私は私の物語をあなた方に伝えなければならない。

物語と言うものは、近くから見た場合、すべて似通ったものである。

最初に、これから成熟していく生物があり、それはまだ眠っている。

危機に直面したとき、彼は反応する。

彼らの行動如何によっては、死に絶えてしまうかもしれないし、また、進化するかもしれない。(蟻:ベルナール=ウェルムズ)





機動戦士ガンダム
神々の旋律byダークパラサイト
第7話『擬態』





「ん・・・ふああぁぁ。」

大欠伸。

アルフ=ガレドと言う男は、軍人にあるまじきことに朝が苦手だった。

常に目覚ましをセットしているのだが、そのどれもが朝目覚める前に止まってしまう、と本人は言う。

もちろん器械が毎日故障しない限りそんなことがあるはずも無く、彼が常に止めてしまっているのは承知の事実である。

が、今日は彼としてはかなりの早起きだった。

朝7時。

朝食までに起きられたのは快挙とも言えるだろう。

・・・起床時間は5時という軍紀があるので誰も誉めてはくれないが・・・。

「ん・・・・起きるか・・・。」

包まっていたシーツをはがし、ベッドの上に座り込む。

部屋を見回してみれば昨日の夜に散らかしたままで残されている。

そこかしこにプロフィールや設計図などが転がり、足の踏み場も無いほどである。

電子データ全盛の時代に紙のデータと言うのも不憫なものだが、これはこれでいろいろといいこともある。

きちんと保管されていれば電子データよりはるかに安全に保管できるし、何よりデータの消失などが起こりにくい。

まあ、あくまできちんと保管されていれば、の話だが。

まあ、今はそんなことはどうでも良い。

今大事なのはこの男が起きたのが軍紀で決められた時間の2時間後であるということだけだ。

軍式の下着の上に厚手の上着を羽織ると胸には黄金色の翼が広がった。

床に転がっている書類をがさがさと足で掻き分け、扉を開く。

そこに災厄が転がっていようとも知らずに・・・。

「おはようございます、隊長。」

明らかに不機嫌そうな顔をした東洋風の女性がそこに立っていた。

凛々しい光を放つ大きな瞳。

プライドの高さを感じさせる形のいい高い鼻。

大きくパーマのかかった黒い髪は束ねられ、物憂げに顔の後ろでゆれている。

「2時間も遅刻ですか。・・・いいご身分ですね・・・。」

絶対零度の視線、とでも言うべききつい視線。

「2時間ずっと待っていたのか?」

「いえ、きたのは今さっきです。いかにも頭の回転の鈍そうな小娘に隊長はどこかと聞けばまだ寝ていると言うので。」

「・・・ならそんなに怒るなよ。ヒュン。」

頭の回転の鈍そうな小娘とは十中八九セナのことだろう。

彼女達はあったその日からかなり中が悪い。

正確には彼女が一方的にセナのことを嫌っているだけなのだが、まあ大差は無いだろう。

「怒ってなどいません。・・・それに、そう馴れ馴れしく名前を呼ばないでください。」

「・・・へいへい。君こそ隊長を隊長と思っていないような発言はどうかと思うのだが・・・。」

「あくまで同階級ですから。」

「さよけ。」

つれない、と言うのでもない。

会話をする気すらないように思われる。

いささかげんなりとしたアルフは投げやりに返事を返した。

「で?君の用事は何?」

「艦長殿がお呼びです。至急ブリッジまで来るように、と。」

「あ〜、了解。すぐ行くと伝えてくれ。・・・機体の慣らしはすんでいるか?」

「ええ、まあ。あの馬鹿が後ろから切りかかってこない限りは大丈夫でしょう。・・・それがどうかしましたか?」

首を傾げてみせる。

「いや・・・実戦になるかも知れないからな。」

実際はそうではない。

彼女に預けられた機体の扱いにくさはこれまで彼女に預けられた機体の比ではない。

ドムの機動性にキャノンを取り付けることで遠距離攻撃力の大幅な増加を図る。

機体のコンセプト自体は単純だがそれゆえに相当の錬度を要する。

ホバーとキャノンは基本的に装備としての組み合わせが最悪なのだ。

(後ろから切りかかられない限りは大丈夫、か。さすがだな・・・。)

