多少?グロテスクな表現が含まれています。読みたくない方は読まないように。by原作者









あるものはその光を神と呼んだ。


またあるものはそれを鬼と呼んだ。


そしてあるものは自然現象だと呼んだ。


死んだ父だというものや、幽霊だと呼ぶものもいた。


それが何者であるかも知らずに。





姫君の寵愛byダークパラサイト
第6話:『束縛』






「どこへ行ったのよ・・・。」


ひゅうん、ときれいな放物線を描いて空き缶がダストシュートに放り込まれた。


中に入っている空き缶とぶつかったカラン、という音だけが残る。


心当たりのあるところをすべて回ってみてもシンジを見つけることはできなかった。


そのことがアキナに普段なら味わうことのない徒労感というものを味わわせていた。


こういうとき一番役に立つはずのカスパーはさっきから沈黙を続けている。


「無様ね。」


・・・リツコならそういうのかもしれない。


歩く、という行為に対し結果が伴っていない。


まるで幽鬼のように歩き回った結果得られたものはあやふやになっていたネルフ内部の土地勘を取り戻せたことぐらいのものだった。


それはそれで必要なものかもしれないけれど少なくとも今必要なものではない。


今ほしいのは自分の夫のぬくもりだけだった。


昨日、ほんの少しだけ触れ合っていることのできたぬくもり。


あれを返してほしい。


7年ぶりに出会った少年のぬくもりを・・・。


今も館内を歩いているがここはもう何度も通った道だ。


ここに彼はいない。


まだ後二つだけ行っていないところがある。


ひとつはエヴァのケージ。


もうひとつは総司令室


だが、正直それらの場所には近寄りたくなかった。


くだらない考え方だとは思う。


それでも自分が彼を頼りにしていることを彼の両親に面と向かって見られたくはなかった。


行くべきか、行かざるべきか。


ケージの目の前に来てもなお、彼女は悩んでいた。


まがまがしい気配を発生させているここには正直近寄りたくもない。


「・・・行こう。」


昨日の戦闘から一夜しかたっていないことを考えると装甲板の入れ替えなどまだまだ先の話だろう。


となると生で母親と対面することになる。


それでももしそこに一片でも可能性があるのなら欠けてみる価値は十分にあった。


ガチャリ、とアナログ式の扉を開け、エヴァのケージ内の中央を通る通路の東のはしに出る。


生々しい肉体が現れた。


血がこびりつき、間接のところで切断された肉体は筋肉や骨などの切断面を人体模型さながらにむき出しにしている。


体の巨大さを除けばそれは一人の人間の切断していることと何の変わりもなかった。


だが、今のエヴァに自分をどうこうできるだけの力はない。


それゆえに昨日よりは幾分冷静にその姿を観察できた。


「何をしにきたの?」


見上げ、眺めていたところに不意に後ろから声をかけられた。


いつの間に近寄ってきたものか、アキナの後ろには人がいた。


青い髪と赤い目、そして透き通るような白い肌。


アキナと同じく人工進化研究所で作られた少女。


「ああ、レイ。久しぶり・・・でいいのかな?。」


「いいと思うわ。・・・7年ぶりだもの。」


幼いころから何度も顔を合わせてきた。


友達がいないと言ったレイも今はこれほどに大きくなったのか。


感慨が先に立った。


同時に胸を強く締め付けられる。


何度殺しても死なない少女。


殻を変え、何度でもよみがえることのできる本物の不死鳥。


幼いころ、何かいやなことがあれば彼女を殺すという生活を続けていた。


それはあるときはかけがえのない友との喧嘩であり、あるときはエヴァの訓練に伴う疲れへの腹いせであり。


何度彼女を殺したか覚えていない。


そのたびにこの少女はその死を受け入れていた。


まだ彼女に物心などついていなかったころからずっと。


誰にも罰されることなく、何度も何度も殺戮は繰り返された。


時には一日に三回も四回も殺し、殻を変えさせる。


「また私を殺しにきたの?」


そう、平気でこんなことを言う少女だった。


ある意味で、彼女ともっとも対等に話をすることのできる少女でもある。


「違うわよ。・・・私だって少しは大人になったんだから・・・。」


だが言葉に反し、アキナの中ではレイを殺したいという発作的な衝動が巻き起こりかけていた。


普段の生活では得ることのできないものがそこにはある。


「無理しなくてもいいのに。」


「無理なんか・・・?・・・・何・・・また・・・。」


不意に周囲に白いもやが漂い始めた。


彼女自身は気付いていなかったがプラグの中で発生したものとまったく同じそのもやはアキナの体内から発生していた。


それを見たレイの顔が見る見る引きつっていく。


もやは見る見るうちにケージを満たしていく。


「ゼロ?・・・これ・・・?」


「ん?なに・・・?」


目がとろんとし、視線が定まっていない。


見ただけなら眠たそうなだけに見える。


