「……リンク、」
「うん?」

午後三時過ぎのリビングに、リンクとマルスがいた。
向かい合わせの、三人掛けのふたつのソファーに、少し贅沢に、それぞれ座って。
ローテーブルにたくさん詰まれた、アルバムを手に取って見ている。

そのアルバムは、この屋敷がまだ、「スマブラ屋敷」と呼ばれていたころのものだ。
誰かが整理でもしていたのか、その辺に積んであったものを、
折角だから見てみようと、和やかにお茶なんて飲みながら、
当時の思い出話なんかを、リンクは語り、マルスは聞いていたのだが。

「……これなんだけど」
「え? ……えっと……、」

空色のアルバムを開いて、マルスはリンクに、それを見せる。
マルスの指が示した、その写真には、

「…………」


   あちこち怪我だらけのリンクと、ピカチュウとが、一緒に笑って写っていた。


「……これ……。」

その写真を見、一瞬、驚いたように目をまるくした、すぐ後。
ふ、と、やわらかく微笑む。

「……そっか。……写真なんか、撮ったっけ、そういえば」
「何があったのか、訊いてもいいか?」
「ああ。……オレが話せる範囲で、だけど」

アルバムを閉じて、マルスはじっと、リンクを見つめた。
カップにお茶を淹れなおして、少しだけ口をつける、そんな動作も一緒に。

かちゃん、と、ソーサーとカップが、音をたてる。

「……この屋敷にみんなで住むようになって、一ヶ月くらいの時の話なんだけど」
「うん」
「……ピカチュウ……てさ、ポケモン、っていう種族だろ?」
「……そうだな」
「それって、人間とは違うだろ? ……人間っつーか、人型っつーか……。
 それで、種族の違い、ってやつで、ピカチュウは、色々あったらしくて。
 ちょっと、嫌われてたんだ」
「……え? 嫌われてた?」
「ああ」

それは、リンクが、ピカチュウに?

今の現状を見据えれば、あまりにも信じがたい言葉。
ゆっくりと瞬きを繰り返すマルスのしぐさに、リンクは笑う。

「……その時なんだよ。オレが、ピカチュウと仲良くなれたのは。
 あのな   ……、」







青の彼方に scene.1







「……しつこいな、放っておけって、言ってるじゃないかっ!!」
「うわっっ!!」

ばちぃッッ!! ……。

「……っつ……。電気は卑怯だろっ……!」
「リンクぅー、大丈夫ぅー?」

リンクの腕の上で、電気がはじける。髪と頬に、被害を広げて。
それと同時に、たたたたっ、と風のように駆けていく、黄色い電気ねずみ。
後姿を、悔しそうに見つめる。


「スマブラ屋敷」での生活が始まって、約一ヶ月、皆が段々と打ち解けてきたころ。
ピカチュウだけが、たった一人、未だに誰とも馴染めずにいた。
自分のことを話そうともせず、他人に構おうともせず、なによりも、
一人でいたがる。

そんなピカチュウを、一番気にかけたのは、リンクだった。

……何とか話してみようと、頑張ってはみるのだが。

「……また、派手にやられたなあ」
「真っ黒だねー」

見事に返り討ちに遭い、髪やら頬やらを焦がされてしまう。
今日も今日とて、やっぱり10まんボルトを喰らってしまい、
フォックスとカービィの、情を買った。

「あいつが近づいてくるまで、待ってみたらどうだ?」
「そーだよぉ。ピカチュウとも仲良くしたいけど、ケガするの、いやでしょー?」
「……。……そりゃあ、そうなんだけどさ……」

ちら、と、ピカチュウが走っていった方を見て。

「……ほっとけるわけ、ないだろ……。」


   それはその背中が、寂しそうに見えるから。


頬の焦げ跡を拭い、電撃に飛ばされそうになった帽子を被りなおす。
ピカチュウの後を追おうとして、やめておいた。



   ******



嫌いだ。


「なぁ、ピカチュ   
「……しつこい」

相手の不機嫌は、承知の上だ。

今日もリンクは、一人、ピカチュウの元に出向いていた。
ピカチュウはいつも、庭の隅の、背の高い木の上にいる。
どうしてその場所にいつもいるのか、そんなことは知らなかった。

