行為なのに、どうしようもなく淫蕩な行為へと昇華された。
思考回路と一緒に虎徹は理性も失っている。
バーナビーがキスをしながら、上着を脱がそうが、突き出された乳首に触れようが、虎徹は抵抗なくただ受け入れ悦ぶ。
キスから解放されても虎徹の感覚は宙に浮いたようなままだった。
それでも。
「ココ、もうこんなになってますよ。」
キスで反応した虎徹のペニスは今にも弾けそうなほどに勃ちあがっていた。
指で輪郭をなぞられると、その感覚だけリアルに伝えられる。
「あぁ...ああぁっ...」
快感はクリアな衝撃となって虎徹の体を走り抜けた。
今にも射精してしまいたい気持ちよさに虎徹は戸惑う。
知られてはならない、と隠してきた想いがバーナビーに知られてしまうのではないかと、それだけが怖かった。
歯を食いしばり、懸命に声を殺す。
引きずり出される快感をやり過ごすには、この方法しか残っていない。
「...ふ...ん、ぅ...う...」
聞こえてくる己の声はたっぷりと艶めいている。
聞かせたくもなければ聞きたくもない。
浅ましいとさえ虎徹は己を嫌悪する。
「他の男には喘いでみせても、俺には喘がないってことですか?」
何のことだ、と虎徹は言い返したいが、口を開けば声をあげてしまいそうで出来ない。
「そんなことをしても無駄です。」
やたらに冷静な声が響く。
虎徹のペニスをゆるゆると扱いていた手の代わりに、絡みつくようなぬるりとした感触が触れる。
「ッ!!!...くぅ...」
信じたくはないが明らかに口淫の感触だった。
忘れていたその口淫の感触に虎徹は必死で耐える。
だが、そうはさせないと、同じ男だから解る快感の場所を責められる。
バーナビーの長い指が陰嚢を弄び、舌が陰茎を捉え根元から先端へと這い上っていく。
やがて、裏筋を舌の先端で突つかれ、キツく吸い上げられる。
「...イッ!!!」
ガクンと体が震え、絶頂に差し掛かるも、虎徹は耐えた。
だが。
亀頭部分を口に咥えられ、裏筋を舐められながら吸い上げられれば。
虎徹は呆気なく解放する術しか持てなかった。
「っああぁぁあぁ!!!」
手淫だけでは感じ得ない快感は、虎徹に酷い焦燥感を齎した。
それに、バーナビーの口の中で解放されたという後悔が、虎徹を苛む。
「ごめ、ん...ごめん...なさ...」
とうとう、バーナビーに酷いことを仕出かしたと虎徹は涙ながらに謝罪する。
ガタガタと震えが止まらない。
「虎徹、さん?」
虎徹があまりに怯える様子に、バーナビーはついに名を呼ぶ。
小さく背を丸めて、泣いているのはまるで子供のようだ。
酒の勢いの所為にはした。
そうでなければ、虎徹は好きだと言わない強情な男だ。
毎夜の如く飲み歩くにあたり、随分と遊んでいるという印象があった。
だが、この怯えようにバーナビーはやり過ぎたという感覚が残る。
もしかしなくとも、飲むだけはするが、遊んだことはないのではないか。
自分が誤解をしていた所為で、虎徹は今手酷い抱かれ方をされているのではないかと疑問が浮かぶ。
「教えて下さい、虎徹さん。男とセックスするのは初めてですか?」
もしこの答えが、望むものでなかったとしたら。
それでも、小さな瑣末なことで、声にしない好きだという気持ちをくれる虎徹を抱きたい。
「はじめ、て...こんなこと、するのは...バニー、しか...」
虎徹は顔を思い切り朱に染めて訴える。
ここで嘘を吐いても、何にもならない。
その答えに、バーナビーの肉欲への衝動が更に昂る。
声に決してしない愛情を少しずつ受け取り、いつしかその愛情を返そうと思った。
