愛することを学びたいのなら遠慮は棄てなければならない。
タッソ 『愛神の戯れ』
姫君の寵愛byダークパラサイト
第7話『夢幻』
道端の草の陰で蝶が休んでいた。
昔の日本では絶対に見ることのできなかったであろう極彩色の大きな翅を器用にたたみ、降りしきるスコールの中でしばしの休息をとっている。
翅がぬれないように、傷つかないように。
だが蝶のその努力は真横を駆け抜けていった二人の人間によってぶち壊された。
無口な男性と美麗な少女と。
二人が走ることでぬれた泥が跳ね上げられ、蝶の翅に付着する。
たったそれだけのことで蝶の体からは飛翔する能力が失われ、つかまっていた草から叩き落される。
遠ざかる影を見つめながら蝶はもがいた。
生きなければ、自分の子孫を残さなければ・・・。
思いは降りしきる雨の中で空回りする。
羽が重い。
地に縛り付けられたように体が動かない。
何が起こったのか?
なぜ自分はこのような辱めを受けねばならないのか?
雨が気道をふさぐせいか息も苦しい。
このままいけば其処にあるのは死のみ。
それを自覚したとき蝶の神経系の中で何かが弾けた。
それはどす黒く、熱く、粘着質だった。
まるで蝶の体を喰らい尽くそうとするかのようにそれは迫ってくる。
これまで一度として蝶はこのようなものに襲われたことはなかった。
人間の言葉で表せば憎悪。
もちろんこのまま死に逝く者が何を思おうとお当人の勝手だ。
だが、最後に知った感情が憎悪というのはあまりに悲しすぎやしないだろうか?
誰しも死の間際ぐらいは安らかにありたいと願うものではないだろうか?
・・・だがこの蝶にそのような時間は訪れない。
そのまま死を迎えるだけ。
そのはずだった。
「何をしとるんや? 兄ちゃん。」
ほとんど蝶の意識が途絶え始めたころにすぐそばで声が聞こえた。
見上げる複眼にこちらを見つめる二つの紅い目が写りこんだ。
「蝶がいるんだ・・・。」
どこか困惑を含んだような声が返る。
位置から考えれば蝶の目に映っている目は後者のものだろう。
「蝶? 蝶なんか何処にでもおるやない。そんなに珍しい?」
「死に掛けてる・・・。なのに・・・憎んでる・・・リリンを・・・。」
「リリン・・? ああ・・・人間のことやったっけ? けったいなしゃべり方やで、ほんま・・・。どれ、見してみい。」
ひょい、と蝶の体が持ち上げられた。
その翅がトン、トン、と数度たたかれる。
その直後蝶の体は草の陰に移された。
激しく降り続いていた雨が張り出した緑の屋根にさえぎられ止る。
「これで大丈夫やろ。」
優しい波動。
原始的な生物であるがゆえに分かる。
このものたちは敵ではない。
少女は優しく蝶をひとなでし、立ち上がった。
「ほら、はよいこ、長門兄ちゃん。こんなことのためにうちらが風引いたら馬鹿みたいや。」
少女の心にもう蝶はいない。
(だが・・・。)
彼女は神にもできないことをやって見せた。
あわてて後を追う少年はそんなことを考えていた。
「はよ帰らんとまたトウジ兄ちゃんがうるさいで〜!」
後に残された蝶はゆっくりとさっきの波動の余韻に浸っていた。
「ただいま〜。」
玄関口から聞こえた声にうとうととまどろみかけていたシンジはソファから飛び降りた。
あわてて時計を見るが予想よりもはるかに早くこの館の主たちは帰宅したらしい。
一部屋をセッティングし終え、体を休めていたところへの帰宅となってしまった。
まだご飯の用意はできていない。
「お帰り、アキナちゃん。・・・って、どうしたのさ、それ。」
あわてて玄関のほうへ行ってみると濡鼠となったアキナとゲンドウが中に入ることもできないまま玄関に水溜りを作っていた。
「スコールだ・・・。」
ひげの中に水が入ってしまったのだろう。
ゲンドウはしきりにひげをこすりながらシンジにタオルを持ってくるよう指示を出した。
シンジとしてはその答えに苦笑せざるを得ない。
あまりにも間抜けで・・不似合いだ。
「はい、タオル。そんなに濡れちゃったのなら先にお風呂に入ってきたら?僕は夕飯の準備してるから。」
部屋の奥からきれいにたたまれたバスタオルを持ってきながらシンジは苦笑いを隠せずにいた。
「何がおかしい?」
ゲンドウはバスタオルを頭からかぶりながら不満の声を上げた。
アキナはといえば服が肌に張り付く感触が気持ち悪いらしくしきりに服の中を気にしていた。
よく見れば下着がかすかに透けている。
肌に張り付いているため蠱惑的な肢体が直接目を刺激してくる。
(気付いてないのかな・・?)
