step10:合流
ハルバードと対峙していたグレートフォックスが氷山に叩きつけられた後、
地上に降った大量の影虫は、亜空軍となりマルス達を襲っていた。
戦艦を追いかけたメタナイトの身を案じる暇も無く受けた強襲に、
マルスとアイク、リュカとホムラ、そして山から下りてきたポポとナナは、
ほとんど防衛戦に近い状態で耐えていた。
それとするには、あまりにも少なすぎる人数で。
「うわ……っ!」
「リュカ!」
リュカの叫び声に、マルスは振り向いた。
見ればリュカが自分の持ち場から離れたところで一人、三体の敵に囲まれている。
ふわりと跳んで一体を斬り、返す刃でもう一体を倒すと、
マルスは空いている手でリュカの背を軽く叩いた。
「リュカ、あまり前に出るな。ホムラと離れないで、空中の敵を相手にするんだ」
「……う、うん! あの、ごめん、なさい……」
「無事なら、それで良いんだよ。……大丈夫。もう少しだから、頑張ろう」
「うん。ありがとう」
敵の上空を跳び、リュカはリザードンとゼニガメに指示を出すホムラの傍に戻った。
現在彼らは、その身には戦う術を持たないホムラと気後れしがちなリュカを中央に、
残りの人員でその周囲を守るように戦っている。
アイクが北を、マルスが東を、ポポとナナが西を、そしてポケモン達が南の一帯を。
ポケモン達は空から飛来する敵も相手にしている為、南側が手薄になり易い。
ゆえにさっきは、すり抜けてきた敵を倒そうと、リュカが前に出てきたのだが。
それで無くとも、ただ守るだけで攻め込めないこの状況は分が悪い。
子ども達の顔には疲労の色が確実に浮かんでいる。
アイクは確実に敵を倒すが、足の遅さが災いして取りこぼす数が多い。
マルスは多くの敵を一時的に足止め出来るが、完封するまでには至らない。
ポポとナナは効率良く戦っているが、先程からナナだけが集中的に狙われている。
片方が戦闘不能に陥れば、彼らの戦力は大幅に落ちる。
「アイク! 左だ!」
「!」
マルスの声に、アイクは素早く反応した。咄嗟に振り上げた剣が赤い核を砕く。
息を吐く間も無くマルスは敵の体当たりをかわし、流れるような動作で足を切り落とした。
「……っ……」
いつまで。
戦えば良いのだろう。大丈夫、なんて言ってみたが、大丈夫なわけが無い。
ひとつひとつは小さくとも、その数が膨大であれば戦力を覆すことは可能だ。
空から、地上から、亜空軍は次から次へとやってくる。
数の暴力の恐ろしさを、マルスはいやという程よく知っていた。
隙を見せては駄目だ。柄を握る手に力を込めて、纏わりつく不快な空気ごと切り裂く。
何か、何か、この状況を打ち崩す何かが無いか。
立ち止まり、一度、深く息を吸う。再び敵の中に飛び込もうと踏み出した、その時。
「マルスくん! 後ろ……っ!」
「!」
切羽詰ったナナの声がマルスを呼ぶ。
充分過ぎる速さで反応したが、いるはずの敵は既にそこにはいない。
「何……、」
ほんの一瞬気を取られて、そしてすぐにマルスは理解した。
上だ。
飛び上がった後垂直落下してくる、白い鳥の姿をした敵がいたことを思い出したのだ。
しかし、その一瞬が命運を分けた。身体が異常な風を感じる。
後ろに跳んだが避け切れず、マルスは背中から倒れ込んだ。
鋭く尖った嘴が地面に突き刺さる。マルスの動きを封じるように。
「マルス!」
「アイク、駄目だ! そこを離れたらホムラ達が……!」
マルスの元へ駆けてこようとするアイクを制止し、なんとか起き上がろうとする。
だが目の前には既に、マルスの何倍もの大きさを誇る巨体が迫っていた。
駄目だ。この距離では、防ぎ切れない。
振りかぶる動作に対し構えた剣は、あまりにも無力だ。
抵抗のように睨んでみても、そんなものには何の力も無い。
アイクが呼ぶ声、ホムラのリザードンが巻き起こす大気の流れに、リュカの震えた叫び。
同時に立ち止まってしまったポポとナナの姿を、奇妙な程に遠く感じた。
こんなところで、倒れるわけにはいかないのに。
「…………っ!」
ここまでか。
歯を強く食いしばり、突き出した剣を握り締める。
何も考えられないくらいに、相手の瞳を凝視する。
心の無い、無機質な眼差しがそこにあった。
それがマルスの命を捕らえようとした、
その瞬間。
「 !!」
