ずっと昔。
そらは、うみのいろが映って、あおいのだと、信じられていた。
うみというのは何か、と尋ねたら、水が棲んでいるところだと言われた。
水というのは、少なくとも、色が無いように思えた。
そらは、うみのいろが映って、あおいのだと、信じられていた。
「それなら、ねえ」
それが本当なのかどうかは、わからなかったから。ただ、漠然と思った。
「そらっていうのは、なにいろ?」
色の無い色の名前なんか、知らなかったから。
青の彼方に scene.2
「…………流石に、落ち込むな……。」
「……どうしたんだ?」
リビングのテーブルに肘をついて、リンクは、はあぁ、と大きな溜息をついた。
花瓶の水を替えて戻ってきたフォックスが、
そんなリンクを、ちょっと奇妙そうに、見ている。
「……あー……。……いえ、ちょっと……。」
「ピカチュウのことか?」
「…………」
さらり、と答えを言い当てたフォックスを、リンクは上目で睨む。
フォックスは、ふ、と、仕方なさそうに笑った。
「お人好しなんだなあ」
「……人のことは言えないでしょう、フォックスさん」
「お前程じゃないよ」
リンクの向かい側に座って、フォックスはテーブルの隅の、本を引き寄せた。
ぱら、とめくって、そしてリンクに話しかける。
「……でも、すごいよな。お前、」
「は? ……何がですか?」
「ピカチュウのことだよ。……諦めないな、と思ってな」
「……。……そりゃあ……、」
ぶすったれて、リンクは視線を逸らす。
……もう、ここ何日も、リンクは、無謀な戦いを挑み続けていて。
傍目から見ると、いっそ憐れに思えるらしい、フォックスは、
ぱらぱらとページを流した本を閉じて、けらけら笑った。
「ま、そこが、お前のいいところだよな」
「……褒められてるんですか? それ」
「ははは」
一応な。フォックスは笑いながら続ける。
「お前の人の良さに免じて、一つ、いいこと教えてやるよ」
「……いいこと……?」
かたん、と、フォックスは席から立つ。
どうしたんですか、と問うと、
カービィとネスと、街の探検に行く約束をしたんだ、と答えられた。
「もしも、もしもだが。諦めたくなったらな、」
「…………」
「自分のやりたいことを、自分の思うままにやってから、諦めな」
「……。」
ひらひらと手を振って、フォックスはリビングから出て行く。
しん、と、誰もいないリビング。
遠くの部屋から、かわいらしい、子供の声が聞こえる。
「……諦めて……、か、」
誰が、
傷つけたんだろう。
リンクの“世界”では、リンクは、魔物や動物と話すことは、
ほとんどできなかったけれど。
小さな生き物にだって、事情があって、気持ちがある。
ピカチュウの、気持ちを聞いて、ようやく気づいた。
当たり前だと言われれば、確かに当たり前で、
それでも、言われなければ、一生気づかないだろう、小さなこと。
「…………」
目を閉じる。
すぐに開いて、
リンクはリビングを、後にした。
******
車道という、名前の通りに、その道には、車が走っている。
この街に、自分達以外の、誰が住んでいるのか。
ピカチュウは、知らなかった。
そしておそらくは、まだ、屋敷の、他の人間達も。
「……おんなじ、かなぁ」
ピカチュウの“世界”にも、車道があって、車があった。
ピカチュウ自身は、森から出ずに暮らしていたので知らないが、
羽を持ったポケモンが、時々尋ねてきて、教えてくれた。
森の外の世界の魅力。
それでもピカチュウは、車道にも、車にも、興味は示さなかった。
「……人間のつくるものは、やることは、
いつも……人間以外を殺す」
綺麗に舗装された歩道に立って、ピカチュウは、時々通り過ぎる車をじっと見つめる。
「……僕達も、おんなじ、なんだろう、な……」
ポケモンだって、時々、人間を殺す。
不慮の事故、復讐、悪い人間の力を借りて。
「…………」
車道をじっと見つめたまま、ピカチュウは溜息をついた。
じろ、と、斜め後ろをじっと見た。
「……また来たの?」
「通りがかっただけだよ」
リンクが、立って、にっこりと微笑んでいた。
「何してるんだ?」
「……何でも、いいでしょう」
「そうなんだけどさ。
……訊かないと、わからないだろ?」
「…………」
リンクは、いつもの通り、年相応の青年らしい微笑みを向ける。
ピカチュウは、そんなリンクを、にらみつけた。
ぎり、と、口の奥を、噛んで。……リンクに微笑まれると、気分が悪い。
この、人間の何が、自分をこんな気分にさせるのか、わからないけど。
大きく、静かに息を吐く。
心を落ち着かせるために。
車道を時々通る、車の音がうるさい。
「……考えごと……」
「こんな場所でか? ……いいけど、もうちょっと、下がって、な?