自分はともかく普通の人には目の毒だろうに。
「またシャワー浴びるの・・・?」
気付いていない理由はすぐにわかった。
昔からこの少女は水が苦手だったのだ。
理由を尋ねたことはないが昔からそうだった。
きっと・・・今もそうなのだろう。
怖がるわけではない。
嫌がるわけでもない。
ただ、漠然と、嫌いだという。
「そうだね。そのままじゃ風邪を引いちゃいそうだし・・・。」
できる限り優しく声をかけてやる。
それで安心したのかアキナは素直に風呂場に向かった。
「相変わらずだな・・・アキナちゃんは。」
「私はどうすればいいのだ?」
「後々。自室で待っててよ。ご飯は僕が作るよ・・・久しぶりだよね、父さんに料理を作ってあげるの・・・。」
「ふん、そこだけは評価している。冷蔵庫の中のものは何を使ってもかまわんから早くしろ。・・・・私を失望させるなよ。」
「はいはい。」
堅苦しいが今までの生活に比べれば幾分ましだ。
シンジはそう思い、笑いながらキッチンへと向かった。
昔何度も父の元に弁当を届けていた。
そのころの生活がまた始まろうとしている。
いくらかの破錠と、狂いはあるが・・・それも仕方がないことだろう。
もう子供ではないのだから。
変わらないのは女神だけでいい。
冷蔵庫の中には一通りの食材がそろっていた。
「うん、これなら何でも作れる・・・。」
父の性格だ。
自分が料理しなくても冷蔵庫の中は常にそろえてあるのだろう。
いくつかの食材を手に取り、作るものを吟味する。
できるだけ凝ったものを作りたいが時間は30分程度しかないだろう。
急がなければならない。
(何にしようか・・・。)
ムニエルやロールキャベツなどは作れまい。
だからといってラーメンなどの簡単な料理で妥協したくはなかった。
(う〜んやっぱりこれかな・・・?)
肉用の保冷庫の中から大きめの肉の塊を取り出しながらシンジは頭を抱えた。
アキナは肉が好きだし父も嫌いだという話は聞いたことがない。
パーティーにもうってつけではあるのだが・・・。
いかんせん自分の腕の振るいどころが少ない。
(サラダに時間かけるか・・・。)
30分あればそこそこな見栄えのものが作れるだろう。
シンジは鼻歌を歌いながらキッチンへと向かった。
「シンジ君、ご飯まだ?」
20分でアキナはシャワーを終えて出てきた。
部屋がわからないからだろう。
バスタオルを体に巻いただけの姿でシンジがいくつもの調理具をさばく姿に見入っている。
「まだ少し時間がかかるよ。奥の部屋に荷物置いてあるから着替えてきたら?」
振り返ることなくシンジはアキナに声をかけた。
そんなシンジの体に白く、しなやかな手がまとわり付いてくる。
ふわり、とシャンプーのにおいがシンジの鼻腔を刺激した。
「離れたくない。」
アキナのこえにどこか媚びるような、甘えるような調子がある。
「服ぐらいは着てきてよ。僕は何処へも行かないから。」
背中に押し付けられる双球が心地いい。
だが、そのことが逆にシンジの心をさましていく。
「そのままだと動けないしさ・・・言ってること、わかってるでしょ?」
手はしばらくシンジの胸の辺りを這い回っていたが、やがて観念したように離れていった。
「後で教えて。分かれている間に何があったのか・・・。」
僕も聞きたい。
シンジはその答えを胸の中に閉じ込めた。
聞いてはならない気がした。
それは・・彼女を疑うことになるから。
この少女を穢してはならないから。
だが、次の瞬間シンジの心臓は大きく跳ねた。
「私は知りたい。私と離れている間に何があったの?何を思ったの?何を見て・・・何を聞いたの?」
心を・・・見透かされたと感じた。
後ろに立っているのは幼いころのシンジの知る泣き虫な少女ではない。
こんなこと、彼女はたずねたことはなかった。