「え……」
マルスの目の前にいた敵が、声にならない声で吼えた。痛みに呻いているように。
見れば胸と腹に一本ずつ、形状の違う矢が背中側から突き刺さっていた。
胸に当たった方は光となり消えてしまったが、マルスはそれには見覚えがあった。
勢い良く顔を上げる。
直後、矢の痛みに喘いでいた巨体の胴体を一刀両断した刃の軌跡。
影虫となり崩れた体の向こうに、久しぶりの姿があった。
緑の服、緑の帽子。空から降り注ぐ眩い光が、金色の髪を弾く。
「大丈夫か、マルス」
「……リンク……!」
優しい声も、微笑みと一緒に差し出された手も、なにもかも同じだ。
そこには、リンクがいた。……ああ、無事だったんだ。心のどこかがふわりと緩んだ。
手を取ったと同時に腕を強く引かれて、マルスは立ち上がる。
「リンク、良かった。無事だったんだな」
「ああ。そっちも無事で良かったよ」
「懐かしむのは後だぞ、二人とも!」
また一つ、聞きなれた声がする。
視線を向ければ、崖の上からマリオが跳び下りて来たところだった。
その隣にはヨッシーが、空には、カービィとピットがいる。
それもそうだな、と呟き、リンクはマルスに尋ねる。
「マルス、今の状況は?」
「……氷山の頂上から、敵が大量に降ってきたんだ。とにかく数が多くて……。
だけど、もう、大丈夫。一緒に、戦ってくれるんだろう?」
「当たり前だろ。そのために急いでたんだからな」
任せろ、と力強く頷くリンクに、マルスは笑ってみせる。
周囲を見渡し戦力を確認して口を開いた。今までの不利を覆すために。
「カービィは、ポポとナナの方へ。マリオさんとヨッシーさんは、南へ。
ホムラは空の敵に集中していい。リュカも、ホムラを手伝ってあげて。
ピットはアイクの援護を リンクは、僕と一緒に!」
マルスの指示で、遅れて来た五人は一斉に散らばった。
人数が倍になったことで精神にも余裕が出てきたらしい、皆の表情は前向きだ。
「カービィ、俺は大丈夫だから、ナナにやつらを近づけさせないでくれ!
さっきからずっと狙われてたんだ!」
「ええええっ、ほんとぉ!? ナナ、だいじょーぶ!?」
「うん……っ、大丈夫、まだ戦えるから! 少し、疲れた、けどね……。
でも、ポポがいるし、カービィが助けてくれるなら」
「まかせてよ! ボク、すっごいつよいんだから!」
小さなからだで自由に戦うカービィの後ろで、ポポとナナは背中を合わせ笑いあう。
「マリオ、ヨッシー、空はまかせて! ……頑張るから!」
「おう、任せるぞリュカ! よしっ、行くぞヨッシー!」
「はいぃー、行きましょう! ホムラさんもー、よろしくお願いしますねぇー」
「戦うのは俺じゃないんですけどね!
……後少しだ! 頑張れ! リザードン、ゼニガメ!」
押され気味だった南側でも、頼もしい声が聞こえる。
「よろしくな、団長さん。俺の足、引っ張るなよ」
「……。そっちこそ」
神弓を分離させ好戦的な顔つきのピットに、アイクはしかめっ面を返した。
その様子を見て、リンクは苦笑する。
「……何か、あんまり相性良くなさそうだな」
「そうかもな。……だけどアイクは、私情で戦闘を不利にさせはしないから」
リンクに軽い調子で返しながら、マルスはなぜかひどく懐かしそうな表情をしていた。
それは誰かに気づかれる前に引っ込み、後に残ったのはいつもの端整な横顔だったので、
誰もその時のマルスの心を、理解できはしなかったのだが。
「じゃあ、オレ達も行こうか。……無理はするなよ、マルス!」
「ああ。頼りにしているよ、リンク!」
リンクとマルスは、敵の中に跳び込んだ。
先刻までの劣勢なんか思い返せないほどあざやかに、二人は正確に剣を振るう。
それなりに長い付き合いだ。
二人の息はぴったり合い、相手の数は瞬く間に減っていった。
やがて時は経ち、戦いも流れを変える。
陽がすっかり傾いた頃、勢いに乗った戦士たちによって、亜空軍は全滅した。
***
「……だけど、本当に無事で良かったよ。……信じてたけどな」
渓谷の戦いが終わった後、一行は海の見える場所まで移動し、そこで休憩をとっていた。
空が燃えているような、赤い夕焼けが美しい。
既に息の一つも乱れていないリンクの、相変わらず底知れない強さに感心しつつ、
マルスは剣を抱きしめたまま、やわらかく微笑み返した。
