〜第三幕〜 |
『……以上が、およそ1週間に渡る、王の浮気調査の結果です。 ……何か、ご質問は? 女王様』 「…………ご質問は、ですって? アリよ大有りだわ……!!」 鏡の前で、ぐぐぐぐぐっ、と拳を握る女王様。 ていうか鏡の精を浮気調査に使ったんですか女王様。 ものすっごく怒ってます、な顔をして、 女王様は鏡をばんっっ!! と叩きました。鏡の精がびくっ、と怯えます。 「なぁーッッんで浮気相手が、男なのよ男っっっ!!!」 『……まー正しくは、浮気相手、じゃなくて王が勝手に想いを寄せてるだけだがなぁ……』 「そんなのどうでもいいのよ! ……あーもう腹立つわねっ……、 ……ねえ誰か……、……ああ、そこのファルコ!!」 その辺をほっつき歩いてた従者が餌食になりそうです。 「……何だよ」 「白雪姫にちょっかい出してきて!」 「……何で俺が」 「貴方が一番暇そうだからよ!」 「……何で白雪姫に?」 「王とそっくりじゃないの! 見かけとか趣味とか!」 「……つーか居場所は」 「森の奥の小人の家よ!」 「……自分で行けよ」 「嫌よあたしは顔が割れてるもの!」 「……めんどくせェ……」 はあぁ、と大きく溜息をつく従者。 しかしやっぱりこのヒトも、女王様に逆らうことはできません。 小人に囲まれて平穏(?)な日々を送っていた白雪姫に、 どうやらまた災難が降りかかってきそうな感じです。 ****** ****** 「……ポポー、洗濯終わったぞーっ!」 「あ、うんありがとー! 今行くから、ちょっと待ってて!」 「ああ、じゃあここに置いとくな!」 森の朝は早く、そして実にさわやかです。 「……うーん、今日もいい天気だなー……」 小鳥の声をBGMに、うーんっ、と大きく伸びをして、 白雪姫は空を見上げました。 「お姫さま、朝ごはんができたでちゅよー」 「ん、わかった。すぐ行くから、待っててくれな」 「ぴぃちゅー!!」 よしよしと頭を撫でてやると、ピチューは嬉しそうに笑い、そして走り去っていきました。 ああ何かあいつ見てると和むよな、とか思いながら、 白雪姫は再び空を見上げます。白い雲が、ふよふよと流れていきました。 初めはあんなに偏見いっぱいだった白雪姫ですが、 一緒に生活し始めてわずか5日で、すっかり慣れてしまった模様です。 何という適応能力でしょう! それがこのお姫さまのいいところです。 元気に洗濯カゴなど持ちながら、白雪姫は朝ごはんに向かいます。 何というか妙に力のあるお姫さまです。お姫さまと呼ぶのがおかしいような気がしてきました。 「……今日の朝メシは何かなーっと……。……ん?」 ふ、と。 白雪姫が、何か見つけました。 「……トリ……」 「誰が鳥だ、誰が」 やたらと口調と態度の悪い鳥です。 「うっせエ!! だから鳥って言うな!!」 しかも短気です。 「ったく……。オイ、お前! お前が白雪姫か!?」 「は? ……ああ、まあそうだけど……」 顔の模様が派手な鳥……女王様の従者は、ずんずんずんずんと白雪姫に歩み寄ってきました。 その勢いのよさにちょっと及び腰になりつつも、 白雪姫は洗濯カゴを構えました。……剣を持ってりゃ良かった、と、舌打ちまでして。 「心配しなくても、攻撃なんかしねエよ。……攻撃はしねエ。約束するから、」 ぴた、と目の前で止まり、懐をがさごそと漁る従者。 あきらかに羽だと思われるその手で、どうやって物を掴むのでしょうか。謎です。 そんなこと言ってる間に、どうやら従者はお目当てのものを見つけたらしいです。 「何も言うな。これを飲め!!」 ずいっ、と、その『お目当てのもの』を白雪姫の前に突き出して、 きっぱりと一言。 ……一方白雪姫は、 「………………絶対嫌だ」 やはりきっぱりと言い返しました。 ……目の前に突き出されているのは、透明なビンに入った、不透明な赤い液体。 「嫌だァ? 何でだよ」 何でも何も無いと思うのですが。 「普通嫌だって言うだろ! そんな得体の知れないモン誰が飲むか!!」 「得体が知れないだァ!? タダのりんごジュースだよ!!」 りんごジュースらしい。 「りんごジュースだろーがみかんジュースだろーが、嫌なものは嫌だ!! 大体な、りんごジュースが赤いわけねーだろ!! つーかお前誰だ!? 知らねー人からモノ貰うなって言われなかったか!?」 「人の過去を詮索しようとするんじゃねエ!! ……ああもうめんどくせえなあ……!! 俺はさっさと帰りてえんだよ!! いいからっ……、」 りんごジュース(赤)を持っていない方の手で、 従者は白雪姫の腕をがっちりと掴みました。 