危ないぞ」
「……あなたの“世界”に、車、はあったの?」
「……え?」
ぽつり、と。
ピカチュウが、無意識に呟いた言葉が、リンクの耳に止まった。
珍しい。
ピカチュウが、純粋に、どうでもいいようなことを尋ねるなんて。
……興味がある、とは、到底思えない、投げやりな言い方ではあったが。
慌てて、リンクが答える。
「あ、いや……。オレの“世界”には、無かったけど……」
「じゃあどうして、危ないって、わかるの?」
「……ネスに聞いたんだよ。鉄が走ってるようなもんだから、危ない、って」
「……ふぅん……。」
つまらなそうに、吐いた呟きが消える。
背中を向けたピカチュウを、リンクはじっと見つめた。
少しは、期待してもいいかもしれない。
「……ピカチュウは、」
「知らないよ。……僕は……森の外のことは知らないから……」
「……」
森の外のこと。
きっと、ピカチュウにとっては、ピカチュウが育ったという、
森の中だけが全てだったのだろう。
外の世界への興味は、きっと、ピカチュウの傷の中に、一緒に消えた。
他でもない、人間が、
ピカチュウの一番大事なものを、壊したという、その時に。
「……でも、ピカチュウは、」
「……」
「今、ここにいるから。もっと、知ることができるよ」
「……。」
まるで、小さな子供のようで。
何だか、頭を撫でてあげたくなって、リンクはそっと手を伸ばした。
電気が飛んでこないように、細心の注意を払いながら。
指の先が、ピカチュウの耳の付け根に、そっと触れそうになった瞬間に、
「……いらない」
ピカチュウが、低く呟いた。
リンクが思わず、手を引っ込める。
「…………、」
「いらない。……森の外は、危なかった」
ピカチュウの声は震えている。
やばい、と思った。
怒ってる。もしくは、 また、泣いて。
「……危ない、って……」
「知っても、いいことは、無かったもの。
僕は、僕が、どうしてこの“世界”に呼ばれたか知らないけど。
……いいことなんて……、」
ずっと、聞きたかった。声。
「……ピカチュウ、」
「あなたはどうして、僕にこんなふうに、話しかけるの?」
ピカチュウが、振り向く。
怒っても、泣いてもいなかった。
なのに、胸が痛い。
理由なんて、ないのに。
言葉にするようなものじゃない。
「……それがわからない。……それは、知りたいかもな。
僕は、人間は、嫌い、って言ったのに。どうして」
人間は、嫌い、だ、って。
あれほど言っているのに、どうして目の前のこの人間は、
いつまでも自分の、後ろにいるんだろう。
もうそれが何日も続いていて、
認めたくない。
いつか、それが、
当たり前みたいに、感じていたなんて 。
恨んで。
妬んで。
優しくて、
混乱する。
「……そんなの、」
この声が、
「オレがお前を、気にするからだよ。
……、
ピカチュウ」
「……っ……!!」
胸を、痛めつける。
リンクが口にしたのは、間違いなく、答えだった。
人間は、
小さな生き物を、どう思うの?