「僕は、一晩も経たないうちに……メタナイト卿と、アイクにも会えたから。
……アイクは特に、合流してからは……ずっと、僕の傍にいてくれたしな」
「そうだったのか。……ありがとな、アイク」
「別に、あんたに礼を言われる筋合いは無い。俺が彼女を守りたかっただけだ」
「……。お前、まだ“彼女”とか言ってるのかよ……」
ぽつりと呟くと、マルスとアイクは揃って首を傾げた。妙なところで天然だ。
実際のところ、リンクだって他人のことは言えないくらい天然なところがあるのだが、
現在この場には、そこのところをつっこめる者がいなかった。
「リンクは? ずっと、ピット達と一緒だったのか?」
「最初から、では無いかな。オレは最初は、ヨッシーさんと一緒だったんだ。
でも、ピット達に会ったのは、六日か七日くらい前だから……」
「僕とリンクに比べれば、ずっと、だな」
無事で良かった。そう言ったマルスに、リンクもまた笑い返した。
その時。
「おい!」
ふいにマリオが怒鳴るように叫び、三人を呼んだ。
リンクが、続いてマルスとアイクが、顔をそちらに向ける。
マリオは崖際に立ち、赤い水平線の方角を指差していた。
示した先には、空に浮いている、としか言えない島がある。
否、正確には “あった”。
「え……?」
「……な、何だ、あれ……。あれは……」
「……ポポとナナは……あれは見たことが無かったのか?」
皆の目の前で、その島は爆発した。
中心から醜く歪んだその場所が、深く暗い闇に呑み込まれていく。
愕然としているポポとナナに、マルスがぽつり、と言った。
「……この“世界”は今、あちこちがあんなふうに切り取られているんだ」
「き……切り取られて、る?」
「そうとしか言いようが無い。……屋敷に、パソコン……があっただろ?
あれに良く似たものが、黒い爆弾を持ってきて……」
マルスは戦場の砦で見た光景を話す。
ロボット マルスはそう呼ばれることを知らない が運んでいた爆弾。
爆弾は爆発すると、自らを運んだ彼らごと巻き込んで、周囲を飲み込むこと。
そしてすべてが終わった後には、ただ黒い空間が出来上がっていること。
マルスの話に、ポポとナナ以外の者は、ただ頷いた。
知らなかったのは二人だけであるらしい。
それ以外の者は知っていたのは、世界中で同じことが起こっていることの証明になる。
「……でも、変だな」
黙って聞いていたピットが、ふと口を開いた。
「変?」
「いや……あの爆発、随分、規模がでかくねえか?
こんなところからでも、形がはっきりわかったんだ。あの島、それなりの大きさだろ。
なのに、まるごと呑み込まれてたぜ?」
「……。……それは、確かに……」
「わわわわ、み、みなさぁーん! な、何かこっちに来てますよぉー!」
「!」
慌てふためくヨッシーの声に、リンクとピットは瞬時に弓を構え、矢を番えた。
目を細め、標的を見据える。
夕焼け空にぽつんと、黒い姿。
鳥のように見える、しかしそれより遥かに大きな何かが、確かにこちらに近づいてくる。
「……。あれは……」
「……何か、見覚えがあるな」
「!! あ……!」
リュカが嬉しそうな声を上げた。
それはぐんぐん近づいて、あっという間に、誰の目にも姿が確認できるようになる。
確かに、見覚えがあった。
あれは、ファルコン・フライヤー。ファルコンの所有する、空を行く乗り物だ。
但し、外が見慣れたものであっても、中もそうだとは限らない。
リンクとピットは二人とも矢を向けたまま、残りの者もそれぞれ武器に手を掛けた。
その場を離れて崖際を空ける。おそらくあちらにも、こちらの様子は見えているだろう。
その大きさまで認識できる距離になると、フライヤーは速度を落とした。
ゆっくりと慎重に、空いた崖際に着陸する。
マリオ達の警戒の中、やがて吹き上げる風までもが完全に停止した。
後部上側のドアが開く。
軽い足音が中から聞こえる。真っ先に飛び出してきたのは、
「リンク!」
「 え、」
赤いほっぺ、黄色いからだ。長い耳、長いしっぽ。
その声を聞いた途端、リンクは構えていた弓を警戒心ごと収めた。
目の前に、下りてくる。
小さな、リンクの親友が。 ピカチュウが。
「……ピカチュウ!!」
「リンク! ……無事だったんだ、良かっ……」
