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四月大歌舞伎

伽羅仙台萩
歌舞伎座さよなら公演といういつもの演目地獄の最たるもののような演目ですが、対決の仁左衛門のいじわる細川をどうしても観たくて取りましたが、けっこう全編楽しく観てしまいました(笑)。
続き
竹の間
孝太郎ちゃんって本当に武家の女房が似合いますよね!沖の井は女形の中でも屈指のいい役だとわたしは思っているのですが、福助の沖の井より孝太郎ちゃんの松島の方が人物造形がはっきりしていてかっこ良く見えたなあ。別に福助が合ってない訳ではないのですが。沖の井はいろんな役者で観たいですが、やっぱりすごいキャスティングだ!と騒ぎになった三津五郎の沖の井をもう一度拝みたいものです(笑)。

そして今までも観たことがあったんですが、仁左衛門の八汐の良さに今回目覚めてしまいました。何これかわいい!いじわるでユーモラスでいろいろ策略を巡らしているんだけど、知恵の底が浅いとことか本当女らしくてかわいすぎ(笑)!あと思ったんだけど仁左さんって台詞の意味を良く分かって言ってる感じがあるよね。いやそれは分かって…とか言うと上から目線ですが、そうじゃなくて観ている方が理解し易いんですよ。

御殿
眠くなると評判の飯炊きですが、米研いだり政岡がいろいろしている間はむしろ面白いんですよね。つらいのは飯が炊けるのを待っている間…。なんか、若様と千松がずーっとひもじゅうないひもじゅうない言ってるだけで、こっちもいい加減腹減って来るって言うの!そこも芝居のリアリティなのでしょうが、正直こんなにつまらないのではいらないリアリティなのではないかと思いました。栄御前様ご登場からはもちろんとても楽しく観られます。栄御前はなんと歌六さん。仁左さんの八汐と言い、今月の歌舞伎座はとんだ女装大会ですね!(いやでも歌六さん良かったですよ!)今回の鶴千代君と千松は鶴千代君一回噛んだけど、上手くて良い子役だったと思います。千松の方が一回り小さいのが哀れを誘っていいなあ。それにしても千松くん役の子に仁左さんはどう思われてるんでしょう(笑)。おじさんほんとは怖い人じゃないんだよー。とご機嫌を取っているのでしょうか。
玉三郎の政岡は、死んだ千松と二人っきりなった瞬間に、一気に若返ったように見えて驚きました。職場では隙のないキャリアウーマンが、一人の若い母親としての姿を見せたんだなと思って心に残りました。

床下
今月三津五郎これだけのために…。派手な衣装とすごい化粧で現れて、鼠と真剣に立ち回りを演じた揚句、「取り逃がしたか!」とかゆってる荒獅子男之助がとても好きです。いつも3階B席が常のわたしには仁木は見えないものでしたが、たまたま今回西寄りの前に座席のない席で、初めて仁木の顔を見ました。いやー古怪ってこういう顔!という仁木で、とても良かったです。花道を歩き出したらすぐに顔は見えなくなってしまいましたが、幕に映る影がゆらゆらとだんだん大きくなっていって、初めて『床下』をまともに観たなと思いました。

対決・刃傷
これのために昼の部取ったんですが、期待通り、期待以上の仁左さんのサドっぷりが堪能できてわたくし言葉もございません。長袴はいて歩く人を初めてかっこいいと思いました。さらに仁木に刺されて瀕死の外記に舞えとかサドサドしいにもほどがあります。いやあ…。すごい人もいたもんだ。彼の部下は大変だろうなあ、と思ってしまいました。

夜の部
毛谷村
超有名演目なのに覚えがなくて、筋を追って面白く観ました。登場人物が次々に現れて芝居らしい気持ちのいいご都合主義で繋がる縁が分かり、爽やかで痛快なお話です。
いやー六助は吉右衛門にぴったりの役ですね!いい奴で武芸の達人で。そしてただのいい奴ではなく、さては微塵弾正は京極内匠かと、じっと考えている所は風格のある武士そのものでした。
福助のお園はわりと合ってる役ですね。でもせっかくの立ち回りの所が流れが途切れちゃって乗れなかった。いろんな役者さんで観たい役です。今なら時蔵さんが一番合うんじゃないかなあ。今更ながら雀右衛門のお園を観ておけば良かった。
吉之丞さんの母上かっこいい!かっこ良過ぎる!母上が一間から出て来るところでもう一度戸の立てつけの悪いギャグを見たかった!(やるわけない!)
弥三松ちゃんは歌舞伎の子役に使う子にしてはかなりちっちゃめで、自分が何やんのか時々良く分かってない感じがとてもかわいかったです。福助に背中押されてここに座るのよ、とか教えられてたり(笑)。

廓文章
一番好きな歌舞伎です。芝居を観ると言うより、いつも廓に迷い込み、夢幻を体験する気がします。仁左衛門のあのくっきりと美しい顔が、この芝居に限っては輪郭が溶けてしまい、花のような笑顔だけが残ります。これが近松の頃の芝居をどのくらい残しているか分からない。でもわたしには、観るたびに三百年前の空気が軽やかに咲いているように思えます。
とにかく伊左衛門というかわいらしい生き物をひたすら観察するお芝居。玉三郎の夕霧も美しく、身請けの金が運び込まれるハッピーエンドでは、「えーっ、もう終わっちゃうの!?もっと観てたいよ!」という気持ちになってしまいました。
松嶋屋三兄弟の揃う『吉田屋』は案外観てない気がするので、伊左衛門と喜左衛門夫婦のシーンもとても嬉しかったです。やっぱりいいわあ、この兄弟。

曽根崎心中
いやあ、藤十郎すごいです。前の幕の『廓文章』が伊左衛門のかわいらしさをひたすら観察するお芝居なら、『曽根崎心中』はお初と言うかわいらしい生き物をひたすら観察するお芝居です。「双眼鏡覗くとさすがにキツいなー。」と思ったのは冒頭の一瞬だけ。後は見事に19歳の少女にしか見えませんでした。すごいと思ったのが芸で若く見せているのでしょうが、素のようにしか見えない。ワー!と拍手したり、ズデーン!と転んでみたり。19歳の少女に心からなり切ってないと出来ない芸だと思いました。お初本当にかわいいよなあ。丸々と太っているのもムチムチした魅力になっているし、そそっかしいキャッキャとした年頃の娘さんです。そして死を厭わぬ恋心の強さ。

そして橋之助の九平次もとても印象に残りました。金のために友達を騙した上死に追いやっても何とも思わないとんでもない野郎ですが、何故か妙に魅力的なんですよ!こういう役者はとても珍しいのではないかと思いました。男くさい役をやらせると本当にいいですよね。

そして近松の人物造形がとても良くて印象に残るのが徳兵衛の伯父さんの久右衛門です。前も我當兄さんで観ましたが、いい役ですよねえ。お初と徳兵衛が死ぬ理由なんて何もないのに死んで行くのが、最後の心中のシーンの純粋さをより高めていると思いました。