「歌舞伎座さよなら公演」なるいつもの演目地獄には物申したいわたくしですが、元禄忠臣蔵昼夜通し公演は歓迎です。仮名手本ほど食傷してないし。チケット取りが大変で結局20日昼、21日夜という日程になってしまって、青果もので台詞が多く、上映時間も長く、身体的にはキツかったですが、昼夜と言う順番で2日間で観たことで、逆にこの連作を密度濃く体験することが出来たなと思います。
以下に感想がありますが、幸四郎にはいつもの通り憎さ半分愛しさ半分の感想で、今月の福助に関してはこきおろしておりますので、ファンの方はご注意下さい。
短期間に一気に観たので感想も渾然としているのですが、まず松嶋屋三兄弟の青果役者ぶりが改めて素晴らしいと思いました。特に我當兄さんは青果ものと言うと引っ張りだこですが、今回も身体の動きに不自由が見られるものの、若々しい声に聞き惚れてしまいました。秀太郎兄さんも何とも色っぽい江島。たまらない声です。「江島ですぞ、江島ですぞ。」とかもう。秀にいを見るたびに「秀太郎ほどいい女が他にいるだろうか!いやない!」と思ってしまいます。そして仁左さんの綱豊卿!何と言う台詞回し。そして一筋縄で行かない綱豊卿と言う人物の造形にも、何とも言えない魅力がありました。『仙石屋敷』の内蔵助も良かったです。
全体の印象からどこか浮き上がって別世界だったのが『南部坂雪の別れ』。先述の我當兄さんも素晴らしいし、役者さん皆良過ぎでした。この静謐な感動をどう呼べばいいんでしょう。それは内蔵助の團十郎の抑えた姿から立ちのぼるようでした。観ているこちらに病と闘って戻って来た團十郎に対する感情があり、それが奥方と一期の別れに来た内蔵助の感情と重なって、最後の別れのシーンなど、何とも言えない名場面になりました。芝翫さんも素晴らしいし、東蔵さんはかわいいし。ただ、芝翫さんに対するイメージ的に、最初内匠頭のお母さんかなんかだと思っちゃったよ(笑)!ごめん、ちゃんと黒髪だし、奥さんですね。腰元の面々も妙に豪華。高麗蔵さん好きです。いっつもイケイケの美人さんで。
萬次郎さんはたまに立役やっても声で分かるなあ。加藤越中守、かっこ良かったです。もちろん女形の浦尾も良かった!
そして幸四郎。いろいろ言いたいことはあるんだけど、でもつくづく大石らしい役者さんなんだよね。本心を明かさず周囲を煙に巻き、死にゆく人にだけやっと本心を明かす。いろいろ企んでいる所とかほんとに大石らしいです。ただ何だかそんなにべそべそ泣かないでくれればいいのに…。なんか、諸手を挙げて素晴らしい大石だ!とは言いかねる。ただ、『大石最後の一日』の幕切れで、死にに行くのを楽しげにして見せたところは、もう、この人にしか出来ない…!と思いました。こうして見ると、三人の大石は上手く向いた演目をやったのかなと思います。『仙石屋敷』で切々と討ち入りの義を説いた内蔵助は仁左さんにぴったりだったし、『南部坂雪の別れ』の團十郎はこれから何年も忘れられない気がするし。ただ、『仙石屋敷』の台詞を聞いて、『最後の大評定』は仁左さんでも良かったなあと思いました。
普段あまり観ない演目ばかり楽しみにしていていて、『大石最後の一日』は観たことあるしそれほど期待してなかったんですが、さすが傑作と言われているだけあって泣けました。おみのの父ちゃんが不自由な身体で柱に縋り、「十郎左衛門はわしの婿だ」と言うところなんてもうやばすぎる。ですが福助のおみのがとんでもなくてさあ…。なんか、彼は綺麗だと思うしイケイケ系の役にはとても合ってると思うんですが、福助的には可憐な演技が自分を少女だと思ってるイタイ40女みたいで涙も乾いてしまいました。べそべそ泣く福助と幸四郎を見守る染五郎がなんだか健気に見えたよ。