罪悪感と、捻じ曲がった悦楽と。
人を恋する想いと、切り捨てる冷酷さと。
全てを内包するものが人という種であるのなら、それほどに不完全な生物も珍しい。
機動戦士ガンダム
神々の旋律
byダークパラサイト
第10話『血塗れの海の袂で』
苦しい。
とても・・苦しい。
頭が痛い。
おなかが痛い。
息ができない。
ベッドの上で転がりまわり、頭を抱え込んでも痛みが消えない。
いろいろなものが流れ込んでくるのをとめられない。
頭の周りから言葉が離れない。
意味のない言葉。
何の意味もない思考。
なのに・・・離れない。
暑い。
体が熱い。
誰のからだが?
私ではない。
私の体はこんなにも冷え切っている。
熱くない。
寒いぐらいだ。
じゃあなぜ?
なぜこんなに熱いの?
思い出そうとすればするほどに頭の痛みが。
身体の震えが。
止まらなくなる。
それは灼熱の身体で私に抱きつき。
極寒の腕を背中に回し。
恐怖感という言葉となって私の心に侵入してくる。
ちろり。
目の前で炎の舌が揺れる。
不可抗力のように身体が震えた。
逃れなければならない。
ほとんど直感的に私はそれを悟り。
それから逃れようと身体全体でもがき。
・・・ベッドから落ちて目を覚ました。
「あ・・・夢・・・。」
ヒュンは彼女のためにあてがわれた船室で間抜けな呟きと共に体を起こした。
自他共に認める飾り気の無い部屋が寝惚け眼の目の中に抜けるように鮮烈な白として飛び込んでくる。
もっとも、必要最低限のもの以外は何も持ち込んでいないのだから部屋の印象が白になるのは当然といえば当然。
二人分の荷物とファンシーショップで買ってきたような可愛らしい飾りが部屋を満たしているセナの部屋とは正反対だといえる。
最近はリドリー整備班長にいろいろ言われた事もあり、陸に戻るたびに少しずつ小物を増やすようにしていたのだが、まだまだ壁の地の色である白が勝っていた。
「・・・また・・・夢か・・・。」
このところ連日のように悪夢を見ている。
何か得体の知れないものに蹂躙される夢。
すでに二週間近く同じ夢を見つづけていた。
始めのうちは曖昧だった夢の中身もこれほどに見つづければ覚えてしまう。
今ではその姿を絵に描けといわれてもすぐに描けそうなほどだった。
それだけに腹が立つ。
「・・・最悪・・・。」
腹立ち紛れに強く目元を押さえ眠気を払おうとするがうまくいかない。
それどころかいつでも緊急出撃に対応できるように着込んでいた軍用下着は汗でぐっしょりと濡れていた。
いざという時には失禁さえも吸収するというだけあって換気性、吸水性、共に一級品なのだが、それでも分かるぐらいに素材が水を吸い込んでいる。
一体一晩で何度同じ夢を見、どれほどに寝汗をかいたものか、この下着から想像する事は不可能に近かった。
これもまた、この夢を見るようになってからは連日の事だ。
今では慣れてしまい、目下最大の難点はこの起きたときの不快感だけになっている。
眠たそうに目をこすりながらボーっと佇んでいたヒュンだったが、暫くして徐に立ち上がると備え付けのシャワールームへと入っていった。
そこでさっさと下着を脱ぎ捨て、磨き上げられた青磁のようにきめ細やかな肌を惜しげも無く晒していく。
鏡に映る身体のラインはどこぞの主人公と違い理想的なカーブを描いていた。
身長164、スリーサイズは上から82(E)、56、84。
グラマラスなその肢体は寝起きの顔でさえなければ軍の機関誌などの巻頭グラビアでも十分通用するだろう。
周囲は皆そう言うし、ヒュン自身もそのことについては以前まではそのつもりでいた。
ただ、明らかに規格外の艦長に会ってしまった今は映るその体に以前のような絶対的な自信が持てずにいる。
「・・・・・あれは化物だもんね・・・。」
明らかに戦闘以外の何かに悩むようなヒュンの声がシャワールームに響いた。
そんな。
・・・軍人として有り得ないぐらいに平凡な朝・・・。
続いているはずの無い日常は、この隊が部隊として機能するようになってから二週間が経とうとする今も変化を見せてはいなかった。
最初に潰したADNOH社のそれを含め、連日のように潰して回った研究所の数はすでに二桁に達し、死者の数は四桁に達しようとしている。
およそ一小隊が行う作戦で出る死者の数ではなかった。
近隣ではすでに正体不明部隊についての警戒が強められ、以前のように手軽に敵地へ接近する事は不可能に近い。
今日も朝から魚雷への警戒音が鳴り響き、どうにかこうにか包囲網を脱したところなのだ。
だが、そんな状況にもかかわらず、この船ではそのことへの危機感も何もなかった。