自分の頭より遥かに高い位置にいるピカチュウを見上げ、リンクは溜息をついた。
向こうから近づいてくるまで、という理屈も、よくわかる。
そっちの方がいいのかもしれない、と思うことだって、しょっちゅうだ。

だけど、『向こうから』を待っていても、何も解決しない時だって、ある。
何かを期待するなら、自分から動かなければ。
冒険の中で身につけた、一種の教訓だ。

ピカチュウは一向に、こっちを見ようとしない。
リンクは再び溜息をついた。声を落として、言う。

「……お前、……オレのこと、嫌いか?」
「嫌い」

そんなにきっぱり言わなくても。

「……だって、人間だもん。……僕より、大きいもん」
   え?」

ふいに、呟かれた一言。
よく聞こえなくて、聞き返そうとしたのに。

「……ああそうだよ、どうせ小さくて弱い生き物だよ、
 こんな高いところに上らないと、
    空だって、満足に見渡せないよ!!」
「うわっっ!!」

ばちっっ!! ……ピカチュウの必殺技が、リンクを襲う。
気を取られたその瞬間、ピカチュウは木からするりと下りて、
逃げてしまった。

「……いっ……てぇ……。……」

再びできた焦げ痕を手で擦って、ピカチュウの走り去った後を、じっと見つめる。

小さくて、弱い。
それは、おそらく、身体の大きさのこと。
空だって、満足に。
見渡せないと    ……遠い。

ピカチュウの叫び声を、頭に思い起こして、何度も。



   ******







失ったものの記憶。
守りきれなかった記憶も。





「……」
「落ちると危ないぞ? ……お前なら、平気だろうけどな」

庭の隅の背の高い木、その上。
ピカチュウはいつも、そこにいる。理由なんて、知らないけど。

にこりと笑って、リンクはピカチュウを見上げた。おととい、昨日と同じに。
ピカチュウはいい加減、うんざりとした目つきで、リンクを見下ろす。

「……何しに来たの」
「お前と、話しに」

事も無げに、さらりと言うと、怪訝そうにピカチュウが顔をゆがめた。
頬の辺りで、ばちばちと音がし始める。
でも、今日は、これくらいで、怖気づくわけにはいかなかった。

いつまでも怖がってちゃ、いけない。
いつか、誰かが、何かを変えないと。

   そして、その誰かが、自分であっても。

「プリンに聞いたんだ。ポケモンは、人間と一緒に戦う場合もあるって」

人間。

その単語を聞いた瞬間、ピカチュウの目が、細く、睨むものに変わる。

どうせ小さくて弱い生き物だ、と、その言葉のことを。
ずっと、考えた。自分では到底わからない、事情を思い、巡らせて。

やっぱりそうか、と、リンクの目つきが変わった。

「単刀直入に訊くけど……。……人間と、何があったんだ?」
「…………」
「小さくて、弱いって……。……そんなこと、」


あの後、色々、考えた。
ポケモンという種族はつまり、リンクの“世界”で言う、動物と似たようなもの。
小さくて、というのは、それこそ生態の問題だから、仕方が無い。
第一、どうにもならない身体の大きさひとつで、あそこまで感情的になるだろうか。
そうなると、大きな理由は、弱い、ということにあるのではないだろうか。


弱いものを排除したがる。


「充分、お前は、強いと思うけど……」
「……めて、」
「もしかして、とは思うけど。……人間に、捨てられたとか、」
「……やめてよっ」
「……そういうことがあったのか? だから、オレ達のこと   ……」
「やめて……、やめてってばっっ!!」

木の側面を、白い電流が沿って流れた。
真っ直ぐ走る電流は、急に曲がると、リンクの頬を掠めていった。

「ッ!!」

思わず、一瞬目を閉じる。そしてすぐにまた、ピカチュウを見た。

「……強い、なんて……」
「……。……お前……、」
「……人間なんて、……人間なんてっ……」

大きく息を吸って、すぐに吐いてを繰り返す。
リンクの、精悍な、青い瞳が、見つめる中で。

どうしてこんな、悲しい顔ができるんだろう。
何で、何がこんなに   痛いんだろう?