という、
ピカチュウの、そんな、答えの出なかった疑問。
さらりと、口にする。
自分が、できなくてじたばたしていた、できなかったこと。
すぐに、できてしまう。
大きくて強くて、守りたいものは、きっと、守れてしまう。
自分とは、正反対に。
「 どう、してっ……」
「……?」
ピカチュウの声が険しくなる。
もう泣きたくないのに。
「……おい……、」
「何、で……っ、……人間のくせに、人間なのに、僕達とは違うのに!」
車道を行く、車の音がうるさい。
リンクがじっと、ピカチュウを見つめる。
もう、いつから、こんなふうに、ピカチュウを見ていたんだろう。
助けて、と一言だって言わない、寂しそうな子供。
助けてあげたいと思った。
それは、あるいは思い上がりなのかもしれないと、リンクは思う。
でも、間違ってない。
そう、確信もしていたから。
「人間は……、人間は、僕達を傷つけて、僕もあなたを傷つけて!
それで良かったはずなんだ! 何も思ってない!!」
「……」
「関わらなければ……、もう、二度と……」
もう二度と。
「……もう、二度と……。……あんな、大切なきもちは、できないから……」
失ったものの記憶。
「……守りたかったんだな。……今も」
「……っ……!」
……守りきれなかった、記憶も。
「……わからない、のにっ……」
「……ああ。わからないよ。オレは、お前じゃないから」
「僕も、あなたとは、違うから……!
……だから、もう、いいんだ……!!」
「……わからない、けど」
リンクが、手を伸ばす。
必死に、叫ぶピカチュウに、届きそうに近い距離で。
ピカチュウの目は、リンクをじっと見つめて、
何を、思っているんだろう。
「オレは……。……それでも、お前を助けたいんだよ」
「……」
車の音が、うるさくて。
混乱する。
理屈じゃない、嫌いだと言ったこと。
助けたいと思うこと。
重なって、ぶつかって、拒絶して、表面だけが、残る。
「……僕は……」
俯いたピカチュウが、ふ、と、顔を上げる。
子供じみた、泣き出しそうな顔だった。
手を伸ばして、小さな額に触れそうになった。
触れられないのは、きっと、壊すのが怖かったからだ。
「……あ……、」
「……え?」
リンクの目を見ていた、ピカチュウの視線が、横にずれる。
リンクの視線も、思わず、ずれた方に動いた。
何度も触れようとした、手がぴたりと止まった。
「……ちょうちょ……」
リンクの耳元を横切って、ピカチュウの頭の上を飛んで。
青い空の下。
真っ白な蝶が、飛んでいく。
ピカチュウが、その後を、追った。
「……おい……っ、」
蝶を追いかけて、車道に歩き出す ……。
「 ピカチュウ……ッ!!」
……。
「…………っ……、」
「……ぇ……?」
耳をつんざくような、クラクションが響いた。
「……へい、き、……か?」
「……っ……、」
ゆっくりと、スローモーションで流れた景色。
何が起こったのか、
ピカチュウがようやく、理解する。
「……な、……!!」
「……大丈夫、……だな……」
車がすぐ横を通り過ぎる。
自分を腕に抱えて、額から血を流して自分を見ている、
リンクの微笑みを見て。
自分が、蝶を追いかけて、車道に飛び出して、車にはねられそうになって。
リンクが、かばってくれたことが、はっきりとわかった。
「 ッ……、」
よく、辺りを見回してみれば。
血は、額だけから流れてるわけではなかった。
地面を真っ黒く染めていく、赤い色。
おそらくは、脇腹や、腕にも傷ができて。
ピカチュウが、混乱する。
「……どうして……っ、」
「……助けたいって言ったろ。……それだけだよ」
「何で、……どうして、僕なんか!!」
「……あの、なあ……。」
地面に横たわったまま、痛みに顔をしかめながら、リンクが顔を上げた。
ピカチュウの、顔を見る。
行き場の無い怒りにとらわれたような、泣きそうな顔をしていた。
そっと、手を伸ばす。
「…………お前と、多分、同じ……、」
「……おなじ……?」
「助けたかった、んだろう? ……その子を。オレも、」
ふわふわの、小さな頭を、そっと撫でてやった。