側にいることは当たり前。
虎徹と1つになりたいという欲求が、バーナビーを支配していた。
偶然見つけた虎徹のパーソナルデータに、誕生日を見つけた。
虎徹がさんざん好きだと言っていた日本酒の銘柄を取り寄せ、直接ではないが玄関に置いたプレゼントを受け取る姿を遠くから眺めるだけで、今はよかったはずだった。
なのに、虎徹が今日の別れ際に見せた色気を目の当たりにして、自分のものにしたいという衝動に抗えなかった。
「虎徹さん。」
取り出した己の肉欲の塊を虎徹の口に押し付ける。
「俺のも、舐めてください。」
怯えを未だ隠せないところに酷ではあるが、凶悪な肉欲を少しでも抑えたかった。
でなければ、虎徹を壊してしまいかねない。
「で、も...俺...したこと...なくて...」
バーナビーの怒張を目の当たりにした所為か、虎徹は慌てて顔を逸らす。
初心な反応が、バーナビーの嗜虐心を煽る。
「いい歳して、そんなセリフ似合いませんよ。」
そう言われ虎徹は躊躇うように、バーナビーの勃起した肉棒を口にする。
ぎこちない口淫だが、虎徹が舐めているというだけで興奮が高まる。
慣れていないのが手に取るように解るほど、虎徹の舌は拙い。
チロチロと躊躇いがちの舌先は、やがて大胆に触れるようになる。
「んっ...あ...気持ち、いいですよ、虎徹さん。」
バーナビーの賞賛の声が嬉しくて、虎徹は思い切って怒張を口内に導く。
ねっとりとした絡みつく熱い口淫にバーナビーも堪らずに弾けそうになるが、そうなる前に引き抜く。
「ん...」
こくりと喉を揺らして、虎徹は己の唾液とバーナビーの先走りの体液を飲み込む。
じわりと広がる味は初めてのものだが、淫靡な男の味が虎徹の喉を焼き尽くす。
体の奥に渦巻く炎を、解放されたくて堪らない。
再び、後肛にバーナビーの指が這い、入り口に沈む。
気持ちのよさなどないと構えるが、不自然なほどの快感が突き抜ける。
「あッ...あぁぁっ...」
前立腺への刺激に加え、体の奥に潜む快感の炎。
虎徹を容易く後肛への刺激で感じさせるには充分な要因だった。
流し込んだ日本酒がぐちゅりと音をたてる。
とろとろと零れる虎徹の体液と混ざって、中を擦られると非常に気持ちがいい。
虎徹は我を忘れて、嬌声をあげた。
「ふ、あ...ん...あんっ...」
だが、体が足りないと訴える。
圧倒的な質量が欲しいと体が強請る。
無意識のうちに虎徹はバーナビーを求めた。
その求めに対してバーナビーも応える。
指を引き抜き、解された後肛へと触れるのはバーナビーの怒張。
ゆっくりと入り込んでくる感触に、虎徹の体はガクガクと震える。
目一杯に脚を拡げ、腰を高く上げた体勢は、己がバーナビーの雄を飲み込む様を虎徹に見せ付けた。
「ひ...ぁ...入っ、て...」
体が強請った以上のものが、虎徹の中へと押し込まれる。
貫かれる感覚というものは、虎徹の総てを変えていくようだった。
やがて根本まで押し込まれた怒張は。
虎徹の中をその質量を以って駆け巡る。
「あぁんっ...やッ...」
過去に感じたことがない快楽の感触。
「はんッ...あんっ...」
淫猥な音さえさせて、虎徹の中がバーナビーの怒張が突き入るのを悦んだ。
見れば虎徹のペニスも再び揺れている。
とっておきの一番濃い体液を虎徹の中にぶち撒けたい、バーナビーの中に衝動が走る。
「あっ...あっ...らめ、ぇ...」
ぐちゃぐちゃとかき混ぜられる内側がひくりと脈打つ。
虎徹が内側から悦んでいると思うと、愛おしくてたまらない。