皮肉なことだがこの言葉で初めてシンジはアキナの成長を自覚した。
「また・・・夜に・・・。」
そういい残して少女はふらり、とその場を立ち去っていった。
後には少女の髪のにおいだけが残される。
しばらく、シンジは動くことができなかった。
結局、食卓に食事がそろうまで35分の時間を要した。
それでもまるでそのタイミングをあらかじめ知っていたかのようなタイミングで全員が食卓にそろう。
「できたか。」
「うわ〜、おいしそ〜。」
さっきまでの深刻な空気は何処へやら。
食堂の中は和気藹々とした雰囲気に包まれていた。
「ごめんね、簡単なもので。時間がないからこんなものしか作れなくて。」
テーブルの上には大きなステーキが三枚、それに付け合せであろう魚介類のオリーブ蒸しと主食となるべきラザニア。
食器やテーブルクロスまでもが高級レストランよろしく綺麗に並べられていた。
「二人とも肉大丈夫だったよね。好みとか聞きなおすの忘れてたから・・・。」
「ぜんぜん大丈夫だよ。」
「アキナちゃん、日本語おかしいよ。・・・父さんは?」
「フ・・・・問題ない。」
「そう、それはよかった。あ、家の中ではサングラスははずしておいてね。」
「ん?・・・ああ、そうだな。」
シンジが仕切りながら二人を席に着かせる。
その上でアキナのコップにはお茶、ゲンドウのコップには赤ワインが注がれた。
その動きにはよどみがなく、流れるようにシンジの手が動く。
「夢をあきらめたわけではないようだな。」
「アキナちゃんやアスカが唯一ほめてくれたことだからね。・・・そう簡単にあきらめたりはしないよ・・・。」
ゲンドウに話しかけられてもシンジの手が止まることはなかった。
グラスの三分の一ほどまで注ぎ、ゲンドウの前におく。
「じゃあ食べようか。冷めちゃうとおいしくないしね。」
結局ゲンドウが音頭をとって食事が始まるまでに三人がそろってからさらに5分という時間を要した。
それからしばらくは個々が思い思いに食事を取る。
静かに口を動かすゲンドウ。
まるで獣のようにむさぼりつくアキナ。
そして二人の顔をじっと眺めているシンジ。
それぞれに自分の食事を楽しんでいる。
互いに壁を作ることの多い三人だからこそ成り立つ沈黙。
だが、それは決して冷たいものではない。
むしろどこか温かみを持った不思議な沈黙。
だが、それは長くは続かない。
食べ終われば話さねばならぬことは多々ある。
まず食べ終わったのはアキナ。
だが、彼女はすでに話すべき言葉を持っていない。
話したいことは多いが、それはあくまでシンジに対して、である。
ゲンドウに聞かれて困るようなことを話すつもりはないがここで話すようなことでもない。
仕方なくテーブルの反対側に座るシンジを見つめながら時間をつぶす。
何かたわいのないことでもしゃべれば良いのだが、彼女にそれを求めるのは酷なことだろう。
そういうことができる子ではない。
「ご馳走さまぐらいは言おうね。アキナちゃん。」
「・・・・・・・え?」
「だから、ご馳走様、ぐらいは言ったほうがいいよ。」
「・・・うん、そうだね、ご馳走様。」
素直にうなずき、両手を顔の前で合わせる。
まるで赤子のように従順。
こうしていると精神的成長不全の子供にさえ見える。
この姿と、家族以外のものに見せるあの顔と、どちらが真実の顔なのだろうか?
黙々と食事を口に運びながらもゲンドウはちらちらとアキナのほうを観察していた。
このものの中にいる人格。
あれらが「冬月アキナ」という人格に大きな影響を与えていることに疑いはない。
だが、もしそれが真実であったとき、「冬月アキナ」はどこにいるのだろうか?
碇ユイが生み出した人類にとって最悪の遺産。
消えてなくなってしまったのだろうか?