始めのうちこそ危険だといっていたヒュンでさえ、最近ではこの雰囲気に慣れてしまい、警報音の中で眠れるほどの図太さを身に付けている。
そもそも、この船ではまともな人間は生活していけないのだ。
常識人と呼ばれる類の者達はこの船では異端者であり、人を殺す事を厭わず、情け容赦なく、笑いながら一般人を殺せるものだけがこの艦のクルーとしての資格を得る。
おっとりしているように見える艦長やセナ、そしてこの艦で最も幼いシュウでさえそのことについては徹底している。
誰もが一人前の兵士で、最低最悪の糞野郎だった。
そして(認めたくないことでは在るが)自分もその一員となりつつある。
「・・・最悪・・・。」
誰に聞かれることもない呟きが再度ヒュンの唇から洩れた。
「はあ・・はあ・・はあ・・。」
荒い息がヘルメットの強化プラスチックに小さな露をつける。
コクピットから把握できる限りにおいて言えば状況は最悪だった。
メインモニタダウン、左腕大破、右脚、左脚、共に関節部に損傷。
思いつく限りのありとあらゆる攻撃を受けたような凄惨な機体。
未だコクピットへの傷だけは負っていないものの、動く事すらままならないようなこの機体では次の一撃が致命傷になることは確実だった。
それでも彼女――セナは機体を捨てようとはしない。
呼び出したコンソールに必死に指を走らせ、右手のサブカメラが生きている事を確認するなりそれとメインモニタを切り替えさせた。
正面のモニタに右掌に設置された小型カメラから送られてくるやや粗い森の画像が映される。
ロックオンカーソルや赤外線モードこそ取り付けられていないものの現時点では十分な視界が確保できたといえた。
「まだ生きてる・・・。」
安堵の溜め息を吐く。
セナにとってそれは彼女がまだ任務を達成可能である事を告げていた。
彼女に与えられたは命令は二つ。
一つは敵機の破壊。
もう一つはいざというときの機体の完全破壊。
生還が最優先事項でないのであれば相打ち狙いの戦術でもやっていける。
それゆえに彼女は個人を消し、完全な殺戮マシーンと化す事ができるのだ。
――――それにしても――――
思う。
この敵は、あまりにも強すぎはしないだろうか、と。
まさか自分とこの機体が接近戦で敵に遅れをとるような事があるなど考えた事もなかった。
だが、それが実際に眼前のどこかにいるというならば話は別だ。
武器のほとんどを使い尽くし失ってしまった今、このままでは本当に敗北してしまうだろう。
加えていうなら圧倒的に時間が足りない。
自己補修プログラムを走らせ爆散を遅らせてはいるもののこのままではすぐに限界が来るのは明白だった。
現に今もメインカメラに映る画像のぶれが次第に大きくなってきている。
右手の油圧系統がいかれ始めているのだろう。
ほうっておけば自己補修プログラムは機体機能保持の名目で右手への接続まで切断してしまうに違いなかった。
それが十秒後の事か、数分後の事なのか、そんな事まで知る事は不可能だがもし切断された場合彼女の機体は完全に他者に対しての防御手段を失う。
――――後一分ね。――――
結局彼女はそう目算をつけた。
それまでに今は隠れているらしいGMを見つけ出し始末しなければ自分は敗北し、死ぬ。
――――不利なゲーム・・・・。――――
右手一本しか動かせない機体で、時間以内に、隠れている敵を倒す。
それがどれほどに大変な作業か、彼女は知っていた。
ましてやその敵は自分よりも操縦技能が高く、強いものではないとは言え遠距離用兵器も装備しているのだ。
文字通り絶望的な状況で、勝率など毛の先ほどの確率も無いに違いなかった。
だが・・・。
――――はは・・☆――――
それでもセナは戦場を見つめる。
それは命令だからなのか、それとも本能的に自分が選択したからなのか。
もうどちらでもよかった。
一瞬の隙の付き合い。
相手の腹の探りあい。
必要なのはこの空気。
自分の実力を徹頭徹尾発揮できるこの空気だけだ。
――――楽しい。――――
何処に敵がいるかさえ分からないぎりぎりの緊張感。
数瞬後には命を落としているかもしれないという実感が生む身を焦がすような焦り。
それら全てを総括して、やはり楽しい。
その理由はセナは操縦桿の先で指を遊ばせながら先ほど見つけたあまりにも普通な地点だった。
周囲一帯すべてに先ほどまでの激烈な格闘戦の残滓が残されているにもかかわらず、そこだけが異常なほど綺麗に草や木が残っている。
見つけた、という確信をもった喜悦が頭の中に浮かんだ。
残された剣は無く。
残された弾は無く。