いつまでその自信が持つかはわからない。

だが、彼女が人並みのエースである以上は少なくとも言葉に偽りは無いだろう。

すなわち慣らしは本当に終わっているのだ。

「じゃあまた後で。朝食はいつも通り8時からな。」

「いつもその時間だったんですか・・・初耳ですよ。」

ヒュンの皮肉をアルフは完全に無視した。

重低音の響く廊下を抜け、駆け足気味にブリッジへと向かう。

床板5枚下は海水なのだが、まったくゆれない廊下からはそんな印象はない。

ましてやこの艦が瀬戸内海の荒波の中で停泊しているなどと誰が想像できようか。

トァハー・デ・ダナン

全長300m以上。

シルヴィア社の社長、すなわちこの艦の艦長の完全な趣味で作られたこの潜水艦はマッドアングラー級をベースに更なる出力アップが図られている。

搭載可能MSは3機。

最高速は30ノット。

50ノットとまでは行かなかったが十分な成績だろう。

何よりもまず潜水艦とは思えないほどの居住性がある。

100人近い乗員のほとんどに個室が与えられるほどのスペースが確保できているということは圧巻と言っても差し支えないだろう。





「アルフ=ガレド、ただいま出頭いたしました。」

非戦闘時というだけあってほとんど人のいないブリッジにつくなり形だけの敬礼を送る。

その視線の先には艦長席に座る若い女性の姿があった。

年の程は25前後。

長い金髪は頭の上で綺麗に結い上げられている。

肌は乳白色で灰色の目の上の睫毛は長い。

耳にイヤリングをつけている以外はそれといって何か装飾品をつけているわけでもなかったが不思議と上流階級の人間であることがわかる。

穏やかそうな印象だったが胸には少佐を表す大鷲が黒い生地の上で大きく羽を広げていた。

「ああ、アルフ中尉。ごめんなさいね、寝坊の邪魔をしてしまって。」

「起きたところだったので大丈夫です。用件は?」

寝坊を咎めるでもなく、淡々と話は進む。

「たいしたことではありません。ただ本部からあなたを出せとの命令だったので。・・・断りますか?」

「いや・・・出ましょう。繋いでくれ、シュウ。」

「了解。連絡用アンテナの周波数を固定・・・完了。ミノフスキー濃度測定。規定値よりマイナス26%、通信への影響なし。」

オペレーターシートに座る小学生。

結構シュールな図かもしれない。

彼のような少年に艦の未来を預けるなどあってはならないことだろう。

・・・常識で考えれば。

「ソナー反応なし。周囲に敵艦確認できません。」

淡々と与えられた仕事をこなす。

とはいっても感知されるわけのない水域での確認作業に意味などほとんど存在しない。

その上本来オペレーターがするべき仕事はそのほとんどが高性能演算装置がこなすのでほとんど問題にならない。

「コードドラゴンフライ・・・繋がりました。」

正面のモニタにややざらついた画面が映し出された。

その中央に卑屈そうな笑みを浮かべた中年の肥満体が映し出されている。

「これはこれはカウラン中佐、このような朝早くにどのようなご用件ですか?」

その画面にアルフは恭しく一礼して見せた。

それだけで画面の向こうにいる男の顔がヒクリ、と引きつる。

「まさかご機嫌取りのためだけにかけたのではないでしょうね? 勘弁してくださいよ。こちらはただでさえ忙しいと言うのに・・・。」

大嘘吐き。

シルヴィアの目線がそう語る。

今まで寝ていたのは誰だ、と。

だが、悲しいかな、図星を刺されうろたえきったカウランにはシルヴィアの目線の意味を探る力はなかった。

「いや、これは、その・・・。」

見苦しいほどに狼狽し、巨体を横に大きくゆする。

「そ、そうだ。娘はご迷惑をおかけしていないでしょうか・・・もとからはねっかえりの強い子で・・・。」

「そのようですね。入隊してからずっとトラブル続きですよ。」

きっちりと相手に聞こえるように計算されたわざとらしいため息をもらす。

「も、申し訳ありませんッ!!」

平身低頭し、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうなカウランにシルヴィアは笑いをこらえるのに必死の努力を要した。