「……お前を、助けたかったんだよ。……それ、だけ……、……っ」
「……! ……しゃべ、らないでっ」
傷が痛んだのだろう。
喉を引きつらせるリンクに、ピカチュウは慌てて言った。
理由なんて、あってもなくても、
リンクが今、車にはねられて。重症なのは、間違いないのだから。
今は、気力で喋っているだけだ。
ピカチュウの知らない理由で、ピカチュウのために。
傷の具合が知りたいのだろうか。
うろうろと視線をさまよわせるピカチュウの姿に、
リンクは、ふ、と笑った。
「……どうした、んだよ」
「しゃべらないで、って! あなた、今、血が……」
「……嫌いなんだろ?」
「…………!」
ピカチュウの頭を、ゆっくりと撫でながら。
リンクはこんな時にも、そんなことを言う。
それは、ピカチュウの、迷いだ。
ずっと、ずっと、疑問だった。後ろを向いてほしくはなかった。
リンクの手が、少しずつ重くなっていくのに、ピカチュウは気づいている。
「……嫌いだよ。……嫌いだけど……っ、」
「…………」
教えてくれた。
森の外の、世界のこと。
自分が迷っていたこと。
守れなかったこと。
人間というのが、どういういきものなのか。
そして、自分は。
こんな気持ちになるのは、優しいからだ。
自分じゃ気づけないくらいに。
とっくに、わかっていた。
嫌い、の一言で、済まされないことくらい。
何を望んでいるのか。
こんなにもはっきりと、わかる。
「……嫌いなら、こんなふうに、守ったり、しないから ……っ!!」
「……。……そっか。……良かった」
ぽつりと、リンクが呟いた。
瞬間、ピカチュウの頭の上にあった手が、背中まで下りて、急に重くなった。
ピカチュウが、リンクの腕の中で、倒れる。
それは、傍目から見たら、リンクの胸の中に、抱え込まれてるようにも見えた。
「……え……っ、」
「……、」
これが何を示しているのか、ピカチュウは、わかる。
「……あ……」
それは、 リンクの意識が、無くなったということ。
「……、」
閉じられた、リンクの、青い瞳。
前髪が下りて、隠れた。
このままだと、死んでしまうのかもしれない。
ピカチュウの背中が、冷たくなった。
目の前で、真っ赤になって、消えていった、あの子の影がよみがえる。
「……嫌、だよ、」
リンクの服の袖をひっぱる。
起きて、と、懇願するように、呟いた。
そんなことくらいで、目の前のそのひとが、目を覚ますわけはなくて。
ピカチュウの瞳が、揺れる。
どうすればいいんだろう。
このひとを、運んでいくなんて、そんな芸当ができるはずはない。
この人は、大きくて。
……自分は、小さいから。
「……っ……」
あの時も、そう。
助けられなかった。
小さくて、弱くて。
こんなときばかり、そのことが仇になる。
助けたいのに。
守ってもらって、助けられなくて、自分だけ、なんて。
「……だれ、か……」
ひとは、ひとがいて、はじめてひとといえる。
誰だって、同じのはずなのに。
一緒にいないと、楽しくはない。
誰かがいて、楽しくて、大切になる。
誰かが大切になるのが怖くて、
拒んでいた。
一人で、いれないことくらい、わかってた。
でも、 それでも。
「……誰か……。……だれか、たすけて……っ」
はっきり、わかる。
今の自分の、大切なものが、何なのか。
それは、
あの子じゃなくて。
あの子のことだって、大切だけど。
そうじゃない。
助けたい。
大きな瞳から、涙が落ちて、叫ぶ。
「……リン、ク、を……っ、
……リンクを、たすけてよぉ ……っっ!!」
目に映る空は、こんな時も、あんなに高くて、遠くて、
青い。
……気づけないふりを、していただけだ。
「 ……ピカチュウ!!」
「……っ?」
ふいに後ろから名前を呼ばれ、ピカチュウは恐る恐る、振り向いた。
アスファルトの、車道の向こう。
青い、空の下。街の中を、
誰かが、走ってくる。……一人じゃない、もっとたくさんの。
「ピカチュウ!!」
「ピカチュウーっ」
「……ぁ、」
一番最初に、ピカチュウの元に辿り着いたのは、
フォックス。