それでもここに機体があり、敵がそこにいるのならできる事などいくらでもある。
もっとも彼女に求められているのは凡百の戦法ではなく確実に相手を落とす方法だった。
そのため、自然とするべき事は限定されてくる。
「んっ!!」
手始めに、彼女は全く躊躇うことなく右の手元にあったレバーをめいっぱい引いた。
寸分の間をおかず脱出装置が作動し、内蔵された炸裂火薬によりバックパックがパージされる。
それを確認した後は自分のコクピットが吹き飛ばされるよりも早くレバーを元に戻すだけ。
急速に安全装置が作動するのでコクピットまで射出されるような事は無い。
時間にすれば三秒にも満たない他愛も無い動作だがこれだけでも状況は大きく変わった。
彼女は身の守りと移動手段を一つずつ失う替わりに信管の無い爆弾を一つ手に入れたことになる。
これでも駄目なら機体内部のIフィールド発生装置をいかれさせ核自爆を引き起こす以外相手を道連れにできる方法は存在し無いように思われた。
「後は・・・・。」
これを拾って相手にぶつけてやればいい。
幸いバックパックはギリギリ右手の届く距離に落ちていた。
何とか油圧系をだましながら、グフの右手をそちらへと寄せていく。
「お願い・・・届いて・・・。」
届かなければ、それで終わる。
届けば自分に勝ちの目は残る。
そんなあまりにも分が悪いだけに見える賭け。
だが、彼女は気付いていない。
事態はもう、そんな祈りや賭けが通じるような範囲には収まっていなかった。
『遅えよ。』
突然コクピットに内蔵されたスピーカーが音を漏らした(少なくともセナにはそう思えた)。
不吉な、あまりにも不吉な声。
それでやっとセナは自分が対象から目を外していた事を悟った。
一体どれほどの時間、自分は目を外していた?
意識せず自問する。
十秒か、それとも二十秒か。
いずれにせよ、その行為はあまりに迂闊な隙となる。
――――負け・・・・。――――
思考する時間は無い。
それよりもはるかに早く敵――黒いGMが右手をコクピットに押し付け――
全てが暗転する。
真っ黒に染まり外の光景を映し出すという本来の機能を完全に放棄したメインモニターにはMission failedの文字が青文字で、まるでそれ自体がスクリーンセイバーの役割を果たしているかのように動き回っていた。
嘆息する。
これで何度目だろうか?
この敵に倒されたのは一度や二度ではない。
同じコクピットの中で、同じ敵に、何度殺されたのだろう?
――――また、か。――――
セナは汗にまみれた体をコクピットシートに押し付けた。
途端にどうしようもないほどの虚脱感に襲われる。
「エンカウントから十六分四十三秒。ま、頑張ったほうかな?」
上を見上げると金髪の優男が馴れ馴れしく手を差し出していた。
野戦服なので見分けがつきにくいがまごう事なき公国軍人、もっと言えばこの部隊の隊長である。
――――・・・・しょうがない、よね・・・。――――
セナは暫く迷った後、素直に手を借りた。
恥ずかしい話だが、力を入れすぎるあまり脱力した体を起こす事さえ億劫だったのだ。
相手の手に全身の体重を預けるようにして体をコクピットブロックの中から引き上げてもらう。
屋内とは言え格納庫の外気は既にかなり冷たく外に出た途端汗まみれの体に急速に寒気が染み込んできた。
心地よいと言うよりは寒いと言ったほうが正しいほどの気温。
それでもアルフの肩を借りたまま休憩用の椅子まで歩き、そこに横たわる。
アルフもまた、それが当然のことであるかのようにその横に座った。
もう見慣れた光景であるからなのか整備員たちは何も言わない。
ただ、最年少の整備員が毛布とドリンクを持ってきてくれた。
アルフがそれを受け取り、セナに毛布だけをかぶせる。
セナはかけられた毛布に包まるようにして自分の愛機を見上げていた。
先ほどまでの認識とは打って変わり、黄褐色のグフには傷一つ無く、つや消しされた綺麗な肌を見せている。
シミュレーションモードだったので当然と言えば当然なのだが、その事実に少しばかり安堵した。
倒されてしまったという事実に変化はないものの、シミュレーターであれば人死は出ない、物的損害も無い。
だが、
「少し・・・眠ってもいいですか?。」
やはり疲労は溜まっていく。
ましてや通常の兵に比べ格段に思考や判断の力が求められる格闘型MSに乗っているのだ。
如何に常軌を逸した反応速度を誇るCPUを搭載していたとしてもどこかで無理が出る。
どこかに無茶がある。
そしてそのしわ寄せは全てパイロットへ返還されるのだ。
「好きにしろ。どうせ今日はもう訓練にならん。」