「まあ良い、私から頼んだことだ。・・・それより『銀蝿』は見つかったのか?」

「はっ?・・・ああ、銀蝿ですか。以前りんごにわいていたこともあるそうですが現在はなりを潜めています。近々大きな戦闘を起こすための準備期間だとのうわさもありますが・・・真相はわかりません。」

「そうか、ご苦労だったな。トイボックスはこれより外回りだ。通信は繋がらないからそのつもりでいろ。」

繋がなくてもよいというのであれば誰が好き好んでこんなところに通信を入れるだろうか?

よほどのマゾヒストでない限りそんな馬鹿なことをしようとは思わないだろう。

実際、カウランもその言葉を聞くなり、早々に接続を断ってしまった。

「嫌われてますね、会長。」

「嫌われているのはシルヴィア社そのものだろう。基地ではひどい扱いを受けたんじゃないのか?」

横から差し出されたタオルを手にとりながらアルフが笑う。

「ええ。VIP用の部屋で飼い殺し。」

つられてシルヴィアも笑みを見せた。

「やっと羽が伸ばせます。・・・何からつぶしていきますか?」

「ムラサメ研究所・・・といいたいところなんだがあそこはさすがに無理だ。ただ、比較的セキュリティーの弱い子会社が佐渡島にある。まずはそこからかな?」

アルフが挙げた社名は連邦にもジオンにも属していない遺伝子研究施設だった。

本来ならそんなところを襲えば国際法に触れる。

だが、彼らにそんな煩いは不要だった。

「了解、シュウ君、通信回路を艦内放送に切り替えて。」

命令はすぐさま下へと伝達される。

そうでなければ戦隊行動など取れはしない。

「本艦はこれより佐渡島へ向けて出航します。総員、第2種戦闘態勢。総員、第2種戦闘態勢。なお、パイロット各員は明朝、0090時にブリッジに集合してください。繰り返します。本艦はこれより佐渡島へ向けて出航します。総員、第2種戦闘態勢。総員、第2種戦闘態勢。なお、パイロット各員は明朝、0900時にブリッジに集合してください。」