それから、その頭上をふよふよと飛んでいる、カービィだった。
その後ろに、マリオ、サムスやファルコン。
そして、もっと、いっぱいの。
……屋敷中の人が、いる。
「…………、」
「リンクぅ、しっかりーっ」
「リンク!! ……おい、生きてるか!?」
フォックスが、リンクを抱えて、やや乱暴に肩を叩いた。
カービィが空中で、のんびりした応援をしている。
「……ぅ、」
「!」
やがて。
リンクの指先が、ぴくん、と動いたのを確認すると、
「……おい、皆、大丈夫だ! もう、いいぞーっ」
フォックスは、声高らかに、宣言した。
リンクのすぐ近くで、おろおろと視線をさまよわせるピカチュウとは裏腹に、
そこにいる屋敷の人々は、えらくしっかりしていた。
ピカチュウより、うんと子供のように見える、カービィでさえ、
少しもうろたえたりせず、リンクの介抱の手伝いをしようとしている。
「…………」
ピカチュウが、ふ、と、視線を横にずらすと。
「……よぉーし、行くぞー!!」
サムスが、ファルコンとマリオと一緒に、車道の上を駆け出すところだった。
やたらと勢いがいい。
何をするつもりなんだろうと、ピカチュウは首を傾げる。
そして、
「リンクにぶつかった車を追いかけるんだよ。
こっちが悪いなら謝るし、向こうが悪いなら謝らせるんだ。
……ひき逃げって時点で、両成敗だけどさ」
「……あやまる……」
フォックスが答えた。
謝る、と、聞いて。
ピカチュウが、目に見えて慌てだす。
「……あ、あのっ」
「うん? どうしたんだ?」
しっかりしろ、もう大丈夫だぞー、と、リンクに声をかけながら、
フォックスはピカチュウに、視線を向けた。
ちょっと居た堪れない気持ちになる。
……リンク程ではないにしろ、今まで散々、避けていた相手だから。
それでもなんとか、気を持ち直して、ピカチュウは言った。
「……あやまる、のは、……僕、が」
「え? ……ああ。……わかってるよ」
「……え?」
不安げにフォックスを見つめるピカチュウに、フォックスは笑いかける。
その横で、カービィは、短い手足で、ほとんど無意味な交通整理をしている。
……もともと、車の通りは、滅多に無いのだ。
リンクの肩を、ぽんぽんと軽く叩きながら、フォックスは続けた。
「お前が飛び出したか、ふらっと出たか、したんだろう?
リンクは剣士だからな。こんなふうに、ひかれたりはしないよ。
……まあ、ようするに、それだけ余裕が無かったってことだ」
冷静な判断で、ピカチュウを抱き上げて、バックステップで車を避ける。
リンクなら、それくらい、できて当然のはずだった。
それができなかったのは、言うとおり、余裕が無かったということになる。
ピカチュウが、危ない、ということに関して。
「……」
「お前が、どう思うかは、お前次第だけどな。
俺達はお前を心配してたし、リンクなんか、言わなくってもわかるだろ。
……お前の事情は、俺達は知らないけど」
どれだけ思っていたのか。
ずっと一人でいた、ピカチュウに対して。
気づかなかったのか、
気づけなかったのか、
気づかないふりをしていたのか。
わかるはずだ。
少し、目を開いて。
閉じこもっていないで。
青い、空の下に生まれた。
違って、
だけど同じはずだから。
「…………ッ……、」
「! ……あ……、」
リンクの瞳が、ゆっくり、静かに開かれる。
綺麗な、青い色をしていた。
「……ピカチュウ」
「……うん」
ふ、と、リンクが微笑む。
ゆっくりと、大きな、あたたかい手が、ピカチュウの頭に降りた。
「…………何、してるんだ?」
「……リンク、を……、……心配、してるの……。
……いけない?」
「……いや……、」
おかしそうに、笑って。
「急に、……素直に、なったなあ、って」
「……別に……。」
ちょっとだけ、不機嫌そうな顔で、ピカチュウは首を竦める。
フォックスが、まだ手当てもしてないんだから、おとなしくしておけと、
保護者そのものの口調で、言った。
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