ピカチュウはたたたっ、と地面を駆ける。
しかし、その光景を見ていたマルスと、そしてピットの予測に反して、
その足はリンクを目前にしてぴたりと止まった。
「リンク」
真っ黒なまるい瞳が、リンクの空色の瞳をじっと見つめる。
「リンク。……あなた、リンク?」
「……!!」
その、ピカチュウの言葉に。
ピットが、大きく目を見開いた。
しかし当のリンクは、苦笑を漏らしただけだった。予想していた、と言わんばかりに。
「ああ、オレはリンクだよ。
……でも、お前はやっぱり、すごいな」
「……そう。……じゃあ、いい」
リンクの返した答えの意味を正しく理解したのは、ピカチュウだけだった。
にっこりと笑うと、ぴょん、と跳んで、リンクの腕に飛び込んだ。
「リンク。無事で、良かった」
「ああ。お前もな。……心配したぞ?」
「うん。大丈夫。サムスさんが、助けてくれたから」
「そっか。……できれば、オレが行きたかったな」
「それはしょうがないでしょ。散らばった場所が違ったみたいだし」
「それはそうなんだけどさ……なんていうか」
うまく言えないな、と笑うリンクに、ピカチュウはありがとう、と返す。
ようやく出会った親友同士のやりとりに、不信感に満ちた視線を注ぐもの。
深海の色の瞳に気づいたピカチュウは、不意打ちのように話しかける。
「ピットさん」
「……え、」
「大丈夫。このヒトは、リンクだよ。信じて」
「…………」
この小さな子どもの言葉には、何の根拠も無い。少なくとも、ピットからしてみれば。
しかし、確かな説得力があった。
リンクとピカチュウの絆の強さは、ピットであっても疑えない。
そして。
「そっか。
……ピカチュウが言うなら、信じてやってもいいかな」
ピットはようやく、リンクに対する警戒心を解いた。
嬉しそうに笑うピカチュウと比べて、リンクはなんだか複雑そうだ。
それにはいろいろと理由があったが、どうでも良いことだったので、
口に出すことはしなかった。
そんなことをしているうちに、フライヤーの中からは、次々とヒトが出てきていた。
それぞれ互いの無事を喜びあったり、傷の具合を確かめてみたり。
こんな状況なのに、ただ屋敷の者と出会えただけで、この場はひどく明るくなる。
「……あ……、」
その時、もう一つ。
反対側の空から、巨大な戦艦が降りてきた。
不穏な赤い雲を纏わないその姿に、カービィの表情がぱっと変わる。
「……卿」
メタナイトがハルバードを取り返したのだろう。マルスはそう確信した。
戦艦の出入り口が開くより前に、カービィがその場所に駆け寄っていく。
重々しい音をたてて下りた扉の向こう側から、メタナイトが姿を現すと、
カービィは本人の了承も受けずに、元気良く飛びついた。
「メタきょんーーーっ! よかったあぁ、やっぱりメタきょんだぁっ!」
「……。その呼び名はやめろと言っているだろう、カービィ」
「メタナイト卿」
カービィを適当にあしらうメタナイトに、今度はマルスが歩み寄る。
斜め後ろには、アイクを伴って。
メタナイトはマルスに気づくと、そちらに身体ごと向きを変えた。
「マルス殿、勝手な真似をしてすまなかった。そちらは問題無かったか?」
「はい。皆が助けてくれましたし、リンク達も途中で合流したので……。
……卿も無事、ご自分の目的を達成なされたのですね?」
「なんとか……な。……存外、良いこともあった。
それに……艦内で、屋敷の者にも出逢えたぞ」
「! 本当ですか!?」
「ああ。おそらく、今出てくると思……」
「マリオ!」
メタナイトが言い終わるよりも前に、慣れ親しんだ可愛らしい声が響いた。
戦場からはまるで浮いている美しい花の色のドレスが、ヒトの群れを掻き分ける。
「マリオ、マリオ! ああ……無事だったのね!」
「……姫……!」
ピーチは迷わずマリオを見つけると、自分よりも小さなその背中を抱きしめた。
明らかに驚き、喜び、その後わたわたと慌て出すマリオを、マルスは微笑ましく眺める。
ということは、と視線を巡らせてみれば、案の定、リンクの傍にはゼルダがいた。
心底ほっとしたらしい、気の抜けた表情のリンクは、いつもよりも幼く見えた。
「……大した人数だな」
「そうだな。……でも、それでも、まだ……全員ではないんだな」