思い出す。


「……ピカチュウ、」
「小さいのは……弱いのは、いけないことなの?
 僕達は、それでも、生きてたんだよ   、……一緒に、いたんだ……。」
「…………」




     『達』?




「棲むところも、あの子も、奪っただろう、人間は……!
 強くなければいけない? 強ければ、何をしてもいいの!?」
「……ピカチュウ、」
「呼ばないでよ!! ……ほっといてよ、来ないでよ!!
 嫌いなんだよ、理屈じゃないんだよ!!
 僕達は、あなたとは、違うから!! ……僕はっ……、」

少年のような、幼い声が詰まる。
ひたすらに叫んで、ピカチュウは、木から跳び下り、どこかへ行ってしまった。
その背中を、リンクは慌てて目で追ったが、
すぐに見失ってしまった。
人間では、適わない身の隠し方。
塀を越え、背の高い草むらの中に、逃げ込んでしまう。

「……『僕達』……?」

掛け金は、外れそうになっている。
確信していた。
もう少しだ、……もう少し。

ピカチュウは、何か、心に傷を負っている。
深い、深い傷だ。
人間だというだけで、全ての理由を、わがままで押しつけてしまうほどに。
何があったのかは知らないけれど、……誤解されたままなのは、ワリに合わない。
心の傷を少しでも癒せるのは、本人じゃない、他人だ。
本人じゃない他人だからこそ、適うものもあるから。


「…………」


悪いのはわかってる。
傷つけてるのも承知している。


でも   それでも。


「……ピカチュウ……、」


   それはその背中が、寂しそうに見えるから。


その寂しさが、似ているような気がするから。


「……お前は……」


あれは、幼い子供の声だ。
助けたい。
それこそ、理屈じゃなくて。

頬の傷を、手の甲で軽く擦る。
これでもう、何個目の傷だろう。数え切れない。

ピカチュウが、背の高い木の上で見上げていた空に、ぼんやりと目をやった。


高い、遠い、青い、

空。



   ******




そうだ、あれは、空が青いのだと、知った日。
うっそうと茂る、深い森の中に棲んでいたから、
空があんなに青いなんて、空があんなに高いなんて、全然知らなかった。

ただ、あの子だけは、空の名前を知っていた。
あの子はいつか、大きな翅のある、綺麗なちょうちょになって、空を飛ぶから。
だから、知ってた。
ずっと、地面だけを走り回る僕に、ずっと話してくれた。
空がどれくらい高いのか、知りたいと。
空がどれくらい青いのか、知りたいと。

僕はできれば、そんなこと、知ってほしくなかった。
だって、あの子が空の青さを、空の高さを知るときは、
僕だけが、地面に置いてきぼりになるときなのだろうから。


でも、あの子の願いを叶えてあげたかった。
あの子は、僕の大事な、友達だから。


でも、あの子の願いは叶えてあげられなかった。


小さいから、……弱いから。





「…………バカみたい」

空は、明るい藍色でいっぱいになっている。
東の方、端の方だけうっすらと、薄紅色に広がっている。
小さな星が無数にきらめく、夜明け前。

「……こんな時間なら……、空は青くないし、……でも遠いけど」

手を伸ばしても、けっして届くことのない。

「……何しに来たの?」
「……すごいな、」

ピカチュウが、庭の隅の、背の高い木の上から、じろりと下を睨みつける。
ピカチュウのところからは、死角になる場所から、リンクは姿を現した。

「これでも……、長いこと冒険者やってるんだけど」
「じゃあやめた方がいいよ。その職業。気配隠すのヘタ」
「……。……お前が鋭いだけなんじゃあ……」
「……。……僕なんかに悟られてるようじゃ、オシマイだね」
「……。……お前、口悪いって、言われたことないか?」
「僕の“世界”では、人間に、僕達の言葉は通じないから」