そう考えるのが普通だと思われる。
強烈な人格改造を受け、精神操作を受けた。
普通の人間なら確実に人格を崩壊させるだろう。
ましてや彼女は相反する不安定要素を二つも体内に抱えているのだ。
消えてなくなると考えるのが自然だ・・・。
そこまで考えたところで彼は自分の考えの中に大きな矛盾を見つけた。
「冬月アキナ」は普通でも自然でもない。
異質な人工物なのだ。
人類としての思考を彼女に当てはめようというほうがどうかしている。
そして、基本となる否定式に矛盾が生じた以上この命題に関して出てくる答えは一つしかない。
「冬月アキナ」は生きてどこかにある。
そういうことだ。
しばらくはナイフとフォークの音だけだったがそこにもやがて終着点が見え始めた。
シンジもゲンドウも食事の9割がたをすでに胃の中に収めきっている。
・・・やがて、カタン、という音が二つ。
テーブルの上には空になった食器だけ・・・。
ゲンドウとシンジが食べ終わるのはほぼ同時だった。
後は片付けて少し話をすれば寝る意外に残されたことは無い。
そう判断を下し、シンジが皿に手をかけたとき、この食事が始まってから初めてゲンドウが口を開いた。
「まあ、待て。お前たちに話しておくべきことがある。」
ジェスチャーで座れ、という。
仕方なしにシンジはもう一度椅子に腰掛けなおした。
「何?父さん。」
再度テーブルに着く。
アキナの顔をうかがってみるが彼女も知らないらしく首を横に振る。
まあ知らないからお前たち、なのだろう。
彼女が知っているのであれば自分ひとりに対し言えばすむ話だ。
「お前たち、何歳になった?」
普段命令する側の存在であるゲンドウ。
彼にしては珍しいわかりきったことを聞くという行為。
何とかして家族らしいコミュニケーションをとろうと思ったが故の行動。
「何歳って・・・14歳だけど・・・。」
シンジの答えに上乗せするようにアキナがうなずく。
そして、その答えに満足したようにゲンドウもうなずいた。
「その年齢の人間に与えられた義務は?」
「学業。」
まるで一問一答のような細切れの会話。
普通の人間ならば息が詰まってしまうだろう。
だがシンジはそれをさらりと受け流す。
決して頭の悪い少年ではない。
アキナの隣にいられるだけの器量は備えている。
そして何よりも生まれたその日からずっとこの家の緩衝材であり続けてきた。
その経験がある。
「学校に行けってこと?・・・違うな、いつから行けばいいの?」
「明日だ。」
「これまで行ってた学校は?」
「もうやめさせている。詳しいことはリツコから聞け。明日は保護者として同行してもらう手はずになっている。」
「姉さんに?・・・わかった。」
「シンジ君と同じ学校?」
普段親子の会話などにあまり口を挟まないアキナが珍しく口を挟んだ。
「そうだ。」
答えに安心したのだろう。
正面に座っていたアキナの顔がほころぶ。
(リリスはまだ眠っているのか・・・。)
ゲンドウは別の意味で安堵していた。
この反応は彼女のものではありえない。
少なくとも今日は彼女とシンジの一次接触は避けられたということになる。
(あるいは・・・彼女の意志の強さゆえか・・・。)
いずれにせよそう長く続けられるわけではないだろう。
いつかはシンジも真実を知る。
そのとき彼がどんな反応を示すか。
それはシンジ本人にしかわからないことだ。
「話はそれだけだ。」
ゲンドウはそう言い残して席を立った。
後には二人だけで残される。
別にすることがあるわけではない。
時間は早いが後は寝るだけである。
シンジもアキナもすでにその結論に達していた。
「後片付けはやっておくから先にパジャマに着替えておいて。」
「わかった。」
アキナを自室へ戻らせた後は鼻歌交じりに食器を洗い始める。
しばらくは動かないだろう。
そして、それはアキナにとっても好都合だった。
なぜか・・・からだがシンジを拒絶しているように感じる。
初めシンジにあったときからずっと感じていた疑問だった。
「何・・・?これ?」
7年前から時折起こる破壊衝動。
義父に犯されたときに感じていた嫌悪とも違う、快楽的な破壊。
自分が自分でなくなっていく喪失感。
自分のものではない、危険な衝動。