ていうかあきらかに羽だと思われるその手で、どうやって物を(以下省略)。 「っ!! 何すんだ放せ!! ローストチキンにするぞこのトリ!!」 「トリって言うな!! ……だから、何も言わずにっ……」 りんごジュース(赤)の入ったビンを、ぶんっ、と振って。 「……これを飲め――――――ッッッ!!!」 「……!! わっ、冷てッ……!!」 白雪姫の顔と肩とに、ばっしゃーん、と赤い液体が降りかかってきました。 否応なしに、口に数滴、りんごジュースらしき飲み物が入り込みます。 「〜〜〜ッッ!! ふざっ……けんなこのトリーッッ!! 何しやがっ……、……っ……、」 勢いよく従者の襟首を引っ掴みにかかった白雪姫でしたが、 ……何やら様子がおかしいです。 足元がふらふらして、目つきも何だかぼうっとしています。 声も何だか眠そうでした。 「……ったく、苦労かけやがって……ようやく効いてきたか」 「……っ、効っ……く……!? ……お前ッ……、何、入れっ……」 「いや、キレイハナのねむりごなを必死に掻き集めてな。 頑張って色々やってみた」 「……何……、……てことは、今のっ……」 ずるずると、白雪姫の足から力が抜けてゆきます。 ついにその場に崩れ落ちました。 「ああ。かなり強力な眠り薬。毒じゃねえからまあ、その辺は良心が働いたってことで、な」 「……。……てめッ……、……やっぱ、……俺の剣……で、……焼いて……や……、」 ついに、腕にさえも力が入らなくなって。 ……憐れ白雪姫は、その場で不本意にも熟睡に入ってしまいました。 「……ふん……。……さあ、これでようやく俺は帰れる、と」 りんごジュース、もとい眠り薬の入っていたビンを、からーんと放り投げる従者。 だめですビンはラベルをはがしてリサイクルしないといけないのです! しかし従者は既に帰るモードに入っているらしく、ビンと白雪姫には目もくれず、 すったすったと歩いていってしまいました。 飛んで帰るんじゃないらしいです。鳥なのに……。 …………で、肝心の白雪姫の方はというと。 「……」 完全に意識は無いらしく、さわやかな朝を迎えた森の中、穏やかに眠っていました。 寝息は異常なほど弱く、ぱっと見、死んでしまっているようにも見えました。 そういう眠り薬なのです。 そんな白雪姫のもとに、とことこと、誰かがやってきました。 頭の上でりんごをぽーんと跳ね上げながら、歩いています。 「……ん……?」 そして、白雪姫のことに、気づきました。 頭の上のりんごを手でキャッチして、たたた、と走りました。 「……お姫さま? ……おーい、お姫さまー? ロイさーん」 りんごを地面に置いて、ゆさゆさと身体を揺すります。 しかし、白雪姫はぴくりとも動きません。 「お姫さま、ちょっと、こんなとこで寝ると風邪ひいちゃうよ? ……ねえ、お姫さま? ロイさんってば。冗談やめて、……そろそろ朝ごはんだし……」 身体を揺すり続けても、白雪姫は、ピカチュウの期待にまったく答えてくれません。 ……流石のピカチュウも、ちょっと怪しみ始めました。 「……ロイさん……?」 ぴた、と揺するのをやめて、……眠っている、ロイの顔を見ました。 「……。……お姫さま……、」 頭の近くにころがっているのは、赤い液体の雫が付いた、透明なビン。 「…………!!!」 気づいた時にはその場を駆け出していました。 りんごをその場に置いて、 おうちで自分と、白雪姫を待っている、小人さんたちのもとへ。 ****** *** ****** 白雪姫は結局その後、二週間そのままでした。 死んでいるように深く眠っているのか、眠りにつきながら死んでしまったのか。 それもこれもすべてあの眠り薬のせいなのではありますが、 小人さん達はそんなこと知りませんでした。 小人さん達は、深く深く悲しみました。 死体にしてはあまりにも綺麗なままだったので(生きているのだから当然ですが)、 小人さん達は、埋めるのはよそうよ、と言いました。 そして、小人さん達は、決めました。 白雪姫を初めて見つけた、あのお花畑に、寝かせてあげようと。 木の土台にガラスのカバーをかぶせて、きれいな柩をこしらえました。 その中に白雪姫の身体を入れて、落とさないように、頑張って運びました。 小人さん達は一日に三回、白雪姫を訪れました。 いつもそこでは小鳥達が、優しい唄を歌っていました。 …………そして、季節は過ぎて…………。 続きます。 |
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