何でもないことであるように、さらりと言い切るピカチュウ。
リンクは少し、悲しい顔をして、ピカチュウの言葉の続きを待つ。

「……何を……話しに来たの? 話すことなんて、もう」
「そっちの事情を聞いてない」

ぴくん。

……ピカチュウの気配が動いた。怒りを含んだ、動揺。
怯むことなく、リンクは続ける。

「オレはお前の事情を知らないから、お前はオレに八つ当たりしてる、とか、
 そんな認識しかないんだ。悪いけど」
「……。……八つ当たりなんかじゃないよ」
「だろ? お前は『人間』のオレに、そんな風に思わせたままでいいのか?」
「……」
「……八つ当たりって、かっこ悪いよなー……」

ふい、とピカチュウから視線をそらし、つとめて軽く言う。
ずるいのはわかってる。

「…………。」

ピカチュウの小さな溜息が聞こえた。リンクの長い耳は、通常のそれより聴覚が鋭い。
冒険者としての感覚が、とがった敵意を、同時に感じた。

「……何が、聞きたいの」
「『僕達』、……って言ったから」
「……」
「想像はついてる。けど、勘違いだったら、申し訳ないからさ」
「……」

背の高い木の上のピカチュウを見つめ、真髄な表情をしながら。
ピカチュウの大きな目がリンクを睨むと、リンクは微笑んだ。

少しだけでも、話してほしいと言っている。


「…………森に、棲んでたんだ」


やがて、少年のような幼い声が、ぽつりと言った。

ピカチュウが、木の上から、とん、と軽く跳び下りる。
リンクに小さな背中を向けて、どこかを見た。話し続ける。

「……こんなふうな木が、いっぱいあって、」
「……」
「……友達がいて……キャタ、ていう名前で。キャタピーっていうんだけどね。本当は。
 いもむし……だったかな。
 僕はキャタって呼んでたし、向こうはピカ、って呼んでいた」


あれはまだ、
空があんなに高いなんて、
空があんなに青いなんて、
知らなかったころ。


一緒にいて、遊んで、生きていた。


「……その森は、とても深くて……。僕達以外のいきものなんて、あんまり見なかった。
 平和に、暮らしてたんだよ。強くなる必要なんて、全然無いくらいに」

平和ボケしてたんだろうな、今考えると。
バカみたいだねぇ、と、呑気に続ける。
その小さな背中を、じっと見ている。

「そうしたらさー……あれは……何の日だったのかなあ……。
 知らない物音がしたって、キャタが言って、ちょっと覗きに行ったんだ。
 暇だったし……何かあるのかなって、どきどきしたんだよ」

子供と子供らしい、純粋な好奇心で。
森の入り口を覗きに行った。
あれが、あんなことになるなんて。
当然知らずに。

淡々と、ピカチュウは続ける。

「…………」
「『何か』は、すぐにわかった。
 真っ黒の服の、人間が、三人。『ロケット団』、だったかな」
「……ろけっとだん?」
「よくあるじゃない、悪の秘密組織、てやつ。それ」
「……ああ」
「うん。……そのひとたちがね、狩り……? を、してたんだよ。
 森の中で、りーだー、だった、強いポケモンが、網にいっぱいいたんだ」
「……ぇ……、」

人間は、ポケモンと一緒に、戦うんじゃないのか?
そんな、リンクの疑問。
それは、人間とポケモンのきもちが、仲良くなったら、のハナシ。
仲良くなれなければ、無理矢理にでも自分のものにしようとする。
強いものがほしくて。
力がほしくて。
そんな、ピカチュウの返答。

話は続く。

「……助けたかったんだけど。無理だろうな、と思って。
 その、真っ黒の服の人間の仲間になった、ポケモンがいてね」
「……そんなのが、いるのか」
「いろいろあるんだよ。そういうポケモンは、戦闘教育、とか受けさせられて、
 強いから。
 絶対、敵わないだろうなと思って。……キャタと、逃げたんだ。森の奥に」

