夏祭り
梅雨明けの空は、どこまでも遠く、薄青い色が広がっている。
夏の暑さの中、気休め程度のそよ風が、扉の隙間から入って消えた。
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「……だから、嫌ですってばっ!」
「何よぉ、いいじゃないちょっとくらい!」
廊下をゆっくりと歩くリンクの耳に、珍しい怒鳴り声が入ってくる。
怒鳴り声と言っても、怒気……というよりは、困り果てたような声だ。
言い合っているのは、ピーチと……この声は、マルス。
ピーチの口喧嘩なんてよくあることだが、マルスがこんな風に喧嘩しているのは、珍しい。
『止めなきゃいけないかな』という気持ちと、
何が原因なのかという興味と、
とりあえず賑やかだから行ってみようかなという、
色々な気持ちが混ざり合う。
リビングの扉を押し開け、中を覗くと、そこには。
「……」
「あ、ねえリンクッ、リンクも似合うと思うでしょ、これ!」
「な……だから、そういう問題じゃないでしょう!?」
その細身の身体に、浴衣を纏っているマルスがいた しかも、可愛らしいピンク色の。
思わず、言葉が詰まる。
「何よぉー、いいじゃないかわいいんだし!!」
「僕は男なんです、ピーチさん!!」
「なぁに、男はピンク着ちゃいけないっていう法律でもあるの!?」
「っ、それはっ……」
もちろん、そんな法律はどこにも無い。
「……ピーチ姫、」
「はい、何? リンク」
「……根本的問題として、何でいきなり浴衣なんて引っ張り出してきたんですか?」
「リンク、覚えてない?」
ふいに、違う方角から声がかかる。
テーブルの上で、ピチューとピカチュウが、一緒にすいかを食べている。
「今日、神社でお祭りあるでしょ。ええと……タナバタ祭り、だっけ」
「そうそう、七夕よ七夕。……あ、リンクの浴衣はテーブルの上ね」
見ると、テーブルの上に、きっちりと畳まれた浴衣がおいてあった。
生地は緑色で、上に重ねてある帯は、更に深い緑色だ。
去年、まだこの屋敷が『スマブラ屋敷』だったころから着ていた浴衣。
それを手に取るリンクに、ピカチュウが告げる。
「リンク、それ着たら、サムスさん探してね。呼んでたから」
「え? サムスさんが?」
「何か、今日くらい髪をきっちり梳かしてあげたいんだってさ」
「……」
一瞬嫌な顔をするリンクを、ピカチュウがたしなめた。
腰元まであるリンクの髪を梳くのは、女の目から見たらちょっと楽しいのかもしれない。
「……ま、いいか……。……じゃー着替えてくる」
「ん、行ってらっしゃい。……あ、ピチュー、種落ちてる」
ピチューの口元を、その辺のタオルでごしごしと拭くピカチュウ。
どれだけ小さい見掛けでも、やはりお兄ちゃんだ。
その様子を見た後で、リンクはリビングから出て行った。
この後どうします?
→このままリビングに留まる
→リンクの後をついていく