それゆえに気味が悪く、それゆえに神経を内へ閉じ込めようとする。
結果的に普段の彼女では信じられないほどに集中力は落ちていた。
「もう起きたのか・・・。」
部屋の奥の暗がり。
そこにいる人にすら気付けないほどに・・・。
「総・・・司令・・・?」
「こちらへ来い、リリス。」
「リリス?・・・何・・・。その名は・・・?」
「リリスではないのか?おまえは・・・。」
ゲンドウの顔が一瞬拍子抜けしたようになった。
だが、その目を見、間違いないというふうにうなずく。
「早く来い。おまえの本性をシンジに見せるわけには行かないのでな・・・。」
ゲンドウは知らない。
彼の言葉が・・・ずっと押さえられていたりリスのふたをこじ開けようとしていることを・・・。
「違う・・・。私は・・・冬月・・・。がああぁぁぁっっ!!」
まるで何かを思い出そうとするのを体が拒んでいるかのようにアキナの咽喉から悲鳴が搾り出される。
「やめ・・・・私は・・・シン・・・・ジ・・・。」
身体を折り曲げ、内なる何かを押さえ込もうと必死に自ら抱え込むようにして抱いた自分の背をかきむしる。
その光景を見て、やっとゲンドウにも事情が飲み込めた。
この者は人間の身でありながら押さえ込んでいるのだ。
神の子たる使徒、・・・リリスを。
ゲンドウの中に底知れぬ恐怖が生まれる。
それは自分の知らない、未知なる者へ対しての恐怖。
「なぜだ・・・。」
「な・・・に・・・が・・・・。」
発作的な衝動はゆっくりと収まりつつあるようだった。
「何故おまえはそれほどまでに強い、アキナ。」
「そうあることを目指し・・・作られたから・・・。」
荒い息の下から答えが帰ってくる。
レイのような紛い物ではない本物の化け物。
それが自分なのだと。
「質問を変えよう。・・・おまえは・・・なんだ?」
「人工進化研究所第二分室、特殊成功例第零号。識別番号『BX000S』・・・碇と惣流の間に生まれた娘で・・・シンジ君の妻。・・・そうなるために生まれたもの。」
「もういい。やめろ。」
答えは強調されただけだった。
ゲンドウの顔が醜くゆがむ。
自分が侵した過去の罪、その遺産としての彼女を強く見せ付けられた思いだった
「もう寝ろ。」
「・・・命令?」
「・・・そうだ。」
「了解しました、総司令。」
「明日の朝まで・・・二度と起きるな。」
アキナの眼が悲しげにゆれる。
だが、ゲンドウはそれ以上の指令を出そうとはしなかった。
振り返ろうともせず静かに部屋から出て行く。
その背後、ほんの一瞬だけ強烈な殺気が巻き起こったことを知らなかったのは幸福だったろう。
ゲンドウが恐れたりリスではない。
冬月アキナの殺気。
だが、それもすぐ消え、後には何も存在しないかのような無の空気が残った。
「アキナちゃん、起きてる?」
数分後、シンジが部屋に戻って来るころにはアキナはすでに眠り始めていた。
壁にもたれかかり、パジャマに着替えることもせず、着の身着のままですやすやと寝息を立てている。
「やれやれ・・・風邪引いちゃうよ、これじゃあ・・・。」
少女の身体を抱き、シーツをまくったベッドに倒す。
結構な衝撃だったはずだがアキナが眼をを覚ますことは無かった。
その横で少し横を気にしながらパジャマに着替えていく。
恥ずかしい、とか起きたら、とか、そういうことは考えない。
見られて困るとも・・・思わない。
これが他の女性であればシンジも他の部屋で着替えただろう。
無事に着替え終わりアキナの横にもぐりこむ。
「シン・・・ジ・・・。」
鼻息の中に寝言が混じる。
それを聞き、シンジは少し笑った。
「お休み、アキナちゃん。」
軽く少女の額をなで、眠りにつく。
以外にもすんなり眠ることができた。
そして翌日
「君達が新しく入る転校生か・・・。」
第三新東京市立第一中学校の職員室で並んで立つアキナとシンジの姿があった。
「昨日のあれ、それがあっての今日の転校だ。どういうつもりかは知らないがやめてほしいものだな。」
教師の言葉の節々に嫌悪感がにじみ出る。
「すいません。親が勝手に決めたことですので・・・。」
シンジが平静として答える。
初老の教師の言葉に腹を立てるでも落ち込むでもなく、真っ向から対立しようとするかのように。