知っていれば無理はできない。
知っているから無理はさせられない。
そして、許可さえ出たのであれば何も憚る必要は無い。
「?・・・・・・ああ、そうですね。・・・じゃあ、少し眠ります・・・。」
言いながら、セナは既に軽い寝息を立て始めていた。
男の前で寝顔を晒す事をなんとも思っていないのか、それともそんな事を考える余裕すらないほどに疲れ果てているのか、セナの寝顔は幼子のように無防備だった。
「奇襲から・・・メイン兵・・・破壊までは・・・上手く・・・んだけどな・・・。」
その口から、途切れ途切れの言葉が紡がれる。
「あそこまで踏み込んで・・・と身体が泳ぐ・・・・・どうしたらいいのかな・・・。」
洩れる寝言は返事を求めない。
あくまで自己結論。
他者にゆだねない、完全な自己戦略。
そうあるからこそ彼女は少女の身でありながら戦場をかける幽鬼となれる。
他者の意見などこの機体の前では無意味。
参考にする事すら許されず、生も死も自分で掴み取らねばならない。
それがその華奢な肩に乗せるにはあまりにも重く、過酷な現実だった。
だからこそ、アルフはセナに過酷な訓練を強いている。
――――・・・・・・よくやるよなあ・・・。――――
それでも率直な感想を言えばそういうことになるのだろう。
少なからず彼女の人生を狂わせている当の本人たるアルフにしてみればこれほどに憔悴しきった彼女など見たくないと言うのが偽らざる本音だった。
「おやすみ・・・。」
静かに声をかけ、その横顔をそっと撫でる。
セナは既に深い眠りに入っているらしく、くすぐったそうにその身を捩った他には何の反応も示さなかった。
あとがき
お久しぶりです。まだ覚えてくれているでしょうか?いい加減主人公が誰か分からなくなりつつあるダークパラサイトです。
さて今回の話ですが・・・・・・ヒュンのスリーサイズ発表!!なんと言ってもこの一点に尽きるでしょう!
EカップですよEカップ!普通の人間ならば十分きょぬーですよ!!と言うか艦長は牛ですよ!!これに注目せずして何に注目しますか!!
と言うわけで次回はヒュンを徹底的に弄り倒・・・せたらいいなあ、とか思ってみたり見なかったり。
そんな気分なのです。
ちなみに後半のシミュレーターとか隊長のいちゃいちゃタイムとかは余興です。気にせずスルーがお勧めですね。
後管理人さん!私そんな変な人じゃありませんからね!!
ではでは再見!!(なんだか早口言葉か下手なDJの科白みたいだ・・・。)
蒼來の感想(?)
・・・ええと、サイズとかの定義とか良く知らないんだけど・・・?
鈴菜「ん?どした?」
いやあ、82のEカップってでかいんか?
観月「いきなりそこですか・・・・(呆れ)」
まあ、私も
野郎
ですから。でもSEED・Dのミーア並(正確に走りませんが90ぐらい有るそうです)の数値じゃあないからなあ・・・82つうとBやCだと素人は思うのですが・・・
鈴菜「解るか、そんなもん!!」
まあ、書いてるの私だから、流石に解らんかw
観月「現実を暴露して如何するのですか・・・」
あはは。
ちなみに二人のサイズは、鈴菜がオフィシャルにないので不明で観月が86・57・85です。
鈴菜「え〜と、これは・・・」
あ、性格がカガリとラクスを参考にしただけで、殆どがこの2人のキャラだぞ?
観月「それは、そのまま使ってると言っても間違いないのでは・・・?」
うん、そだねw
鈴菜「と言うことは・・・私はこんな男言葉を使わなくても、良かったと?」
そうなんだけどね・・・それだとすまんが区別がつかないからね。
ちなみに二人の参考元のキャラの名前は、「倉木鈴菜(性格や言葉使いはカガリ・ユラ・アスハを参考)」と「宇佐観月(性格や口調はラクス・クラインを参考)」です。
観月「私の元のキャラは、ソフトメーカーHPが潰れてますので探す場合、総合ゲーム紹介HPなどをご利用ください。」
うん、そだね・・・あれには驚いた>メーカーHP消滅
鈴菜「ところで、この前のダークパラサイトさんの短編のあとがきで出たお兄様の件は・・・・」
ああ、私が感想に居なかった奴ね。
あれはまた短編が来たら、続くにしたんだよ。
観月「おまけは消したんですね。」
ああ、急いで今さっき改定したよ。
ところで・・・セナが大変な目に会ってるなあ・・・カミーユみたいに壊れなきゃ良いけど。
鈴菜「大丈夫だと思うけど・・・やはり、訓練は必要なんだよなあ。」
観月「そうすると・・・シュウ君の世話は・・・」
そだねえ・・・シュウ君出てないから心配だねえ・・・・
追伸
今更否定しても無駄ですw>あとがきの下から2行目