「この場にいる全員が無事なんだ。他のやつらも無事だろうさ」
アイクの不器用な励ましに、マルスはありがとう、と感謝の言葉を述べる。
空が、赤い。
美しい夕焼けは、まるで世界を呑み込んでいくようだ。
陽の眩しさに目を細めていると、ピーチの声が耳に飛び込んできた。
「そうよ、マリオ! ねえ、何があったの?」
「え、え? 何がですか? 姫」
「あの島よ! ハルバードから見ていたの、急に爆発したでしょう!?」
「ああ。それなら、私達が見ていたよ」
サムスの発言に、その場にいた全員の視線が集中した。
喜びにすっかり忘れていたが、そういえばマルス達も、あの爆発を疑問に思っていたのだ。
ファルコン・フライヤーに乗っていたチームが、少しずつ順番に語り出す。
彼女たちが、あの島で見た出来事を。
高度な文明、爆弾工場、戦っていた未知の者達。
数え切れないほどの爆弾が一度に起動したために、あの規模の爆発が起きたこと。
フライヤーから降りてこようとしなかったロボット エインシャント卿を、
ドンキーが無理矢理引きずり出してきたので、その話に嘘が無いことが証明された。
証明されたのは、ロボット達だけではない。
あの大きな爆発を、ガノンドロフが引き起こしたのだということ。
そして、そのガノンドロフもまた、“何か”の命に従ってるようであった、という、
ピカチュウの直感。
マリオ達は、デデデとの遭遇を話した。メタナイトも、戦艦を奪われた時の話をした。
リュカはワリオの話を、ディディーはクッパの話を。
これまでの旅の経緯で、推測で、皆の結論はひとつになる。
“何か”、いる。
クッパを、ガノンドロフを、ワリオを唆し、この“世界”を戦場に変えた何か。
なぜ、この世界は、戦場になったのだろう。
そんな疑問のすべての答えが、向こう側に、確かに、いる。
「……この場にいないやつのことは心配だが……先に進むしかないだろうな。
これ以上、放っておくわけにはいかん。
問題は、“何か”が“何”なのか。それから、どこにいるかということだが……」
そればかりは、わからない。どうしても、そこで止まってしまう。
敵に会う他に、もう、疑問に答えを出す方法は無いだろう。
どうしようもないので、彼らはひとまず、一晩そこで休むことにした。
今日一日で様々なことがあった。
英気を養い、体を休めることも、また大切だ、と言って。
その夜。
「…………」
「……ピカチュウ? どうした? 眠れないのか?」
「……リンク」
映り込んだ月がゆらゆら揺れる海を、ピカチュウは崖際から見つめていた。
島のあった場所は切り取られ、そこには苦しくなるような闇がある。
すぐ近くで横になっていたリンクが、いつまでも眠る気配を見せないピカチュウに気づき、
囁き声でそっと話しかけた。
「……リンク。あのね……」
「うん?」
「……。……やっぱり、なんでもない」
「……? そうか? それなら、いいんだけど」
早く寝ろよ、と笑うリンクに素直な返事をして、ピカチュウは月を見た。
美しい満月だ。
どんなに手を伸ばしても、結局、届くことは無い。
「…………」
皆が自分の持っていた情報を差し出した時、ピカチュウは一つだけを隠していた。
誰にも喋らなかった。サムスも、黙ってくれていた。
あの島が無くなる前、銀色の髪の魔物が告げた言葉。
ピカチュウだけが、“何か” 敵に直接会っていた、ということ。
そして、それをすっかり忘れてしまったことも。
「…………どうして……」
月の傍にある、不自然な闇の空間を見つめる。
ピカチュウは、少しずつ思い出していた。
名前は出てこない。顔も出てこない。ただじわじわと、心にかけた蓋が剥がれ掛けていた。
思い出そうとすればするほど、怖くなる。
どうして、怖くなるんだろう。
怖くなる理由なんて、ひとつしかない。
ピカチュウには、わかっていた。それを、認めたくないだけで。
「…………」
静かな夜だ。この“世界”を侵食している脅威を、一切感じさせないほどに。
明日にはきっと、すべての真実がわかることだろう。
それが、この状況にどう影響するのか。ピカチュウには、わからなかった。
体の疲れには抗えない。うとうとと、少しずつ瞼が重くなる。
やがて自然に眠りについたピカチュウの背中は、リンクが無意識で抱き込んだ。