朗々とよく響く声だった。

自ら通信兵にあたる役割を買って出たというのにもうなずける。

「シュウ、ダナンのオペレーティングは問題ないな。」

「はい。最初はオモイカネとの違いに戸惑いましたが、もう大丈夫だと思います。」

「そうか、さすがだな。なら佐渡への最短ルートを探させろ。」

その傍らでアルフはシュウと最後のオペレート確認を行っていた。

「ミサイルと火器管制の類のチェックも念入りにな。小規模な戦闘になるぞ。」

「花火の準備は?」

「とびきりでかいのを用意してやれ。連中にとっては初陣だ。」

「了解。・・・到着時を遅めに伝えたのはなぜですか?これから向かえば遅くとも夜にはあちらに着きますが・・・。」

「準備ってものが必要だろ?着いたら即浮上するんだ」

「了解。」

そこまで言ったところで小さなベルの音が聞こえた。

「通信が入ってます。食堂から・・・暗号化・・・されてないね・・・。隊長宛・・・さっさと来いって。」

「やれやれ・・・すぐ行く。そう伝えてくれ。」

もう少しゆっくりできると思ったのだが・・・。

口調がそう告げていた。



「行った?会長も大変ね・・・。」

アルフが去ったブリッジでシルヴィアは思いっきり身体を伸ばしていた。

「社長、僕も食堂に言って良いですか?母さん・・・怒ると怖くて。」

「はいはい・・・どうせこのあたりには何もないしね・・・。」

いいかげんな社長だ。

まあ、それ以上にアバウトでいいかげんな艦に乗っているのだからいかんともしがたいが・・・。

「まったく・・・また幹部の顰蹙を買いますよ・・・。」

「吼えさせとけばいいのよ、あんな連中。」

手をひらひらと振る。

ブリッジ要員のうちの何人かが顔を引きつらせた。

「そうですか・・・。では社長、お先に失礼します。・・・おいで、クロ。」

オペレーターシートの下でおとなしく眠っていたクロが立ち上がり、体をゆする。

「今日のご飯?そんなの知らないよ。おまえが食べられるものだと思うけど・・・?」

にこやかに犬に話しかけながらブリッジを出て行くシュウ。

それを笑いながら見送った後、深刻な顔ででシルヴィアは後ろに立っていた男を呼んだ

「ねえ、あの子、犬と話すことができるのかな?」

「まあ、シュウ様ならそのようなこともあるいは・・・。」

この戦争が終わるまで一度も解き明かされることのない謎だった。





あとがき

ふ〜、リクエストされてないけど放置もかわいそうなのでこれも書いときます。

もう二・三人キャラが出たらキャラ設定(っぽいもの)でも作りますか〜。

なにやら主人公(のはず)が目立ちませんな・・・。

ま、気にしない気にしない。

さて、次回はこの作品初の戦闘シーン!

お楽しみに!

蒼來の感想(?)
ドムキャノン?!ダナン?!オモイカネ?!第6話「野望」?!(@@;?!
鈴菜「驚きすぎだあ!!(p−−)=O=O())@o@)/ジャブジャブ」
どわあ!!危ないだろ!!
観月「驚く理由が解らないものがあるのですが、教えてくれませんか?(ニッコリ)(-_-)/~~~ピシー!ピシー!」
YES,マム!!(>_<)ゝ
鈴菜「観月怖っ!!」
観月「大丈夫です、お姉様にはこんな事絶対にしませんからv」
鈴菜「そうか、なら安心だな。で蒼來、驚きの理由は?」

うう、酷いや。(´Д⊂)
まあ、気を取り直して驚いた理由だな?
観月「はい」
驚いた順番に行くぞ。
まず公式にはドムにキャノン付きはない。
まあ、前もってお絵かきBBSに描いておられたので知っていたが。
鈴菜「それが此処で出てきたんだな?」
うむ。ちなみにジオンでキャノン付きの量産型MSはザクシリーズとゲルググしかないはずだ。(1年戦争及びMSV)
観月「なるほど、では次へ」
(o゜◇゜)ノあぃ
ダナンとオモイカネはそれぞれ「フルメタル・パニック!」と「機動戦艦ナデシコ」で出てくるメカだ・・・オモイカネはナデシコのAI(OS)かな?
ダナンはちなみに特殊強襲潜水母艦というのかな?まあAAに近いかも知れん。
鈴菜「違うと思うが・・・まあ大体解るな、調べれば」
うん、それぞれタイトルを検索すれば公式HPに行けるからな。
観月「では最後の第6話「野望」というのは?前話のタイトルですね。」
鈴菜「ちなみに此処、第7話「擬態」だぞ?」

実は「擬態」と付けたの私なんだ。
観月「勝手に付けていいのですか?」
これな、第6話「野望」で来たんだよ。
鈴菜「ダークパラサイトさんの間違い?」
うん、そう。
観月「それはお伺いを立ててからじゃあないと」
(* ̄^ ̄)(*▼_▼)(* ̄^ ̄)(*▼_▼)ウンウン♪
でお伺い立てたら・・・これで良いって返事が来たw
鈴菜「じゃあ問題なしだな」
観月「次は、初の戦闘シーンですね」
うん、大いに期待して待ちましょう!!