せめて、
このことを、
まだ残っている森のポケモン達に、
伝えて、
逃げてもらって、
生きて、
守らなきゃ。

「……そうしたら……。……人間の足に……追いつかれちゃって……」
「…………」
「気づいたら、後ろに、真っ黒の服の人間がいたんだ。
 僕とキャタを、じっと見下ろしてた。
 僕達も、もしかしたら捕まっちゃうのかな、って、思ったらね」




『弱いポケモンに、価値は無い。通行の邪魔だ。殺せ』




「……っ……!」

リンクの目が、驚愕に見開かれる。
ピカチュウは、小さな背中を向けたままだ。
淡々と、同じせりふを述べて。
静かに。

「そのときね。……キャタを、守らなきゃって、思って。
 僕は、キャタ、友達だったから。
 守らなきゃって……。……あの子の願い、叶えなきゃって……、」
「……願い?」
「……キャタは……。……大きくなったら、大きな翅のある、綺麗なちょうちょになるんだよ。
 ……空を飛びたいって、いつも言ってた。叶えなきゃって……、」
「……」
「……結局……。……叶わなかった、けど……」

「…………」

空気が静かになる。
夜明けはいつも、音が無い。不自然に静かで、胸がざわつく。
日の出とは違う、夜明けの時間。



「……その子は、」

「死んだよ。 人間に殺された」
「……」

淡々と告げた、その声は、抑揚の無い、いつもと同じ、
全く変わっていないように聞こえた。

でも、その声が、微かに震えているのに、気づいて。

「……キャタを、守ろうと思ったんだ……。
 ……空を見せて、あげなきゃって……。……叶えてあげなきゃって……。」

ゆっくり、一歩、近づく。
一歩。
二歩。

「守ろう、って……。……でも、僕の力じゃ、無理だった。
 弱いのに下手に抵抗して。
 僕が、殺されそうになった」

ピカチュウが言葉を切る。
……悪いかもしれない、と、思いながら、そっと顔を覗いた。


「…………」


「……キャタが、守ってくれたんだ……。キャタの力で……。
 ……人間の注意を、自分に向けた。
 …………あの子は、ばらばらになった」


……その瞳に、涙をいっぱい溜めて。


「……どうして……。……僕達は、一緒にいたかったのに……。
 ……何も無くても……一緒に……。……ずっと、……森の中で……」
「……ピカチュウ……、」

ぎっ、と、涙でいっぱいの瞳が、リンクをきつく、きつく睨んだ。

リンクが、たじろいだ。

「弱いからって、邪魔だったからって、
 ……何で、何でそんなので、キャタが殺されなきゃいけなかったんだ!!
 僕達は、そこにいただけなのに……なのに、どうして……!!」
「…………」
「……それとも……、……人間は、」


一緒にいたかった。
あの子はいつか、僕の願いとは反対に、空にいってしまうけど。
ずっと一緒にいられるのだと。


信じてた。


「……僕達みたいな、小さないきものを殺すくらい……。何ともない?」
「…………」
「……教えて。……わからないんだ。僕達は、人間じゃないから。
 こんな、小さないきもの、少しくらい殺してもいいって、思っている?」
「……っ……」

涙をいっぱい溜めた瞳が、純粋に自分を見つめていた。
わからない。
なんて答えればいいのか。どう答えれば、答えになるのか。
自分の答えが、どこにあるのか。
傷つけはしないかと。

「……人間は、嫌いだよ。こわくて、どうしようもない。
 ……貴方のことも、」

嫌いだ   

……リンクが、言葉を詰まらせる。

「…………」

ピカチュウが、たたた、と、リンクの足元を駆け抜ける。
庭を突っ切って、門を跳び出して、朝の早い、街の中へ。
追いかけられなかった。立ち尽くしたまま、

……リンクは何も、言うことができなかった。


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