艶のある喘ぎがバーナビーを呼んでいるようにすら感じさせた。
「虎徹、さん...虎徹さん...」
バーナビーはガツガツと腰を打ち付けながら、虎徹を呼ぶ。
そして、喘ぎが零れる唇を奪い、何度も舌を絡めあう。
応えて貰えることが嬉しい、と虎徹は想いを知られる怖さも忘れて必死で口付けにしがみついた。
最初で最後の夜となることは分かり切ったこと。
それでもこの一夜だけは、ただバーナビーに愛されたい。
声には出来ない想いが、涙となって零れる。
どうか、この想いが届きませんように。
朝になれば、ただのバディに戻るのであれば尚更。
「ふ、は...ぁ...」
口付けから解放されるのが名残惜しい。
今だけなら赦される、と。
「ば、ナビ...ぃ...」
虎徹も名を呼んだ。
ずくりと穿たれる怒張の衝撃が殊更に強くなる。
最も深い処へと到達しようと、力強く突き入る。
脳天を直撃するかのような例えようのない刺激に、虎徹はもう耐えられそうにない。
「あ...も、イく...もぅ...む、り...」
とろりと蕩けるような色香を残して、虎徹の体が震えた。
バーナビーの怒張を最奥にまで誘うようなうねりが、締め付けとなる。
「虎徹さんッ...中、に...たっぷり、出しますからね...」
きゅうきゅうと締め付ける感触にバーナビーも昇り詰める。
強かに力を込めて、バーナビーは虎徹を突き上げる。
「ッあぁぁあぁん!!!」
内側に染みていく熱と衝撃を受け取った虎徹は、己の腹に自らの精液を零しガクガクと体を揺らして果てる。
女のように、恋しい男の精液を受け取り果てることが、この上なく幸せだった。
朝には消える幸せだが、今はそれに縋るのは許されるだろうと、ゆっくりと意識を手放していく。
「...っ...く...」
若さ故か一際長くバーナビーは虎徹の中に精を放つ。
虎徹が未だ震えながら、精液を受け取る姿はバーナビーの独占欲を酷く煽る。
虎徹の心は知っている。
常にバーナビーを見るあの優しい眼差し。
気付かれていないと思っているのは本人ばかりで。
虎徹の穏やかな秘められた愛情は確かにバーナビーだけに向けられたもの。
だが、それだけでは足りない。
虎徹の全てを手にするまでは。
「愛しています、虎徹さん。」
意識を失った虎徹の頬を唇でなぞり、一筋の涙を見つける。
その涙の意味に気付いて、虎徹に甘く口付ける。
今、腕にあるのは虎徹の体。
最初から、一夜の関係にするつもりはない。
どうやって、思い知らせてやろうかと、バーナビーはもう一度口付ける。
翌日のトレーニングセンターで会うだろうから、とネイサンは半ばニヤニヤしながら虎徹とバーナビーの様子を楽しみにしていた。
そして、虎徹の姿を見つけると同時に、面白半分で昨夜は何があったのか聞いてやろうとしていた意気込みを消した。
挙動不審の虎徹を見れば答えは明白。
「やっぱり、余計なことしちゃったわね。」
後ほど見たハンサムのどこか余裕のある雰囲気が決定打となって、ネイサンは苦笑を漏らした。
「余計なことってなんだ、ファイヤーエンブレム。」
昨夜からアントニオは余計なことが気になって仕方ないらしい。
虎徹の挙動不審な姿に好い加減気付いてもいいはずだが、これが彼の持ち味でもあるから仕方ないと諦める。
「言ったでしょ、おバカさんには関係ないって。」
たった一人の誕生日にするよりはと気を利かせたが、 帰ってこない妻を心配して旦那が迎えに来たとは口が裂けても言えなかった。
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