「先週入ってきた転校生といい、物好きな人間が多いものだな。」
明らかに何かを詮索しようとするようにシンジとアキナを眺める。
およそ教員のものとは思えないその視線を好ましく思う者などいるまい。
「まあいい。くれぐれも問題だけは起こしてくれるなよ。・・・面倒事はごめんだ。」
表情の変化を見せない二人に詮索をあきらめたのだろう。
そう言って教師は立ち上がった。
これから教室へ向かわなければならない。
どれだけの人間が来ているかはわからないが授業を遅らせるわけにも行かない。
不思議な葛藤だった。
もしかしたら来ている学生はこの二人だけかもしれないのだ。
「できる限りご要望に沿えるよう努力しますよ。」
シンジはそう切り替えしてアキナの手を取った。
その手に対し、あくまで自然にアキナも手を取り返す。
「ただ・・・確約はできません。あなたと同じく皆も僕達を疑うでしょうからね。」
「ふん、わかっていればいい。」
終始無言なままだったアキナが口を開いたのはそのときだった。
「先週の転校生って・・・何のことですか?」
「ん?ああ、長門ヌエとかいったかな・・・。先週の金曜日、鈴原・・・おまえ達は知らないな。まあ、そんな名前の生徒が連れてきた。赤い目をした不思議な奴だがな・・・。どうかしたのか?」
「いえ・・・。何でもありません。少し気になっただけです。」
「そうか。」
何かを感じ取ったのだろうか。
それ以上その教師は何も問わなかった。
あとがき
なぜこんなに進みが遅いんでしょう?
あまりよくは知りませんがこういうのって第7話まで来るころには2、3匹の使徒が倒されている作品が多い気が・・・。
・・・まあいいか。
まず・・・題名は勝手に変えてください・・・というか懇願しますいい名前付けてください。(確認要らないので)
あと前回の感想に会った冬月とゲンドウの出番が多いことですが・・・むしろおじさまの出番が多くなるようにしたいです。
本編にいた人だけではなくオリジナルも大量に出しておじさま中心に話を進めていきたいな・・・と。
未来を作るのは若者かもしれませんが今を作るのは蒼來様含むおじさまたちですから^^。
ではでは、まだまだ若くてぴちぴちなダークパラサイトでした〜。
ちなみにこれ以上作品の種類増やしても対応しきれないのでこれからはリクなしです〜。
蒼來の感想(?)
・・・誰がおじさんだーーー!!w
鈴菜「いや、ダークパラサイトさんも「蒼來様を含むおじ様達」って言ってるから蒼來のことだろ?」
まだ俺は29歳と○○○ヶ月だーーー!!!(−−メ
観月「前に蒼來のSSで25歳以上はおじさん(おっさん)と言ってませんでしたか?」
ありゃあ、続編で仮面を被るおっさんだけだー!!
現に珈琲虎には言ってないぞ!!
鈴菜「まあ、蒼來。如何言っても無駄だから、あんたはおっさん!!(断定)」
・・・しくしくシクシク死苦敷く詩句四区49=36 (´Д⊂)
観月「・・・ホントは泣いてないでしょ?そろそろ感想に行きましょう。」
(o゜◇゜)ノあぃ、やはり、綾波レイと冬月アキナの性格が似てるね。
鈴菜「ある部分はな。リリスだからしょうがないと言えばしょうがないが。」
観月「その他の部分はまったく違いますね。水が怖かったりするとこは違いますものね」
うん、で題名を「夢幻」にしたんだけど・・・・
鈴菜「来た時は「夫婦」だったな。で蒼來が「現実に起きてるのか夢なのか解らん部分がある」ということでしたんだよな?」
うん、読んでそう思ったから・・・次点は「シンちゃんお兄さんする」だったんだが・・・
観月「流石にそれは・・・」
まずいわなwだから「夢幻」にした。
しかし、ゲンドウとシリアスで家族してるの初めて見たような気がするなあ。
鈴菜「そうなのか?」
ああ、親馬鹿とか情けないのは良く見るんだが・・・
観月「味方で有能なゲンドウ好きです物ね、蒼來は。」
ああ。まあこのまま期待して待ってよう。
鈴菜「ところで蒼來の歳、このHPに書いてあるらしいけど何処だ?」
観月「お姉様、書いてある歳は上記の29歳と〜ですわよ?」
まあ他の事も書いてあるが・・・・ちなみにTOPから行けるぞ?
まあ雑記だから気にすんな。
では皆さんまた ̄ー ̄)ノ)))))))) ブンブン