だが、人よりもはるかに敏感なレイの感覚がそうではないと告げていた。


これから起こることは人知を越えている。


神や天使や悪魔の世界。


レイのいるべき世界。


まるでスロー再生のビデオを見ているようにゆっくりとアキナの体が崩れ落ちた。


その体にもやが吸い込まれてゆく。


だがレイにはそれを見ていることしかできない。


恐怖が体を支配している。


体中を流れる血がいっせいに沸騰したような感触だった。


目の前にいるのはもはやアキナなどではありえない。


地に伏し、力なく横たわっているだけの存在だとしてもその恐怖は揺るぎはしない。


少女がゆっくりと立ち上がってくる。


その目はルビーのごとく紅く。


全身に殺気を纏わり付かせながら・・・。


「たかが覚醒者の分際で・・・私に近づこうだなんて1千年早いのよ・・・。私より・・・ずっと弱いくせに・・・。」


ぞっとするほどに冷たい声。


鬼か、悪魔か。


姿が劇的に変わったというわけでもないのにアキナはレイを縛り付けていた。


マヤに見せた殺気が優しいものに思えるほどにその気は重い。


空気が質量を持ち、レイを押さえつけてゆく。


「ああ、でも・・・許してあげる。あんたのおかげで出てこられたんだものね・・・。」


ふっ、とアキナが笑った。


だがその怒りが消えていないことはその殺気の量からも明らかだった。


口元の笑みはきっとあくまでも凍りつかせることができる。


そう思えるほどに冷たく、暗い。


「せめて私の血肉となって消えなさい、綾波・・・レイ。」


幽鬼のごとく美しい少女が二人。


しかしその間には大きな差がある。


捕食者と。


獲物と。


「いやよ・・・。」


レイの口が動いた。


口が動けば手が動く。手が動けば足が動く。


足が動けば・・・逃げられる。


レイは回れ右をして一目散に逃げ出した。


ほんの5m向こうにある扉へ向かいそれほど遅くはない足を懸命に動かす。


ついさっきてに入れた体をこんなところで壊されたくはなかった。


さっきのアキナへの科白は冗談のつもりだったのに。


今のアキナは・・・いや、リリスは確実にレイを殺しにかかっている。


それどころか・・・食べようとしている。


副指令にもらったこの体を・・・。


殺されることはまだいい。


そんなものは体を変えればいいだけのことだ。


アキナのことは好きではないが彼女との交友は確実に自分にとっての利益になる。


だがリリスは別だ。


7年前に突然現れたこいつは食人鬼であり・・・自分の分身でもあるレイを必要以上に嫌悪している。


離れなければ確実にやられる。


次元が違うのだ。


化け物としての次元が。


足を必死に動かし、近くて遠い扉を目指す。


しかし、その意に反して扉はなかなか近づいてはこなかった。


(どうして・・・・。)


足は動いているのに体が前に進まない。


手を伸ばせば届きそうなのに手が伸ばせない。


一秒そこそこでたどり着けるはずの距離なのに手が届かない。


「ご苦労なことね、レイ。」


さげすむような声がかけられる。


それだけではない。


背中にリリスの細い指が這う。


人ならざる力と、はからずも研ぎ澄まされていた爪がレイの背に縦一文字の傷をつけた。


赤い鮮血がにじみ出てくる程度の浅い傷。


「もっと周りを御覧なさいな。エヴァのパイロットに必要なのは状況判断の能力でしょう?そんなことでよく今までパイロットを務
めてこれたわね。」


つ、と横に指が動き今度は横に赤い線が走った。


「なんで・・・。」


そのころになってようやくレイも自分の状況がおかしいことに気付いた。


「覚醒者なのだからATフィールドの感知ぐらいはしてほしいものね。・・・私の分身のくせに・・・役立たずだなんて・・・。」


ぴ、ぴ、と断続的に赤い線が走る。


はじめは何かの模様のように。


やがて複雑な幾何学図形のように。


「ッ痛・・・やめ・・・。」


熱い。


体の奥に日を抱いてもこれほどに熱くはあるまい。


コウゾウに殺されるような穏やかで心地よい感触とは違う。


・・・けもの・・・。


それも最高に意地の悪い獣だ。


足に絡みついた布がレイの体を地面から数センチ浮かせている。


レイの体が前に進まない原因あそこにあった。


足だけではない。


体ごと紅い布に包まれ、よく見れば体の中に自由にできるところなどない。


そしてその布はリリスの体から生えている。


不思議な表現だが布は彼女の体から生えているのだ。


「きれいな体・・・。食べてしまうのがもったいないぐらいに・・・。」


なら食べるな。


そういおうとした口は開かれることはなかった。


布が口をふさぎ、レイの息を止める。


「この子があれほどの不幸にさらされていたときにあなたは幸福な生活を送っていたのだもの。少しは罪滅ぼしってのをしてもいいと思わない?」


普通の人から見てレイの送ってきた生活は幸福なものであったといえるのだろうか?


だがそのような問いは今は意味をなさない。


意味を成すものはレイがこの場を逃れるすべを持たないという純然たる事実のみ。


「あ・・・や・・・・・ぐがぁあぁぁあぁ!!」


やめて、という制止の言葉をレイは自らの悲鳴でかき消した。


それはまさしく咆哮としか言いようのない叫び。


「あらあら・・・ちょっとぐらい体が千切れたぐらいでぎゃあぎゃあ騒がないでよ・・。」


リリスの手には血が滴る肉塊が握り締められている。


そのようなものが突然発生するはずがない。


ならどこから発生したのか。


答えは簡単だった。


レイの背中にあいた大きな穴。


そこから大量の血しぶきが滴り落ちている。


内臓までのぞけるほどの大穴は、リリスの力の表れでもあった。


人間の肉を握力だけで引きちぎることのできる少女が世界に何人いるだろうか?


おそらく3桁にも満たぬであろう。


「相変わらずやわらかくておいしそうな肉・・・。あんた家畜にでもなったほうがいいんじゃないの?


この差は何なのだろう?


同じリリスから生まれた人間とのハーフであるはずの二人の差は・・・。


リリスは舌なめずりをしながらレイの肉を眺めている。


聞いているのかいないのか、レイは何の返事もしなかった。


「聞いてないふりだなんて・・・つれないわね。」


ぽい、と肉を投げ捨て、レイの背から手を体の中に差し込んでいく。


その痛みで気絶しかかっていたレイの意識は現実世界に呼び戻された。


両目を最大限に見開き、、口からは際限なくよだれがあふれ出てくる。


神経細胞はすでに飽和状態に達していた。


のどが渇き、目の前が霞む。


それでもレイはリリスのほうへ振り返ろうとした。


首を回し、30センチと離れていない顔を凝視する。


「まだまだ元気じゃない。つぎ、小腸行くわよ。」


振り返ることが正しかったのか?


誰も答えなど知らない。


だがそこにいたのは夜叉。


人ならざる者。


悲鳴と。


血の奏でる水音と。


高らかと響く笑い声と。


そして、骨を砕き、肉を食らう音と。


電気を落とされ、暗闇へと変わったケージに複雑なオーケストラが完成する。


「ほら、もっと鳴きなさいよ。まだ寝ないでよね。・・・あなたが狂うまで・・・ずっと続けてやるんだから・・・。」


もうレイの体は動いていない。


悲鳴も上がらない。


ただ時たま反射的に体がピクリと動くだけ。


当然だろう。


そこにあるのはもはや肉の塊でしかない。


にもかかわらずリリスはその手を動かし続ける。


口が肉の咀嚼を続ける。


見守るものは殻の母。


そして・・・その夫。



「何をしている?」




突然の不躾な言葉はあくまで簡潔だった。


目の前の惨状が見えていないはずがないのにあえてその内容を問うている。


「ああ、あなた。・・・食事よ。見れば分かるでしょう?」


血を散らし、骨を砕き、人を食らうさまを食事と呼ぶものは少なかろう。


だがゲンドウはそれで納得したらしく一言、そうか。とつぶやいた後は何も言及しなかった。


リリスもそれ以降はそちらを気にする様子もなく肉へと貪りついていく。


「やはり昨日のあれはお前か。リリス。」


そこここに転がっていた肉があらかたリリスの腹の中へと消えたころになってようやくゲンドウは次の言葉をつむいだ。


「ええ、そうね。」


答えたくないのだろうか?


どこかでリリスはゲンドウを拒絶しているようにも思えた。


「そうか。・・・まあ、いい。イヴを出してほしい。彼女と話がしたい。」


リリスの眉がひそめられた。


もしそんなものがあるとすれば全身から漂うオーラはこの一言で埋められていただろう。


すなわち、冗談ではない、と。


「君が言いたいこともわかっているつもりだ。だが、今は彼女と話がしたい。」


頭を下げるでもなく、声の調子をかえるでもなく、普段と変わらぬ表情のままゲンドウはリリスと対峙していた。


「へえ、そう。」


リリスの返答もあっけない。


二人の間に差があるとすれば表情が隠れて見えないゲンドウに対しリリスの顔は明らかに笑っているということだけだ。


どちらの立場が上なのかは本人たちが一番よく知っている。





「知ってる?人間の三大欲求がなにか・・・。」




淫靡な笑み。



「ああ・・・知っている。」


ゲンドウはどこか悲しそうに笑った。






「これが父さんの部屋か。・・・本当に何もないんだな・・・。」


父に言われたNERV内部の職員居住区。


その中を覗き込んだときシンジは信じられないものを見たような気分にさせられていた。


何もない。


インテリアが少ないとかそういう話ではない。


いや、むしろインテリアの類は多い。


電気からたんすまですべてに凝った装飾が施され、オルゴールなどのインテリアが所狭しと並べられている。


そのさまはどこか少女趣味を思わせ、新婚ほやほやのうぶな夫婦のそれを思わせる。


だが、そこには何もない。


生活の形跡が感じられない。


どのインテリアもまるで新品のように埃ひとつかぶっておらず、キッチンの食器には使用された形跡がない。


男が一人で住んでいるのだから少しぐらい乱れたところがあってもよいと思うのだが何一つとしてない。


「本当にこんなところですんでいるのか・・・?」


壁にかけられた写真立てには何も入っていない。


写真を入れるべきところにはそのまま後ろの模様が入っているだけだった。


ベッドルームならあるいはと思ったのだが過剰な期待に終わったらしい。


「ここで住めるのか・・・?」


入り口のところに積み上げられたふたり分の荷物の量は結構なものである。


ひとつぐらいは部屋を確保しなければならないだろう。


(アキナちゃんは・・・僕と一緒に住むって言い出した以上同じ部屋で住むつもりなんだろうな・・・)


少女の思いは手に取るように分かる。


自分は変わってしまったが彼女は何も変わっていない。


7年間の間成長を止めていたかのように彼女の精神は昔のままだ。


(体だけは大きくなっているのに。)


昔から可愛らしい少女だったが今の彼女は大人の美しさをも内包し、更なる美を持っている。


彼女がそれを意識しているかは分からないがアキナの美しさは人のそれをはるかに凌駕している。


年頃の少年であればそれに対しよこしまな心を抱いてもしょうがないだろう。


(アキナちゃん・・・か。)


だがシンジは違う。


彼は彼女に対し崇拝にも近い絶対的な信頼を寄せている。


7年間離れていたシンジ自身がそのことを強く意識していた。


意識せざるにはいられなかった。


彼女が絶対の存在ではないことは外で学んだはずなのに彼女の前ではそれが出せない。


「せめて・・・アスカがいれば・・・。」


今は海のかなたにいる少女。


シンジが初めて異性として意識した少女。


今はここにいないが・・・彼女なら自分を戒めてくれるだろうか?


アキナと同じぐらい非凡な彼女なら・・・。


「無理・・・かな?」


シンジは知らず、ため息をついていた。


あのころの三人の中で役立たずは自分だけだ。


できることなど皆無に等しい。


サードチルドレン。


父は今後自分をそう呼ぶと言った。


冬月=アキナがゼロ。
 

綾波=レイがファースト。


そして惣流=アスカ=ラングレーがセカンドなのだ、とも・・・。


そこに出てくるのは彼のよく知る名前ばかりだった。


ここで働く人間もトップは彼と面識のある人間ばかり。





「まあ・・・とりあえずは部屋を確保してから荷物の整理・・・かな?」




シンジがそのことを思い出すまでしばらくの時間がかかっていた。




・・・・・・案外のんきなのかもしれない。











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あとがき

とりあえず既存のラインはここまでで終了。

でも第7話(3度完成し、3度データが飛び、いまだに完成していない。)はもう少し待って〜。

この呪いが解け次第送ります・・・・うう・・・。


今年は多分これが年納め。

いろいろとご迷惑をおかけしましたが、半年間、どうもお疲れ様でした。

来年もまたよろしく。

蒼來の感想(?)
はい、3話から6話一挙掲載でした。
まずはお詫びを。
掲載量が多く、改訂版と言うことで感想を付けませんでした。<(_ _)>
つうか私のミスですね、全体的に。(−−;
7話からはちゃんと感想をつけますね〜(・▽・)/ ういー
では感想(?)を。
4話あたりのあとがきで、アキナXシンジにならないと言われてますが・・・
7話で修正できてる様で。
まあ、各チルドレンごとにトラウマがありますからねえ〜どうにでもころぶでしょうね。(⌒▽⌒;ゞ
しかしダーク物に感想つける私は・・・規定から外れてますなw>行動が
それにしてもこの作品、ゲンドウと冬月の出番多くないですか?
だからダーク物に見えるのかなあ?